痛がり

白い靴下の猫

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42.自分でやりました

何回もだっこで眠って、親密さが話題に浸透してきたころ、さとるは恐る恐る切り出してみた。
「なぁ。背中の原因になった事件、いまさら中身が気になるって言ったら、軽蔑する?」
好きな男がいたか?
本当は、そう聞きたかったが、とても無理だった。
「いえ、当然かと」
「その、トラウマになってたり、するか?」
「いいえ」
メイが即答する。
さとるは、何度か深呼吸をし、メイの正面から横に回って腰を下ろした。
「教えてくれる?」
「構いませんが、気分が悪くなりますよ」
「そりゃ、気分良く聞く話なはずはないけどな」
「そうじゃなくて、私のことが気持ち悪くなりますよ」
「ならないよ。ならない。絶対」
メイは自嘲気味に笑って首を振り、静かに言った。
「・・・自分で、やりました」
「っ、ええ?!」
「椅子の足折って、切腹、みたいな感じ?どれぐらいやればいいのかよくわからなくって、たぶん、何か間違ったのかな、血が滝のように出て。後から聞くと、滝のよう、は変みたいなんですけど。そのまま部屋の物壊したり細工して、何度か気が遠くなって倒れたら、あちこち打撲してて・・・で、無事、襲われたことに」
「まてまてまてまて、なんでそんな」
「正式に結婚したら、婚家から出られなくなって困るから、ですね。婚約者の父親がアウトなので、放逐してもらう必要があって。でも、その婚約者自身は、割といい人だったんですよね、初夜に粗相があったぐらいだったらもみ消してくれかねない感じだったんです」
公開刑を受けるのわかってて、やったのか?
「・・・サシャは、死にかねなかったって」
「でも、私には、サーファ・デジュの見張りがついていたので。死にかけていても、優さん関連の怪しい行動をすれば、拾われたと思います。仕掛けどきだった」
「なんつー無茶・・」
メイが上着を、肩に掛けなおし、立ち上がろうとする。
「こらこら、どこ行くんだよ」
「頭、冷やしてきます。自分で自分が気持ち悪くなりましたので」
「却下」
これまでの経験上、行き違ったまま離れるとろくなことがない。たとえ散歩の30分でも、たとえトイレの3分でも、だ。
さとるはメイの手を握ってはなさない。
「サーファに触れてと頼みました。バレないようにこっそりキスしたこともあります。不良品だから、品がないんです」
メイが自嘲気味のことを言うから、それを止めるように何度もキスをする。
「ここら辺って、女性の感情表現に厳しい、だろ?それでもメイが、キスしたくなったのって、どんなとき?すごい好きな奴とかいたんだ?」
相手について聞かれると思っていなかったのか、メイが、きょとん、という顔をする。
「すごくキスがしたいとか思ったわけじゃないんです。ただ、なんかタプタプ幸せで、気づいたら髪の毛に唇が触れてたっていうか・・。不愉快でしたか?」
「愉快、じゃない、けど」
他の男の話を聞くのは嫌だが、メイの幸せだった記憶を聞くのは嫌ではない。
「すみません。調子に乗りました。ウォータージェットで出血したとき、私が生意気言ったのに、謝ってくれて、おぶってくれて、驚いて、なんか幸せで。ごめんなさい、もう、しません」
さとるの動きが止まる。
「・・・俺に、したの?」
「髪の毛、だけです。汚したつもりはなくって・・・ごめんなさい、もう」
「もいっかいして」
「殴らないって、いったくせに」
「なんでそうなんだよ、一生やんないってば。ちがくて。なぁ、して?」
「不愉快って・・」
「嫉妬、って知ってる?別の男にしたと思った」
「別の・・そっか、そうですよね。私、ですもんね・・」
「なんだよそれは。そんなこと言ってないだろ。メイのじゃなくて俺の不安の話」
固まるメイの頬と瞼に、手をすべらせながら、さとるがねだる。
「なぁ、俺がどんだけ喜んでるかわかってないだろ。オネガイシマス」
メイは、だれかにオネガイされたのは初めてで。
真っ赤になったメイがぎこちなく動き、さとるの手をとって、指先にそっと唇を当てる。
とたんにさとるはメイを抱きしめた。
「俺のだ。絶対に、俺のだ!メイ、なぁ、メイ、一緒に風呂入ろ。エッチもしよ。毎日一緒の布団でゴロゴロしよ」
「な、なんでそんな話に。一回だけって」
メイが、両腕を伸ばして距離を開けると、
「誤解です、撤回します!何度もしたい、しょっちゅうしたい、メイだけとしたい!」
恥じらいのかけらもないセリフを屈託なく垂れ流しながら、さとるは、メイが誤解のしようもないほど嬉しそうな顔をした。
その顔を見ていたら、メイの涙は勝手に出始めて。
止まらなくて。
「そういう、用途に、呼ばれると思ってなくて。ごめんなさい。傷が、いっぱい」
「たのむから、用途、とか言わないで。メイが好きだ。手を伸ばしてもらえるまで待てなかったからいなくなったと思って、死にたくなるくらい後悔した」
頭を撫でられる。
あの時も、撫でてもらった。
やさしい人、やさしい行為。
「いなく、なったのは・・・」
唇の上に、人差し指がちょん、とのせられてさとるにせりふを奪われる。
「俺が、だめだめな奴で、汚い手でメイの人生に介入しようとして、変な誤解をさせたからだよ。メイを好きなことがわかってもらえないような側に居かたをしたせいだ」
頭をなでていた手が肩に下りてきて、目が合う。
洗脳、とかってひょっとすると気持ちいい、のかもしれない。
「さいみん暗示?」
「どこがだ。明示、だろ、明示してる。メイが好きだ」
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