波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

文字の大きさ
32 / 50

第30話

翌朝、まだ外が薄暗いうちに目が覚めた。
胸の奥に残る重たい気持ちを振り払うように、私は支度を整え、試験会場である会議室へ向かう。扉を開けると、すでに仲間たちが集まっていた。
きっと、私の動きを察して来てくれたのだろう。

「おはよう」
深く息を吸い込み、皆の顔を順に見渡す。
「改めて、ここで話しておきたいことがある」

クレーント王国にいる時に予想していた“妹王女の娘”という説は外れ、私は“女王の娘”だった事。
その事情は王家の機密に関わるため、細かくは話せないが、そのせいで私は二度とクレーント王国へ戻れなくなった事などを話した。

「……だからこそ、もし私を助けてくれるならと、こうして皆にお願いの手紙を綴った。そして、皆が来てくれた。これから行われる試験は皆なら難なく突破できるだろう。これから先、私はこの国を背負っていく。そして――欠けることなく、そばにいてくれることを望む。全力を尽くし、実力で反対の声をねじ伏せてくれ。信じている」

そう言って軽く頭を下げ、そのまま部屋を出ようとしたとき――
廊下の向こうから、焦った様子でクロードが駆け込んできた。

「……よ、よかった」
安堵の色を浮かべる彼に、私は訝しげな視線を向けた。

「どうしたのだ?」
「朝、部屋を訪ねたらいなかったから」
「仲間の激励に来ていたんだが……何か急ぎの用か?」
「……とにかく、お戻りください。皆、心配していました」

私は短く頷き、「じゃあ、皆、頑張ってくれ」とだけ告げ、会議室を後にした。

廊下を歩く間、普段なら自然と私の手を取るはずのクロードが、今日は二歩前を歩いていた。
部屋の前に着いたところで、彼はぴたりと足を止める。首を傾げながら扉を開けた瞬間――背後から強く抱き締められた。

「アリス……胸が苦しい。辛い」
耳元で、震える声が落ちる。
「ジークエルが恋人だとわかっていても、嫉妬で頭がどうにかなりそうなんだ」

私はそっと彼の名を呼んだ。
しばらくの間、腕の力は緩むことなく、ただ互いの呼吸だけが響く。
やがて少し落ち着いたのか、抱く力がふっと弱まった。

「……座って」
私は彼の手を引き、ソファに腰を下ろさせる。
自ら茶を淹れ、湯気の立つカップを差し出した。
クロードは一口、そして一気に飲み干すと、何も言わず立ち上がり、部屋を出ていった。

――午後。女王教育の講義を終えて部屋に戻ると、父と母が揃って訪ねてきていた。

「女王教育は順調、というより優秀で、予定より早く終わりそうだと聞いた」
父ライデンはそう前置きしてから、少し真剣な表情で続けた。
「来月、お前の十六歳の誕生日に合わせて、お披露目と誕生会を開こうと思う。その場で、王配候補も発表する」

私は背筋を伸ばし、静かに答えた。
「……覚悟は、できています」

「すまない。昨日、まさか恋人まで一緒に来ていたとは知らず……結果として苦しませることになってしまった」
「母にも話しましたが、彼には王配は務まりません。それは私も理解しています。だから、想いを断ち切り、この国を共に支えてくれる方をお願いします」

「そうか、心は決まっているのだな」
母アイリスがふっと口を開く。
「どうしてもというなら、側室という形も」
「……お母様、ありがとうございます。でも、大丈夫です。私のわがままで、これから共に歩む王配に心の負担はかけたくありません」

父は頷き、紙に目を落とす。
「候補は、アルベルト王子、クロード、それにハーティア王国内の公爵家から一名、侯爵家から二名。本来なら女王教育は幼い頃から、王配は女王を支えるために帝王学を学ぶ。だが今回は女王候補不在のまま事態が動いたため、これから帝王学を学ばねばならない。異例だが――今回は二人の王配で女王を支えることに決めた」

「……二人?」
「そうだ。だから明日から候補者たちと交流し、共に歩む者を選んでほしい」

「……わかりました。ジークエルにこのことを伝えても?」
「昨日、すでに伝えてある。彼がどう判断するかはわからない」

「……はい」
視線を落とし、堪える思いを握りしめた拳に込めた。

あなたにおすすめの小説

外れ伯爵家の三女、領地で無双する

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
十三歳の少女アイリス・アルベールは、人生を決める「祝福の儀」で“ゴミスキル”と蔑まれる《アイテムボックス》を授かってしまう。戦えず、稼げず、価値もない――そう断じた家族は、彼女を役立たずとして家から追放する。さらに、優秀なスキルであれば貴族に売り渡すつもりだったという冷酷な真実まで明かされ、アイリスはすべてを失う。 だが絶望の中、彼女は気付く。この世界が、自分がかつてやり込んだVRMMORPG『メデア』そのものであることに。 そして思い出す―― 《アイテムボックス》には、ある“致命的なバグ”が存在することを。 市場で偶然を装いながらアイテムを出し入れし、タイミングをずらすことで発生する“複製バグ”。それは、あらゆる物資を無限に増やす禁断の裏技だった。 食料も、装備も、資金も――すべてが無限。 最底辺から一転、誰にも真似できないチートを手にしたアイリスは、冒険者として歩み始める。だがその力はやがて、経済を歪め、権力者の目に留まり、そして世界の“仕様そのもの”に干渉していくことになる。 これは―― ゴミと呼ばれた少女が、“世界の裏側”を掌握する物語。

【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! この度、こちらの作品がアルファポリス第19回恋愛小説大賞にて「優秀賞」を受賞いたしました! ありがとうございます!!<(_ _)> ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

【完結】悪役令嬢は番様?

水江 蓮
恋愛
ある日ぼんやり鏡を見ていたら、前世の記憶を思い出したツェツリア8歳。 この世界は人気乙女ゲームの世界であり自分の役どころは悪役令嬢だと…。 まだ悪役令嬢として活動していないから、まだ挽回できるはず! え? 誰が誰の番? まず番って何? 誰か何がどうなっているのか教えて!!

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています