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第三十五話 嬉し恥ずかし、やらかし過ぎ
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結婚式の感動がまだ心に余韻として残る翌日、式場の熱気が冷めやらぬまま、今度は披露宴が控えていた。とはいえ、その場所を巡って少々揉めたらしい。イザークとライナルト、それに両親が中心となって協議していたが、当のクラリス本人はというと、その頃ちょうど卒業試験の追い込み真っ最中。寝る間も惜しんで勉強に励んでいたため、揉めた経緯については後から聞かされたという具合だった。
とはいえ、まったく希望を伝えなかったわけではない。ささやかに、自分の大切な友人たちや、お世話になった医療班の方々を招待してほしいこと。そして、どうしても外せない願いとして、ウェディングドレスは純白がいいことと、指輪の交換がしたいことを伝えていた。
その希望を聞いたイザークとライナルトは、一瞬首をかしげた。
「なぜ、白一択なんだ?」
「指輪の交換って……?」
問いに対してクラリスは、少し恥ずかしさを感じながらも答えた。白いドレスは、「あなた色に染まります」という意味があるのだと。そして指輪は、永遠の愛の象徴であり、心臓へ繋がるとされる左手の薬指に贈るものだと。……もっとも、その「左手か右手か」で言い争いになるのが目に見えていたため、どちらの指にするかについてはあえて口にしなかった。
クラリスの言葉を聞いたふたりは一瞬黙り込み、次の瞬間には同時に腕を広げて、彼女を力いっぱい抱きしめた。その意味を理解してくれたのだ。
最終的に披露宴の会場はライナルトの屋敷に決まり、初夜については――まさかの「両方と過ごす」という案で話がまとまってしまった。初日から両側に高スペックな旦那様、いきなりのハードモードに突入することに一抹の不安を覚えつつも、「一人で過ごすのは寂しい」という彼らの譲らぬ言葉に、クラリスは静かに観念したのだった。
披露宴は滞りなく、そして賑やかに進んだ。初めて対面するライナルトの両親との挨拶に少し緊張したが、穏やかで思慮深いふたりの人柄に、すぐに打ち解けることができた。昨日別れを惜しんだばかりの友人たちとも再会し、あらためて祝福の言葉をかけられると、胸が温かくなった。魔法師団の面々も、医療班の皆も揃い、まさにこれまでの歩みが集結したような時間だった。
やがて宴が終わり、控えの部屋に戻ったクラリスは、湯船で一人、現実からほんの少しだけ逃避していた。
「これはもう……皮膚が一枚どころか、二枚くらいは剥けたのでは……もはや別人かもしれない」
そんなことを考えながら、ぼんやりと湯けむりの向こうを見つめていた。そして湯上がり後、用意されたナイトドレスへと袖を通した瞬間、思わず自分のセンスを疑いそうになった。
――エロい。これは……かなりエロい。
試験勉強の合間に気分転換で手掛けたこの一着。実際に着ると、想像以上に際どく、透けるようなレース地に膝上丈。前面のリボンを外せば、そのまま大きく開いてしまうという大胆な仕様。しかも、下着は限界まで布を削ぎ落としたレースの紐。これはもう、逃げ場がない。
「うう……やりすぎたかも。でも……このふたり相手には、多少攻めなくては……!」
自分の若さとプロポーション、そして前世では叶わなかった“女性としての夢”を乗せた一着。きっと、これでダメなら何を着ても勝てない――そう自らに言い聞かせ、心を落ち着かせようとした。
ベッドに座り、背筋を伸ばして姿勢を整える。緊張を紛らわせようと、テーブルに置かれていたドリンクに手を伸ばす。喉が渇いていたせいもあって、一杯、二杯と立て続けに口にしてしまった。思ったよりも飲みやすく、ふわりと身体が温まってくる。
そんなときだった。扉が静かに開く音と共に、イザークとライナルトが姿を現した。二人の目に映ったクラリスの姿に、時が止まったように動きを止め、まるで獣が本能を刺激された瞬間のような目をしたのを、クラリスはうっすらと記憶している。
「イザーク~、ライナルト~」
彼らの名を呼んだ瞬間だった。次の瞬間、クラリスはベッドに押し倒され、嵐のような夜が始まった。
――そして朝。静かな陽光が差し込む室内、ベッドの右には裸のイザーク、左には裸のライナルト、自分はというと……身動きひとつ取れず、身体中に無数の赤い痕跡が散りばめられていた。
「これは……病気では……いや、違う。明らかに、これは……!」
昨夜の途中で、ある程度やらかしてしまったことに気づいたが、もう後戻りはできなかった。気が付けば三人で過ごす新婚生活は、想像以上に“濃密”な幕開けとなっていたのだった。
とはいえ、まったく希望を伝えなかったわけではない。ささやかに、自分の大切な友人たちや、お世話になった医療班の方々を招待してほしいこと。そして、どうしても外せない願いとして、ウェディングドレスは純白がいいことと、指輪の交換がしたいことを伝えていた。
その希望を聞いたイザークとライナルトは、一瞬首をかしげた。
「なぜ、白一択なんだ?」
「指輪の交換って……?」
問いに対してクラリスは、少し恥ずかしさを感じながらも答えた。白いドレスは、「あなた色に染まります」という意味があるのだと。そして指輪は、永遠の愛の象徴であり、心臓へ繋がるとされる左手の薬指に贈るものだと。……もっとも、その「左手か右手か」で言い争いになるのが目に見えていたため、どちらの指にするかについてはあえて口にしなかった。
クラリスの言葉を聞いたふたりは一瞬黙り込み、次の瞬間には同時に腕を広げて、彼女を力いっぱい抱きしめた。その意味を理解してくれたのだ。
最終的に披露宴の会場はライナルトの屋敷に決まり、初夜については――まさかの「両方と過ごす」という案で話がまとまってしまった。初日から両側に高スペックな旦那様、いきなりのハードモードに突入することに一抹の不安を覚えつつも、「一人で過ごすのは寂しい」という彼らの譲らぬ言葉に、クラリスは静かに観念したのだった。
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やがて宴が終わり、控えの部屋に戻ったクラリスは、湯船で一人、現実からほんの少しだけ逃避していた。
「これはもう……皮膚が一枚どころか、二枚くらいは剥けたのでは……もはや別人かもしれない」
そんなことを考えながら、ぼんやりと湯けむりの向こうを見つめていた。そして湯上がり後、用意されたナイトドレスへと袖を通した瞬間、思わず自分のセンスを疑いそうになった。
――エロい。これは……かなりエロい。
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「うう……やりすぎたかも。でも……このふたり相手には、多少攻めなくては……!」
自分の若さとプロポーション、そして前世では叶わなかった“女性としての夢”を乗せた一着。きっと、これでダメなら何を着ても勝てない――そう自らに言い聞かせ、心を落ち着かせようとした。
ベッドに座り、背筋を伸ばして姿勢を整える。緊張を紛らわせようと、テーブルに置かれていたドリンクに手を伸ばす。喉が渇いていたせいもあって、一杯、二杯と立て続けに口にしてしまった。思ったよりも飲みやすく、ふわりと身体が温まってくる。
そんなときだった。扉が静かに開く音と共に、イザークとライナルトが姿を現した。二人の目に映ったクラリスの姿に、時が止まったように動きを止め、まるで獣が本能を刺激された瞬間のような目をしたのを、クラリスはうっすらと記憶している。
「イザーク~、ライナルト~」
彼らの名を呼んだ瞬間だった。次の瞬間、クラリスはベッドに押し倒され、嵐のような夜が始まった。
――そして朝。静かな陽光が差し込む室内、ベッドの右には裸のイザーク、左には裸のライナルト、自分はというと……身動きひとつ取れず、身体中に無数の赤い痕跡が散りばめられていた。
「これは……病気では……いや、違う。明らかに、これは……!」
昨夜の途中で、ある程度やらかしてしまったことに気づいたが、もう後戻りはできなかった。気が付けば三人で過ごす新婚生活は、想像以上に“濃密”な幕開けとなっていたのだった。
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