偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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23☆キルヤ様と飲み会

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コン、ココン

夜中のノックにも拘わらず、その音を聞くと来訪者が誰かを確かめることなく、キルヤは自らドアを開け、3秒かからずにユオを部屋の中に引き込んだ。

「幼児体系が、真っ青な顔色で、酒盗をつまみに訪ねて来るんじゃねーよ!」

「なんつー挨拶ですか。私は妙齢だし、夜で顔は見えないし、今年のつまみは酒盗に加えてチーズもあります」

ぽんぽんと軽快に言い返すわりに、ユオの唇は、深さ50メートルの氷河かと突っ込みたくなるような青色。

「・・・何があった?」

ユオがキルヤを訪ねてくるのは、どんなに多くても年に1度だ。2年近く音沙汰がない時だってあった。ユオの顔色は毎度悪いが、今年はことさらにひどい。

こいつは、3年前焼孔処刑になり、公的に『サフラから』捨てられ認定になった直後に、俺の前に顔を出した。
なぜ助けを求めに来なかったと、怒鳴りつける俺の前で、へらりと笑って、『サフラから』の土産を出したのだ。

サフラに捨てられた事実はないし、考えがあってのことだというアピール。
あー、聞かない、俺は聞かないぞ、面倒な事実なんて、と決意したのを昨日のことのように思い出す。

「大したことではないのですが、聞きたいことが出来まして」

「聞きたい事なら、俺の方が多いぞ。サフラは今度こそお前を手放したわけか?」

そんなはずないよなぁと、目に圧をのせて聞いてみる。

廃棄処分になる前も後も知りたかったが、俺が調べたら他も疑う。
個人的な興味で動くには、こいつらがこうむる迷惑が多そうなので最低限の情報で諦めた。

「まさかぁ。仲良しに決まってるじゃないですか。今もラブラブ師弟ですよ」

ユオはしゃぁしゃぁとそう答えた。

「じゃぁなんでお前がそんなにボロボロだ?お前の捨て駒志願なんて、サフラは許さんと思ったが?」

「クェリテの雲隠れシステムとクローン体が保証期間短めなのを利用して、隠す逃げる誤魔化すを徹底した成果ですね。サフラをごまかすことに関しては我ながら有能です」

はぁ?気づかないハズがないだろうが。怪しすぎて黙り込むと、ユオは俺の質問は終了と判断したようだ。

「では私の番で。生命樹の力について、王家に記録とか残っていませんか?」

は?
あまりに脈絡のない単語に、目が点になる。

「・・・寝かしつけに使う絵本でも探しているのか?」

生命樹の力は、記録というよりお伽話の領域だ。すべての命は生命樹から拡散し、この世が終わるときは、すべての命が生命樹に還るとされる。

「寝かしつけ用にしては、グロじゃないですか?最後は生命樹の力を注がれた死者や生者で大地が覆われて、みんな生命樹になっちゃうわけでしょう?伝染病みたいに」

伝染病だのグロだの、ニュアンスにだいぶ語弊がある。
生命樹の力は圧倒的で、その力を注がれると、病苦は去り、生者は癒され、死者は生かされる。生きとし生けるものが皆自ら生命樹になっていく、というのは、どちらかというと浄土思想だ。

「その顔色でわざわざお伽話の結末にケチつけに来たのか?すべての命が源に還るって話のどこがグロだよ」

「生命樹の立場になってみてくださいよ。人助けしてるうちに、世界中自分だけになってたとか、どえらく寂しくないですか?」

「生命樹は人じゃないだろ」

「生命樹が人じゃないのに、生命樹の力を人が持つことが問題で。王家は、生命樹の鉢分け家系なのでしょう?王子たちにその力宿ったりしてないですか?」

「そんな圧倒的な力を宿した奴がいるなら、毎度王位争いなど起こるか!現存する王族の能力は誰一人非凡って程じゃねーよ。生命樹の力なぞ現実から遠く離れたお伽話だ」

「それが、思ったほど遠くなさそうで、訪ねて来たんですけどね・・」

生命力の欠片もない顔して、何を言ってやがる。

「そんなもんがあるなら真っ先にお前が食え?」

「キルヤ様までそんなこと言います?」

・・・まで、ってことは?

「サフラにも言われたのか?」

ユオは、深いため息とともに頷いた。

「ここ2~3年、私の顔色こんなでしょう?サフラが生命樹の力目指してむちゃくちゃ張り切っちゃって、結構近いとこまで進んでるんじゃないかと」

取り越し苦労も甚だしいというかなんというか。どんだけ弟子ばかでサフラを贔屓目に見ているのかと呆れてしまう。

「心配せずともそんな力は現実にならんわ」

「私もそう思っていましたとも。でも、最近、魔物が温泉入って、合唱したりするんです」

「???国境の天変地異の報告なら、はじめからそう言ってくれ?」

ユオはちょこっと鼻にしわを寄せて、首を横に振った。

「最近サフラが瀕死の魔物をバンバン蘇生する実験を開始。国境のバランスもあるし、師匠の責任として一応調査したところ、蘇生した魔物は攻撃性が抜けてサフラの友達化していました」

・・・

「はぁぁ?!」

一瞬思考停止してしまったあと、内容の異常さに気づいて間抜けな擬音を出す俺に、ユオは目をつぶってもっともらしく頷いて見せる。

「友達が増えるのはいいですが、サフラがいないところでも、サフラが好きな温泉に入って、サフラの好きな歌を口ずさんでるあたりで、サフラ化してんじゃないのか、と」

サフラ化?サフラの力を注がれると、自らサフラになっていくって?

