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第27話『下半身破砕』

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 奴隷商人たちが、まるであざけるように笑っていた。
 エリィの父が怒声を発する。

「なにが、おかしいッ!?」

 しかし、奴隷商人たちはニヤニヤとした表情を崩さない。
 この状況を楽しんでいる様子だった。

「早く、エレナを解放しろ! さもなければ……」

「くははッ! なんで解放する必要がある? コレ・・はもうオレたちの所有物なのによォ?」

 言いながら男はおもむろに片足を上げた。
 その真下には、意識を失ったエレナが転がっている。

「まさか、やめろォオオオッ!?」

「イ・ヤ・だァ♡」

 次の瞬間、振り下ろされた男の土足が……。


 ――エレナの下腹部を踏み砕いた。


 血肉が飛び散り、白い骨が見えた。
 彼女の恥骨はぐしゃぐしゃになっていた。

「くははははははッ!」

「ギ、がぁがあぁああああああッ!?」

 エレナが激痛に目を開いて跳ね起きた。
 いや、というよりはもはや、身体が反応しているだけだろう。

 彼女の精神はとっくに崩壊してしまっているから。
 これはただの反射。

「き、キサマァアアアアアアッ!」

 エリィの父が叫ぶ。
 周囲でそれを観戦していた奴隷商人たちが歓声を飛ばした。

「ちょ、”リョウ”さん酷ぇえええ!?」

「さっすが~! 自分も精進するッス!」

「ちょ、そこまでやっちゃうの!? やっぱリョウさんはえげつねェ!」

「そこがカッケーわ!」

 ヒューヒュー! と奴隷商たちは盛り上がっている。
 と、そんな歓声の中にひとつ、疑問の声が混ざった。

「あれ? あのエレナって奴隷、まだ刻まれて・・・・なくないッスか? 『所有物』って言ってましたけど、今はまだべつにだれのものでもないんじゃ?」

 その発言に、ボクは首を傾げてエルフたちを観察した。
 彼ら、彼女らはみんな身体のどこかに刺青のようなものが刻まれていた。

 陵辱を目に焼きつけるので精一杯で気づかなかった。
 しかし、あの紋様どこか見覚えがあるような?

(……いや。まさか、な)

 エルフたちの中でエレナだけがまだ、刺青を刻まれていない。

 それとボクはこの空気を読まない発言の、声と話しかたに聞き覚えがあった。
 たしか、エリィの父を逃して『監視を怠った』と怒鳴られていた、新人だ。

 それに対して、あのとき怒鳴っていた側の声が言葉を返していた。
 かなり毛深い男だった。

 髭と髪が繋がるほどにもじゃもじゃで、毛が縮れている。
 どことなく陰毛っぽい髪質。

「んだ新人、気づいてなかったのか? リョウさんは前の仕入れのときも奴隷に落とす前に・・犯してたぞ」

「えっ、そうなんッスか!? いやでも自分『犯すなら必ず、”奴隷化”してからにしろ』って教えられたんッスけど?」

「そりゃおめぇ、実績の差だろうが。考えてもみろ、それをやってうっかりエモノを取り逃がしちまったり、攻撃されて死んじまったりなんかしてみろ。責任取れるのか?」

「……うへぇ。想像しただけで面倒ッス」

「ただでさえ、お前は今日も包囲網に穴を開けてたしよ」

「うっ。そうッスね。奴隷化してからなら命令に逆らえないし、逃げられない。圧倒的にそっちのが安全ッスね。だったら余計に、リョウさんみたいなベテランが、そんなやりかたしてるんッスか?」

「まぁ、リョウさんはこれまで実績があるからな。実力があって仕事をこなしてるなら、あとは横暴だって許されるさ。それが奴隷商人よ。……まぁでも、リョウさんの場合はどっちかっつーと、単なる性癖の問題だろうけどな」

 新人と陰毛髪のそんな雑談。
 それは、本人であるリョウの耳にも届いていたらしい。

「うっさいぞ、そこォ! 大体よォ、しゃァねェだろォが。奴隷じゃ興奮しねェんだから。抵抗されねェとついつい、ただの商品として見ちまう。オレァは根っからの商売人なもんでなァ……くははっ!」

「え、エゲつない性癖ッスね。なんつーか、希望を与えることでより深い絶望を与えるっていうか」

 そう新人は慄いていた。
 リョウはニヤニヤと笑って言う。

「お前らだって、この仕事を続けてりゃァ、多かれ少なかれかかる病だぜ? まァ、どういう方向にブッ飛ぶかは人によってずいぶんとちげェけどな」

「はぇ~、そういうもんなんッスね~」

「おいおい、リョウさんの言うこと鵜呑みにすんじゃねーぞ」

 素直に感心する新人に、陰毛髪が苦言を呈す。

「新人、お前がリョウさんのマネなんかしたら、反撃にあってあっという間にお陀仏だからな? いまだに生き残り続けてるのがおかしいんだよ、あの人は」

「うっ。そういわれると、自分はその状況じゃ勃起できそうにないッスし」

「お前は普通に奴隷で興奮できるんだから、それで満足しとけ」

「言っとくが、オレも奴隷をヤれねェわけじゃねェぞ? ただ、ヤらねェだけで」

 そんな風に雑談が続く。
 目の前で放置されていたエリィの父。彼の怒りはもう限界だった。

「いつまで僕をムシしているつもりだ!」

 それを聞いて、また奴隷商人たちが笑った。
 そしてエリィの父を煽る煽る。

「エルフがお怒りだぞぉ~!」

「いつまでもくっちゃべってんじゃねーぞ!」

「早くショーの続きを見せてくれーっ!」

「エルフももーっちっと頑張れってえ!」

「そうだそうだー! 今ならまだ、奴隷に落ちる前だから、助けられるかもしんねーぞー!」

 ボクとしてもはやく状況が動いて欲しいところ。
 逃げ出すにしても、注目されている場所にちょっと距離が近い。

 しかも、先ほどからエリィがテオの拘束から逃れようと、一層激しく暴れている。
 もしかして、父をバカにされて怒っているのだろうか?

(あーもう! 戦うなら早く戦ってくれ!)

 そんな願いは通じたらしい。
 いや、とっくに戦いははじまっていたらしい。

 小さな声で、なにかが唱えられている。
 最初に気づいたのがボクだったのは、単純に距離が近かったからだろう。

「……より来たりて……その力を借り……」

「んあァ? オメェ?」

 すぐにリョウも気づいた。
 エリィの父はただ会話を聞いていたわけではなかったのだ。
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