波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

文字の大きさ
29 / 50

第27話

アイリス女王とライデン陛下との話が終わり、私は「気持ちを落ち着ける時間が必要だろう」との配慮で部屋へ戻ることを許された。もっとも、その部屋は女王の私室の隣で、すでに用意されていたらしい。
扉を閉め、ふかふかのソファに腰を沈め、長く息を吐く。――心のどこかで「もう戻れないかもしれない」と覚悟していたはずなのに、現実として突きつけられると、胸の奥に重しを乗せられたようだった。

その時、コンコンと控えめなノック。
「どうぞ」と声を掛けると、小さな足音が駆け寄ってくる。振り向けば、金色の髪を揺らしたライリン王女が、真っすぐこちらに向かってきていた。後ろから侍女が慌てて追いすがる。
「ねぇたまなの?」
可愛らしい声音に、思わず手を上げて侍女を制し、「おいで」と両腕を広げた。軽い体を抱き上げ、太ももの上に座らせる。青く澄んだ瞳が好奇心と喜びで輝いている。指先でそっと髪を撫でると、ライリン王女は恥ずかしそうに微笑み、ぎゅっと頬を寄せてきた。
「ライリンのおねえさまよ。よろしくね」
そう告げると、小さな腕で首に抱きつき、「ねぇたま、もうどこにも行かないで」と甘える。背を優しく撫で、軽くトントンと叩くと、まぶたがとろんと下がり、そのまま眠ってしまった。微笑をこぼし、そっと侍女に渡す。

その後、侍女を呼び、クレーント王国から来たアルベルト王子と近習、護衛たちの様子が気になっていることを伝え、女王陛下に面会の可否を確認してほしいと頼んだ。

やがて、部屋に入ってきたのはライデンだった。
「アイリスは、あのあと長年の心労と娘に会えた安堵で倒れてしまった。今は休ませている」
「……そうでしたか」胸がちくりと痛む。
「なぜ彼らに会いたい?」
「なぜって……わたくしはアルベルト王子の侍女として入国しました。私が戻らなければ、きっと心配しているはずです。一度は直接説明しておかないと」
「ふむ……だが一人では会わせられん。私と護衛も同席する」

私はうなずきつつも、少し言葉を足した。
「どこまで話してよいのか分かりません。それに、クレーント王国には仕事仲間と養子縁組した父、港で別れた恋人がいます。全員に“すぐ戻る”と言ってきたのです。今後、何をどう伝えればよいか……」
ライデンは一瞬だけ目を細め、「アイリス女王の娘であることは話してよい。ただし継承権については触れるな。詳細は私から彼らに伝える」と言い、ふっと笑った。
「さすがアイリスの娘だ。この国に縛られる覚悟を持ちながらも、出られる手立てを探すとはな。養父や事業の話は外交官から聞いていたが、恋人の件は初耳だ。後で詳しく聞かせてもらおう。そなたは私の唯一の娘なのだから」

そして、ライデンにエスコートされて向かった先。扉の外までクロードの大声が響いていた。
「マイラを助けに行く!」
「クロード、落ち着け!」
「何で止めるんだ!」

扉を開けた瞬間、クロードが真っ先に駆け寄り手を伸ばしてきたが、ハーティア側の護衛が彼を押さえた。
「離してあげてください」
そう頼むと、クロードは解放され、その勢いのまま私を抱きしめた。だが次の瞬間、ライデンの手で強引に引き剥がされる。

「クロード様、皆さま、ご心配をおかけしました」
深く頭を下げると、ライデンが一歩前に出て声を通した。
「マイラ嬢を連れ出した理由を説明する。皆、席についてくれ」

私がライデンの隣に座ると、その横にクロードがずいと腰を下ろす。
「クロード様、あなたはアルベルト王子の近習です。向こうに」
「マイラが心配なんだ。離れない」
……諦めるしかなかった。

ライデンはクロードを一瞥してから口を開く。
「このマイラ嬢は、ハーティア王国女王陛下と私の娘、アリスティアだ。謁見で見ただろう、女王と同じ亜麻色の髪、紫の瞳。そして魔力鑑定で虹色に輝いた。幼い頃、女王の妹と共に攫われ、行方不明となっていたが、クレーントで生きていた。偶然この国に来て、その場で判明したのだ。――アリスティアはクレーント王国へは帰れない。この国の王女だからだ」

静まり返る部屋の中、クロードが真っ先に口を開いた。
「私はマイラのそばにいる。帰国はしない」
「クロード様、何度も言いますが、あなたは王子の近習です」
「嫌だ! マイラがいないなんて無理だ。胸が痛くなる病になった!」
サミエルが苦笑しながら、「船に乗るまでは普通だったんだが……マイラ嬢が船酔いのとき甘やかしたせいかもな」とぽつり。
(……私のせいなのか?)思わず眉間を押さえた。

すると、アルベルト王子が口を開いた。
「ライデン様、私の婿入り先にアリスティア王女も候補に入っているのですか?」
「それは何とも言えん。娘には恋人がクレーントにいると聞いたばかりだ。幸せな結婚をしてほしいと思っている」
「……マイラ嬢――いや、アリスティア王女。私のことも婚約者候補に考えていただきたい」
「マイラ、俺もだ! 婚約者候補に入れてくれ!」と、クロードまで身を乗り出す。

私はため息をつき、二人を見渡した。
「婚約者候補の前に、まずはすべきことを終えてから考えます。今はそれどころではありません。……それと、今日からはお二人とも一人で眠れるようになってくださいね」

ライデンが「どういうことだ?」と怪訝そうに私を見る。
私は小声で「後で話します」とだけ返した。

あなたにおすすめの小説

外れ伯爵家の三女、領地で無双する

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
十三歳の少女アイリス・アルベールは、人生を決める「祝福の儀」で“ゴミスキル”と蔑まれる《アイテムボックス》を授かってしまう。戦えず、稼げず、価値もない――そう断じた家族は、彼女を役立たずとして家から追放する。さらに、優秀なスキルであれば貴族に売り渡すつもりだったという冷酷な真実まで明かされ、アイリスはすべてを失う。 だが絶望の中、彼女は気付く。この世界が、自分がかつてやり込んだVRMMORPG『メデア』そのものであることに。 そして思い出す―― 《アイテムボックス》には、ある“致命的なバグ”が存在することを。 市場で偶然を装いながらアイテムを出し入れし、タイミングをずらすことで発生する“複製バグ”。それは、あらゆる物資を無限に増やす禁断の裏技だった。 食料も、装備も、資金も――すべてが無限。 最底辺から一転、誰にも真似できないチートを手にしたアイリスは、冒険者として歩み始める。だがその力はやがて、経済を歪め、権力者の目に留まり、そして世界の“仕様そのもの”に干渉していくことになる。 これは―― ゴミと呼ばれた少女が、“世界の裏側”を掌握する物語。

【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! この度、こちらの作品がアルファポリス第19回恋愛小説大賞にて「優秀賞」を受賞いたしました! ありがとうございます!!<(_ _)> ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

【完結】悪役令嬢は番様?

水江 蓮
恋愛
ある日ぼんやり鏡を見ていたら、前世の記憶を思い出したツェツリア8歳。 この世界は人気乙女ゲームの世界であり自分の役どころは悪役令嬢だと…。 まだ悪役令嬢として活動していないから、まだ挽回できるはず! え? 誰が誰の番? まず番って何? 誰か何がどうなっているのか教えて!!

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています