3 / 77
3.けむけむサーファと銃の工場
色々問い詰めてやろうと、待ちに待った食事の時間のサーファは、にょろにょろと逃げるウナギのようだった。
サーファは、母のことを懐かしそうに話し、一緒に事業をするはずだった矢先に死んでしまった、と嘆いていろいろと聞きたがった。
毎年自分へのご褒美旅行だといって、出かけていた行き先は、どうやら、ここだったらしい。
あの母親が、大急ぎで子供を二人も生んで、年に一度訪ねてきていたとしたら、それはやはり愛があると思った方がよかろう。
「君たちのお母さん、優はね、ここをとても大切にしていたんだよ。それから僕のこともとても大切にしてくれた。君らとは一緒に暮らしたわけではないから、父親とは思いにくいだろうが、これから仲良くやっていければと祈ってるんだ。」
広いテーブル。
メイとサシャが給仕するが、メイの怪我を知っているさとるは、気が気ではない。
メイから盆を取ろうとする。
「やることあれば俺がやるから、すわってろ。」
「いえ。大丈夫です。」
メイが顔を伏せる。
「こらこら、さとる。郷に入っては郷に従え、だよ。妻の仕事をとってはいかんな。」
さとるは胡散臭げにサーファをみた。
ますみもさとるの目つきに全面賛成という顔をする。
悪いが、父親って感じが全くしない。
優の目の前で、怪我した年下の女の子に給仕してもらったりしたら、ぶん殴られること間違いなしだ。優と親しかったことすら疑わしい。
おまけに、サシャとメイは給仕を終えると下がってしまった。
普通一緒に食べるんじゃないのか?
本当なら、問いただすべきだったが、今日は別だ。
何で一ヶ月しか滞在しない自分たちに「妻」なるものがついているのか、こっちを先に問いたださなければならない。
で、さっきの反応からすると、彼女らに聞かれない方が好都合だろうと思えたからだ。
食事は洋風で美味しかった。
だが、話の食い違いは著しかった。
「一ヶ月旅行にきただけで、なんで妻なんて話が出るんだ」
とさとるが噛み付くと、サーファは、
「気に入らないなら、追い出せばいい」
という。
「ここはね、土地柄からして、女性の地位が低いんだ。優さんは結構気にして、何人も助けてやっていたよ。道楽が嵩じて塾まで作ってね。彼女らもそこの生徒だ。だから君たちも一人ずつぐらいは幸せにしてやる気があると思ったんだが、まぁ、嫌なら無理強いはしないよ。」
「日本に連れてけって?」
「ん?君たちも若いし、自分の国でも女性がいるだろうから、たまに手紙を書いたり、何か送ってやったりでもすればいいんじゃないかな」
はっきり言って、自分の国に女性はいないが、そういう問題ではない。
「そういうのはペンパル!妻とは言わねーの!相手にも都合があるだろうが!」
さとるのいい分に、ますみもひたすら頷いて同意する。
「何の都合もないよ。彼女らは、捨てられるのを恐れているだけさ。出戻りには過酷な環境だからね。だから、当然、君たちがどうふるまおうが文句を言うこともない。安心したかい?」
冗談じゃない。
文句言われるかどうかで、測れる問題とは到底おもえない。
でも、ここまで食い違うとどこから突っ込んでいいのかすらわからない。
「・・・あんた、本当に俺らと血、繋がってる?」
かなり直球でさとるは聞いたが、サーファは笑って動じない。
「さぁ?優さんはそう言っていたけどね。ほら、君らの国の女性は自由だろう?だから、本当かどうかはわからないよ。僕は信じているけどね。」
「あんた、何で俺らをこの国に呼んだ?」
「子供と、最愛の奥さんの想い出を語りたがっちゃ変かい?子供達がきたら見ていいって言われた手紙も楽しみだしね。」
「こんだけ食い違ってる場合には変だろ」
「やれやれ、断絶は深いなぁ。ま、いいよ。ゆっくり語り合おう。食事が終わったら、屋敷を案内するよ。あ、優さんの金庫は別邸だから、今日は無理だけどね」
おそろしく親近感がない。
けむにまかれている気がすごくする。
そりゃもう、料理が全部燻製になったかとおもうほど、けむけむ。
そんな感じで、食事は終わった。
