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34.メイは自分を売ることにした
次の手を考えなきゃ、な。
アンクレットのなくなった右足をみながら、メイはぼんやりと考える。
爆弾無しで、さとるとますみにしてあげられるお返しは何だろう。
どうすれば、サシャに安心して意識を取り戻させてあげられるだろう。
サシャを、返せるだろうか。
たとえばゼルダの次期総帥、シューバ様と取引をしたら?
ゼルダの手にあるサシャを取り戻せる可能性は相当高いのではないだろうか。
武装勢力の絶対兵器という妄想爆発はともかくとして、ゼルダ社本体にオフィシャルに伝わっている範囲では、メイは人工知能側のノウハウパーツとは疑われてはいないはずだ。
化学側のほうのノウハウは自白剤を使われるだろうが、逆に餌にもなる。
サーファの仲間に自白剤を打たれた時に思った。
シューバの父親に打たれた薬のほうがキツイが、とても似ているんだな、と。
薬に慣れはじめた今なら、自白剤下でも完全な意識喪失にはならないかもしれない。
まぁ、普通にかんがえれば薬に慣れる前に心臓がつぶれる気がするが、死ねば下げ渡しにならなくて済むし、さとるにメイのかわりにサーファに挑もうなどという気も起こさせなくて済む。
やってみようか。
今も着ているのは、さとるのミリタリージャケットだ。
さとるの腕の中にいるようですっかり借りるのが癖になってしまっている。
ただ、ますみが、誘拐されかけてから、重さがごまかせる服には、小型のイヤホンマイクと、GPSがつけてあると聞いた。これもそう。
海外にはろくにつながらないけれど、ここら辺なら通信できなくもない、劣化版のスマホもポケットに入っている。
メイは、全部の電源をわかる限り元から切りながら思う。
いつかこの電源をもう一回ONにして、益で損害を埋めたと、報告できるといいな。
自分が死んでも、さとるとあかりが無事ならば、優の産み出した技術は生きる。
サシャをますみに返すことができれば、ホゴラシュの女性にも未来ができる。
だから、メイの目標は、ふたつだけ。
サシャをますみに返すこと。
サーファ・デジュを殺すこと。
シューバ様、か。
ゼルダの跡継ぎで、メイの元婚約者。14歳なのに米国の大学を2つ出ている英才。遅くにできたひとり息子だったこともあり、シューバを生んだ女性を殺した経緯をもつ父親から、溺愛と過干渉と教育虐待を一身に受けながら、幼少期よりホゴラシュと先進国を高速で回りながら育っている。
シューバは、大きくくくればサディストなのだと言われている。
本人の言によると、他人が苦しんでいるところを見るのが好きだそうだ。特に、苦悶の中で手が届きそうな救いに必死で縋りつこうともがき、恨みの中で力尽き、全てをあきらめる時の、あの絶望した目の色が好きだ、と。
ただ、その目的は、性的なものではなく、絶望した目の色をみせてくれるなら男女も問わない。
そしてなにより、壊される交換条件にされた約束は守る律儀な人間だった。
優とシューバも何度も会っていた。
ふたりとも興味の幅が広かったから、シューバの父親がそばにいないときは、いつも会話が弾んでいた。
シューバの父親は、既に70を超えていて、精神が壊れかけた感じのする人だ。
だが、昔は違ったらしい。若くして鉱物資源を売る会社を継いだ後、海水からの脱塩技術をコアに国際競争力をつけて、たった数年でゼルダを大企業にした。内戦が絶えず通貨さえ安定しないホゴラシュで、まともな企業を築いたのだから、驚愕に値する。シューバのような英才だったのだろうし、英雄扱いもされていた。
ただ、50代後半から急に妻や使用人を虐待するようになり、サディスティックな嗜好を大っぴらにするようになり、その結果シューバを授かったと自慢するにいたる。
彼のシューバへの執着は、傍から見ても常軌を逸していた。
優の言葉を借りれば、天才と変態は紙一重?
