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第20話
翌朝。
ジークとの初めてのデートとあって、マイラは自室で鏡とにらめっこしていた。しかも今日はシーラおば様とイザベルおば様が、例によってこっそり(いや堂々と)付いてくると知っている。変な格好をして笑われるわけにもいかない。
「うーん……」と小さく唸りながら、最終的に選んだのは、清楚で上品な白のワンピース。肩には柔らかなレースのボレロを羽織り、髪は編み込みにして片側に流し、そこへレースのリボンを結んだ。化粧も派手にならない程度に可愛らしさを意識して整える。
けれど、どうしても自分では判断がつかず、意を決してサイモンの部屋をノックした。
「お父様、今日の服、どう思う?」とくるりと回って見せる。
サイモンは一瞬黙り込み、目を細めてから「……可愛いよ、マイラ。本当はお父様だけが知っていたかったくらいだ」と苦笑い。それから急に真顔になり、「でもな、ジークエルくんから離れるんじゃないぞ。こんなに可愛いと、本気で拐われる」と念を押された。
ちょうどその時、玄関の方から来客を告げる気配がした。
階下へ行くと、扉の前で待っていたジークエルが、固まったように立っていた。目は潤み、息まで呑んでいる。
「ジーク?……行きましょうか」
「……マイラ、反則だろ、これは……可愛すぎる」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、お父様、行ってきます」
「気をつけてな。ジークくん、必ず夕食前には返してくれよ」
「ど、努力します!」
馬車に乗ると、ジークは「隣、座ってもいいか?」と少し照れながら尋ねてくる。
「もちろん」
すると、彼はさらに「手……繋いでもいい?」と子どものように聞くので、「はい」と素直に差し出す。握られた手に伝わる熱と、へにゃりと下がった眉が、妙に可愛らしかった。
街に着くと、人通りの多い通りを並んで歩き、屋台の焼き串を一本買って半分ずつ食べる。香ばしい匂いと熱々の肉汁に、思わず二人で笑顔になる。
小物屋では、おば様たちへのお土産を選び、マイラが自分で支払った。ジークは不満げに財布を出そうとしたが、「これは私からだから」と制され、代わりに可愛らしいレターセットをプレゼントしてくれた。
その後、二人はテラス席のある小さなカフェに入り、ケーキと飲み物を注文する。ジークは普段、甘いものを滅多に食べないらしい。「嫌いじゃないけど、見た目が俺に似合わないから買う気にならないんだ」と照れ隠しのように言った。
お互い違うケーキを選び、食べ比べをしていると、ジークが「……恋人っぽく、あーん、してみたい」と言い出す。
「はいはい、ジーク、あーん」
「……あーん。……うまい! ほら、マイラも」
「ん……美味しい。ジークのケーキもいいわね」
しばらく談笑してから、ジークが「次、行きたいところがある」と嬉しそうに言った。手を繋ぎ、路地を抜けて歩いていると、前方から巡回中の騎士が三人。
「隊長!デートですか!」
「可愛い子じゃないですか」
「でも……隊長には勿体ないんじゃ……」
「おい!」とジークが眉を吊り上げ、「俺は休暇中だ! 恋人とデート中なんだ、邪魔するな!」と声を張るも、部下たちはやんやと冷やかしを続ける。
マイラは彼の服の袖をつまみ、やんわりと笑って「初めまして。デュパール子爵家のマイラと申します。ジークエル様の恋人です。せっかくのデートですので、二人きりにさせていただけませんか」と頭を下げる。それでも退かないので、ジークの耳元に「……早く二人きりになりたい」と囁くと、ようやく真っ赤になって部下たちを追い払った。
しかし、そのままジークはぼうっと立ち尽くす。
「ジーク?」と額に手を当てると、ようやく焦点が合い、「……マイラ、キスしていいか?」
「唐突ね……どうしたの?」
「マイラが可愛すぎて、どうにかなりそうなんだ」
「……初めてだから、優しくね」
言ったそばから、彼の唇が何度も重なった。頬も額も唇も、何度も。
「……ジーク、しつこい!」と頬を膨らませると、彼はただ満ち足りた顔で笑っていた。
日が傾き始めるころ、馬車は街を一望できる丘へ向かう。
眼下には、海と空と街並みが、絵画のようなコントラストを描いている。ジークは少し寂しそうに、「またデートしたい。一緒に過ごしたい」と呟く。
マイラはそっと言った。「ジーク、かがんでくれる?」
腰を落とした彼の額、瞼、鼻、頬へと順にキスを落とし、最後に口づける。
「これは、また会うためのさよならのキス。悲しい顔はしないで」
