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第41話
波に揺られる船上の甲板で、私はずっと胸の奥に隠してきたことを、ようやく口にした。
イザベルおば様とシーラ、そしてカインとモーリス。信頼できる人達だからこそ、逃げ隠れせずに話すべきだと思った。
「本当は…私時戻りしたようで…元の時間で私は今日の午後、宰相にハーティア王国へ行くよう命じられていました。あちらでは私が“ただ一人の継承権を持つ王女”として扱われています。つまり、もうクレーント王国へは帰れない立場になりました。」
静まり返る甲板に、波音だけが響く。皆の視線を受けながら、私は続けた。
ジークエルが仲間達と共に来てくれたこと。ハーティア王国での出来事。十六歳の誕生日会とお披露目の式典での再会と別れ。お茶会で浴びせられた婦人方の冷たい言葉。
――そして、海の女神に「サイモンのもとに帰りたい」と願ったこと。気づけば目覚めたのは今朝で、すべてが最初からやり直されていたこと。
言葉を一通り吐き出すと、胸が少し軽くなった。けれど、皆の反応が怖くて、俯いたまま顔を上げられなかった。
最初に口を開いたのはイザベルおば様だった。
「……マイラはこれから、どうしたいの?」
「ハーティア王国は、もうあなたを見つけているのよね?」
私は小さく頷いた。
「ええ。でも正直なところ、行きたくありません。大切な人達と引き離され、箱庭のような閉じられた場所に押し込められるなんて……そんなのは、ただの牢獄です」
カインが腕を組んで眉をひそめる。
「とりあえず、クレーントの第二王子が到着してから、ハーティア王国がどう動くか、ってところだな」
「いっそ結婚してしまえばいいんじゃねえか?夫婦を引き離すなんて、さすがに難しいだろ」
「そうだな。ジークエルとは両想いなんだろう?」モーリスも口を挟んでくる。
私は苦笑して首を振った。
「そんなに簡単な話ではないのです。ジークは王を支える“王配”にはなれません。せいぜい、側室か愛妾……。それでは彼を傷つけてしまうわ」
カインが眉をつり上げる。
「なら、いっそクレーントから出なけりゃいい。魔法の無効化されなきゃバレないだろ」
「魔法を無効化する魔道具があるの。もし身につけさせられたら、すぐに正体が露わになるわ」
横で黙っていたシーラが、興味深そうに身を乗り出す。
「ところで、マイラ。あなた、瞳の色を変えているのよね?……本来の姿を、見せてもらえる?」
私は静かに目を閉じ、魔法の力を解いた。ゆっくりと瞼を上げると、紫の瞳が朝の光を受けて煌めいた。
「……本当に紫色なのね」
「綺麗だわ。雰囲気が少し変わるのね」シーラが微笑む。
モーリスが腕を組み、真剣な表情で尋ねた。
「他に魔法でできることは?」
私は指先に意識を集中させ、小さな水の球を生み出した。次の瞬間、それはぱっと赤い炎に変わる。
「……す、すごいな」カインが驚きで顔を引きつらせる。
モーリスも真剣にうなずいた。
「魔法が使えることは十分わかった。俺たちの切り札は、マイラが未来の出来事とハーティア王国の動きを知っていることだ」
イザベルが冷たい笑みを浮かべる。
「立場を理解せず、あなたを蔑ろにしたご婦人方や貴族達。次期女王が不在となった現実を突きつければ、青ざめて慌てふためくでしょうね」
「そうよ」シーラも同意する。「マイラがいない現実を知れば良いのよ。」
そんな話を交わしながら、船はゆっくりとエレンス王国の港へと辿り着いた。
――第二の我が家、マックエル伯爵家。
ここに着いた途端、胸がほっと緩んだ。伯爵家の人々は以前と変わらず温かく迎えてくれ、私は久しぶりに伸び伸びと過ごすことができた。
