波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

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第31話

王配候補者との初顔合わせは、城の中庭にある白いガゼボで行われた。
朝の空気は澄み、木々の葉が柔らかく揺れ、遠くで小鳥の声が響いている。
父ライデン陛下は一同を見渡し、ゆっくりと紹介を始めた。

「私の隣にいるのが、我が娘であり次期女王――アリスティアだ。そしてその横が、クレーント王国バンク侯爵家の次男、クロード。その隣が、同じくクレーント王国のアルベルト第二王子」
父の落ち着いた声に続き、右手側の候補者へ視線を移す。
「そして、私の右隣が我が国ナジエル公爵家三男のレイジル、その隣がカージェス侯爵家次男ハロルド、最後にラジェント侯爵家次男のミカエルだ」

私は一歩前に出て、丁寧に裾をつまみ、深くカーテシーをした。
「本日はお集まりくださり、誠にありがとうございます。先ほど父からご紹介いただきました、アリスティアです。幼い頃に行方知れずとなり、この度ご縁あって祖国へ戻ってまいりました」
言葉を切り、集まった面々をゆっくりと見渡す。
「急なお呼び立てゆえ、皆さまの中には、もしかすると恋人やご婚約者がおられた方もいらっしゃるかもしれません。その場合は遠慮なくお伝えください。婚約後に“真実の愛を見つけた”などと言われても、私も困りますから」

その言葉に、隣のアルベルト王子が視線を落とした。
沈黙を破ったのはミカエルだった。
「……実は、幼い頃から婚約していた方がいました。ですが王家からの打診を受け、父が婚約を解消しました。ただ、彼女への愛情はありません。事実は隠すつもりはないので、この場でお伝えしておきます」
「ミカエル様、ご丁寧にありがとうございます」私は柔らかく微笑んだ。
「ですが、私が王配に望むのは、共に歩み、互いに背を預けられる関係です。幼き頃からの婚約者にすら愛情を育めなかった方とは、申し訳ありませんがお断りいたします」

場の空気がわずかに張り詰める。
「他には?」私は静かに問いかけた。
「レイジル様……恋人とはお別れになられましたか?」

予想外の名指しに、レイジルの顔がわずかに引きつった。
「え、えぇ……別れました。問題はありません」
「そうですか。……今朝、お別れを?」
「な、なぜそんなことを……」
「首元にキスマークがございますわ。それに、あちらで可愛らしい侍女の方がこちらを睨んでおられます。不誠実な方とは、縁は結べません」

言葉を飲み込むレイジルを横目に、私はハロルドへ視線を移す。
彼は明らかに身を固くし、次の標的が自分だと覚悟している様子だった。
「お父様、候補者は三人になりましたね」
父が眉を上げる。
「ハロルドには何もないのか?」
「ハロルド様は清廉潔白なお方ですわ。申し上げることはございません。ただ一つ――私の隣に立つ覚悟がおありか、それだけは伺いたい。おそらくは、言われるままここへ来られたのでしょう。一度よくお考えください。この国を背負う覚悟がなければ、ご辞退いただきたい。アルベルト王子も、クロード様も同様です」

それまで静かに聞いていた父が、肩を震わせ笑いを堪えていた。
「すまぬ、あまりに我が娘らしくてな。元老院がうるさく、無理やりねじ込んできた候補者ばかりだが……どうやら不適格者ばかりだったようだ。さて、アリスティア、候補は三人――いや、アルベルトとクロードで決まりか?」
「いいえ。もしお父様が、本当に相応しい候補者を用意されているなら、お会いしたいと思います」
「なぜそう思う?」
「父が私を探し続けてくださっていたことは知っています。娘の伴侶に選ぶ人材を、何も考えずに決められるはずがないからです」

父はふっと口角を上げ、「なるほど」と呟くと、レイジル、ハロルド、ミカエルを退出させるよう側近に指示を出した。
三人が去ると、入れ替わるように二人の男が姿を現した。

一人は黒髪をきっちりと撫でつけ、片目に黒い眼帯を着けた軍服姿。
もう一人は、何度か顔を合わせたことのある近衛騎士団副団長――レイモンド。

「黒い眼帯の男は、第二騎士団副団長、サンジェル伯爵家嫡男のクラウス。そして、もう一人がアリスティアもよく知る近衛騎士団副団長、リジェス子爵家三男のレイモンドだ」
父は真剣な眼差しで二人を見やった。
「二人とも年は重ねているが、未婚だ。婚約者も恋人も……いないはずだ」

私はゆっくりと一礼した。
「アリスティアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。先に申し上げますが、私が王配に望むのは、共に立ち、背を預け合える関係です。この国を背負う責務は、一人では成し遂げられません。もし父から強制されているのであれば、遠慮なくおっしゃってください」

クラウスが一歩進み出て言った。
「第二騎士団副団長のクラウスだ。片目は任務で失った。体には数えきれぬ傷がある。もしそれが不快なら、候補から外してくれて構わない」
「不快などとは思いません。任務中の傷は、この国のために負った証。誇りこそあれ、軽んじることなどありません」

続いて、レイモンドが穏やかに頭を下げた。
「近衛騎士団副団長のレイモンドです。アリスティア王女、よろしくお願いします」

父は二人を見やり、ゆっくりと語った。
「アリスティアと妹のティアナを探していたとき、まだ見習いだった彼らは必死に捜索にあたった。足取りは掴めなかったが、それを深く悔やみ、努力を重ね、今の地位にまで上り詰めた。そして、我々と同じように、何年もお前の行方を探し続けてくれていたのだ」

胸の奥が熱くなった。
父や母だけでなく、この二人もまた、自分を探してくれていた――そう知った瞬間、深くカーテシーをし、「……ありがとうございます」と心から礼を述べた。

「では、交流会を始めよう」
父の合図で、和やかな空気の中、顔合わせは続いていった。

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