67 / 77
67.日本の雨が好きでした
メイは、頭の中がポカポカして不思議な気分だった。
あの内臓をかきむしりたくなるような痺れや、雷で焼かれているのかと思うようなバチバチは、お風呂でさとるさんに治療されて、いっぱい泣かされているうちに消えて行った。
だから、今は、すごく苦しいとかいう訳ではない。
でも。脚の間に地味な、じわじわが、とまらない。
多分、ものすごい刺激を1時間近く受け続けて、五感がびっくりしてしまったのだと思う。
全身だるいのに、力が抜ききれなくて、足がもぞもぞしてしまう。
でも、もぞもぞしていると余計に、あんなにつらかったはずのいろいろが、すごくあたたかくて甘くて、かわりのきかないものだった気がしてくるから不思議だ。
さとるさんは、お風呂から出た後もだっこで運んでくれた。
メイの方のベッドへ。
さとるさんのベッドをめちゃくちゃにしてしまったから、申し訳なくて片づけたかったのに、さとるさんが全部やってくれてしまう。
その時、さとるさんが、『シーツの替えが数十ある』なんていうから、アンクレットをはずされた時を思い出した。
長い年月、痛覚も感情も鈍いのだと言ってはばからなかった自分に、痛がりだと言ってくれたあの人は、メイに『俺もメイのものだ』と言わせたがった。メイに、他の人のところに行くなと言われるのが嬉しいと言ったのだ。
横を向くと、枕になみだがぱたぱたおちる。
メイは日本の雨が好きだった。優と話すパソコン越しによく雨音が聞こえていたから。
自分も涙を流すのだと知って驚いてから間がないのに、なぜだか涙の音が懐かしい。
☆
「メイ、冷たい水飲む・・・か、って、泣いてるぞ。どうした?まだ体がつらいか?それともなんか嫌なこと思い出したか?」
さとるは慌てたように寄ってきて、メイのベッドに腰かけた。
それからメイの体を起こしてぎゅうっと抱き抱えてくれる。
ぎゅうっとされるのも気持ちいい。
だけど、『嫌じゃなければ抱っこするか?』って聞かれないで、そのまま抱きかかえてもらえるようになったこともうれしい。
「ごめん、ひどくしすぎた、反省してる」
「大丈夫、です。混んでた予定、進み、ました?」
「ほとんど消化、されました。もう一個残ってるけど、多分、知識編でいけるから。今度はひどくしないで、ちゃんと口で説明するよ」
「・・・何にいちばん、怒っていました?」
さとるがメイの髪の毛を優しく梳く。
「怒っていたわけじゃない。耐えられなかっただけ」
きまずそうにさとるが目をそらすので、メイは余計に気になる。
「ハズレがハズレだったことは、よくわかりました、けど、あたりも、いちばん怒ったことも分かりませんでした、よ?」
メイがとまどった顔で首をかしげると、『ごめんなさい、吐きます』って聞こえてきそうな顔で、さとるは口を開いた。
「メイのフラッシュバック、俺が登場人物なの知らなかったし、なんでそうなったかも知らなかった。きらいなはずの狭くて暗い倉庫に自分閉じ込めて、声もれないようにして苦しんで。そんななのに、メイの中にある俺の目印が、殴った記憶だけとか、俺に耐えられるはずないだろう?」
「・・・そんな、こと?」
メイの声は、ちょっと素っ頓狂だったと思う。
『シーツの替えが数十ある』あの時の声がまた聞こえる気がする。
サーファを呼び出そうと私兵のところにリンチされに行って、さとるさんが強引に救出に来てくれた時だ。あの時も、抱っこで浴室に運んでくれた。
でも、あの時は、まだ、さとるさんが「傷を見せろ」というのが怖かった気がする。
治療してくれるためにしか、傷に興味を示さない男性なんて、いないと思っていた気がする。
何をしてもいいから、体を洗うあいだだけひとりにしてくれと、命がけで頼んだあの時から、まだ二カ月位しかたっていない。
唇を吸われる感覚に我に返る。
「メイ、遠くに行きそうな目しないで。あんなお仕置きしちゃうくらい、俺が怖がりなの、知ってるだろう?」
「さとるさんが、怖がり?」
メイの、痛がり、よりさらに変な気がする。
「うん、すごく」
あの内臓をかきむしりたくなるような痺れや、雷で焼かれているのかと思うようなバチバチは、お風呂でさとるさんに治療されて、いっぱい泣かされているうちに消えて行った。
