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第23話
城を発つその朝、マイラはまず、アルベルト王子に仕える近習と護衛を紹介された。
近習は二人――落ち着き払った雰囲気のクロード=バンクと、やや軽口の多そうなサミエル=リッセン。護衛は近衛騎士団から派遣された、がっしりした体格のレジナル=ミドルトンと鋭い目つきのレイ=アーチ。これが、これからの日々を共に過ごす顔ぶれだった。
港に着いた時には、既に荷物の積み込みは終わっており、後は乗船を待つばかり。タラップに足をかけた瞬間、不意に背後から強く抱きしめられた。
荒く早い息、熱を帯びた体温、そして汗の匂い――ジークだった。
「……ジーク、ごめんなさい。黙って行こうとして。でも必ず帰ってくるわ」
その腕の力がさらに強くなり、胸の奥に伝わる切なさに、マイラはそっと腕を叩いて合図を送った。わずかに緩んだ隙をつき、振り返って正面から見つめ合う。駆けつけてくれたことが一目でわかる、泣き出しそうな瞳。思っていた以上に、この人が自分の中で大きな存在になっていることをはっきりと自覚した瞬間だった。
背伸びをして、彼の顔を両手で包み込み、唇に触れる。
耳元で、静かに、けれどはっきりと告げる。
「好きよ、ジーク。必ず帰ってくるから、信じて待っていて」
ジークは顔を真っ赤にして固まったままだったが、マイラは笑って「いってきます」と言い、船内へ足を踏み入れた。
すぐにアルベルト王子の部屋へ向かうと、開口一番、
「恋人同士の別れにしては、ずいぶんあっさりしているな」
その言葉で、誰がジークに知らせたのか察した。
「ご期待に添えず申し訳ございません」形だけ謝れば、横からクロードが口を挟む。
「恋人なら涙の一つでも見せるでしょうに」
サミエルも続く。「冷たい女か、あるいはお遊びでジークエルをからかっているのかもな」
マイラは微笑みながらも切り返す。
「永遠の別れではありませんし、ただ仕事をして帰るだけ。そんなことで涙を流す? 女の涙は普段見せないからこそ武器になるのですわ。……お二人は、安い涙しかご存じないようですね」
サミエルは目を丸くし、クロードは即座に噛みつく。
「な、なんだと!」
「まぁ、ご婚約者も恋人もいらっしゃらないようですから、当てつけでしょうか?」
「侍女の分際で口答えするな!」
「あら、では侍女は不要なのかしら? なら失礼します」
「待て! 王子のお世話をするために来たのだろう、役目を放り出すな!」
「殿下、よく吠える犬は苦手ですの。駄犬はしっかり躾けていただきたいですわ」
クロードが真っ赤になったところで、王子は肩を震わせ、笑いをこらえていた。護衛の二人も口元を押さえている。マイラは「ご用があればベルを」とだけ告げて部屋を下がった。
しばらくしてベルが鳴り、向かうと――そこにいた全員が、具合悪そうにソファや椅子に沈み込んでいた。
「船酔いですね。お薬は?」首を振るばかりの面々に、マイラはため息をつき、自室から酔い止めを持って戻った。
王子をベッドに横たえ、護衛のレジナルとレイはソファへ。近習二人には自室で休むよう勧める。だがクロードはなおも口を尖らせ、
「殿下と二人きりにして何を企む? 性悪女の言いなりにはならん!」
完全に放置することに決めた。
王子に薬を差し出すと、今度は「毒か、媚薬か!」と騒ぐが、聞こえないふりをして飲ませる。吐き気を必死に堪える王子の背を、刺激にならぬようゆっくりさすり、服を緩めて撫でてやると、やがて安らかな寝息に変わった。
次にレジナルとレイにも薬を飲ませ横にし、サミエルの部屋へ。青ざめた顔で耐えている彼にも薬を飲ませ、込み上げる波を乗り切ったのを見届けて、背と頭を撫でて寝かせた。
部屋に戻ると、床にぐったり座り込んだクロードがいた。
「……もう我慢はやめて、休みなさい」
肩を貸し部屋へ向かう途中、彼は何度も込み上げては飲み込んでいたが、ベッドの前で限界が来た――ただし吐き出した先はマイラの胸元。
不快感よりも、無意識に部屋を汚さないようしたその行動に、彼の理性の欠片を感じた。
そのまま浴室へ連れていき、淡々と服を脱がせ、自分も汚れた服を脱ぐ。クロードは全裸、マイラは下着姿のまま、シャワーで洗い流した。
「口の中もゆすいで。……はい、開けて」
全身を洗い終え、タオルで拭いて着替えを着せ、薬を飲ませると、彼はすぐに眠りに落ちた。
マイラは服と浴室を簡単に洗い、汚れを落とした侍女服を再び着て自室へ戻り、改めてシャワーを浴び、新しい制服に着替える。