シューバの父親と優は、お互いがお互いを嫌いなことを知っていたと思うが、表面上は企業人らしく穏やに距離をとった。
優はシューバを気の毒がっていたようだ。
『そりゃ、良くはない、良くはないけど、5歳児が蟻の行列を踏んで歩いたからって、サディスト確定かよ、あのくそオヤジ!』と優が吐き捨てていたのを聞いた。
幼少期から後継者教育とは名ばかりの教育虐待。これから思春期というときには、家庭ではまともに男性機能が働くなった老人の壊れたSM観を押し付けられ、外ではセクハラ訴訟が数百万の国と幼女の人身売買が数万円の国を短いスパンで行き来しながら人脈を広げる。そんな育ちの割にはまともだと、優はシューバをほめていた。
父親の誘導でシューバの玩具にされ、薬物の過剰摂取になった女性が、はじめて病院に移送されたとき、優は皿を割りながら『あの馬鹿、皮膚病のフェネックでも抱いとけ!』と怒鳴った。
優が死ぬのを待っていたように、メイはシューバの婚約者にされた。
虐待死がしょっちゅう起こると敬遠されたシューバの家に、わずかな金で見かけ上の親族に売られたわけだ。
メイも、シューバの父親の趣味と服従を試す実益を兼ねて、自白剤のような薬を撃たれて尋問され、心臓が止まりかけたらしい。
病院に数日入れられたから殺す気はなかったのだと思う。
病院から連れ帰られた後は、そのまま花嫁修業という名のもとに監禁された。
メイが公開刑という極端な方法で放逐されなかったら、死ぬまで監禁生活だったかもしれない。
正直に言えば、あの家に戻ることは怖かった。
どちらかというと、シューバよりシューバの父親が気持ち悪い。
まぁ、他人の恐怖を引き出すために微入り細入りに計算して暴力をふるって来る老人と、恐怖のなにかもよくわからず持たされた拳銃を振り回す子供のどちらが怖いかと考えても無駄な気はするが。
それでも、シューバの父が、いわゆる海外のSM雑誌というものを、たくさん所蔵していて、メイを怯えさせようと無理やりにみせ始めた時の恍惚とした目が、雑誌の写真よりもよっぽど気持ちが悪かったのだ。そして、それを見ているシューバの目は、いつも無表情だった。
ただ、その恐怖を差し引いても、シューバがもつ力は魅力的だ。
そして、優が気にいるだけあって、シューバが賢く律儀なことはメイも認める。
たとえば、シューバは、自分が合意した契約であれば、相手が女性でも弱者でも約束は守ろうとする。契約にあたって、なるべく嘘はつかない。相手の出す条件に価値があれば、自分も価値のある条件で答える。この国では稀有なことだった。
今のメイには、交換条件にできるネタがあり、シューバはその価値を正しく理解できる。
えり好みしている場合ではなかった。
アンクレットのなくなった右足をみながら、メイはぼんやりと考える。
爆弾無しで、さとるとますみにしてあげられるお返しは何だろう。
どうすれば、サシャに安心して意識を取り戻させてあげられるだろう。
サシャを、返せるだろうか。
たとえばゼルダの次期総帥、シューバ様と取引をしたら?
ゼルダの手にあるサシャを取り戻せる可能性は相当高いのではないだろうか。
武装勢力の絶対兵器という妄想爆発はともかくとして、ゼルダ社本体にオフィシャルに伝わっている範囲では、メイは人工知能側のノウハウパーツとは疑われてはいないはずだ。
化学側のほうのノウハウは自白剤を使われるだろうが、逆に餌にもなる。
サーファの仲間に自白剤を打たれた時に思った。
シューバの父親に打たれた薬のほうがキツイが、とても似ているんだな、と。
薬に慣れはじめた今なら、自白剤下でも完全な意識喪失にはならないかもしれない。
まぁ、普通にかんがえれば薬に慣れる前に心臓がつぶれる気がするが、死ねば下げ渡しにならなくて済むし、さとるにメイのかわりにサーファに挑もうなどという気も起こさせなくて済む。
やってみようか。
今も着ているのは、さとるのミリタリージャケットだ。
さとるの腕の中にいるようですっかり借りるのが癖になってしまっている。
ただ、ますみが、誘拐されかけてから、重さがごまかせる服には、小型のイヤホンマイクと、GPSがつけてあると聞いた。これもそう。
海外にはろくにつながらないけれど、ここら辺なら通信できなくもない、劣化版のスマホもポケットに入っている。
メイは、全部の電源をわかる限り元から切りながら思う。
いつかこの電源をもう一回ONにして、益で損害を埋めたと、報告できるといいな。
自分が死んでも、さとるとあかりが無事ならば、優の産み出した技術は生きる。
サシャをますみに返すことができれば、ホゴラシュの女性にも未来ができる。
