痛がり

白い靴下の猫

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19.変態だったらどうしよう

下世話な話で申し訳ないが、メイを意識しだしてから、我ながら『ためないほうがいいかも』と思うようになった。
夜、メイがうなされるのだ。
泣いているときもあるし、小さな悲鳴で飛び起きるときもある。
つらそうだから、いっそ起こしてやりたいが、男どもに無体なことされた時の夢とかだったら、俺が踏み込んで起こすとか絶対アウトな気がする。
しかも、うなされるのを止めてやりたいのとは別に、メイに触れたくないかというと、そんなことはない訳で、ここら辺が駄々洩れになると色々まずい。
お互いのベッドのが隠れるように衝立で仕切ってはいるけれど、物理的に簡単に踏み込めてしまうし、俺はメイを意識しているわけで、緊張度は低い方がいいに決まっている。

そんなわけで、手っ取り早くかつこそっと緊張度下げようと、手持ちのエロ本、といっても日本から持ってきた学級図書だが、をひっそり開いてみたわけだ。
包帯でぐるぐる縛られている女の子の表紙。ジャンルはいわゆるSMだろうか。等級的にはマイルドなやつだと思うけれども、まぁ、ざっくりくくると変態枠?
嗜好のキャパは狭い方ではないと思うが、正直あまりギッタンギッタンしたやつや気持ち悪いやつは苦手だ。
キャパ範囲内であることを祈りつつ読み進め・・・ごっくん。
これ、いいかも。
そしてまぁ、散々使って。
正気に戻った後、自分の変態具合に凹んだわけだ。

さらに、あることを思い出して真っ青になる。
忘れていたけれど、いちばん最初に、メイは俺の荷物チェックというか荷物整理というかをしている。
机の上にきれいに並べられていたし、メイも、『そういう本』を見たようなことを言っていた。

うん、元からこういうのが好きで持って来たと思ったよな。
しかも嫌いじゃないことが自分でわかってしまった今となっては、言い訳もできん。
凹む、を通り越して、懊悩。
それは、尋常ではなくまずい。

うんうん唸って、煮詰まってさまよい出たところに、飛んで火にいる畑里あかり。
勢いのままに話しかける。
「なぁ、俺、やばい奴かも」
「あん?」
いきなり何の話だ?とあかりに剣呑な目を向けられて。ひるまなかったと言えば嘘になる。そもそも、旧人類的青少年の夜のオカズの話など、同年代の女性に聞かせるものではない。が、もとはと言えばこいつがもってきた本なのでギリギリ許されると思う。
「学級図書、な、その、すごく合ってたみたいで・・・お前に押し付けられたぐるぐる巻きのやつだ」
「ああ。良かったわね。で、なに?新作を電子書籍で取りたいとか?」
「そうじゃない!そうじゃなくて・・」
「じゃぁ、なによ」
「俺、そういう嗜好だったらどうしよう」

・・・ばかなの?
あかりは思いっきり突っ込みそうになったが、ぐっとこらえる。
元カノとしての経験からも、あかりと別れたあとに突撃していった女性陣の話からも、さとるにそっちの気がないことは明らかだ。
いや、エロ本の嗜好がどちら向きかはもちろん知らないが、妄想と現実が混ざる心配が一切ない脳のつくりをしていて、しかも徹底して相手の同意を重視するタイプなので、正直妄想の嗜好がどうでも関係ない。
このアホは、いまだに自分がどんなに優しいかすらわかってはいない。
「メイに実践でもしたの?」
絶対にないとわかっていながら水を向ける。
「する訳ないだろ!あいつ、本当に鞭で背中裂かれたことあるんだぞ、0.1秒でもそんなネタふったらふざけましたで済むハズがないだろうが!」
思った通りの激烈な拒絶反応に、あかりは笑ってしまいそうになる。
「あのさぁ。その反応のどこが『そういう嗜好』なわけ?」
「だーかーらー、あの本が馬鹿みたいに有益に使えちまったんだっつーの!」
羞恥を振り切って、やけくそのようにさとるが答える。
ああ、多分わかった。
「それ、多分あんたの嗜好っていうより、作者の腕だわ。あの作者、珍しく男女の書いてたから私が推薦図書に入れたけど、普段BL書いてんの。10代後半から20代前半の女の半数はあの人のBLでむにゃむにゃむにゃ、よ」
BL、ボーイズラブ。畑里あかりのホームグラウンドだ。
「むにゃむにゃって。え?BLってエロ本なのか?」
そこからか。
萌えや耽美やキュンを求める読者もいるし、純粋にエロ本として使う読者もいる。表からも裏からも見られるのがBLの醍醐味なのだ。
仕方がないなぁ。営業ノウハウなんだけど、悩める幼馴染のために、あかりは解説することにする。
「使い道は色々よ。ただエロ本として使えるBLはさ、攻めと受けの両側のエロに没入できるように書かれてるんだわ。あんたらのエロ本だと、ベッドシーンで『そんなのだめっ』って台詞ひとつの描写でおしまいのところが、BLだと、攻め側の乱暴にしちゃう嫉妬心と、受け側のどんなに昂っても堕ちきれない煩悶!みたいな心のギャップをこれでもかってくらい同時インプットしてきて、そのギャップが興奮させるコツになる訳」
そういう両側インプットなエロ本を好むのは女性が多いが、男性でも細やかなタイプは結構はまる。だからあの作者も読者層を広げようと男女ものを書いたわけだ。
「ライトな感じのSMもどきとかおしおきものって、そういう両面ネタな心のギャップが出しやすいから、BL系で鉄板なのよ。そんだけの話。気に入ってくれたなら、図書委員冥利に尽きるけどさぁ。本人が混乱してどうするよ?」
両側インプットなエロ本好きな男は、相手がどう思っているかわからない段階で脱落することが多いので、SMを読もうがロリものを読もうが、現実世界では安全なタイプが多い。
YESロリータ・NOタッチ、とか言えるやつらも大抵こっち側。
もうここら辺はあかりたちのチームでは共通認識だ。

暴力的な映像を見たら暴力をふるうに違いない、的な責任転嫁をする奴は、妄想産業界では無能者確定である。

「んじゃ、どんどん嗜好が悪化して行ったりは・・」
「しないわよ。その理屈で行くと、女性の半数は性転換したいことになるっつーの」
言われてみれば、あかりもその周りの腐女子も男になりたそうには一切見えないし、拉致監禁事件をおこすやつもいなければ、変態系のバイトに突っ込んで行くわけでもない。
「そう、なの、か?でも、現実でやらなきゃいいってもんじゃ、ないよな。そういうの考えたことがあるだけでも気持ち悪いよな。どうしよう、俺、廊下で寝たほうがいいだろうか?」
あかりが、えらくできの悪い生徒を見る目でさとるをみて言い切った。
「旧人類の男が夜ごと何をオカズにしてるかなんて、いちいち気にするほど女は暇じゃないわよ!まじにどーでもいい!」
そう、かな。
酷い言われようだが、ものすごくほっとする。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして!」
まったくもって世話の焼ける!
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