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最終章 旅立ち
1 それぞれの思い
しおりを挟むカルディニア王国では、長い年月を経てようやく平穏な日々を取り戻した。
王宮では、王家主催のパーティーが開かれ、陛下から全貴族への謝罪と周知が行われた。50年前の問題説明から解決まで、詳細が伝えられたようだ。
第三王女に関しては、幽閉中に赤子を出産し、その後、帰らぬ人となった。そのとき生まれた赤子は、当時の王妃が秘密裏にこの国の伯爵家に託した、という内容までもが語られた。
当の伯爵家はというと、既に取り潰され、その際に第三王女の娘と孫娘の存在が明らかになった。娘は、この世の人ではなかったが、孫娘はこの一年で王立学園の風紀を乱したことが問題となり、皮肉にも祖母と同じ扱いを受けることとなった。
その際に取り上げた宝石は二つ。どちらも黒ずんだ赤い色をしていたそうだ。
時を同じく、隣国のロードリアス王国では、第一王子が病に倒れ、第二王子が王太子位を継承した。
これらは、カルディニア王国との連携を図った第二王子の勝利と言えるだろう。しかし、カルディニア王国の伯爵家と結託して、国の乗っ取りを企てていた第一王子と侯爵家の後処理で、しばらくは忙しい日々を過ごすことになるだろう。
♢
パーティーの翌日
ブラン家では当主の顔をしたルーベルトが、家族と前子爵の時から仕えている使用人を集めて、陛下が語った内容を聞かせていた。
「最後に、これは陛下から個別に聞いた話だが、第三王女の日記を前王妃の関係者が持っていたそうだ。そこには、父上の名前もあったことから私に話があった。
第三王女は、男系継承のこの国の制度を変えることができれば、自分が父親の跡を継げると思っていたそうだ。
第一、第二王女が嫁いでこの国にいないのなら、自分がと思ってしまったのだろう。
そう思うようになった原因は、伯爵家なんだが。そんなことを考えていた時に、前王妃様がご懐妊され、陛下が誕生した。
傷ついていた彼女は、そんな時に父上の存在を知り、実らぬ恋をして失恋したそうだ。まあ、そんな話を聞いても許せることではないが。
皆には、第三王女がそんな思いを抱えていた、という事だけは知っておいてほしい」
誰も口を開かず、頷いた。
沈黙が続く中、ドアをノックする音に気づいたトーマスが、ドアを開けると使用人が立っていた。その者がトーマスに何かを耳打ちすると、トーマスもまた、同じようにルーベルトに耳打ちをした。
ルーベルトから指示を受けたトーマスが部屋から出ていくと、ルーベルトは皆を部屋から退出させた。
「皆、話は以上だ。休みの日に悪かったな」
「あなた、何かあったのですか?」
心配そうに尋ねるエイミーに、「彼がきた。エイミーも来るか」と告げるとエイミーは頷き、二人は急いで応接室に向かった。
ルイーズは、部屋へ戻る途中で、見覚えのある馬を引き連れたモーリスを見かけた。驚きながらも、もしかして、と期待するルイーズは急いで応接室に向かった。
応接室の前に着くと、身なりを整えドアをノックしようとしたが、中から聞こえてくる会話に手を出すのを躊躇った。
「どうしても、会わせてはもらえませんか? 少しだけで良いんです。お願いします」
「今はだめだ。君の御父上からも手紙が届いた。あんなことくらいって思っているかもしれないが、彼奴が……すまない、君の御父上が怒っているのは内容じゃない。それは分かるか?」
「はい」
「それに、今ルイーズは侍女になるために必死に頑張っている。気持ちを乱さないでやってほしいんだ」
「…………」
「今、君は次期当主として、御父上に認めてもらえるように精進しないとな」
「……分かりました。認めてもらえるまでは会いません。しかし、お二人に認めてもらえたら、そのときは求婚することを認めてください」
「——認め……たらな」
渋々だが、ルーベルトは口元を引きつらせながら返事をした。それに反して、リオンはどうにか言質を取ることができてほっとした様子だ。
そんな二人のやり取りを聞いていたルイーズは、踵を返し自身の部屋に戻っていった。
「お嬢様……」
ローラは、急いで応接室に向かうルイーズを気にかけて後を追ってきた。しかし、部屋に入ることを躊躇って戻っていくルイーズの姿を見て、ローラも辛そうな表情を浮かべながら足早に歩き去った。
リオンが応接室を退出した後
「会わせてあげても良かったんじゃないかしら」
「中途半端な態度を取っているようじゃ駄目だ。そういうところは、彼奴を見習ってほしい。しかも、少し会えないぐらいで駄目になるなら、他の相手でも良いんじゃないか?
それに、辺境に行ったら中々会えないじゃないか……」
「あなた……、本音はそれよね」
「これくらいのこと良いじゃないか。ルイーズと一緒にいられる時間は、あと少しかもしれないんだぞ」
「そうね」
愛娘の話をする二人の間には、しんみりとした空気が流れていた。
♢
ローラは、モーリスから馬の手綱を渡されたリオンに声を掛けた。
「ルイーズお嬢様は、明後日の午後、修道院を訪問いたします。お話をされることは叶わないかもしれませんが、お姿を拝見することができるかと存じます。
突然のお声がけ、大変失礼いたしました」
お辞儀をして急いで去っていくローラに、リオンはありがとうと呟きながらブラン家を後にした。
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