痛がり

白い靴下の猫

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37.メイはサーファと真っ向勝負

さとるは、シューバと連絡を取ろうと四苦八苦していた。
敦子経由、ゼルダ経由、ティール経由。
片っ端から試しているときに、本人から連絡があった。
「私に連絡を取ろうとしているのはお前か?メイの件か?」
「そうだ。連絡に感謝する。メイはどうしている?」
「まだ、生きてはいる。お前たちは、サーファ・デジュに含むところがあるか?」
「デジュ?ああ、確かに確執があるが、そっちは今どうでもよくて・・」
「メイにとってはどうでもよくはないようだ」
「デジュとけりをつけに行ったのか?!」
「刺し違えるつもりのようだが、生きて戻ったらなお最悪だ。私と父に自分を切り刻ませる約束を対価にした。私が言うことではないが、逃がせるなら逃がせ」
「場所は?!」
「カウルがもっていた医薬品工場だ。ジャケットについていたイヤホンマイクはそちらで聞けるのか?」
さとるは医薬品工場の位置を検索しながら、武器を詰めながら移動を開始する。
「メイが元電源を切った。入れてくれたとしても、時間的に充電切れだ」
「充電はこちらでした。元電源も入れておいたが役に立つか」
「ありがたい!それなら遠隔でも起動できる」
「私の助言は聞かなかった。仲間の助言で引き返すことを祈っているが・・・こちらの手におちた時にはもうどうにもならない。父は拷問用の別荘だけで周辺国を含めて10以上持っている。奪還は無理だ。恨むなよ」
距離から計算して、メイが自分で引き返さない限り、逃げるのは無理だ。わかるよな?
言外にそう圧力をかけて、シューバからの電話は切られた。
冷たい汗が背中を流れる。
さとるは端末でメイのイヤホンマイクとの接続を探りながら、遠すぎることを知りながらも車を出した。



サーファ・デジュとの交渉アポを入れてもらって、メイは出かけて行った。
どうせ、デジュにはメイの正体がばれて、待ち伏せされている。
こそこそしたところで無駄だ。

案の定、話し合いどころか、建物に入った瞬間から、頭痛がひどい。
部屋の空気にも露骨に薬がまぜられているのがわかる。

「メイ!聞こえるか?屋敷に戻れ!逃げてこい!」
聞こえるはずのない、さとるの声が、耳元で騒ぐ。
あれ?奥襟のイヤホンマイクはもう使えないはず。幻聴、だろうか。
まぁ、どちらでも、良い。
メイはもどるどころかスピードを上げて突入して行く。
「逃げろつってんだ、このバカ娘!迎えに行くから、せめてとまれ!」
答えは、ない。
「メイ、返事しろ、メイッ!」
マイクから、メイの呼吸が異様に乱れていくのがわかった。

どれくらい経っただろう。
マイクからサーファの声が流れた。
「こっちだ、メイ」
さとるの背筋が凍りつく。
「どうした。私だ、さとるだ。」
「さとるさん?」
「そうだ。めまいがひどくてわからないのか?かわいそうに。こっちに来い。楽にしてやる。」
「すみません、あれ?契約を・・大事な時に、」
「大事なこと?大したことは何もないだろう?お前は私に会いに来ただけだ」
「そう、でしたっけ。そう、ですね」
メイ?
語尾が定まらない。意識レベルが下がっているのがわかる。
幻覚幻聴の類だろうか。サーファはまるで自分がさとるであるようにメイに刷り込み、主導権を握っていく。
「起きろ!メイ!そいつに近づくな!」
さとるは必死でマイクに呼びかける。
「はい。いえ。めまいは大丈夫です」
何が大丈夫だ!問題はめまいじゃない!
サーファは片方の眉毛をキュッと上げると、自分からメイに近づいた。襟元のイヤフォンマイクに気づいてむしり取る。
「これか?相変わらず優の道具は高価だな」
そしてマイクに口を近づけていった。
「聞いているのはさとるか?状況の説明がいらないように、これはしばらく壊さないでおいてやる。メイのノウハウは私がもらう。ああ、シューバには契約書はサイン済をすでに郵送したから心配するなと伝えろ。このお荷物な工場を引き取ってくれるなら御の字だ」
体が冷えていく。
ここから何分かかるだろうか。直線距離でも数十キロ。しかも建物に入れば、何重もの防御シャッターがあるだろう。サーファの余裕がそれを物語っている。
さとるが通信をシャットアウトできないのをあざ笑うように、サーファはこれみよがしにメイを翻弄した。
「ほら、遅いぞ」
バシっ
薬のせいでペン先が見られないメイを殴りつけて下を向かせる。
「うっ」
「さぁ、ノウハウピースを吐き出せ。もともとお前には荷が勝ちすぎた。優の失敗だ。俺に返すんだ」
「嫌・・です」
続けざまに打たれて、メイが膝をつく。
「俺は誰だ?」
「さとる、さん」
「そうだ。俺に逆らうな。優より俺を取れ」
そう言いながら。黒い布をメイの顔に巻きつける。
「生き埋めにされた時を思い出すか?母親は随分苦しんだろう。ペンの先を見るのとどっちが苦しい?」
「あ、ぐ」
サーファが布の上からメイの口を抑える。
「償え。お前自身を償うんだ。ノウハウを吐けば、許してやる」
メイの体が硬直する。
サーファはメイの口から手を離し、メイにささやく。
「暗闇で反省するか?お前のせいで死んだ者たちをおもいだせ。ますみも同じ目にあわせてやろうか?」
「さとるさん、やめて・・」
「なれなれしく呼ぶな。やくたたず。夫には様をつけろ」
「さとる・・さま」
「そうだ、やればできるじゃないか。」
サーファは黒い布をほどいた。そして、冷や汗にまみれて目の焦点が合わないメイの耳元に、打って変わって優しげな声で囁く。
「さとるに捨てられたくないんだろう?早く役に立つところを見せろ」
メイの髪の毛を乱暴に引き絞って上を向かせ、キスをする。
「ん・・」
「いい子だ。役に立てばそばに置いてやる」
メイが首を何度も縦にふる。
「そばに。一緒に・・」
サーファはニヤリと口の端を上げた。
「お前次第だ」
メイは、這うように机に体を上げ、震える声でいった。
「万年筆を、にぎらせてください。それから、もう一度、触れて・・」
「いいとも」
サーファはメイの持参したペンを握らせ、メイに覆いかぶさった。
その瞬間、バスッと太い弦が切れるような音がした。
サーファの首にえぐりこむようにペンが埋め込まれる。
にじむ血の色の中に、見開かれた目が二つ。
突き出たペンの柄と、メイの顔を信じられないと言いたげに何度も往復する。
そのままサーファとメイは、抱き合うように倒れた。
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