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20.寝入るまで心音をきいてみる
メイが、車を貸してくれと言ってきた。
うなされて何度も起きていたから寝不足だろうし、ケガもあるし、あまり運転とかしないほうがいいと思うのだが。
「構わないけど、ひとりで出すの心配だから一緒に行くぞ?」
「いえ、あの、優さんが子どもたちを引き込んだのではなくて、私の独断だった証拠を取ってくるだけなので」
「・・・。なんで。俺、いらないぞ」
「その、さとるさんが私を警戒なさらなすぎで、心配になってきましたので」
信じろと言っときながら、警戒もしろってか。
「危ないとこ全部背負って、ひとりでケガしまくっときながら、そんなことが心配か?」
はて。そんな感じでちょっと首をかしげて言葉を探したメイは、斜め上に出た。
「可哀想さを装い、同情を誘って利用しようとしているかもしれません」
ないわー。
「あーのーなー、男が求める可哀想な女ってのは、『俺がついてる』とかいっただけで解決するような、都合のいい問題を抱えている女のことを言うの!有能でメンタルの野太い女に可哀想な感じがする時は、絶対問題がバカでかいから、普通は逃げる!」
目をぱちくりさせて固まった後、ぷふふ、とメイが笑う。
「それ、男性側から言います?」
言わない、かな?
楽して、感謝だの好意だのの見返りがもらえるなら、効率性を考えるとすこぶる正しい訳で、見かけがキレイじゃなかろうが、頭の中身がイタかろうが、そういう意味で効率性が稼げる女性がもてることはよくある。
だが、さとるは、物心ついた頃から、母に姉に幼馴染にと、客観的に有能でメンタルの野太い女性が周辺に跋扈していたせいで、放っておいても不安定な女性は近寄ってきにくかった。
おかげで、自分の前に、都合の良い問題を抱えた女が出てくる気がしない。
「100歩譲って同情入ったとしても、メンタル野太い女への同情って大抵命がけになるんだし。同情混ざった想いは安いはず、とか決めつけると拗ねるぞ」
そういって、さとるは、メイの左の頬と耳にあたたかい手をあてて3秒ほど待ったあと、右の頬に唇で触れた。
3秒分は、たぶん、嫌がらないか確認、されたんだよなぁ、とメイは思う。
さとるから『嫌か』どうかを確認されたのは何度目だろう。
はじめは嬉しくてくすぐったかった確認に、ちょっとだけ寂しい気持ちがまざるようになったのは何故だろう。
一方さとるは、触れた唇の違和感に眉を顰める。
こいつ、やせた?
頬のふっくら感が減った。心なしか体温というか頬温?も減ったきがする。
襲撃にもあったし、ケガもしたから、心身ともに負担がかかったとは思う。
ただ、キッチンがミーティングルームになってから、メイはとてもよく食べるようになったのだ。
同じくらい食べている畑里は、太った!と言ってはばからないのに。
そういえば夜中に何度も手洗いに行っては、顔を洗って帰ってきていた?
会った時から大けがだったので不思議に思わなかっただけで、メイの顔色はいつも白い。
白いのを気にしなかったのは、体が良く動いていたから、ひたすらそれだけだ。
「・・・メイ、ひょっとして夜、眠り浅いだけじゃなくて、吐いたりしてるか?」
唐突に切り替わった質問に、『あ、ひょっとして、夜うるさいのかな?』と、思考が流れたメイの答えは
「すみません」
これは、間違いなく肯定だ。
我ながら節穴すぎ。
「謝るな。俺が悪かった。動けるからメンタル無事って、因果関係じゃないな。」
メイの両頬に手を当てて、自分のほうが痛そうな顔で、さとるがあやまる。
心配そうな顔をされると、メイのほうが慌ててしまうのに。
「め、メンタル系は、弱くはないと思うのですが、最近緊張が続いて、胃がひっくり返ったみたいで。ちょっとキロ数増やしてランニングしてきます」
駆けだそうとするメイをさとるが抱きとめる。
下心がゼロとは言わないが、身体的な接触が多くなってしまうのは、基本的に触ることを気遣っていたら間に合わないからであって、純粋に瞬発力の問題。
「待った!謝るから、まっとうなメンタルの傷をフィジカル酷使して塗り潰そうとかやめて、おねがい」
腕の中のメイがもぞもぞと動こうとするので、あわてて手の力を緩めると、右耳をことんとさとるの胸にあててきた。
「優さんに聞いた不調の対処法は、ひとつ食べる、ふたつ運動する、みっつ他人の心音を聞く、です」
母よ、大雑把すぎるぞ。
頼むから対処法は、症状にあわせて選んでくれ。
「あー、メイ。嫌じゃなければ、寝入るまで心音きくとかやってみるか?」
俺の理性崩壊のリスクを勘案したとしても、その顔色で走るよりかはましだと思う。
「ぜ、贅沢じゃないですか?」
なんだ、その反応は。
「贅沢って、タダだろ。意味がわからないぞ」
さとるがそう言うと、メイは、何の警戒感も感じさせず、一瞬の溜めもなく、嬉しそうに返した。
「分を超えた望み、という意味です」
溶け気味のシャーベットのような。甘くて理性がつるんと滑ってしまいそうな。
そんな顔で。
・・・おい。こら。やい。
うっかり抱いちまうぞ、この女は!
