痛がり

白い靴下の猫

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30.まとめてドカンが望みです

サシャが追い詰められた原因の一つは、キュニ人とのタキュ人の武装勢力がタッグを組んだことだ。
サーファ・デジュはもともとキュニ人にもツテがあり、何度かタキュ人とキュニ人の同盟を組んで国外の人間をを攻撃した経験がある。
その時から、タキュ人とキュニ人の会合や中継に使われる場所はいつも同じだった。
メイとしては、母と共に生き埋めにされた祠に近いのであまり行きたくはないが。
崩れかけたビルの地下といくつかの日干し煉瓦の廃屋をつないだだけの簡易要塞。
四方八方に脱出路が設けられているのが取り柄の、埃っぽく殺風景な場所。

その簡易要塞の前にたって、サシャを返せとわめいて見せる。
簡単に、本当に簡単に、ゼルダの工場で見た顔の男たちが湧き出して、メイを捕らえた。


何を喋ったか、ごくおぼろげにしか思い出せない。
自白剤、かぁ。シューバの家に連れていかれた時に打たれた薬と似ている。薬の制御下に置かれているときの侵襲感はシューバの家のものの方がキツイが、醒めた後の気持ち悪さはこちらが上だ。
でも、今回の場合に限って言えば、自白剤は相手が喋らせたいことを特定できなければ恐れるようなものじゃない。

意識を集中して場面をつなぎ合わせる。

薬が入ると、関節という関節がだるくなって、気合いで舌を噛み切ったり、そんなことはできないとわかる状態になった。
視点が定まらなくなり酔ったように先端が平静をかき乱す。男たちはそれに気づくと、小刀を見せて脅した。

メイのアンクレットには爆薬がつまっている。生体センサつき。
メイの生命反応がなくなればドカン。
もとは狙撃や不意打ちを牽制しながら相手と交渉するために優が作ったもので、自害用ではないので、周りに大迷惑を与える気体爆薬仕様だ。

サーファを呼び出して、近くで死ねば目的達成。
それまでに死んでしまえば、メイの負け。
それでも多分、サシャが目覚めるなり拷問しようと騒ぎ出しそうな奴らはほとんど今もメイの近くで騒いでいるから、サーファまでたどり着けずに負けてもサシャの状態は多少なりともマシになるだろう。

とても単純な勝負だ。大抵の人間は、まだサシャがノウハウパーツだと思っているから、掛け金も少ない。
ノウハウパーツは9割近くをあかりが引き受けてくれたし、自分が死ねばそれを知る人間はいなくなる。

何をどこまでしゃべったかを把握しようと、記憶に潜る。
薬が回って。さとる、さとる、さとる。
相手も自分も何度も呼んだ気がする。
恨み言らしきものを言ったかもしれない。多分、現実だろう、恥ずかしい。
それでも、幾ら意識を集中しても、化合物が辿るべき中間体や、分子設計、兵器関連のノウハウ、あかりの名前など、何一つ浮かんでこない。
聞かれたのはさとるの交渉力、さとるの交渉相手、さとるの協力者。
メイ自身についてたいした話はしていないのは、ここに、自分が転がされていることが証明している。
サシャのおかげだ。
メイは使える駒とは思われていない。

はふ。さて、デジュを呼ぶか。
ペンが欲しいな。細いやつ。当たり前だが監禁されている場所でそうそうわがままもいえず、メイはピアスを抜いて、その針で手のひらを何度もひっかく。
薬は吐き気を誘っていたが、痛覚が鈍っているのは助かった。

デジュとの通信はWEB会議らしい。
カメラがついたパソコンの前に、さっきと同じ薬が、注射器に入って並べられている。有名な自白剤のロゴ入ってところがベタベタだ。さすがはろくろく警察組織の働かない国。

メイの使い方は、せいぜい顧客情報をメイを通じてオープンにさせ、クリスタの信用を落とさせるのに使うくらいしか思いつかなかったのだろう。
サーファは遠く離れた場所で、WEB映像を見て、素知らぬ顔でさとるを非難し顧客をかすめとる、という展開かな。