そして、何事もなかったかのような顔で、再び王子の部屋へ向かった。
近習は二人――落ち着き払った雰囲気のクロード=バンクと、やや軽口の多そうなサミエル=リッセン。護衛は近衛騎士団から派遣された、がっしりした体格のレジナル=ミドルトンと鋭い目つきのレイ=アーチ。これが、これからの日々を共に過ごす顔ぶれだった。
港に着いた時には、既に荷物の積み込みは終わっており、後は乗船を待つばかり。タラップに足をかけた瞬間、不意に背後から強く抱きしめられた。
荒く早い息、熱を帯びた体温、そして汗の匂い――ジークだった。
「……ジーク、ごめんなさい。黙って行こうとして。でも必ず帰ってくるわ」
その腕の力がさらに強くなり、胸の奥に伝わる切なさに、マイラはそっと腕を叩いて合図を送った。わずかに緩んだ隙をつき、振り返って正面から見つめ合う。駆けつけてくれたことが一目でわかる、泣き出しそうな瞳。思っていた以上に、この人が自分の中で大きな存在になっていることをはっきりと自覚した瞬間だった。
背伸びをして、彼の顔を両手で包み込み、唇に触れる。
耳元で、静かに、けれどはっきりと告げる。
「好きよ、ジーク。必ず帰ってくるから、信じて待っていて」
ジークは顔を真っ赤にして固まったままだったが、マイラは笑って「いってきます」と言い、船内へ足を踏み入れた。
すぐにアルベルト王子の部屋へ向かうと、開口一番、
「恋人同士の別れにしては、ずいぶんあっさりしているな」
その言葉で、誰がジークに知らせたのか察した。
「ご期待に添えず申し訳ございません」形だけ謝れば、横からクロードが口を挟む。
「恋人なら涙の一つでも見せるでしょうに」
サミエルも続く。「冷たい女か、あるいはお遊びでジークエルをからかっているのかもな」
マイラは微笑みながらも切り返す。
「永遠の別れではありませんし、ただ仕事をして帰るだけ。そんなことで涙を流す? 女の涙は普段見せないからこそ武器になるのですわ。……お二人は、安い涙しかご存じないようですね」
サミエルは目を丸くし、クロードは即座に噛みつく。
「な、なんだと!」
「まぁ、ご婚約者も恋人もいらっしゃらないようですから、当てつけでしょうか?」
「侍女の分際で口答えするな!」
「あら、では侍女は不要なのかしら? なら失礼します」
「待て! 王子のお世話をするために来たのだろう、役目を放り出すな!」
「殿下、よく吠える犬は苦手ですの。駄犬はしっかり躾けていただきたいですわ」
クロードが真っ赤になったところで、王子は肩を震わせ、笑いをこらえていた。護衛の二人も口元を押さえている。マイラは「ご用があればベルを」とだけ告げて部屋を下がった。
しばらくしてベルが鳴り、向かうと――そこにいた全員が、具合悪そうにソファや椅子に沈み込んでいた。
「船酔いですね。お薬は?」首を振るばかりの面々に、マイラはため息をつき、自室から酔い止めを持って戻った。
王子をベッドに横たえ、護衛のレジナルとレイはソファへ。近習二人には自室で休むよう勧める。だがクロードはなおも口を尖らせ、
「殿下と二人きりにして何を企む? 性悪女の言いなりにはならん!」
完全に放置することに決めた。
王子に薬を差し出すと、今度は「毒か、媚薬か!」と騒ぐが、聞こえないふりをして飲ませる。吐き気を必死に堪える王子の背を、刺激にならぬようゆっくりさすり、服を緩めて撫でてやると、やがて安らかな寝息に変わった。
次にレジナルとレイにも薬を飲ませ横にし、サミエルの部屋へ。青ざめた顔で耐えている彼にも薬を飲ませ、込み上げる波を乗り切ったのを見届けて、背と頭を撫でて寝かせた。
部屋に戻ると、床にぐったり座り込んだクロードがいた。
「……もう我慢はやめて、休みなさい」
肩を貸し部屋へ向かう途中、彼は何度も込み上げては飲み込んでいたが、ベッドの前で限界が来た――ただし吐き出した先はマイラの胸元。
不快感よりも、無意識に部屋を汚さないようしたその行動に、彼の理性の欠片を感じた。
そのまま浴室へ連れていき、淡々と服を脱がせ、自分も汚れた服を脱ぐ。クロードは全裸、マイラは下着姿のまま、シャワーで洗い流した。
「口の中もゆすいで。……はい、開けて」
全身を洗い終え、タオルで拭いて着替えを着せ、薬を飲ませると、彼はすぐに眠りに落ちた。
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そして、何事もなかったかのような顔で、再び王子の部屋へ向かった。
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