けれど心の奥には不安が残る。私はレオンとルベル、そしてお父様サイモンに手紙を送った。「理由は言えないけれど、どうしても会いたい」と。そして、ジークエルにも「休みが取れたなら来てほしい」と書き添えた。
それから二週間後。待ち望んだ顔ぶれが揃った。
レオン、ルベル、サイモン、そしてジークエル――彼らはマックエル伯爵家にやってきて、私は全てを話した。
「今はただ、時間を稼いでいるだけ。どう動くのが最善か、それを考えています」
話している最中、ジークエルは泣きそうな顔で私を見つめていた。
「離ればなれなんて……そんなの耐えられない。マイラが他の誰かのものになるなんて……」
重苦しい沈黙を破ったのはレオンだった。
「実はな、マイラ。お前が出立したその日の午後に宰相バークレー=レイモンドが来た。お前に依頼があったらしい。どこへ行ったのか、いつ戻るのか、連絡は取れるのか……細かく聞かれた」
ルベルも続ける。
「俺たちは“長期案件で連絡は取れない、終了時期も未定”と伝えた。次は必ずハーティアからの接触があるだろう。国に戻ったら対策を立てる。アルベルト王子様ご一行はすでに出航したが……お前はしばらく身を隠せ」
「分かったわ。お店と一座のことは、お願いね」
サイモンは深いため息をつき、私を見つめた。
「……まさかマイラがそんな立場になるとは。信じられんが、事実なのだろう。だが……本当の父母と会わなくても、いいのか?」
「母アイリスや父ライデンに会いたい気持ちはあるわ。でも、今の私にとって大切なのは……サイモンお父様や、伯爵家の家族、仲間達、そしてジークエル」
その言葉に、ジークエルは耐え切れず立ち上がり、強く私を抱きしめた。胸に伝わる鼓動から、彼の想いがひしひしと伝わってくる。しばらくその腕の中にいたけれど、あまりにも長く、ついにサイモンとルベルに引き剥がされてしまった。結局、ジークは私の隣に座り直し、まだ手を離そうとはしなかった。
イザベルおば様とシーラ、そしてカインとモーリス。信頼できる人達だからこそ、逃げ隠れせずに話すべきだと思った。
「本当は…私時戻りしたようで…元の時間で私は今日の午後、宰相にハーティア王国へ行くよう命じられていました。あちらでは私が“ただ一人の継承権を持つ王女”として扱われています。つまり、もうクレーント王国へは帰れない立場になりました。」
静まり返る甲板に、波音だけが響く。皆の視線を受けながら、私は続けた。
ジークエルが仲間達と共に来てくれたこと。ハーティア王国での出来事。十六歳の誕生日会とお披露目の式典での再会と別れ。お茶会で浴びせられた婦人方の冷たい言葉。
――そして、海の女神に「サイモンのもとに帰りたい」と願ったこと。気づけば目覚めたのは今朝で、すべてが最初からやり直されていたこと。
言葉を一通り吐き出すと、胸が少し軽くなった。けれど、皆の反応が怖くて、俯いたまま顔を上げられなかった。
最初に口を開いたのはイザベルおば様だった。
「……マイラはこれから、どうしたいの?」
「ハーティア王国は、もうあなたを見つけているのよね?」
私は小さく頷いた。
「ええ。でも正直なところ、行きたくありません。大切な人達と引き離され、箱庭のような閉じられた場所に押し込められるなんて……そんなのは、ただの牢獄です」
カインが腕を組んで眉をひそめる。
「とりあえず、クレーントの第二王子が到着してから、ハーティア王国がどう動くか、ってところだな」
「いっそ結婚してしまえばいいんじゃねえか?夫婦を引き離すなんて、さすがに難しいだろ」
「そうだな。ジークエルとは両想いなんだろう?」モーリスも口を挟んでくる。
私は苦笑して首を振った。
「そんなに簡単な話ではないのです。ジークは王を支える“王配”にはなれません。せいぜい、側室か愛妾……。それでは彼を傷つけてしまうわ」