だから、今は、すごく苦しいとかいう訳ではない。
でも。脚の間に地味な、じわじわが、とまらない。
多分、ものすごい刺激を1時間近く受け続けて、五感がびっくりしてしまったのだと思う。
全身だるいのに、力が抜ききれなくて、足がもぞもぞしてしまう。
でも、もぞもぞしていると余計に、あんなにつらかったはずのいろいろが、すごくあたたかくて甘くて、かわりのきかないものだった気がしてくるから不思議だ。
さとるさんは、お風呂から出た後もだっこで運んでくれた。
メイの方のベッドへ。
さとるさんのベッドをめちゃくちゃにしてしまったから、申し訳なくて片づけたかったのに、さとるさんが全部やってくれてしまう。
その時、さとるさんが、『シーツの替えが数十ある』なんていうから、アンクレットをはずされた時を思い出した。
長い年月、痛覚も感情も鈍いのだと言ってはばからなかった自分に、痛がりだと言ってくれたあの人は、メイに『俺もメイのものだ』と言わせたがった。メイに、他の人のところに行くなと言われるのが嬉しいと言ったのだ。
横を向くと、枕になみだがぱたぱたおちる。
メイは日本の雨が好きだった。優と話すパソコン越しによく雨音が聞こえていたから。
自分も涙を流すのだと知って驚いてから間がないのに、なぜだか涙の音が懐かしい。
☆
「メイ、冷たい水飲む・・・か、って、泣いてるぞ。どうした?まだ体がつらいか?それともなんか嫌なこと思い出したか?」
さとるは慌てたように寄ってきて、メイのベッドに腰かけた。
それからメイの体を起こしてぎゅうっと抱き抱えてくれる。
ぎゅうっとされるのも気持ちいい。
だけど、『嫌じゃなければ抱っこするか?』って聞かれないで、そのまま抱きかかえてもらえるようになったこともうれしい。
「ごめん、ひどくしすぎた、反省してる」
「大丈夫、です。混んでた予定、進み、ました?」
「ほとんど消化、されました。もう一個残ってるけど、多分、知識編でいけるから。今度はひどくしないで、ちゃんと口で説明するよ」
「・・・何にいちばん、怒っていました?」
さとるがメイの髪の毛を優しく梳く。
「怒っていたわけじゃない。耐えられなかっただけ」
きまずそうにさとるが目をそらすので、メイは余計に気になる。
「ハズレがハズレだったことは、よくわかりました、けど、あたりも、いちばん怒ったことも分かりませんでした、よ?」
メイがとまどった顔で首をかしげると、『ごめんなさい、吐きます』って聞こえてきそうな顔で、さとるは口を開いた。
「メイのフラッシュバック、俺が登場人物なの知らなかったし、なんでそうなったかも知らなかった。きらいなはずの狭くて暗い倉庫に自分閉じ込めて、声もれないようにして苦しんで。そんななのに、メイの中にある俺の目印が、殴った記憶だけとか、俺に耐えられるはずないだろう?」
「・・・そんな、こと?」
メイの声は、ちょっと素っ頓狂だったと思う。
『シーツの替えが数十ある』あの時の声がまた聞こえる気がする。
サーファを呼び出そうと私兵のところにリンチされに行って、さとるさんが強引に救出に来てくれた時だ。あの時も、抱っこで浴室に運んでくれた。
でも、あの時は、まだ、さとるさんが「傷を見せろ」というのが怖かった気がする。
治療してくれるためにしか、傷に興味を示さない男性なんて、いないと思っていた気がする。
何をしてもいいから、体を洗うあいだだけひとりにしてくれと、命がけで頼んだあの時から、まだ二カ月位しかたっていない。
唇を吸われる感覚に我に返る。
「メイ、遠くに行きそうな目しないで。あんなお仕置きしちゃうくらい、俺が怖がりなの、知ってるだろう?」
「さとるさんが、怖がり?」
メイの、痛がり、よりさらに変な気がする。
「うん、すごく」
あなたにおすすめの小説
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
月弥総合病院
僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
番外編更新中です!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。