うなされて何度も起きていたから寝不足だろうし、ケガもあるし、あまり運転とかしないほうがいいと思うのだが。
「構わないけど、ひとりで出すの心配だから一緒に行くぞ?」
「いえ、あの、優さんが子どもたちを引き込んだのではなくて、私の独断だった証拠を取ってくるだけなので」
「・・・。なんで。俺、いらないぞ」
「その、さとるさんが私を警戒なさらなすぎで、心配になってきましたので」
信じろと言っときながら、警戒もしろってか。
「危ないとこ全部背負って、ひとりでケガしまくっときながら、そんなことが心配か?」
はて。そんな感じでちょっと首をかしげて言葉を探したメイは、斜め上に出た。
「可哀想さを装い、同情を誘って利用しようとしているかもしれません」
ないわー。
「あーのーなー、男が求める可哀想な女ってのは、『俺がついてる』とかいっただけで解決するような、都合のいい問題を抱えている女のことを言うの!有能でメンタルの野太い女に可哀想な感じがする時は、絶対問題がバカでかいから、普通は逃げる!」
目をぱちくりさせて固まった後、ぷふふ、とメイが笑う。
「それ、男性側から言います?」
言わない、かな?
楽して、感謝だの好意だのの見返りがもらえるなら、効率性を考えるとすこぶる正しい訳で、見かけがキレイじゃなかろうが、頭の中身がイタかろうが、そういう意味で効率性が稼げる女性がもてることはよくある。
だが、さとるは、物心ついた頃から、母に姉に幼馴染にと、客観的に有能でメンタルの野太い女性が周辺に跋扈していたせいで、放っておいても不安定な女性は近寄ってきにくかった。
おかげで、自分の前に、都合の良い問題を抱えた女が出てくる気がしない。
「100歩譲って同情入ったとしても、メンタル野太い女への同情って大抵命がけになるんだし。同情混ざった想いは安いはず、とか決めつけると拗ねるぞ」
そういって、さとるは、メイの左の頬と耳にあたたかい手をあてて3秒ほど待ったあと、右の頬に唇で触れた。
3秒分は、たぶん、嫌がらないか確認、されたんだよなぁ、とメイは思う。
さとるから『嫌か』どうかを確認されたのは何度目だろう。
はじめは嬉しくてくすぐったかった確認に、ちょっとだけ寂しい気持ちがまざるようになったのは何故だろう。
一方さとるは、触れた唇の違和感に眉を顰める。
こいつ、やせた?
頬のふっくら感が減った。心なしか体温というか頬温?も減ったきがする。
襲撃にもあったし、ケガもしたから、心身ともに負担がかかったとは思う。
ただ、キッチンがミーティングルームになってから、メイはとてもよく食べるようになったのだ。
同じくらい食べている畑里は、太った!と言ってはばからないのに。
そういえば夜中に何度も手洗いに行っては、顔を洗って帰ってきていた?
会った時から大けがだったので不思議に思わなかっただけで、メイの顔色はいつも白い。
白いのを気にしなかったのは、体が良く動いていたから、ひたすらそれだけだ。
「・・・メイ、ひょっとして夜、眠り浅いだけじゃなくて、吐いたりしてるか?」
唐突に切り替わった質問に、『あ、ひょっとして、夜うるさいのかな?』と、思考が流れたメイの答えは
「すみません」
これは、間違いなく肯定だ。
我ながら節穴すぎ。
「謝るな。俺が悪かった。動けるからメンタル無事って、因果関係じゃないな。」
メイの両頬に手を当てて、自分のほうが痛そうな顔で、さとるがあやまる。
心配そうな顔をされると、メイのほうが慌ててしまうのに。
「め、メンタル系は、弱くはないと思うのですが、最近緊張が続いて、胃がひっくり返ったみたいで。ちょっとキロ数増やしてランニングしてきます」
駆けだそうとするメイをさとるが抱きとめる。
下心がゼロとは言わないが、身体的な接触が多くなってしまうのは、基本的に触ることを気遣っていたら間に合わないからであって、純粋に瞬発力の問題。
「待った!謝るから、まっとうなメンタルの傷をフィジカル酷使して塗り潰そうとかやめて、おねがい」
腕の中のメイがもぞもぞと動こうとするので、あわてて手の力を緩めると、右耳をことんとさとるの胸にあててきた。
「優さんに聞いた不調の対処法は、ひとつ食べる、ふたつ運動する、みっつ他人の心音を聞く、です」
母よ、大雑把すぎるぞ。
頼むから対処法は、症状にあわせて選んでくれ。
「あー、メイ。嫌じゃなければ、寝入るまで心音きくとかやってみるか?」
俺の理性崩壊のリスクを勘案したとしても、その顔色で走るよりかはましだと思う。
「ぜ、贅沢じゃないですか?」
なんだ、その反応は。
「贅沢って、タダだろ。意味がわからないぞ」
さとるがそう言うと、メイは、何の警戒感も感じさせず、一瞬の溜めもなく、嬉しそうに返した。
「分を超えた望み、という意味です」
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そんな顔で。
・・・おい。こら。やい。
うっかり抱いちまうぞ、この女は!
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