「・・・で、生命樹ってつながるわけか」

「です」

力の性質を探求する前に、政争に与える影響を考えて欲しい。

蘇生、なんてことが本当にできるなら、サフラの力は王子達を束にしたよりよほど強力だ。カイ派もサン派も瓦解するぞ。
いやいやいや、現状、魔物が温泉に入って歌っているだけだよな。まだ見ないふりで行ける気もする?

「とりあえず、お前を元気にさせてから考えろよ」

「それが困る、という話で。瀕死の魔物に行きずりで、力注ぐならまだしも、私、後ろに焼孔開いてますから。ハイピッチで何度も注いだら、サフラ化も早い気がしませんか?」

まさかと思うが、そうなったらサフラが寂しがる、という心配なのだろうか。

「お前、割と思考が残念な奴だな。直近の心配を先にしろ?」

「その理屈で行くと、キルヤ様も崖っぷちですよ?私は、遠からず死にます。焼孔のせいでなくても、クローン体の寿命で。ギリギリまでサフラにとってマイルドな死にざまを目指しますが、かなうとは限りません」

そんな死にざま、あるのか?
いや、ない。少なくともサフラにとっては絶対に。それでも一応言い募ってみる。

「・・・お前を無主物にした時点で、サフラは覚悟しているはずだ」

ユオは、肩をすくめた。

「あー、生命樹の力を得るのが『大変』だ、という点にはご同意を?」

「『大変』ではなくて無理だと言っている」

「サフラが、私の体調がすぐれない原因を、クローン体のリミットだと思って、力の獲得をものすごく急いだ場合、『大変』すぎて中央の動きを追う暇など、ないと思いませんか」

生命樹の力が実在するか否かにかかわらず、諦めの悪いサフラが、生命樹の力を追い求めて他に何も見えなくなるというのはありそうな話ではある。が、サフラは目端の利くガキなのだ。そんな無防備を晒すだろうか?

「中央を一切トレースしないなどリスクが高すぎる。あいつはバカじゃない」

例えばサンとカイが差し違えたら、サフラを傀儡にしようと大量の追手がかかる。いくらクェリテでも、国軍が押し寄せたらサフラを隠し切れないわけで、情報戦は生きるのびるために必須だ。

「全員返り討ちにする自信があれば、大したリスクじゃないですって」

「・・・全員?国軍をか?」

こくんと首を縦にふったユオを見て、ぞくっと背筋が冷えた気がする。
もしもサフラが未曾有の力を得ていたら?
中央がユオにしたことを、サフラが知らない等と言うことがあり得るのか?

「天才児がちょい偏った天才に育つとか、弟子がずっと師匠大好きなままとか、師匠が賭けに負けるとか、そんなにあり得ない事ですか?」

並べられると、どれもあり得ることな気がしてくる。
昔の二人を知っている俺としては、むしろ順当。
サフラが腑抜けに育って、自分の保身のためにユオを中央の生贄にするより、能力バカに育ってユオの掌でごまかされる方がしっくりくる。

俺の実家は、サン派としのぎを削り、カイを王にするために、既に引き返せないところまで金も私兵もつっこんでいる。

この状態で、サフラが、怒り狂って中央を叩き潰そうと攻めてきたら。
俺の実家は、カイを見捨てて投資をドブに捨てるような決断はすまい。サフラを抑え込める方にかけて徹底抗戦を選ぶ。敵方だって同じだ。

「マジか・・・焦土になるぞ」

「ですよねぇ。それはさすがにご迷惑?って。で、私がサフラの力で生きのびた時の弊害を検証する段階まで煮詰まって、生命樹について聞きに来たわけです」

「・・・ただの治癒能力かもしれないだろう?」

たとえ瀕死の状態から蘇生した魔物が温泉で合唱していようともな!

「先日は、サフラが自分で次元を作って私を招待してくれまして。まぁ、端っこの方は、他の次元の影響をうけて不安定でしたけど、数キロ四方の雪山が丸ごと入っていましたよ」

とても信じられる話ではない。他の次元の動きを見ることが出来るだけでも稀少能力、処刑用に一瞬次元の狭間をひらくのにすら、中央の能力者は4人がかりだ。
それを、作り出す?

「お前の話が本当だったとしたら、なぜ、お前に焼孔があいた?」

そんなサフラが、大事なユオが害されるのを黙ってみているはずがない。

「単に時系列の問題です。生きるだけで精一杯だった頃の私は、中央の目をそらすためなら腎臓位売ります」

「それはお前の決断だろう!サフラが・・・」

・・・サフラが?
サフラより、ユオの方がうわ手だった可能性は?

少なくとも、7才のサフラより12才のユオはしっかり者だった。
ユオがただの食用奴隷のクローン体でないことは、軽く剣を合わせただけで分かったし、サフラがユオに心酔しているのも知っていた。

なぜ、逆転していると思った?
なぜ、ユオが守られる側で、サフラが守る側だと思い込んだ?

ユオが、中央に弱々しい姿を晒したから、それだけだ。
怯え、泣き叫び、サフラの名を呼びながら無力に処断されたと聞いたから。

腎臓売ります、だと?
ユオの演技だった?
そもそも10代前半のサフラを10代後半のユオが誤魔化せたことが、そんなにあり得ない事か?

「有能な師匠にも失敗はありまして。私は生命樹がお伽話な方に賭け、どうやら負けたみたいです」

そう言って。ふてくされたような顔で、ユオは酒をかぱっと空けたのだ。
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