屋敷を案内されてみると、あまりの広さと、まともな設備に驚く。
心配していた、ネット環境はぱっと見問題なさそうだった。無線もバンバン飛んでいる。ただ、そんな場所は、この近辺ではここだけだという。ここは、海外物資の買い付けや、材料の仕入れの関係で色々な人間がやってくるので、たくさん回線が引いてあるのだそうだ。
案内されているうちに、この敷地が、完全武装だということがわかる。
山一つ囲むように何台もの監視カメラ、自家発電機、それに武器類の装備。
ハイテクな作りの管制ルームがあって、敷地内から送られてくるカメラの映像が解析できる。よく見ると、衛星からじゃないのかと思えるような映像もある。
・・・どう考えても民家じゃない。
「絶対おかしいよな。」
「同感。」
さらわれてしまった、というやつだろうか。
だが、こういってはなんだか、メリットが全く思い浮かばない。
当面の生活費や学費に困窮してはいないが、自家用ジェットをガンガン飛ばし、こんな屋敷を構えている奴を満足させられるほどの身代金は出せない。
クローゼットを空けると、衣替えでしまったと思っていた自分の服がいくつか出てくる。
思い出してみると枕は低めでベッドは固め。
部屋は、優がさとる用に準備したのだろうと思われた。
やれやれ、余計に分からない。他人の匂い、優の匂い、敵の匂い、味方の匂い。
さとるとますみは、案内が終わるやいなや待ち合わせて、二人で探索に出かけた。
サーファがさりげなく避けたところを集中的に回る。
地下に続く階段のドアがあった。
外とは違った湿った空気。
「降りるぞ。」
「うん。」
くり抜かれたようなトンネル。
小さなライトで足元を照らすと、かなり長く下っている。
そろそろと歩いたせいもあるが、5分ぐらいかかって、次のドアにでる。
陰気な岩の壁に、不似合いとしか言い様のない電子ロックのドア。
「・・・ここ、優の家だったんだよな」
「じゃぁYUU920?」
「やってみる」
さとるがキーを押すと、簡単にドアは開いた。
まあるくくり抜かれた巨大な空洞。
かび臭いというか誇り臭いというか、長いあいだ動いていない空気の匂い。
さとるとますみは、口をあんぐりと開けたまま、ゆっくりと螺旋階段をおりて床に降り立つ。
なにこれ、なにこれ!
ずらりと並ぶ細かい部品。
銀色に光りコイルになった筒。
中身は分からないが、完成品の形は見たことがある。何種類もの銃器類。
って、銃の生産工場?!
パチ
急に眩しい光があふれた。
手で目を庇いながら振り返ると入口にサーファが立っていた。
さとるが、無意識にますみの前に立つ。
緊張が伝わってくるさとるに対して、サーファはニッコリと微笑んだ。
「何で、電気つけないんですか?」
さとるが聞いた。
「・・・なんだ、これは」
「普通の銃の生産工場です。あー、言っておきますが、この国では、銃の携帯も、製造も禁止されていません」
だからなんだ。
さとるの心の声が聞こえたようにサーファは言葉をつなぐ。
「だから、初めに案内しなかったのは、単に日本的な教育的配慮というやつで、あなたがたに不審がられるようなことではありませんよ。どうせ、近日中に再稼働させるつもりでした。人の動きが大きくなればバレることですしね」
「銃作ってるような親戚もった覚えはない」
かなり低い声で悟が応じると、サーファはやれやれという顔をする。
「ここに女の子が働けるような工場を作りたがったのは、優さんの希望ですよ。自分の塾の生徒が稼げる場をとね」
女の子が働けるような工場というのは、普通、地下にくり抜かれた銃器類製造所ではあるまい。
「動機がどうだろうが、結果がこうなることを優がやったとは信じられないな」
「子供に見せてない一面もあるでしょう。優さんは特に引き出しが多いタイプでしたからね」
「あんたがそんなに優のこと知ってるとは、俺にはどうしても思えないんだけど?」
「少なくとも、初夜に相手ほっぽり出して無駄な探検ごっこするような人ではありませんでしたよ」
初夜って、初夜って、やっぱりそう言う意味か?
