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21☆あいつら引っかけられないかな
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バウは最近ツイていなかった。特に金銭面で。
国境に根を張っていれば、厄災に会うのは仕方がない。
そんなときは、ひたすら逃げて逃げて逃げまくる。そのために、大切なものは増やさないで、金目の物は身に着けて。そんな生活に慣れていたはずだったのに。
今回の厄災はひどすぎた。
風呂に入っている時に、瞬間移動のように現れて、宿ごと瓦礫の山になった。
裸のまま這い出す羽目になったバウは無一文。貴重品袋は千切れて燃えた。
「あいつら、こないだの厄災ですっげぇ稼いだだろ・・・カモにできないかな」
だからと言って、他人の金を狙っていい理由にはならないのだが。
しかも、厄災をしのいでくれた恩人をカモにしようというのはあまり褒められた話ではない。それでも、恵まれた奴は窮した奴にカモられるべきだとパウは思っていた。
「サウラとユナの姉弟?やめとけ、足しても成人にならねぇような年で親に捨てられて、自力で生き延びて来た叩き上げだぞ。甘く見ない方がいいって」
かろうじて筋肉のつき方が少年っぽいかもという位で15には到底見えない目つきをしたサウラと、妹にしか見えないのに20近いという噂のユナは、今回の厄災で一躍有名人になった。
それほど今回の厄災は、えげつなかった。
見た目は禍々しい死体のボールで、行動原理は、ひたすらに増殖ねらい。
魔物も人ものべつまくなしに引き寄せる。
おまけに瞬間移動ができて、国内に18ある国境の町に、好き勝手出没した。
国境は、魔物の領域と人の領域を分けるために存在している。
国軍は、魔物を人が住む国から追い出すために存在している。
そう思い込んでいた我が国は、魔物をはるかに凌駕した厄災の、縦横無尽な攻撃に到底対処できなかった。
国軍の兵士は欠片も役に立たず、いつ出るかわからない厄災に怯える国境街は孤立した。
それでも、国境の町は、厄災からの自衛のために、おのおの凄腕の能力者を囲っているものだ。ヒーローとして華々しくもてはやしている町もあれば、ひっそりこっそり隠している町もある。
この街、クェリテは、ひっそりこっそりの後者だが、おそらく、18ある国境街の中でも1、2を争うような自衛能力を持っている。時間さえ稼げば、きっと。その信頼だけが、人々の正気を保っていた。
そんな中で、凄腕どころか能力者とも認識されていなかった、ユナとサウラの姉弟が、厄災の瞬間移動の規則性を見つけた。姉弟は、規則性の内容を一生懸命説明しようとしたが、幼少期から風呂で素数の平方数を5桁まで数えるようなやつらの数学講義など聞くだけ無駄で。
理屈はいいから民間人の避難を誘導しろと言うことになり、みごとに厄災の通り道から人間をどけて見せた。
がりがりと音を立てて、何十枚もの紙を真っ黒にして計算をする姉弟を、町の有力者が御輿にのせて町長のいる建物に運んで行って。その後数日で、厄災は瞬間移動の先を次元の狭間に誘導されて消えた。
まさしく英雄。厄災ですっからかんになっても、年配のピエタはバウを諫める側にまわる。
あの件で、姉弟にどれだけ報酬が与えられていようが文句を言う気になどなれない、と。
確かに、あの厄災では、命があっただけでラッキーだ。あれは、厄災の中でも異常だった。
あきらかにこの世の者ではないどろりとした喜悦の塊が、人だけでなく動物も魔物もお構いなしに折りたたんで、骨が折れるメキメキという音で、音楽を奏でた。
ピエタは、サフラとユオが、ソレに向かっていったのを見ていた。能力者でなければ死んでいるはず。それなのに、厄災が去った後でもあの二人は生きている。
町が彼らを隠しているならば詮索はしないし、バウに教えてやる義理もないが、あの姉弟の活躍は、絶対に紙に計算を書いただけではない。感謝こそすれ、あがめこそすれ、まちがっても、敵に回すべきではないのだ。
それでも詐欺師を生業として来たパウの煩悩はとまらない。
「たまたま、厄災で駆り出された兵士と悶着しているのが聞こえた。姉弟じゃないらしい。言うほど年の差があるとも思えないし、つけ込む隙はあると思うんだ」
バウは、大金が入ったグループのメンバー同士を疑心暗鬼にさせて、不安につけ込んでその金をかすめ取る。その手の詐欺で自分の右に出る者はいないと自負してきた。
もちろん、相手の戦闘力が高い可能性を考えないわけではないが、自分が振るわれる訳ではないから関係ない。
なにより、パウの経験上、彼らはアンバランスなのだ。
財布を握っているのは姉役のユオで、サフラは完全に尻に敷かれている。が、あきらかに、サフラの方が強いし、パーティを組みたい男も、狙っている女も多いのだ。
血気盛んな十代の男が小姑に不満がないはずがないのでは?
妄想がとまらないバウに、ピエタの呆れたような声音が降りかかる。
「わかった、姉弟じゃなく、同じ孤児院から逃げた他人だと仮定しようや。で、そいつらが今回の町を救ってくれた。何か変わるか?」
それを聞いて、バウはピエタを引き込むのは諦めることにする。
他に、適任者がいるはずだ。
サフラが分かりやすくモテる一方で、ユオはそこまでではない。が、数として多くないだけで、ユオにディープに執着している奴は絶対的に存在している。モテる理由もモテない理由も同じだ。ユオの見かけが、年に比して幼すぎるから。
それこそ詐欺では?と思うほど。何年もほとんど背が伸びた気がしないし、透きとおるような薄い体と白い顔は、ぱっと見病弱。言動がパワフルで、剣の腕まであるからごまかされてしまうが、そう言う好みのやつが見れば垂涎。バウとて、ユオが好みじゃないとはいいがたい。
ここはひとつ、ユオをサフラから引きはがしたがっている男と組みたいところだ。
国境に根を張っていれば、厄災に会うのは仕方がない。
そんなときは、ひたすら逃げて逃げて逃げまくる。そのために、大切なものは増やさないで、金目の物は身に着けて。そんな生活に慣れていたはずだったのに。
今回の厄災はひどすぎた。
風呂に入っている時に、瞬間移動のように現れて、宿ごと瓦礫の山になった。
裸のまま這い出す羽目になったバウは無一文。貴重品袋は千切れて燃えた。
「あいつら、こないだの厄災ですっげぇ稼いだだろ・・・カモにできないかな」
だからと言って、他人の金を狙っていい理由にはならないのだが。
しかも、厄災をしのいでくれた恩人をカモにしようというのはあまり褒められた話ではない。それでも、恵まれた奴は窮した奴にカモられるべきだとパウは思っていた。
「サウラとユナの姉弟?やめとけ、足しても成人にならねぇような年で親に捨てられて、自力で生き延びて来た叩き上げだぞ。甘く見ない方がいいって」
かろうじて筋肉のつき方が少年っぽいかもという位で15には到底見えない目つきをしたサウラと、妹にしか見えないのに20近いという噂のユナは、今回の厄災で一躍有名人になった。
それほど今回の厄災は、えげつなかった。
見た目は禍々しい死体のボールで、行動原理は、ひたすらに増殖ねらい。
魔物も人ものべつまくなしに引き寄せる。
おまけに瞬間移動ができて、国内に18ある国境の町に、好き勝手出没した。
国境は、魔物の領域と人の領域を分けるために存在している。
国軍は、魔物を人が住む国から追い出すために存在している。
そう思い込んでいた我が国は、魔物をはるかに凌駕した厄災の、縦横無尽な攻撃に到底対処できなかった。
国軍の兵士は欠片も役に立たず、いつ出るかわからない厄災に怯える国境街は孤立した。
それでも、国境の町は、厄災からの自衛のために、おのおの凄腕の能力者を囲っているものだ。ヒーローとして華々しくもてはやしている町もあれば、ひっそりこっそり隠している町もある。
この街、クェリテは、ひっそりこっそりの後者だが、おそらく、18ある国境街の中でも1、2を争うような自衛能力を持っている。時間さえ稼げば、きっと。その信頼だけが、人々の正気を保っていた。
そんな中で、凄腕どころか能力者とも認識されていなかった、ユナとサウラの姉弟が、厄災の瞬間移動の規則性を見つけた。姉弟は、規則性の内容を一生懸命説明しようとしたが、幼少期から風呂で素数の平方数を5桁まで数えるようなやつらの数学講義など聞くだけ無駄で。
理屈はいいから民間人の避難を誘導しろと言うことになり、みごとに厄災の通り道から人間をどけて見せた。
がりがりと音を立てて、何十枚もの紙を真っ黒にして計算をする姉弟を、町の有力者が御輿にのせて町長のいる建物に運んで行って。その後数日で、厄災は瞬間移動の先を次元の狭間に誘導されて消えた。
まさしく英雄。厄災ですっからかんになっても、年配のピエタはバウを諫める側にまわる。
あの件で、姉弟にどれだけ報酬が与えられていようが文句を言う気になどなれない、と。
確かに、あの厄災では、命があっただけでラッキーだ。あれは、厄災の中でも異常だった。
あきらかにこの世の者ではないどろりとした喜悦の塊が、人だけでなく動物も魔物もお構いなしに折りたたんで、骨が折れるメキメキという音で、音楽を奏でた。
ピエタは、サフラとユオが、ソレに向かっていったのを見ていた。能力者でなければ死んでいるはず。それなのに、厄災が去った後でもあの二人は生きている。
町が彼らを隠しているならば詮索はしないし、バウに教えてやる義理もないが、あの姉弟の活躍は、絶対に紙に計算を書いただけではない。感謝こそすれ、あがめこそすれ、まちがっても、敵に回すべきではないのだ。
それでも詐欺師を生業として来たパウの煩悩はとまらない。
「たまたま、厄災で駆り出された兵士と悶着しているのが聞こえた。姉弟じゃないらしい。言うほど年の差があるとも思えないし、つけ込む隙はあると思うんだ」
バウは、大金が入ったグループのメンバー同士を疑心暗鬼にさせて、不安につけ込んでその金をかすめ取る。その手の詐欺で自分の右に出る者はいないと自負してきた。
もちろん、相手の戦闘力が高い可能性を考えないわけではないが、自分が振るわれる訳ではないから関係ない。
なにより、パウの経験上、彼らはアンバランスなのだ。
財布を握っているのは姉役のユオで、サフラは完全に尻に敷かれている。が、あきらかに、サフラの方が強いし、パーティを組みたい男も、狙っている女も多いのだ。
血気盛んな十代の男が小姑に不満がないはずがないのでは?
妄想がとまらないバウに、ピエタの呆れたような声音が降りかかる。
「わかった、姉弟じゃなく、同じ孤児院から逃げた他人だと仮定しようや。で、そいつらが今回の町を救ってくれた。何か変わるか?」
それを聞いて、バウはピエタを引き込むのは諦めることにする。
他に、適任者がいるはずだ。
サフラが分かりやすくモテる一方で、ユオはそこまでではない。が、数として多くないだけで、ユオにディープに執着している奴は絶対的に存在している。モテる理由もモテない理由も同じだ。ユオの見かけが、年に比して幼すぎるから。
それこそ詐欺では?と思うほど。何年もほとんど背が伸びた気がしないし、透きとおるような薄い体と白い顔は、ぱっと見病弱。言動がパワフルで、剣の腕まであるからごまかされてしまうが、そう言う好みのやつが見れば垂涎。バウとて、ユオが好みじゃないとはいいがたい。
ここはひとつ、ユオをサフラから引きはがしたがっている男と組みたいところだ。
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