だから、メイの目標は、ふたつだけ。
サシャをますみに返すこと。
サーファ・デジュを殺すこと。
シューバ様、か。
ゼルダの跡継ぎで、メイの元婚約者。14歳なのに米国の大学を2つ出ている英才。遅くにできたひとり息子だったこともあり、シューバを生んだ女性を殺した経緯をもつ父親から、溺愛と過干渉と教育虐待を一身に受けながら、幼少期よりホゴラシュと先進国を高速で回りながら育っている。
シューバは、大きくくくればサディストなのだと言われている。
本人の言によると、他人が苦しんでいるところを見るのが好きだそうだ。特に、苦悶の中で手が届きそうな救いに必死で縋りつこうともがき、恨みの中で力尽き、全てをあきらめる時の、あの絶望した目の色が好きだ、と。
ただ、その目的は、性的なものではなく、絶望した目の色をみせてくれるなら男女も問わない。
そしてなにより、壊される交換条件にされた約束は守る律儀な人間だった。
優とシューバも何度も会っていた。
ふたりとも興味の幅が広かったから、シューバの父親がそばにいないときは、いつも会話が弾んでいた。
シューバの父親は、既に70を超えていて、精神が壊れかけた感じのする人だ。
だが、昔は違ったらしい。若くして鉱物資源を売る会社を継いだ後、海水からの脱塩技術をコアに国際競争力をつけて、たった数年でゼルダを大企業にした。内戦が絶えず通貨さえ安定しないホゴラシュで、まともな企業を築いたのだから、驚愕に値する。シューバのような英才だったのだろうし、英雄扱いもされていた。
ただ、50代後半から急に妻や使用人を虐待するようになり、サディスティックな嗜好を大っぴらにするようになり、その結果シューバを授かったと自慢するにいたる。
彼のシューバへの執着は、傍から見ても常軌を逸していた。
優の言葉を借りれば、天才と変態は紙一重?
シューバの父親と優は、お互いがお互いを嫌いなことを知っていたと思うが、表面上は企業人らしく穏やに距離をとった。
優はシューバを気の毒がっていたようだ。
『そりゃ、良くはない、良くはないけど、5歳児が蟻の行列を踏んで歩いたからって、サディスト確定かよ、あのくそオヤジ!』と優が吐き捨てていたのを聞いた。
幼少期から後継者教育とは名ばかりの教育虐待。これから思春期というときには、家庭ではまともに男性機能が働くなった老人の壊れたSM観を押し付けられ、外ではセクハラ訴訟が数百万の国と幼女の人身売買が数万円の国を短いスパンで行き来しながら人脈を広げる。そんな育ちの割にはまともだと、優はシューバをほめていた。
父親の誘導でシューバの玩具にされ、薬物の過剰摂取になった女性が、はじめて病院に移送されたとき、優は皿を割りながら『あの馬鹿、皮膚病のフェネックでも抱いとけ!』と怒鳴った。
優が死ぬのを待っていたように、メイはシューバの婚約者にされた。
虐待死がしょっちゅう起こると敬遠されたシューバの家に、わずかな金で見かけ上の親族に売られたわけだ。
メイも、シューバの父親の趣味と服従を試す実益を兼ねて、自白剤のような薬を撃たれて尋問され、心臓が止まりかけたらしい。
病院に数日入れられたから殺す気はなかったのだと思う。
病院から連れ帰られた後は、そのまま花嫁修業という名のもとに監禁された。
メイが公開刑という極端な方法で放逐されなかったら、死ぬまで監禁生活だったかもしれない。
正直に言えば、あの家に戻ることは怖かった。
どちらかというと、シューバよりシューバの父親が気持ち悪い。
まぁ、他人の恐怖を引き出すために微入り細入りに計算して暴力をふるって来る老人と、恐怖のなにかもよくわからず持たされた拳銃を振り回す子供のどちらが怖いかと考えても無駄な気はするが。
それでも、シューバの父が、いわゆる海外のSM雑誌というものを、たくさん所蔵していて、メイを怯えさせようと無理やりにみせ始めた時の恍惚とした目が、雑誌の写真よりもよっぽど気持ちが悪かったのだ。そして、それを見ているシューバの目は、いつも無表情だった。
ただ、その恐怖を差し引いても、シューバがもつ力は魅力的だ。
そして、優が気にいるだけあって、シューバが賢く律儀なことはメイも認める。
たとえば、シューバは、自分が合意した契約であれば、相手が女性でも弱者でも約束は守ろうとする。契約にあたって、なるべく嘘はつかない。相手の出す条件に価値があれば、自分も価値のある条件で答える。この国では稀有なことだった。
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