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第15話
二件目のお見合いの日。今回の相手は、アルバトロス侯爵家。会場は侯爵家の屋敷とのことで、マイラとサイモンは朝から馬車に揺られて向かった。
到着すると、二人は執事に案内されて応接間へ通された。そこにはすでに侯爵家の面々が勢ぞろいしていた。
サイモンが丁寧に挨拶する。
「お久しぶりです。デュパール子爵家当主サイモンと、娘のマイラとお伺いしました」
マイラも続けて、裾を持ち上げ軽やかに礼をした。
「お初にお目にかかります。デュパール子爵家の娘、マイラと申します。本日はよろしくお願いいたします」
侯爵が朗らかに応じる。
「サイモン、久しぶりだな。私はアルバトロス侯爵リガロだ。隣が妻のティアナ、そして息子のミカエルだ。こちらは外野で、ミカエルの友人アレクサ、従兄弟のハンス、それから長男のアロンだ」
ミカエルが少し照れたように笑って口を開く。
「賑やかで申し訳ない。私がミカエルです。よろしくお願いします」
マイラは事前調査で、この「賑やか」な理由をすでに把握していた。ミカエルの見合いは、なぜか毎回この三人――兄、従兄弟、友人――が割って入り、結果を潰してしまうというのだ。父リガロも何度も「邪魔をするな」と釘を刺したらしいが、結局は聞き入れられず、今では半ば諦めていると。しかも三人はそれは嫌がらせではなく、心配ゆえの行動だという。
ティアナが優しく息子に声をかける。
「ミカエル、マイラ様をお庭にご案内して差し上げて」
「母上、わかりました。……マイラ様、行きましょうか」
ミカエルの差し出した手にマイラがそっと手を添え、二人は庭へ向かった。
歩きながらミカエルが小さくため息をつく。
「すみません、兄や従兄弟、友人まで見合いに来て……多分、頼りない自分を心配してるんだと思うんですが」
「いいんじゃありませんか?過保護な人たちがそばにいるのも。それに……ミカエル様は今年二十歳ですよね? 以前、わたくしにお手紙をくださったでしょう。名前も書かずに“助けてほしい”と」
ミカエルは驚いたように足を止めた。
「覚えて……くれていたの? あの手紙を」
「ええ。すぐに調べましたわ。あんなに悲痛な叫び、無視できませんもの。そして、今回お見合いという形で最後の救いを求めたのでしょう? なら、お任せください」
「……ありがとう」
その目尻にうっすらと涙がにじむ。限界まで張りつめていたものが、ようやく緩んだのだろう。マイラは慌ててハンカチを差し出す。
「ほら、泣かない泣かない。……はい、これで拭いて」
ミカエルは受け取って涙をぬぐい、ふとハンカチの端の刺繍に目を留めた。
「これ……花、でいいのかな?」
「……刺繍は下手なので、練習中なんです」
頬を赤くして少しむくれるマイラを見て、ミカエルは思わず笑った。
だが、そこに案の定、三人組が姿を現す。
「おやおや、何を盛り上がってるのかな?」兄のアロンが皮肉っぽく言い、従兄弟のハンスが「まだ会って間もないのに、何の話だ?」とにやつく。
マイラは静かに微笑んだ。
「皆様……幼稚ですね。ミカエル様の見合いを潰すだけでなく、こんな嫌がらせまでなさるなんて。なんて小さな男の子たちかしら」
三人が一瞬きょとんとしたところで、マイラは視線をアレクサへ向ける。
「アレクサ様。幼なじみのララ様がミカエル様を好きだからと意地悪していらしたのでしょう。でもそのララ様は、責任を感じて数日前に他国の子爵家に嫁がれましたよ。あなたがくだらないことをしている間に、です」
アレクサは衝撃に顔を引きつらせ、その場に膝をついた。
次にハンスへ。
「ハンス様。あなたが想いを寄せていたエメリー様は、あなたを好きでしたのよ。でも、裏でミカエル様を追い詰めるような男だと知って、その気持ちを断ち切って、新しい恋を始められたそうですわ」
ハンスは、エメリーがミカエルと話すのを見て嫉妬していたが、それが彼女の恋愛相談だったと知り、愕然とした。
そして最後にアロンを見据える。
「アロン様。奥様がご実家に戻られたのは、執拗に弟へ絡むあなたの態度に嫌気が差したからですわ。すでに離婚協議の準備が進んでおり、近々役人が訪れるでしょうね」
アロンは初めて妻の胸の内を知り、言葉を失った。これまで全てをミカエルのせいにしてきた自分の愚かさを痛感する。
「……皆様、自分の行いが自分の未来を潰していることを、少しはお考えくださいませ。ミカエル様は可愛らしいお顔立ちで女性人気も高い方。結婚したい男性ランキングでは噂が広まるまでは三人とも堂々の上位十位以内でしたのよ。今は……残念ながら圏外ですが」
言葉を失う三人。その背後には、いつの間にか彼らの父母も立っており、静かな視線を注いでいた。
マイラはミカエルに向き直り、柔らかな声で告げる。
「ミカエル様、本日のお見合いは残念ながらご縁がありませんでした。でも、次にお好きな方へ縁談を申し込むときは、必ずお父様とお母様に相談してください。……ミカエル様の恋、応援していますよ」
そして全員に向かって深くカーテシーをし、苦笑いを浮かべるサイモンのエスコートで庭園を後にした。
その場に残されたミカエルは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。理由もなく追い詰められ、息苦しく、どうにもならないと思っていた日々。けれど今日、差し伸べられた手があった。後は、自分が勇気を出すだけだ――そう、心の中で静かに誓った。
到着すると、二人は執事に案内されて応接間へ通された。そこにはすでに侯爵家の面々が勢ぞろいしていた。
サイモンが丁寧に挨拶する。
「お久しぶりです。デュパール子爵家当主サイモンと、娘のマイラとお伺いしました」
マイラも続けて、裾を持ち上げ軽やかに礼をした。
「お初にお目にかかります。デュパール子爵家の娘、マイラと申します。本日はよろしくお願いいたします」
侯爵が朗らかに応じる。
「サイモン、久しぶりだな。私はアルバトロス侯爵リガロだ。隣が妻のティアナ、そして息子のミカエルだ。こちらは外野で、ミカエルの友人アレクサ、従兄弟のハンス、それから長男のアロンだ」
ミカエルが少し照れたように笑って口を開く。
「賑やかで申し訳ない。私がミカエルです。よろしくお願いします」
マイラは事前調査で、この「賑やか」な理由をすでに把握していた。ミカエルの見合いは、なぜか毎回この三人――兄、従兄弟、友人――が割って入り、結果を潰してしまうというのだ。父リガロも何度も「邪魔をするな」と釘を刺したらしいが、結局は聞き入れられず、今では半ば諦めていると。しかも三人はそれは嫌がらせではなく、心配ゆえの行動だという。
ティアナが優しく息子に声をかける。
「ミカエル、マイラ様をお庭にご案内して差し上げて」
「母上、わかりました。……マイラ様、行きましょうか」
ミカエルの差し出した手にマイラがそっと手を添え、二人は庭へ向かった。
歩きながらミカエルが小さくため息をつく。
「すみません、兄や従兄弟、友人まで見合いに来て……多分、頼りない自分を心配してるんだと思うんですが」
「いいんじゃありませんか?過保護な人たちがそばにいるのも。それに……ミカエル様は今年二十歳ですよね? 以前、わたくしにお手紙をくださったでしょう。名前も書かずに“助けてほしい”と」
ミカエルは驚いたように足を止めた。
「覚えて……くれていたの? あの手紙を」
「ええ。すぐに調べましたわ。あんなに悲痛な叫び、無視できませんもの。そして、今回お見合いという形で最後の救いを求めたのでしょう? なら、お任せください」
「……ありがとう」
その目尻にうっすらと涙がにじむ。限界まで張りつめていたものが、ようやく緩んだのだろう。マイラは慌ててハンカチを差し出す。
「ほら、泣かない泣かない。……はい、これで拭いて」
ミカエルは受け取って涙をぬぐい、ふとハンカチの端の刺繍に目を留めた。
「これ……花、でいいのかな?」
「……刺繍は下手なので、練習中なんです」
頬を赤くして少しむくれるマイラを見て、ミカエルは思わず笑った。
だが、そこに案の定、三人組が姿を現す。
「おやおや、何を盛り上がってるのかな?」兄のアロンが皮肉っぽく言い、従兄弟のハンスが「まだ会って間もないのに、何の話だ?」とにやつく。
マイラは静かに微笑んだ。
「皆様……幼稚ですね。ミカエル様の見合いを潰すだけでなく、こんな嫌がらせまでなさるなんて。なんて小さな男の子たちかしら」
三人が一瞬きょとんとしたところで、マイラは視線をアレクサへ向ける。
「アレクサ様。幼なじみのララ様がミカエル様を好きだからと意地悪していらしたのでしょう。でもそのララ様は、責任を感じて数日前に他国の子爵家に嫁がれましたよ。あなたがくだらないことをしている間に、です」
アレクサは衝撃に顔を引きつらせ、その場に膝をついた。
次にハンスへ。
「ハンス様。あなたが想いを寄せていたエメリー様は、あなたを好きでしたのよ。でも、裏でミカエル様を追い詰めるような男だと知って、その気持ちを断ち切って、新しい恋を始められたそうですわ」
ハンスは、エメリーがミカエルと話すのを見て嫉妬していたが、それが彼女の恋愛相談だったと知り、愕然とした。
そして最後にアロンを見据える。
「アロン様。奥様がご実家に戻られたのは、執拗に弟へ絡むあなたの態度に嫌気が差したからですわ。すでに離婚協議の準備が進んでおり、近々役人が訪れるでしょうね」
アロンは初めて妻の胸の内を知り、言葉を失った。これまで全てをミカエルのせいにしてきた自分の愚かさを痛感する。
「……皆様、自分の行いが自分の未来を潰していることを、少しはお考えくださいませ。ミカエル様は可愛らしいお顔立ちで女性人気も高い方。結婚したい男性ランキングでは噂が広まるまでは三人とも堂々の上位十位以内でしたのよ。今は……残念ながら圏外ですが」
言葉を失う三人。その背後には、いつの間にか彼らの父母も立っており、静かな視線を注いでいた。
マイラはミカエルに向き直り、柔らかな声で告げる。
「ミカエル様、本日のお見合いは残念ながらご縁がありませんでした。でも、次にお好きな方へ縁談を申し込むときは、必ずお父様とお母様に相談してください。……ミカエル様の恋、応援していますよ」
そして全員に向かって深くカーテシーをし、苦笑いを浮かべるサイモンのエスコートで庭園を後にした。
その場に残されたミカエルは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。理由もなく追い詰められ、息苦しく、どうにもならないと思っていた日々。けれど今日、差し伸べられた手があった。後は、自分が勇気を出すだけだ――そう、心の中で静かに誓った。
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