痛がり

白い靴下の猫

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67.日本の雨が好きでした

メイは、頭の中がポカポカして不思議な気分だった。

あの内臓をかきむしりたくなるような痺れや、雷で焼かれているのかと思うようなバチバチは、お風呂でさとるさんに治療されて、いっぱい泣かされているうちに消えて行った。

だから、今は、すごく苦しいとかいう訳ではない。
でも。脚の間に地味な、じわじわが、とまらない。
多分、ものすごい刺激を1時間近く受け続けて、五感がびっくりしてしまったのだと思う。
全身だるいのに、力が抜ききれなくて、足がもぞもぞしてしまう。
でも、もぞもぞしていると余計に、あんなにつらかったはずのいろいろが、すごくあたたかくて甘くて、かわりのきかないものだった気がしてくるから不思議だ。

さとるさんは、お風呂から出た後もだっこで運んでくれた。
メイの方のベッドへ。
さとるさんのベッドをめちゃくちゃにしてしまったから、申し訳なくて片づけたかったのに、さとるさんが全部やってくれてしまう。
その時、さとるさんが、『シーツの替えが数十ある』なんていうから、アンクレットをはずされた時を思い出した。

長い年月、痛覚も感情も鈍いのだと言ってはばからなかった自分に、痛がりだと言ってくれたあの人は、メイに『俺もメイのものだ』と言わせたがった。メイに、他の人のところに行くなと言われるのが嬉しいと言ったのだ。

横を向くと、枕になみだがぱたぱたおちる。
メイは日本の雨が好きだった。優と話すパソコン越しによく雨音が聞こえていたから。
自分も涙を流すのだと知って驚いてから間がないのに、なぜだか涙の音が懐かしい。



「メイ、冷たい水飲む・・・か、って、泣いてるぞ。どうした?まだ体がつらいか?それともなんか嫌なこと思い出したか?」
さとるは慌てたように寄ってきて、メイのベッドに腰かけた。
それからメイの体を起こしてぎゅうっと抱き抱えてくれる。
ぎゅうっとされるのも気持ちいい。
だけど、『嫌じゃなければ抱っこするか?』って聞かれないで、そのまま抱きかかえてもらえるようになったこともうれしい。

「ごめん、ひどくしすぎた、反省してる」
「大丈夫、です。混んでた予定、進み、ました?」
「ほとんど消化、されました。もう一個残ってるけど、多分、知識編でいけるから。今度はひどくしないで、ちゃんと口で説明するよ」
「・・・何にいちばん、怒っていました?」
さとるがメイの髪の毛を優しく梳く。
「怒っていたわけじゃない。耐えられなかっただけ」
きまずそうにさとるが目をそらすので、メイは余計に気になる。
「ハズレがハズレだったことは、よくわかりました、けど、あたりも、いちばん怒ったことも分かりませんでした、よ?」
メイがとまどった顔で首をかしげると、『ごめんなさい、吐きます』って聞こえてきそうな顔で、さとるは口を開いた。
「メイのフラッシュバック、俺が登場人物なの知らなかったし、なんでそうなったかも知らなかった。きらいなはずの狭くて暗い倉庫に自分閉じ込めて、声もれないようにして苦しんで。そんななのに、メイの中にある俺の目印が、殴った記憶だけとか、俺に耐えられるはずないだろう?」

「・・・そんな、こと?」
メイの声は、ちょっと素っ頓狂だったと思う。

『シーツの替えが数十ある』あの時の声がまた聞こえる気がする。
サーファを呼び出そうと私兵のところにリンチされに行って、さとるさんが強引に救出に来てくれた時だ。あの時も、抱っこで浴室に運んでくれた。
でも、あの時は、まだ、さとるさんが「傷を見せろ」というのが怖かった気がする。
治療してくれるためにしか、傷に興味を示さない男性なんて、いないと思っていた気がする。
何をしてもいいから、体を洗うあいだだけひとりにしてくれと、命がけで頼んだあの時から、まだ二カ月位しかたっていない。

唇を吸われる感覚に我に返る。

「メイ、遠くに行きそうな目しないで。あんなお仕置きしちゃうくらい、俺が怖がりなの、知ってるだろう?」
「さとるさんが、怖がり?」
メイの、痛がり、よりさらに変な気がする。
「うん、すごく」
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