カインが眉をつり上げる。
「なら、いっそクレーントから出なけりゃいい。魔法の無効化されなきゃバレないだろ」
「魔法を無効化する魔道具があるの。もし身につけさせられたら、すぐに正体が露わになるわ」
横で黙っていたシーラが、興味深そうに身を乗り出す。
「ところで、マイラ。あなた、瞳の色を変えているのよね?……本来の姿を、見せてもらえる?」
私は静かに目を閉じ、魔法の力を解いた。ゆっくりと瞼を上げると、紫の瞳が朝の光を受けて煌めいた。
「……本当に紫色なのね」
「綺麗だわ。雰囲気が少し変わるのね」シーラが微笑む。
モーリスが腕を組み、真剣な表情で尋ねた。
「他に魔法でできることは?」
私は指先に意識を集中させ、小さな水の球を生み出した。次の瞬間、それはぱっと赤い炎に変わる。
「……す、すごいな」カインが驚きで顔を引きつらせる。
モーリスも真剣にうなずいた。
「魔法が使えることは十分わかった。俺たちの切り札は、マイラが未来の出来事とハーティア王国の動きを知っていることだ」
イザベルが冷たい笑みを浮かべる。
「立場を理解せず、あなたを蔑ろにしたご婦人方や貴族達。次期女王が不在となった現実を突きつければ、青ざめて慌てふためくでしょうね」
「そうよ」シーラも同意する。「マイラがいない現実を知れば良いのよ。」
そんな話を交わしながら、船はゆっくりとエレンス王国の港へと辿り着いた。
――第二の我が家、マックエル伯爵家。
ここに着いた途端、胸がほっと緩んだ。伯爵家の人々は以前と変わらず温かく迎えてくれ、私は久しぶりに伸び伸びと過ごすことができた。
けれど心の奥には不安が残る。私はレオンとルベル、そしてお父様サイモンに手紙を送った。「理由は言えないけれど、どうしても会いたい」と。そして、ジークエルにも「休みが取れたなら来てほしい」と書き添えた。
それから二週間後。待ち望んだ顔ぶれが揃った。
レオン、ルベル、サイモン、そしてジークエル――彼らはマックエル伯爵家にやってきて、私は全てを話した。
「今はただ、時間を稼いでいるだけ。どう動くのが最善か、それを考えています」
話している最中、ジークエルは泣きそうな顔で私を見つめていた。
「離ればなれなんて……そんなの耐えられない。マイラが他の誰かのものになるなんて……」
重苦しい沈黙を破ったのはレオンだった。
「実はな、マイラ。お前が出立したその日の午後に宰相バークレー=レイモンドが来た。お前に依頼があったらしい。どこへ行ったのか、いつ戻るのか、連絡は取れるのか……細かく聞かれた」
ルベルも続ける。
「俺たちは“長期案件で連絡は取れない、終了時期も未定”と伝えた。次は必ずハーティアからの接触があるだろう。国に戻ったら対策を立てる。アルベルト王子様ご一行はすでに出航したが……お前はしばらく身を隠せ」
「分かったわ。お店と一座のことは、お願いね」
サイモンは深いため息をつき、私を見つめた。
「……まさかマイラがそんな立場になるとは。信じられんが、事実なのだろう。だが……本当の父母と会わなくても、いいのか?」
「母アイリスや父ライデンに会いたい気持ちはあるわ。でも、今の私にとって大切なのは……サイモンお父様や、伯爵家の家族、仲間達、そしてジークエル」
その言葉に、ジークエルは耐え切れず立ち上がり、強く私を抱きしめた。胸に伝わる鼓動から、彼の想いがひしひしと伝わってくる。しばらくその腕の中にいたけれど、あまりにも長く、ついにサイモンとルベルに引き剥がされてしまった。結局、ジークは私の隣に座り直し、まだ手を離そうとはしなかった。
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