枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと

文字の大きさ
36 / 54

第三十五話 嬉し恥ずかし、やらかし過ぎ

しおりを挟む
結婚式の感動がまだ心に余韻として残る翌日、式場の熱気が冷めやらぬまま、今度は披露宴が控えていた。とはいえ、その場所を巡って少々揉めたらしい。イザークとライナルト、それに両親が中心となって協議していたが、当のクラリス本人はというと、その頃ちょうど卒業試験の追い込み真っ最中。寝る間も惜しんで勉強に励んでいたため、揉めた経緯については後から聞かされたという具合だった。

とはいえ、まったく希望を伝えなかったわけではない。ささやかに、自分の大切な友人たちや、お世話になった医療班の方々を招待してほしいこと。そして、どうしても外せない願いとして、ウェディングドレスは純白がいいことと、指輪の交換がしたいことを伝えていた。

その希望を聞いたイザークとライナルトは、一瞬首をかしげた。

「なぜ、白一択なんだ?」

「指輪の交換って……?」

問いに対してクラリスは、少し恥ずかしさを感じながらも答えた。白いドレスは、「あなた色に染まります」という意味があるのだと。そして指輪は、永遠の愛の象徴であり、心臓へ繋がるとされる左手の薬指に贈るものだと。……もっとも、その「左手か右手か」で言い争いになるのが目に見えていたため、どちらの指にするかについてはあえて口にしなかった。

クラリスの言葉を聞いたふたりは一瞬黙り込み、次の瞬間には同時に腕を広げて、彼女を力いっぱい抱きしめた。その意味を理解してくれたのだ。

最終的に披露宴の会場はライナルトの屋敷に決まり、初夜については――まさかの「両方と過ごす」という案で話がまとまってしまった。初日から両側に高スペックな旦那様、いきなりのハードモードに突入することに一抹の不安を覚えつつも、「一人で過ごすのは寂しい」という彼らの譲らぬ言葉に、クラリスは静かに観念したのだった。

披露宴は滞りなく、そして賑やかに進んだ。初めて対面するライナルトの両親との挨拶に少し緊張したが、穏やかで思慮深いふたりの人柄に、すぐに打ち解けることができた。昨日別れを惜しんだばかりの友人たちとも再会し、あらためて祝福の言葉をかけられると、胸が温かくなった。魔法師団の面々も、医療班の皆も揃い、まさにこれまでの歩みが集結したような時間だった。

やがて宴が終わり、控えの部屋に戻ったクラリスは、湯船で一人、現実からほんの少しだけ逃避していた。

「これはもう……皮膚が一枚どころか、二枚くらいは剥けたのでは……もはや別人かもしれない」

そんなことを考えながら、ぼんやりと湯けむりの向こうを見つめていた。そして湯上がり後、用意されたナイトドレスへと袖を通した瞬間、思わず自分のセンスを疑いそうになった。

――エロい。これは……かなりエロい。

試験勉強の合間に気分転換で手掛けたこの一着。実際に着ると、想像以上に際どく、透けるようなレース地に膝上丈。前面のリボンを外せば、そのまま大きく開いてしまうという大胆な仕様。しかも、下着は限界まで布を削ぎ落としたレースの紐。これはもう、逃げ場がない。

「うう……やりすぎたかも。でも……このふたり相手には、多少攻めなくては……!」

自分の若さとプロポーション、そして前世では叶わなかった“女性としての夢”を乗せた一着。きっと、これでダメなら何を着ても勝てない――そう自らに言い聞かせ、心を落ち着かせようとした。

ベッドに座り、背筋を伸ばして姿勢を整える。緊張を紛らわせようと、テーブルに置かれていたドリンクに手を伸ばす。喉が渇いていたせいもあって、一杯、二杯と立て続けに口にしてしまった。思ったよりも飲みやすく、ふわりと身体が温まってくる。

そんなときだった。扉が静かに開く音と共に、イザークとライナルトが姿を現した。二人の目に映ったクラリスの姿に、時が止まったように動きを止め、まるで獣が本能を刺激された瞬間のような目をしたのを、クラリスはうっすらと記憶している。

「イザーク~、ライナルト~」

彼らの名を呼んだ瞬間だった。次の瞬間、クラリスはベッドに押し倒され、嵐のような夜が始まった。

――そして朝。静かな陽光が差し込む室内、ベッドの右には裸のイザーク、左には裸のライナルト、自分はというと……身動きひとつ取れず、身体中に無数の赤い痕跡が散りばめられていた。

「これは……病気では……いや、違う。明らかに、これは……!」

昨夜の途中で、ある程度やらかしてしまったことに気づいたが、もう後戻りはできなかった。気が付けば三人で過ごす新婚生活は、想像以上に“濃密”な幕開けとなっていたのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

処理中です...