波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

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第25話

ハーティア王国の港に着くと、潮の香りとともに熱気のあるざわめきが押し寄せてきた。
船から降りた私たちは、それぞれ用意された馬車へ案内される。アルベルト王子と護衛の二人は先頭の馬車へ、私は近習のクロード、サミエルと同乗することになった。

城が近づくにつれ、馬車の中にじわじわと緊張が満ちていく。そんな中、クロードが小声で私の袖を引いた。
「……マイラ、緊張してきた。安心できるように手を握ってくれ」
「……わたくしはあくまでアルベルト王子の侍女として参っておりますのよ? 船の中では体調を崩して不安だろうと我が儘も聞きましたが、ここは他国です。公私混同はここまでです」
「馬車を降りたらちゃんとするから……お願いだ、マイラ」
情けない声に、ため息をひとつ。
「……馬車を降りるまでですよ」
そう言って手を差し出すと、クロードはほっとしたように握り返した。その横で、サミエルは難しい顔をして黙っている。これから女王にどう迎えられるのか、謁見の場まで分からないのだから無理もない。私も頭の片隅では、近づきつつある先の展開を予測していた。

城門をくぐり、石畳を進む。馬車を降りても、クロードはまだ手を離さなかった。耳元で囁く。
「……ここは他国ですよ」
その一言で、彼はあっさりと手を放し、顔を赤くした。

アルベルト王子を先頭に、私たちは謁見の間へと進む。廊下の途中、あからさまな視線を感じたが、足を止めず進む。
そして、重厚な扉をくぐった瞬間――私の内側で、何かがふっとほどける感覚があった。
しまった、と心の中で息を呑む。瞳の魔法が解けたのだ。周囲の視線が一斉に突き刺さる。私は反射的に視線を落としたが、すでに遅い。見られた。護衛も近習も、そして王子も、その変化に気づいたはずだったが、この場で何か言えるはずもない。

玉座には、私によく似た女性――アイリス女王。その隣には王配らしき男性、さらに側室と思われる二人の男性。金髪の小さな王女はまだ幼く、その隣で無邪気に足をぶらつかせていた。

「ハーティア王国、アイリス女王陛下へご挨拶申し上げます。クレーント王国第二王子、アルベルトでございます。本日こちらに到着いたしました」
全員が頭を下げる。私は深くカーテシーをして、視線を下げたまま動かない。

「全員、面を上げよ」
声に従い皆が顔を上げるが、私は視線を落としたままだった。

「そこの娘、こちらへ」
女王の声が私を呼ぶ。避けられない。静かに視線を上げ、玉座の方へと歩み寄る。
「もう少し近くだ」
足元近くまで進み、再び深くカーテシーをする。

「娘よ、名をなんと言う」
「ナイラ=デュパールと申します」
「ほう、顔を上げて見せよ」

女王はじっと私の顔を見つめ、その目に何か確信めいた色を浮かべた。
「イザーク、魔法鑑定を」
「はい、ただいま」

奥から黒いローブの男が駆け寄ってきた。手には無色透明の水晶。
「お嬢さん、この水晶に手を置いてください」

……用意していたな、と心の中で呟く。逃げ道はない。私は静かに手を置いた。
次の瞬間、水晶が虹色に輝き、部屋の空気が一変した。

「アリスティア!」

その名が響いたと同時に、背後から強く抱きしめられる。驚いて振り返ろうとしたが、その腕が震えているのがわかる。
「……ずっと……ずっと探していた……」
涙声。抱きしめているのは女王――アイリス陛下だった。

私の耳元でしゃくりあげる声が重なり、目の前では鑑定を行ったイザークが、涙をこらえることもなく泣いている。

どういうことなのか、状況を飲み込む間もなく、私はただ、その場で混乱の渦中に立ち尽くしていた。

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