痛がり

白い靴下の猫

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52.ぺんぺんしますか?

2日ほどたって、またシューバが訪ねて来た。
いつもはあかりのところに直行するのに、今日はメイを探して一緒に物置に入る。
「シューバ様、気持ちいいことって、どれくらい思いつきます?」
「ふむ。風呂に入ると気持ちがいい、部屋がキレイだと気持ちがいい、熱がある時に頭を冷やすと気持ちがいい、契約が成就されると気持ちがいい、早起きすると気持ちがいい?」
「いっぱいですねぇ。流石です」
シューバはメイの唇にじっと視線を注ぎながら聞いた。
「やつに、キスをされて、気持ち良かったか」
「そ、それが、ですね。頭の中と口の中がふやけたみたいになって幸せでもっとっておもうんですが、もっとされると、舌の付け根とか心臓とかお腹のあたりに、ズクズクって苦しさが溜まっていって、涙が出そうになります。少なくても部屋がキレイで気持ちいいとは違くて」
一生懸命しゃべるメイをみながら、シューバも考えこむ。
「女性が気持ち良くなる麻薬を調べていて気になったのだが、正気を保てない程、とか、気がおかしくなるほど、とか、その、狂おしい表現が多くてだな。ひょっとすると、お前いう、苦しいのと幸せなのが一緒になった感じの方が近いのかもしれない」
「確かに、部屋がキレイでも、正気を失ったりしませんよねぇ」
「人間を真っ白で何もない部屋にずっと入れておくと狂うと聞いたことがあるが、それはどう考えても気持ち良くないだろう?」
「そう思います」
「試したいが、私たちがキスするのはまずいな。不貞になるだろう」
「不貞は、嫌です。もともと信じてもらえにくいタイプなので、裏切りたくないです」
「合意する。ほかに、似た感じで、不貞にならないものが思いつけばいいのだがな」
メイは眉間に握りこぶしを当ててしばらく考えていた
「手のひらで、たたく、のはどうでしょう?肌が裂けたり、内臓が損傷するようなのじゃなくて、軽くというか」
「ああ、肩たたきみたいなものか?確かに、マッサージは気持ちいいな。だが、技術によってしまうのではないか?」
「マッサージ、よりは痛め、というか。えーとですね、さとるさんに、ほっぺ叩かれたことがあって」
「・・・つらかったろう」
「いえ、鞭でも棍棒でも石でもなくて、手のひらで叩かれたんです」
「それでも、顔を叩くなど私は良くないと思うぞ」
「あー、それはですね、さとるさんも巻き込まれる距離にいるのに私が自爆用の起爆装置をどうしても手放そうとしなかった挙句のやむなくなので彼に全く落ち度はなく」
「要は、逆さ吊りの上、皮をはがれても文句言えないレベルにお前が先に仕掛けた、と」
「そ、そこまででは。でも、はい、そんな感じです。で、その時は、なんとも思わなかったのですが、幻覚剤のフラッシュバックが出た時にそれを思い出すとすごく楽になるんです」
「たたかれた記憶で?」
「はい。その、シューバ様のお父様のラノンさま、も、サーファ・デジュも、なのですが、私をいためつける時、さとるさんを絡めてくることが多くて。さとるさんの顔になって私を罵倒しながら打ったり、逆に私のせいでさとるさんが打たれてるように思わせたり、ますみさんを害されたさとるさんが私に自分を罰するように命令してあざ笑うとか、バリエーションは色々ですけど」
「・・・お前の、唯一の弱点だったからな」
「弱いのは私のせいなのでそれは仕方ないです。問題はそこではなく。最後、サーファ・デジュにマチンを塗ったペンを刺した時、あいつは、さとるさんの顔だった。」
「仕方がなかろう。敵の攪乱ごときで諦められる覚悟ではなかったのだから」
「でも、さとるさんが私にすごく怒ったとき、あ、叩かれたときですね、殺されるかなぁ、って思ったのに、演技でした。もう認めざるを得なかった。私には、嘘のさとるさんも本物のさとるさんも区別つかない。だから、あの時も、さとるさんを殺したって」
「考え方がすでに、闇深いな。抱きしめてやるのは友情でありか?」
「ふふ。説明長くてすみません。で、本題です。さとるさんの元に戻れた後のフラッシュバックは、本物も偽物も私が殺したさとるさんもグルグルになって、息をするのもつらかった。
怖くて声が抑えられないから、いつもなるべく狭い倉庫に体押しこんで、耐えるんですけど。
でも、叩かれたほっぺ思い出すと、本物は、怒った演技中でもあんなに痛くなく叩いたんだなぁ、って。きっと本物はいるっておもえて、息が、できた」
「なるほど。一般化できるかはともかく、貴重な証言だな」
「一般化、という面では、前に、さとるさんが『お尻ぺんぺんレベルと銃弾で耳吹っ飛ばされかけた挙句棍棒で殴られるのは別』って言ってて。同じ感じですよね。ぺんぺんって、なんか手のひらでたたいている気がしませんか?」
「一理ある。顔よりは尻の方が問題は少ない気がするし、マッサージと打擲の間くらいならまぁ許容範囲だ。たたくのは不貞ではないしな。メイは頭がいい。ためすか」
「はい!不貞じゃありません。ためしましょう」
「今日すこし練習をして、後日の気持ちのよくなる薬で効果が上がるかをみればよい訳だな」
「そう思います。練習ならここでもいいですかね」
「かまわんが、痛すぎたらすぐに言うのだぞ。お前、我慢強すぎて心配だ」
「おまかせください!目的が目的で、ちょうどよいを知るための練習ですから、我慢しません。叩いて、ください」
「わかった」

バキッ!ドガガン!

ものすごい音がして、ドアが見たこともないスピードで、内側にたたきつけられるように開いた。

あ、さとるさん、と、あかりさん。
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