タズクと呼ばれていたごつい男が、メイに紙を渡してくる。
「これを喋れとさ。さっきお前が喋った内容のダイジェスト版だ。自分でしゃべってもいいそうだがどうする。言っておくが、あの薬は続けて入れられると相当体にわるい」
「自分で、しゃべります」
思いのほかしっかりした声に、タズクが意外そうな顔をする。
まだ死ねない。
来い。サーファ・デジュ。道連れにしてやる。

メイはWEBカメラの前で手を開いた。
両方の手のひらにマッチ棒で作った積み木のような絵が一つずつ。それから組み合わさった指の部分に中間形態。
それを胸の前で組み合わせる。
それから、ゆっくりと紙に書いてあった滑り出しのセリフ。

「私たちに極秘にあったオファーを公表します。より有利な取引のために」
それから、すうっ。息を思いっきり吸い込むと、メイは一気にまくし立てた。
「FGM頼りで先祖代々異性に快感一つくれてやれないタキュの男に、国際競争力なぞあるものか。お前らの頭が最下層だから外資と組むといっている。くやしかったら、まともな男を連れておいで!」
タズクが目を剥いて、Webカメラを切った。

同時にドアが空き、サーファの私兵が流れ込んでメイを引きずり倒す。



ガタっ
メイが手のひらを開いた瞬間、サーファがパソコンの前で立ち上がった。
まさかメイがノウハウピース?
優が雇った学者でも、初期から援助していたシンクタンクのエンジニアでもなく?
サーファはサシャ自身がノウハウピースであることも信じてはいなかった。優がサシャに残したのは、ノウハウピースが誰かというリストだろうと。
カウルの言動から、ノウハウ習得には高度な知識が必要だと知っていたから。

優が技術を完成した時点では、メイもサシャもたった十二~三歳で、女で、高等な教育など受けてはいなかった。
優がそのメイに秘匿情報を託した?そんなことがありうるか?

それでもサーファはどれだけ手を尽くしても、並み居る専門家のなかにノウハウピースを持つ者を見つけられなかった。
優の夫であった兄の息絶える直前の5分を自白剤漬けにしても無駄だった。

外から見ると、優の分業体制は徹底していた。
学校は、語学のみの体裁だったし、前駆体をやらせる企業と、後加工をやらせる企業は厳密に区別し、商品メニューレベルの特許以外、情報は徹底して秘匿管理。
サーファ・デジュとて優の生徒を何人かは捕まえてみたのだ。彼女たちがスパイ的な特殊技能を教え込まれた可能性、優が洗脳した兵士である可能性。

だが、彼女らは無力だった。暴力に対処する術どころか簡単な計算さえ教えられていないものもいる。金をやれば黙ったし、力の前にはただ怯えた。
デジュは、体を売らせる代わりに語学を売らせただけの消耗品だと結論した。
そして、メイと行動を共にしていたサシャはいとも簡単に頭を打ち抜いた。

あれが全部フェイクだったというのか?
国内勢力からメイひとりを隠すためだけの?

どれだけサーファが信じがたくても、今目の前にA型立体構造とB型立体構造の絵を両手に書き、その手を組み合わせて真ん中に中間体らしき構造を作って笑うメイがいる。
A型からB型への立体構造変化の手法は、今全くのブラックボックスなのに。

少なくともメイは、それがノウハウピースであることを知っており、サーファがほしがっていることを知っており、中間体自体をを知っている。

我先にメイを踏みつけようとする混乱を画面を睨んで、サーファが無線に叫ぶ。
「だめだ!絶対に殺すな!自殺も絶対にさせるな!」
だが画面の中の暴行は止まらない。
「タズク!発砲を許可する!命令に従わない奴は射殺でいい!俺が行くまでもメイの命をもたせろ!」
タズクは、既に数発を打った後だった。
うめき声と反感と萎縮。
銃を構えながら無線うんざりした声を送り込む。
「むちゃ言ってないで早くなんとかしてもらえませんかね。こいつの挑発、わざとだ。外国籍は俺だけで、残りほぼ全員タキュ人で、どうやっても持ちませんよ。俺が、あくびしようが、催そうが、数秒目を離したら終わりです」
誇張ではないのはみればわかる。
サーファの声が跳ね上がった。

「すぐに人を送ってメイを回収しろ!タキュ人以外がいれば全員向かわせろ!医者もだ!生きたメイを連れてくるんだ!」


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