どうなってるんだ、この国というか、この土地は。
「俺らは、優の足跡たどりに来ただけだ。妻も銃もあんたも想定外だ。優が俺らに残した『なぞなぞ』とやらを聞いたらさっさと帰る。あんたとはものすごく関わりを持ちたくなくなった」
「それでも、ゆっくり考えてもらいます。優さんがここをどうしたがっていたのか、かなえるのが残された僕の義務ですから」
友好的な目つきをかなぐり捨てて、サーファは抑圧的に言った。
サーファの変化に対抗心を煽られ、さとるの目つきが尖る。
「そういうのは、生きてるうちにやっとくべきだっただろ。今更ジタバタなんて、あんた、優とうまくいってなかったんじゃないの?」
「生意気な口を聞く」
「昔からだよ。反抗期の子供のうちに免疫つけとくべきだったな」
ますみが大きく息を吐き、さとるの袖をギュッとにぎる。
戦闘モードなさとるの気勢を削ぐのに十分なほどに。
「一度戻ろう、さとる。」
ますみの目はサーファを見ていなかった。
壁面には塗料のようなものが吹きつけられていて、パッと見にはわからない。だが、その数カ所を軽くこするようにすると、すぐに土が顔を出す。ますみの頭の中で絵が出来上がっていく。分かる。壁面いっぱいに白っぽい地層がうねっている。
ホゴラシュ、ますみはその単語をどこで聞いたか思い出した。
子供の頃、ますみの将来の夢はメテオハンターだった。隕石を探して世界中を飛び回る。学校では仮面ライダーの仲間か?ぐらいにしか思われなかったが、母親は応援してくれて、メテオハンターだという人にあわせてくれた。その人は隕鉄のキーホルダーをくれた。小学生で英語などとても喋れなかったが、憧れて憧れて、通訳の人ではなくその人の唇を必死で見ていた。その時にホゴラシュという言葉が、母とその人のあいだで出たのだ。
さとるはサーファを睨みつけたが、ますみのただならない様子の方が気になり従った。
部屋に戻ると、不愉快な気分をますみにぶつけないように気を遣いながらさとるが口を開く。
「で、なんだよ。」
「サーファ、あの部屋知ってたような素振りだけど多分嘘。僕たちのあとについて入っただけだよ。」
「なんでそうおもう?」
「鍵が締まらないように、小さな金具つけてた。自由に開けられるなら必要ないよね。」
「それからあんなコイル、普通の銃では使わないし、分解されてた部品はよく見ると少しずつ違うし。少品種少量生産なんて、内戦国の銃のつくり方じゃないよね。工場じゃなくて実験室だと思う」
ますみは、ポケットからスマホを出して説明した。ビデオだ。
今とったばかりの映像は、確かに、形が違う部品を何種類も捉えていた。
「ますみ、お前冷静っつーか、すごいな」
「んー、さとるが思いっきりサーファにかみついて気引いてくれたから」
「役に立ってなによりだ。こっちはなんだ、失敗写真か?」
ただの壁の接写を指差してさとるが聞いた。
「やっぱ映んないか。土の色が変だったからとったんだけど全然わからないね」
「あ?」
「地下の壁さ、何か吹き付けて地層がわかんないように隠してあるけど、巨大隕石の衝突層が走ってる。K-T境界層みたいなの。すごく分厚いしやたらとうねってるからイメージは全然違うけど」
これまで聞いたことのないような早口でまくし立てるますみに、さとるは軽く両手を上げた。
「悪い、わかるように言ってくれ」
ますみは、さとるに覆いかぶさるようにしていいつのった。
「覚えてない?母さんがメテオハンターだっていうお兄さん連れてきたときのこと。あの時にホゴラシュって単語が出た」
さとるは目を見開いてますみを見る。
持つべきものは専門の違う弟!
さとるは必死で、記憶を掘り返す。
優は、あの時何を話していた?
有名商社の実力者がくるからと、俺らを寝かせて出かけた。
「モル・・・なんだっけ・・なんとかっていう宝石・・」
「モルダバイトとかルシャトリエライトの話ししてた。・・宝石じゃなくてガラスだし、産地によって名前違うけど。半端な高値で取引される。で、この感じだと、多分他の鉱物もでる。地層の感じだと宝石というより希土類、かな。」
「この国ってダイヤとかもっと高い宝石で有名だろう」
「うん、でも、ここの地層の感じはそういうのの鉱脈じゃない」
「そんなに売るもんあるのに、極貧地域なのか?」
「結局交渉力がなければ搾取されるだけってことなんだと思うけど・・」
「優、搾取されるタイプか?」
「優、隠してたんじゃない?」
はもるように二人のセリフがかぶって、さとるが、白っぽくなった、自分の顔をつるりと撫でる。
「絵本の読み聞かせ、思い出した。」
さとるの緊張につられて、肩がこわばっていたますみの姿勢が、がくっとくずれる。
「何をのんきな・・」
「優が、『読み聞かせって親子の絆が増すんだって!』とかいって、年齢考えずに人のベッドに突っ込んできたときがあって」
さとるが話を続けるので、ますみは仕方なく会話に意識を向ける。
「優が読み聞かせ?」
きっぱり似合わない。
「うん。寝る前に頭使わせんな!って感じの本で。内戦に陥りやすい国は地下資源の輸出がその国の経済を支えていて、極貧な2民族国家。んで、地下資源があるところの内戦を煽ると第三者ですごく儲かる奴が出る。汚くて許せねぇ、って話」
ここのはなし?
「内容的に絵本なはずないじゃん!」
「中学にもなった息子のベッドに読み聞かせに来たインパクトで思考が飛んでたんだよ!」
あのとき優はなんといった?
『あんただったら、そんなところでいい資源見つけたらどうする?手出さない方が賢いわよねぇ。でも、お母さんは、まともにつっこむ気がするわ。あんたどうする?』
さとるは、十数年ぶりに爪をかじった。
「うー。俺らさらっても意味ないと思ってたけど、考えようによってはちょっと、ある・・か?その、優が色々やらかしてた場合?」
「うん。優の思考パターンとか、パスワードの癖とか染み付いてるし」
さとるはガシガシと頭をかいた。
優は、危ないことに手を出していたのだろう。そして何かを残して死んだ。
その何かを欲しがる敵がさとるとますみをおびき寄せたのかもしれない。
そうなると、間違いなくサーファは敵側とみるべきだろう。
メイとサシャもか?
サーファは、母のことを懐かしそうに話し、一緒に事業をするはずだった矢先に死んでしまった、と嘆いていろいろと聞きたがった。
毎年自分へのご褒美旅行だといって、出かけていた行き先は、どうやら、ここだったらしい。
あの母親が、大急ぎで子供を二人も生んで、年に一度訪ねてきていたとしたら、それはやはり愛があると思った方がよかろう。
「君たちのお母さん、優はね、ここをとても大切にしていたんだよ。それから僕のこともとても大切にしてくれた。君らとは一緒に暮らしたわけではないから、父親とは思いにくいだろうが、これから仲良くやっていければと祈ってるんだ。」
広いテーブル。
メイとサシャが給仕するが、メイの怪我を知っているさとるは、気が気ではない。
メイから盆を取ろうとする。
「やることあれば俺がやるから、すわってろ。」
「いえ。大丈夫です。」
メイが顔を伏せる。
「こらこら、さとる。郷に入っては郷に従え、だよ。妻の仕事をとってはいかんな。」
さとるは胡散臭げにサーファをみた。
ますみもさとるの目つきに全面賛成という顔をする。
悪いが、父親って感じが全くしない。
優の目の前で、怪我した年下の女の子に給仕してもらったりしたら、ぶん殴られること間違いなしだ。優と親しかったことすら疑わしい。
おまけに、サシャとメイは給仕を終えると下がってしまった。
普通一緒に食べるんじゃないのか?
本当なら、問いただすべきだったが、今日は別だ。
何で一ヶ月しか滞在しない自分たちに「妻」なるものがついているのか、こっちを先に問いたださなければならない。
で、さっきの反応からすると、彼女らに聞かれない方が好都合だろうと思えたからだ。
食事は洋風で美味しかった。
だが、話の食い違いは著しかった。
「一ヶ月旅行にきただけで、なんで妻なんて話が出るんだ」
とさとるが噛み付くと、サーファは、
「気に入らないなら、追い出せばいい」
という。
「ここはね、土地柄からして、女性の地位が低いんだ。優さんは結構気にして、何人も助けてやっていたよ。道楽が嵩じて塾まで作ってね。彼女らもそこの生徒だ。だから君たちも一人ずつぐらいは幸せにしてやる気があると思ったんだが、まぁ、嫌なら無理強いはしないよ。」
「日本に連れてけって?」
「ん?君たちも若いし、自分の国でも女性がいるだろうから、たまに手紙を書いたり、何か送ってやったりでもすればいいんじゃないかな」
はっきり言って、自分の国に女性はいないが、そういう問題ではない。
「そういうのはペンパル!妻とは言わねーの!相手にも都合があるだろうが!」
さとるのいい分に、ますみもひたすら頷いて同意する。
「何の都合もないよ。彼女らは、捨てられるのを恐れているだけさ。出戻りには過酷な環境だからね。だから、当然、君たちがどうふるまおうが文句を言うこともない。安心したかい?」
冗談じゃない。
文句言われるかどうかで、測れる問題とは到底おもえない。
でも、ここまで食い違うとどこから突っ込んでいいのかすらわからない。
「・・・あんた、本当に俺らと血、繋がってる?」
かなり直球でさとるは聞いたが、サーファは笑って動じない。
「さぁ?優さんはそう言っていたけどね。ほら、君らの国の女性は自由だろう?だから、本当かどうかはわからないよ。僕は信じているけどね。」
「あんた、何で俺らをこの国に呼んだ?」
「子供と、最愛の奥さんの想い出を語りたがっちゃ変かい?子供達がきたら見ていいって言われた手紙も楽しみだしね。」
「こんだけ食い違ってる場合には変だろ」
「やれやれ、断絶は深いなぁ。ま、いいよ。ゆっくり語り合おう。食事が終わったら、屋敷を案内するよ。あ、優さんの金庫は別邸だから、今日は無理だけどね」
おそろしく親近感がない。
けむにまかれている気がすごくする。
そりゃもう、料理が全部燻製になったかとおもうほど、けむけむ。
そんな感じで、食事は終わった。
屋敷を案内されてみると、あまりの広さと、まともな設備に驚く。
心配していた、ネット環境はぱっと見問題なさそうだった。無線もバンバン飛んでいる。ただ、そんな場所は、この近辺ではここだけだという。ここは、海外物資の買い付けや、材料の仕入れの関係で色々な人間がやってくるので、たくさん回線が引いてあるのだそうだ。
案内されているうちに、この敷地が、完全武装だということがわかる。
山一つ囲むように何台もの監視カメラ、自家発電機、それに武器類の装備。
ハイテクな作りの管制ルームがあって、敷地内から送られてくるカメラの映像が解析できる。よく見ると、衛星からじゃないのかと思えるような映像もある。
・・・どう考えても民家じゃない。
「絶対おかしいよな。」
「同感。」
さらわれてしまった、というやつだろうか。
だが、こういってはなんだか、メリットが全く思い浮かばない。
当面の生活費や学費に困窮してはいないが、自家用ジェットをガンガン飛ばし、こんな屋敷を構えている奴を満足させられるほどの身代金は出せない。
クローゼットを空けると、衣替えでしまったと思っていた自分の服がいくつか出てくる。
思い出してみると枕は低めでベッドは固め。
部屋は、優がさとる用に準備したのだろうと思われた。
やれやれ、余計に分からない。他人の匂い、優の匂い、敵の匂い、味方の匂い。
さとるとますみは、案内が終わるやいなや待ち合わせて、二人で探索に出かけた。
サーファがさりげなく避けたところを集中的に回る。
地下に続く階段のドアがあった。
外とは違った湿った空気。
「降りるぞ。」
「うん。」
くり抜かれたようなトンネル。
小さなライトで足元を照らすと、かなり長く下っている。
そろそろと歩いたせいもあるが、5分ぐらいかかって、次のドアにでる。
陰気な岩の壁に、不似合いとしか言い様のない電子ロックのドア。
「・・・ここ、優の家だったんだよな」
「じゃぁYUU920?」
「やってみる」
さとるがキーを押すと、簡単にドアは開いた。
まあるくくり抜かれた巨大な空洞。
かび臭いというか誇り臭いというか、長いあいだ動いていない空気の匂い。
さとるとますみは、口をあんぐりと開けたまま、ゆっくりと螺旋階段をおりて床に降り立つ。
なにこれ、なにこれ!
ずらりと並ぶ細かい部品。
銀色に光りコイルになった筒。
中身は分からないが、完成品の形は見たことがある。何種類もの銃器類。
って、銃の生産工場?!
パチ
急に眩しい光があふれた。
手で目を庇いながら振り返ると入口にサーファが立っていた。
さとるが、無意識にますみの前に立つ。
緊張が伝わってくるさとるに対して、サーファはニッコリと微笑んだ。
「何で、電気つけないんですか?」
さとるが聞いた。
「・・・なんだ、これは」
「普通の銃の生産工場です。あー、言っておきますが、この国では、銃の携帯も、製造も禁止されていません」
だからなんだ。
さとるの心の声が聞こえたようにサーファは言葉をつなぐ。
「だから、初めに案内しなかったのは、単に日本的な教育的配慮というやつで、あなたがたに不審がられるようなことではありませんよ。どうせ、近日中に再稼働させるつもりでした。人の動きが大きくなればバレることですしね」
「銃作ってるような親戚もった覚えはない」
かなり低い声で悟が応じると、サーファはやれやれという顔をする。
「ここに女の子が働けるような工場を作りたがったのは、優さんの希望ですよ。自分の塾の生徒が稼げる場をとね」
女の子が働けるような工場というのは、普通、地下にくり抜かれた銃器類製造所ではあるまい。
「動機がどうだろうが、結果がこうなることを優がやったとは信じられないな」
「子供に見せてない一面もあるでしょう。優さんは特に引き出しが多いタイプでしたからね」
「あんたがそんなに優のこと知ってるとは、俺にはどうしても思えないんだけど?」
「少なくとも、初夜に相手ほっぽり出して無駄な探検ごっこするような人ではありませんでしたよ」
初夜って、初夜って、やっぱりそう言う意味か?
どうなってるんだ、この国というか、この土地は。
「俺らは、優の足跡たどりに来ただけだ。妻も銃もあんたも想定外だ。優が俺らに残した『なぞなぞ』とやらを聞いたらさっさと帰る。あんたとはものすごく関わりを持ちたくなくなった」
「それでも、ゆっくり考えてもらいます。優さんがここをどうしたがっていたのか、かなえるのが残された僕の義務ですから」
友好的な目つきをかなぐり捨てて、サーファは抑圧的に言った。
サーファの変化に対抗心を煽られ、さとるの目つきが尖る。
「そういうのは、生きてるうちにやっとくべきだっただろ。今更ジタバタなんて、あんた、優とうまくいってなかったんじゃないの?」
「生意気な口を聞く」
「昔からだよ。反抗期の子供のうちに免疫つけとくべきだったな」
ますみが大きく息を吐き、さとるの袖をギュッとにぎる。
戦闘モードなさとるの気勢を削ぐのに十分なほどに。
「一度戻ろう、さとる。」
ますみの目はサーファを見ていなかった。
壁面には塗料のようなものが吹きつけられていて、パッと見にはわからない。だが、その数カ所を軽くこするようにすると、すぐに土が顔を出す。ますみの頭の中で絵が出来上がっていく。分かる。壁面いっぱいに白っぽい地層がうねっている。
ホゴラシュ、ますみはその単語をどこで聞いたか思い出した。
子供の頃、ますみの将来の夢はメテオハンターだった。隕石を探して世界中を飛び回る。学校では仮面ライダーの仲間か?ぐらいにしか思われなかったが、母親は応援してくれて、メテオハンターだという人にあわせてくれた。その人は隕鉄のキーホルダーをくれた。小学生で英語などとても喋れなかったが、憧れて憧れて、通訳の人ではなくその人の唇を必死で見ていた。その時にホゴラシュという言葉が、母とその人のあいだで出たのだ。
さとるはサーファを睨みつけたが、ますみのただならない様子の方が気になり従った。
部屋に戻ると、不愉快な気分をますみにぶつけないように気を遣いながらさとるが口を開く。
「で、なんだよ。」
「サーファ、あの部屋知ってたような素振りだけど多分嘘。僕たちのあとについて入っただけだよ。」
「なんでそうおもう?」
「鍵が締まらないように、小さな金具つけてた。自由に開けられるなら必要ないよね。」
「それからあんなコイル、普通の銃では使わないし、分解されてた部品はよく見ると少しずつ違うし。少品種少量生産なんて、内戦国の銃のつくり方じゃないよね。工場じゃなくて実験室だと思う」
