79 / 84
最終章 旅立ち
2 道筋
しおりを挟む今日は、侍女科の試験最終日ということもあり、帰宅時間が早いようだ。ルイーズとエリー、そしてクレアとミアの四人は、昼過ぎには女学院を出て修道院へと向かった。
修道院に向かう間、ルイーズが三人にリアムのことを打ち明けた。父親と彼の会話を聞いたこと、今度彼に会うときは、成長した自分でいたいことなど。珍しく赤裸々に語るルイーズが、最後は大切な人だと告げると、何故か三人は喜んだ。
「ルイーズ、応援するわ」
「会えないのは辛いけど、今は頑張り時ね」
クレアとミアの言葉を聞きながら、何度も頷くエリー。
「話を聞いてくれてありがとう。何だか落ち着かなくて」
その後も四人は、花畑を見ながら会話をして、修道院までの道を楽しんだ。
ルイーズとエリーが初めて修道院を訪れた日。二人は、医務室の周りに日常生活で役立つ薬草を植えたいと思ったようだ。後日、修道院長と女学院長の二人に話を通した二人は、月に1・2回こうして修道院を訪れている。いつの頃からか、そこへミアとクレアも加わった。今日は、医務室前に植えたローズマリーとラベンダーを収穫するようだ。四人は、医務室前に着くとエプロンをして、作業に取り掛かった。
「ローズマリーすごいことになっているわね」
「そうね。今日は、多めに切り取っても大丈夫ね」
「籠、足りないかな~、私、調理場に行ってくる!」
籠を取りに行ったはずのミアが、すぐさま戻ってくるなり、エリーに何かを聞いているようだ。
「ねえ、あそこにいる男性って、もしかしてルイーズの……?」
ミアの問いに驚きながらも、男性を見ると頷くエリー。三人は、ルイーズに声を掛けようとしたが、ルイーズは地面を見たまま作業を続けている。
「えっ、見るのもだめなの?」
「見たら、近づきたくなるでしょう?」
「そっか……」
「でも、彼…少し近づきすぎよね。会わないって、誓ったのよね」
「気持ちが溢れすぎて、足が前に進んじゃうのよ。彼、そんな顔してるじゃない。切ないわ~」
ミアとクレアの話を聞かなくても、ルイーズは気づいているのだろう。ルイーズ自身、応接室での会話を聞かなかったら、駆け寄っていたかもしれない。しかし、彼の姿が視界に入れば、気持ちが揺らぐ。
「クレア、ミア作業を続けましょう」
エリーの呼びかけに、二人は持ち場に戻ったようだ。
四人は、作業が終わるまで夢中で手を動かした。途中、空気の変化を感じたルイーズは、顔を上げて周りを見渡すも、リオンの姿は見当たらなかった。
ルイーズは、帰り際に修道院長から呼び止められ、植木鉢を渡された。
「今日、訪問された方からルイーズちゃんに。初めて見るけど、綺麗なお花ね」
「……ありがとうございます」
ルイーズは、植木鉢を受け取りながら、辺境の花畑を思い出しているようだ。屋敷に戻ると、部屋の窓台に置いた薄紅色のその花を、しばらく眺めていた。
♦
長期休暇も返上で過ごした最終学年。気がつけば、卒業を目前に控えていたある日。ルイーズとクレアは、教員のマノン先生から事務室に来るようにと声を掛けられた。二人は、急いで事務室へと向かった
「遅くなりました」
「大丈夫ですよ。二人ともこちらに来てください」
「はい」
マノン先生は、二人が目の前に来ると、押さえていた感情を露わにするかのように、笑顔になった。
「二人とも、おめでとうございます。ルイーズさん、クレアさん、本当に頑張りましたね。あなたたちの…努力が実を結び……」
マノン先生は涙を流し、言葉に詰まっているようだ。クレアに背中を擦られ、落ち着いた先生から告げられらた言葉は、ルイーズとクレアの首席・次席での卒業が確定したというものだった。
「上位の成績を修めた卒業生には、王宮への推薦状が渡されるの。二人とも、良く考えた上で、後日お返事をください」
「「はい」」
二人は、事務室を退出した後も思いつめたような顔で廊下を歩いていた。
「ねえ、ルイーズ。私、前に王宮で働きたいと言ったことがあったでしょう?」
「ええ、クレアはだいぶ前から、王宮で働くことを目指していたわよね」
「うん。姉に憧れて侍女科に進んで、目指すなら最高の場所で仕事をしてみたいと思っていたの」
「うん」
「でも、王宮と聞いても……今はしっくりこないというか、私の目標はやっぱり姉なのよね」
「クレア、マノン先生に今の気持ちを伝えたほうが良いわ。先生なら、クレアと一緒に最良の答えを見つけてくれると思うの」
「そうよね。姉に相談してみるわ」
クレアは、顔つきが和らいだようだ。
「ルイーズは、王宮で働く?」
「王宮で働けたら、侍女としては成長できるのかもしれないけど……私は、お仕えしたいと思う方の下で働きたい。それは……、王宮では…ないわ」
「ルイーズは、もう答えが見つかっているみたいね」
「……そうね。両親を説得しないと」
先ほどとは打って変わって、二人の顔には笑みが浮かんでいた。
23
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
私を愛してくれない婚約者の日記を読んでしまいました〜実は溺愛されていたようです〜
侑子
恋愛
成人間近の伯爵令嬢、セレナには悩みがあった。
デビュタントの日に一目惚れした公爵令息のカインと、家同士の取り決めですぐに婚約でき、喜んでいたのもつかの間。
「こんなふうに婚約することになり残念に思っている」と、婚約初日に言われてしまい、それから三年経った今も全く彼と上手くいっていないのだ。
色々と努力を重ねてみるも、会話は事務的なことばかりで、会うのは決まって月に一度だけ。
目も合わせてくれないし、誘いはことごとく断られてしまう。
有能な騎士であるたくましい彼には、十歳も年下で体も小さめな自分は恋愛対象にならないのかもしれないと落ち込む日々だが、ある日当主に招待された彼の公爵邸で、不思議な本を発見して……?
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
銀鷲と銀の腕章
河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。
仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。
意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。
全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる