痛がり

白い靴下の猫

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15.双子はどこまでにてますか?

地下ではなく目立つ方のコンソールルームの前まで戻ると、目の前に、理解したくない光景が展開されていた。
ニカブで全身を覆った男が、ますみに銃を向けている。

ますみの様子を見ると、どうやらコンソールルームにサシャを突っ込んで、ドアを閉めてしまったらしい。
やりたいことは分からなくはないが、そういう場合は、武器を持って出ろと今度教えておかないとな。
「優は、ずいぶん子供に甘かったようだね。夢物語にそそのかされたのかい?その年になったら現実をみて、大人の言うことを聞くものだよ。」
ニカブで遮られ気味ではあるが、完全に声はサーファだ。
状況を認めるや、メイは一呼吸も置かずに、踏み込んだ。
転がりながら拳銃の弾を6発全部撃ち込んでいく。

いきなりか。合図の一つも送って行けよ。
そう思いはするが、さとるの行動も迷いがない。
メイが弾を打ち込んでいる間に、銃を構えてサーファの至近距離まで近づいて、言葉で爆弾を投げる。
「かわったレアアースを加工して外貨を稼ごう、なんて、別に夢物語じゃないだろ。国内経済がしょぼいのが悪い」
サーファの表情が一変し、歯をむき出しにしてさとるに向かって踏み出す。
「外国に売るなど許せるか!俺たちの国の宝だ。俺たちがこの国に残してやらなければ。そうじゃなきゃ、いつまでもお前らのような国に踏みつけられるんだ。」
うわ、キレやすいうえに、カマにかかりやすい。
延ばされてきたサーファの腕をグリップエンドではたき落として、さとるが身構える。
「あんた、優を知らなすぎる。優のものはあんたには渡せないよ」
サーファの顔が憎しみに歪み、銃口が上がったが、その先はさとるではなく、ますみ。
さとるが舌打ちをしてサーファに飛びつく。
サーファは落ち着いて獲物を狙える状態ではなくなったが、さとるに銃口を揺らされたたまま、パンっ、パンっと乾いた音を立てる。

ますみは、せめて流れ弾には当たらないようにしようと決意したものの、どこが安全なのかよくわからない。
次の瞬間、飛んできたのは弾ではなく人間だった。
ますみに覆いかぶさって床に倒れこみ、ほぼ同時にまた銃声がする。
そして、ぬるい血が、ますみの顔にパタパタと落ちた。
メイ?!
「大丈夫です、ちょっと、耳のそばかすめただけです。」
そしてメイがますみの前に手を広げて起き上がった。
ますみはメイが動けることにホッとしたけどれも、自分で見えないメイに傷のひどさがわかるはずがない。
かなり無理な安心のさせかただ。
一方的に守られてる感が情けない。
「サーファ、そこまでだ。」
さとるのほうは、自分から銃口が離れた隙に、ウェストポーチから防御銃を引き抜いていた。
防御銃をオンにして、サーファに向けると、サーファの握っていた銃口が揺れ始め、狙いがさだまらなくなって下を向く。なるほど、便利だ。
サーファは、信じがたいものを見るように目を見開いて、防御銃と自分の銃を見比べる。
その隙にさとるの防御銃から樹脂の球が飛んだ。
反射的に顔と首をガードしたサーファにさとるが飛びかかろうとすると、サーファは身を翻して逃走した。
メイの傷が心配だったが、こいつが屋敷の中にいたのでは落ち着かない。
さとるが追ってくるのを見ると、サーファは用意してあった足場と遮電マットを使って、壁を越えた。

耳を抑えたメイの顔は青かった。理由は断じて撃たれたからではない。
気のせいじゃない。ますみの動きが怖すぎる。
初速と言えばいいのか、静から動に移るスピードが、常人ではありえないほど速いのだ。
さとるも優も強いし早い。だが、メイの動体視力は十分についていけた。
今回のますみのように、気を抜いたら見えないかも追いつけないかもと思ったのは初めてだ。
さとるがサシならますみの方が強いと言ったのは、多分誇張ではない。
見えないほど早く動ければそりゃぁ強いだろう。
だが、その動きが理にかなっているかは別問題で、見えないスピードで弾の方に動かれたらどうして良いかわからない。

さとるに約束したからには、どうやってでも、ますみは守る。
まずは、あの初速に目を慣らさないと。
メイはますみの挙動を注視することが多くなった。
同じほど早くても、仮にさとるが動くなら、選択や行動の意図から予測できるのでここまで焦りはしない。
見切れないだけでなく動きが予測できないために焦燥でいっぱいになってしまう。
はやく見切れるようにならないと。
その焦りや視線が、サシャやさとるにどう見えるかにまで、メイの気が回ることはなかったのだ。