ますみは、ポケットからスマホを出して説明した。ビデオだ。
今とったばかりの映像は、確かに、形が違う部品を何種類も捉えていた。
「ますみ、お前冷静っつーか、すごいな」
「んー、さとるが思いっきりサーファにかみついて気引いてくれたから」
「役に立ってなによりだ。こっちはなんだ、失敗写真か?」
ただの壁の接写を指差してさとるが聞いた。
「やっぱ映んないか。土の色が変だったからとったんだけど全然わからないね」
「あ?」
「地下の壁さ、何か吹き付けて地層がわかんないように隠してあるけど、巨大隕石の衝突層が走ってる。K-T境界層みたいなの。すごく分厚いしやたらとうねってるからイメージは全然違うけど」
これまで聞いたことのないような早口でまくし立てるますみに、さとるは軽く両手を上げた。
「悪い、わかるように言ってくれ」
ますみは、さとるに覆いかぶさるようにしていいつのった。
「覚えてない?母さんがメテオハンターだっていうお兄さん連れてきたときのこと。あの時にホゴラシュって単語が出た」
さとるは目を見開いてますみを見る。
持つべきものは専門の違う弟!
さとるは必死で、記憶を掘り返す。
優は、あの時何を話していた?
有名商社の実力者がくるからと、俺らを寝かせて出かけた。
「モル・・・なんだっけ・・なんとかっていう宝石・・」
「モルダバイトとかルシャトリエライトの話ししてた。・・宝石じゃなくてガラスだし、産地によって名前違うけど。半端な高値で取引される。で、この感じだと、多分他の鉱物もでる。地層の感じだと宝石というより希土類、かな。」
「この国ってダイヤとかもっと高い宝石で有名だろう」
「うん、でも、ここの地層の感じはそういうのの鉱脈じゃない」
「そんなに売るもんあるのに、極貧地域なのか?」
「結局交渉力がなければ搾取されるだけってことなんだと思うけど・・」
「優、搾取されるタイプか?」
「優、隠してたんじゃない?」
はもるように二人のセリフがかぶって、さとるが、白っぽくなった、自分の顔をつるりと撫でる。
「絵本の読み聞かせ、思い出した。」
さとるの緊張につられて、肩がこわばっていたますみの姿勢が、がくっとくずれる。
「何をのんきな・・」
「優が、『読み聞かせって親子の絆が増すんだって!』とかいって、年齢考えずに人のベッドに突っ込んできたときがあって」
さとるが話を続けるので、ますみは仕方なく会話に意識を向ける。
「優が読み聞かせ?」
きっぱり似合わない。
「うん。寝る前に頭使わせんな!って感じの本で。内戦に陥りやすい国は地下資源の輸出がその国の経済を支えていて、極貧な2民族国家。んで、地下資源があるところの内戦を煽ると第三者ですごく儲かる奴が出る。汚くて許せねぇ、って話」
ここのはなし?
「内容的に絵本なはずないじゃん!」
「中学にもなった息子のベッドに読み聞かせに来たインパクトで思考が飛んでたんだよ!」
あのとき優はなんといった?
『あんただったら、そんなところでいい資源見つけたらどうする?手出さない方が賢いわよねぇ。でも、お母さんは、まともにつっこむ気がするわ。あんたどうする?』
さとるは、十数年ぶりに爪をかじった。
「うー。俺らさらっても意味ないと思ってたけど、考えようによってはちょっと、ある・・か?その、優が色々やらかしてた場合?」
「うん。優の思考パターンとか、パスワードの癖とか染み付いてるし」
さとるはガシガシと頭をかいた。
優は、危ないことに手を出していたのだろう。そして何かを残して死んだ。
その何かを欲しがる敵がさとるとますみをおびき寄せたのかもしれない。
そうなると、間違いなくサーファは敵側とみるべきだろう。
メイとサシャもか?
あなたにおすすめの小説
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
月弥総合病院
僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
番外編更新中です!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。