波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

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第28話

部屋へ戻るや否や、父ライデンは容赦なく質問を浴びせてきた。
クレーント王国でデュパール子爵と出会った経緯、第二の母と慕ったマリンのこと、祖母エメリカの温かな笑顔、マックエル伯爵家での出来事――。
そして帰国後、子爵サイモンと養子縁組をし親子となった経緯、夜会に出たことで縁談が殺到し、それを鎮めるために見合いをしたこと、ジークエルとの出会いと港での別れ。船の上での船酔いと看病、そして看病後の“弊害”として寝る前に二人の寝かしつけをする羽目になったことまで。

話すほどに、まるで父親に恋愛話を打ち明けているような気恥ずかしさがこみ上げ、視線が何度も泳いだ。
一通り語り終えた頃には、肩から力が抜けるような疲労感に包まれていた。
ライデンもそれを察したのか、「今日再会したばかりなのに無理をさせたな」と少し反省の色を見せ、夕食は部屋に運ばせるからゆっくり休めと言い残して部屋を後にした。

一人きりになり、激動の一日を思い返す。少し横になるつもりでソファに身を預けたが、次に意識が戻った時には朝だった。着替えも済んでおり、ベッドの上で毛布に包まれていた。誰が運んでくれたのかは分からない。

侍女が部屋に入り、私の目が覚めたのを確認して「殿下、本日はゆっくりしていただいて構わないとのことですが、朝食は召し上がりますか?」と聞く。
「お願いします」とだけ告げ、準備を任せた。
温かな朝食を前にしながら、ぼんやりと外の庭を眺めていると、軽いノック音とともに扉が開き、アイリス女王――母が入ってきた。

慌ててカーテシーを取ろうとした私に、
「アリス、母に対しては不要よ。公式の場でだけ、きちんとすればいいのです」
そう言って近づき、乱れた髪を指先で整えてくれる。その仕草は驚くほど自然で、温かい。
「昨夜はゆっくり眠れたかしら? ソファで寝ていたら風邪を引くわよ」
母の眼差しが、胸の奥をじんわりと温めていく。
「……母親って、こんなふうに呼び、見つめるものなのですね」
自然とそんな言葉が口をついて出た。
アイリスは微笑み、「アリス、マイラと呼ばれたり、アリスティアと呼ばれたりで混乱するでしょう。でも、私は“アリス”と呼ばせてね」
私は小さく頷いた。

その後、母と共に庭園へ。季節の花々が咲き誇る中、私たちはゆっくりと歩きながら、互いのことを語り合った。
好きなもの、嫌いなもの、孤児院での暮らし、仲間たちの話、そして自分の仕事のこと――。
庭園のテラスに腰を下ろし、香り高いお茶をいただきながら、母は静かに告げた。
「明日から、女王としての教育を始めます」

私はそこで一つお願いをした。
「もし許されるなら、クレーント王国から側近候補を数人迎えたいのです。適性検査や試験は受けても構いません。これからこの国で生きていく私には、背中を預けられる仲間が必要です」
母は少し驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。
「いいわ。アリスが共に育ち、信頼してきた人たちでしょう? 娘の願いは叶えてあげるわ」

そして、少しだけ声を落とす。
「……恋人には会わなくてもいいの?」
胸の奥がきゅっと縮まる。
「……会いたいです。でも、彼は王配にはなれない方です。もし会ってしまったら、きっと手放せなくなります。そうなれば、離れた今以上に苦しめてしまう。だから……会えません」
母は静かに目を閉じ、「そう……覚悟はできているのね」と呟く。
「ええ」そう答えた瞬間、頬を熱いものが伝い始めた。
止めようとしても、涙は次々と零れ落ちる。

母は何も言わず、そっと私を抱きしめた。
その腕の中で、私は子どものように肩を震わせ、ようやくこの胸に宿った痛みを吐き出した。

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