敵の処理を一通り終え、ケガをしたメイの手当てをおえると、話題は当然のようにニカブの男が誰かという話になった。
サーファ・デジュか、サーファ・カウルか。
声も顔も元から同じなので、堂々巡りなのだが、メイとサシャは、サーファ・カウルと思っているようだ。

さとるがますみに聞く。
「どう思う?」
「どうって、生体認証は優の得意分野だよね。指紋写したぐらいじゃ、通らないだろうなとは、思う」
「・・・指紋と、その奥の血流とを読み解くと聞いています」
メイが補足する。だから、サーファ・デジュが、なり替わっているのではない、と。
サシャも、補足する。
「デジュかカウルかは、私たちにはわかりません。だって、シミや傷の位置まで一緒なんです」
ずるっ。
正しくそんな感じで、ますみがこけた。
「まって、ちょっとまって。ね、さとる。双子って、シミの位置一緒じゃないと思うのは僕だけ?」
「安心しろ、俺もだ。整形は簡単にできると思うけど」
「じゃぁ、指紋は?」
「違うだろ。クローンだって違うって聞くのに」
「う~~~。そうすると可能性は三つ?①カウルがデジュになりすましている。②デジュがカウルになりすましている。③二人とも生きていてグル」
「③はないな。もしそうだったら、畑里が撃墜されてる」
「ああそうか、サーファが一人なことを前提にオフィシャルで外せないとき狙って来たんだもんね」
さとるが首をひねりながら視点を変える。
「俺たちが見たサーファがどっちかは、一旦おいとくとして。①優は男の趣味が悪かった、②オヤジは兄弟に恵まれなかった。この二つだとどっちがありそうだ?」
「②。でも、そういう問題じゃ・・」
「まぁ、そういう問題を考えようや。②を前提に素直に考えると、顔はデジュで、手はカウル、だよな」
素直か?
さとるの思考回路に慣れているますみはともかく、メイとサシャの表情が一瞬白紙になり、それから目が見開かれる。
「!!そう来ます?!」
メイの叫びにさとるが軽く肩をすくめる。
「だって、一卵性双生児って、拒絶反応とか少なさそう。そんで腕すげ替えるのと首すげ替えるのだと、ぜってー腕のほうが楽だろ。俺の友達、工作機で指2本落としたけど、ちゃんと2本とも神経までくっついて動いたし。そうすると、本体は顔側だからデジュで、腕だけカウルの答えは②」
証明問題よろしくさとるはサラサラと可能性をカスケードさせていく。
あっぱれ。
少なくともますみは、同意のようだ。
「そんな気がするね」
とあっさり答えた。


どちらも推測でしかないし、と、カウルかデジュかを考えるのを保留にした後、あかりが帰ってきた。
さとるが屋敷であったことを説明すると、あかりはいきなりUSBをパソコンにさした。
「ごめん、敦子さんには、隠したままでいいって言われてたんだけど、これ、私が飛んできた理由」
サーファ・カウルにひと月既読をつけろと指示されたメールボックスの中身。
数カ月遅れで初めてみつけた脅迫状メール。
パーツに分けられたカウルと、死後の優の画像。
もちろん、パーツに分けられたのがデジュであっても見分けはつかない。
だが、それを既読スルーを頼んだカウルのアカウントに送ってどうする。
優の遺体の写真を送り付けてどうする。
結論。
パーツにされたカウルと、優の遺体の写真を撮って、脅迫メールを出したのはデジュ。
生きているのはカウルの腕であって、カウル本体はとっくの昔に死んでいる。
さとるの想像が一番近かったわけだが、それでも、これは。

さとるは冷や汗をかいた自分の顔をずるりと撫でる。
「教えてくれてありがとう。あいつらにも、このまま伝えるべき、かな」
オブラートに包んで伝えて納得するだろうか。
カウルが優を裏切らなかった証明にはならないけれど、少なくとも今はもう、カウルは生きてはいないこと。
デジュがカウルのパーツを使って一人二役を演じており、移植できる時間も考慮すれば、カウルをパーツにばらしたのもデジュ主導だろうということ。
今後の行動を決めるのに大事なことだ。

「そのまま見せるぞ」、とさとるが白い顔であかりに確認しようとしたとき、廊下でくぐもったうめき声がした。

「・・・メイ?」
一気に現実に引き戻されて、さとるは部屋を飛び出す。
さとるに脅迫メールを見せおえて虚脱気味だったあかりは、かわいた唇でボソリとつぶやく。
「反応早いな、おみごと」
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