ジークは少し笑って、「……じゃあ、もう一回」
今度はマイラが両手で彼の頬を包み、ゆっくりと唇を重ねた。
その温もりが、夕暮れの色と一緒に、二人の胸に深く残った。
ジークとの初めてのデートとあって、マイラは自室で鏡とにらめっこしていた。しかも今日はシーラおば様とイザベルおば様が、例によってこっそり(いや堂々と)付いてくると知っている。変な格好をして笑われるわけにもいかない。
「うーん……」と小さく唸りながら、最終的に選んだのは、清楚で上品な白のワンピース。肩には柔らかなレースのボレロを羽織り、髪は編み込みにして片側に流し、そこへレースのリボンを結んだ。化粧も派手にならない程度に可愛らしさを意識して整える。
けれど、どうしても自分では判断がつかず、意を決してサイモンの部屋をノックした。
「お父様、今日の服、どう思う?」とくるりと回って見せる。
サイモンは一瞬黙り込み、目を細めてから「……可愛いよ、マイラ。本当はお父様だけが知っていたかったくらいだ」と苦笑い。それから急に真顔になり、「でもな、ジークエルくんから離れるんじゃないぞ。こんなに可愛いと、本気で拐われる」と念を押された。
ちょうどその時、玄関の方から来客を告げる気配がした。
階下へ行くと、扉の前で待っていたジークエルが、固まったように立っていた。目は潤み、息まで呑んでいる。
「ジーク?……行きましょうか」
「……マイラ、反則だろ、これは……可愛すぎる」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、お父様、行ってきます」
「気をつけてな。ジークくん、必ず夕食前には返してくれよ」
「ど、努力します!」
馬車に乗ると、ジークは「隣、座ってもいいか?」と少し照れながら尋ねてくる。
「もちろん」
すると、彼はさらに「手……繋いでもいい?」と子どものように聞くので、「はい」と素直に差し出す。握られた手に伝わる熱と、へにゃりと下がった眉が、妙に可愛らしかった。
街に着くと、人通りの多い通りを並んで歩き、屋台の焼き串を一本買って半分ずつ食べる。香ばしい匂いと熱々の肉汁に、思わず二人で笑顔になる。
小物屋では、おば様たちへのお土産を選び、マイラが自分で支払った。ジークは不満げに財布を出そうとしたが、「これは私からだから」と制され、代わりに可愛らしいレターセットをプレゼントしてくれた。
その後、二人はテラス席のある小さなカフェに入り、ケーキと飲み物を注文する。ジークは普段、甘いものを滅多に食べないらしい。「嫌いじゃないけど、見た目が俺に似合わないから買う気にならないんだ」と照れ隠しのように言った。
お互い違うケーキを選び、食べ比べをしていると、ジークが「……恋人っぽく、あーん、してみたい」と言い出す。
「はいはい、ジーク、あーん」
「……あーん。……うまい! ほら、マイラも」
「ん……美味しい。ジークのケーキもいいわね」
しばらく談笑してから、ジークが「次、行きたいところがある」と嬉しそうに言った。手を繋ぎ、路地を抜けて歩いていると、前方から巡回中の騎士が三人。
「隊長!デートですか!」
「可愛い子じゃないですか」
「でも……隊長には勿体ないんじゃ……」
「おい!」とジークが眉を吊り上げ、「俺は休暇中だ! 恋人とデート中なんだ、邪魔するな!」と声を張るも、部下たちはやんやと冷やかしを続ける。
マイラは彼の服の袖をつまみ、やんわりと笑って「初めまして。デュパール子爵家のマイラと申します。ジークエル様の恋人です。せっかくのデートですので、二人きりにさせていただけませんか」と頭を下げる。それでも退かないので、ジークの耳元に「……早く二人きりになりたい」と囁くと、ようやく真っ赤になって部下たちを追い払った。
しかし、そのままジークはぼうっと立ち尽くす。
「ジーク?」と額に手を当てると、ようやく焦点が合い、「……マイラ、キスしていいか?」
「唐突ね……どうしたの?」
「マイラが可愛すぎて、どうにかなりそうなんだ」
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「……ジーク、しつこい!」と頬を膨らませると、彼はただ満ち足りた顔で笑っていた。
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「これは、また会うためのさよならのキス。悲しい顔はしないで」
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