【R-18▶︎BL】運命を捻じ曲げるほどの【本編完結】

きやま

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本編

6※

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 その日の夜。大学近くに借りている小さな1Kのアパートで。

「ん……、ふっ」

 俺はこんなことしてはいけないとわかっていながらも、篠宮に触れられた熱を思い出しながら1人ベッドに寝転がり、自慰をしていた。
 ジーンズと下着を膝まで雑に下ろして露出させた自分のものを右手で扱きながら、左手はシャツの中に突っ込んで乳首をカリ……と控えめに爪で引っ掻く。

「あ♡ん……んぅ」

 だらだらとだらしなく垂れてくる汁を指で救いながら、その汁を亀頭に絡めて親指でグリグリとすると頭が真っ白になる程気持ちがいい。

「あっ、あ~っ♡ん、ぅ」

 壁の薄いアパートだから、なるべく声が出ないように必死に押し殺しながらも、堪えられない喘ぎ声が口から漏れてしまう。
 篠宮の細く長い指に触れられる妄想をしながら、こうして自慰をするのはこれが初めてのことではなかった。

「ん、は……っ♡」

 ペニスを優しく包むように持って、緩やかに上下に扱く。篠宮だったらきっと、焦らすようにゆっくりゆっくり手を動かすだろうか。乳首をあの綺麗な口に含んで転がされたり――。

「あっ♡っひぅ……♡」

 篠宮に舌で舐められる妄想をしながら、乳首をぎゅっとつまんだり指の腹で押しつぶすようにグリグリとこねると、腰が跳ねるほど気持ちが良かった。

「あ、あ~~っ♡……い、く……ぅ♡ ぅ♡あぁっ♡」

 ティッシュを取りに行く余裕もないまま、俺は背中を丸めた格好でブルブルと体を震わせて達してしまった。右手にかかる自分の精液の温度にまた篠宮を思い出してしまいながら、俺は浅い呼吸を繰り返す。
 綺麗な友人を自慰の妄想で消費することに、こうして精液を出した後は酷く罪悪感を感じる。賢者タイムとでもいうのだろうか、篠宮のことを考えてしてしまった自慰の後は、決まっていつも自分の醜さに苦しくなった。


「……っは、あ。片付けないと……」

 精液を出した後の重い身体を無理矢理うごかして、精液をティッシュで拭き取る。乱れたシーツを直さなくてはいけないし、カウパーで濡れた下着も洗濯しなくてはいけない。明日の講義も午後からなため、急ぐ必要がないことは幸いだった。

 いつからだったか。自慰をするたびに篠宮のことが頭に浮かんでしまうようになったのは。それがいつしか篠宮に触れられる妄想で自慰をすることに発展したのは。高校の頃は全くそんなつもりはなかったのに、こうして今、篠宮に想いを寄せて妄想の中で欲望を満たす自分の卑怯さがたまらなく汚い。

「……今週末、か」

 明日は金曜日。明日が終われば週末だ。

 俺は篠宮にしっかり伝えなくてはいけない。俺の胸に渦巻くこの熱の理由を、ちゃんと。……そうすれば、この死にたくなるような罪悪感もなくなるのだろうか。



 『吾妻、駅ついた?』

 ピコンと音を立てた携帯を確認すれば、篠宮から新着メッセージと心配したウサギのような絵のスタンプが送られてきていた。何度も来ている駅だというのに、大学3年になってもこうして心配してくる篠宮に俺は小さく笑みを浮かべて『あと数分で着く』と返信した。土曜の昼間の電車内は平日よりも空いていて、電車の緩やかな揺れでつい眠ってしまいそうになる。駅に到着するというアナウンスを受けて、俺は眠気を振り払いながら席から立った。

 生温い熱気を纏った人混みに紛れながらホームを進んでいく。大学へ進学すると同時に、大学近くの高層マンションで篠宮は一人暮らしを始めた。通学時間を節約して仕事へ時間を回しているらしいが……そもそも俺の大学まで来て俺にちょっかいをかけなければ、篠宮はもっと余裕のある暮らしができるのにと以前の俺は思っていた。

 今は……篠宮に手間を取らせている後ろめたさを感じながらも、大事に思ってもらえているようで嬉しい自分が確かにいる。高校の時以来、篠宮に告白されたことはない。それとなく「吾妻、好きだよ」とか「僕のお嫁さんになる?」とかは冗談のような軽い口調で言われたことがあるが、その言葉のどれもが俺の返事を必要としない、篠宮の独り言のようなものだった。

 どうやら篠宮は、高校の時に告白を拒んだ俺のことをずっと気遣っているらしかった。俺が気後れしないようにと、篠宮がわざと明るく振る舞ったり冗談めかして本心を口にするのを、俺はわかっていて何年もそれに触れることができなかった。


「……暖かいな」

 改札を抜けると同時にもわっとした空気が流れ、たくさんの酸素と春の匂いが肺に入ってくる。雪は解けて春になった。数日前まで冷たかった風は、今はもう咲き始めた花の匂いを纏った暖かな風へと変わっている。あっという間に変わっていってしまう季節は、篠宮に似ていると思った。

「……吾妻ー!」

 ふと顔を上げれば、東口に続く通路で篠宮が笑顔で手を振っているのが見えた。俺からの距離は何メートルも開いているのに、恥ずかしげもなく大きく頭上で手を振って声を張っている篠宮に、思わず笑いが溢れてしまう。この駅に訪れる度に大袈裟に迎えられるため、「そんなことしなくても篠宮は目立つからわかるよ」と伝えたこともあるが、篠宮は「僕が吾妻を一番最初に見つけたいから」と言って譲らなかった。

 手を振り返せば、高校の頃から篠宮と交換するように身につけているチョーカーの鍵が服に隠れて胸の前で揺れる。この鍵がないと篠宮は誰とも番になれないという事実が、負担ではなく仄暗い安堵感に変わったのはいつからだっただろうか。


「篠宮、そんなに叫ばなくても聞こえてる」
「いや~?吾妻は意外と抜けてるところあるからなあ」

 駆け寄ってきた篠宮が俺の隣に並び、俺たちは篠宮のアパートへと向かって歩を進めた。
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