偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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42☆ユオに、なる

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ユオが消えた喪失感で体が焼き切れそうになった自分は、人というより、暴虐の震源地だ。

そんなものを、他人に叩きつけて良いはずがないのに。
よりにもよって、彼女に、叩きつけるとか。

箍がはずれたように、彼女の体をまさぐると、あいつ等をプチプチと潰した後のように、あの荒れ狂う喪失感がおさまるものだから。

彼女に抱きしめられながら、倦んだ熱に彼女を巻き込んだ。本物のユオでないことに、人形だと言ういい訳に、甘えた。

はじめは人形のようだった彼女のしゃべり方が、どんどん、人間らしく、ユオらしく、なっていく。ぽんぽんと軽快に受け答えをして、ユオの記憶を語り、ユオのような表情を、する。

それはもう、ユオ、としか、呼べないひとになっていたのに。
触れるのを、やめられない。

人形、なんて単語を、脳内に引っ張り出すのは、自分の痛みを和らげたいときだけ。
彼女に憤懣をぶつけて嫌われる恐怖を、人形、というワードが薄めてくれるのを期待する。
ユオに触れるためなら、頭の中をどんなにでもゆがめられると思う。

彼女の体が、弱っているのがわかるのに、彼女を触りまわすのをやめられない。
今にも消えてしまいそうなのに。甘えて、キスをして、抱きしめ、触りまわす。

そのくせ、彼女の体からくたりと力が抜けるたびに、体の芯から凍り付く。みっともなくとりみだしては、強引に治癒の力を注ぎ込む。

青い顔で意識を取り戻したユオは、僕をなじることすらしない。

「クレーム係さんが私を補強しなかったら、絶対消えていたのだし、ユオの計画設計が悪いわ。こわれたら、それまでのことだし。すきにしていいよぉ」

我慢できずに、たくさんつけてしまったキスマークと噛み跡。
それを見ながら、ユオは、はふ、とため息をついた。

「ま、腹も立つかぁ。いいよ、怒って。たぶんユオが悪い。鬱憤、晴らしちゃいな」

腹立ちや、鬱憤で、すがりついたわけじゃない。
でも。乾いて、耐えがたくて。
ベッドに広がるユオの髪を握り締めると、勝手に涙が落ちた。

「うゎ、泣かした?謝ります、ごめんなさい!」

あたふたする彼女に、ユオの残像がゆれる。

「謝る?何を?最後ですら僕の顔をみようともしなかったこと?」

そんな、昔のユオへの不満を、彼女にぶつけてどうする気だと、わずかな正気はつぶやくけれど。

「つっこまれましても・・・」

そう前置きをして、ユオは、優しい声で僕をえぐった。

「えーっと、ユオが、最後にあなたの拒絶の顔を記憶に残した理由はわかる。中央政府で表層スキャンされた時に、関係疑われないようにだよ」

思ってもみなかった説明に愕然として体を離すと、ユオの首筋に、ひどく汗が浮いているのに気づく。

反射的に何のセーブもなく力を注ぎ、金色をした自分の力が大量に零れ落ちる。昔のユオと同じように、彼女もサフラの力を拒んだ。

「うわ、なに今の。治癒じゃなくない?それ、危ないヤツって、ユオ教えなかった?」

強すぎる気に触れると、彼女の輪郭が揺らぐ。それが、不安で不安で。
壊れそうに弱々しい彼女が、激情の対象にしかならない。
大切にさせてほしいと伝える機会は、とっくの昔に僕が潰してしまった。

「おーい、こら、聞いてる?その金色の力、そこまで強いと既に治癒じゃないわよ?も、神様枠よ!王を造れる製造機!孤高で至高の最終兵器!何でもできちゃうワイルドカード!」

心底どうでもいい単語がぽんぽん投げられる。だからなんだ?
吸収してもらえずに、零れ落ちるだけのこの力に、いったい何の意味がある?

「なんで、拒んだ?」

本当は、あの頃のユオに、聞きたかった。
魔物の蘇生をする僕を見て、わかっていたはずだ。この力が、ユオの体をどれだけ強く出来るか。
あんな奴らに、ユオを害させる位なら、なぜ・・・

「え?あれ?なんでだろ。もとのユオの条件反射かな?危ないから・・って、ああっ。そう言えばサフラ、ユオに危害加えた奴らどうした?!まさか虐殺した?!」

与えられるのだから、当然奪える。奪ったものを、移しかえることもできる。

「王子二人は、能力抜いて、干してあるよ。乾いたら、タコ焼き器にいれてやる」

くだらない、能力。
適当に王族の能力を抜いて、何度か近くの人間にうつしてやったら、勝手に殺し合い始めた。
あいつらが今どうなっているを知るために、自分がユオの側を離れるなんて、到底考えられない。

「ぐぇ。サイコパス化したわけ?!ユオがやらかした憂さはユオではらしなさいよね。地道に派閥争いしているオジサンたちにあたらないの!」

茶化したもの言いが、気に障る。

背景も事情も分からず、ただ、焼孔と暴力でぐちゃぐちゃにされて、虫の息で、次元の狭間におとされたと聞いた。あの慟哭が、漆黒が、地獄が、憂さだと?

防げたのに。
僕に何も気づかせない方を、優先したユオの。
その憂さを、晴らせ?

憂さ晴らしと、思われることが分かっていても、きっと遠からず、彼女を抱いてしまう。
人形だからとごまかして。

「いまにも消えそうな弱っちさで干渉して、僕に壊されずにいられる時間が、どれほどあると?」

すごんでみても、力を強引にねじ込もうとしても。
ユオは冷や汗が伝う顔からは信じられない軽い口調でかえすのだ。

「も、好きで弱っちいわけじゃないのにヤツ当たるなよ。ぷは、今日は調子悪いや。ここだと長くしゃべれないなぁ」

気の濃い場所が苦しそうなので、サフラは、ユオを抱いて、防御もされていない代わりに気の圧力も少ない、そんな、能力者以外が住む場所に移動した。
聞きたいことがあふれてきて、とても静かに休ませてやれる余裕がなかったから。

「雪山で、なぜ一人で消えようとしました?」

「うわ、いまさら?!初めに聞きゃいいのに。移動に失敗して、形保てなくなっただけよ。でも消えるとこはサフラに見せるなって言われたから、離れとこうと思って」

「それだけ?」

「うん」

「雪に血がのこっていて。なんで逃げられたかわからなくて。・・・苦しかった」

あなたに、会いたかった。

「あは。それで追ってきたのか。優しいなぁ、サフラは。『優しくしてもらえ』は簡単だ。おなか減ったー、寒いー、触ってー?」

立て続けに要求を並べながら伸ばされるユオの手を握った。怖くなるほど冷たくて。さすっても、息を吹きかけても、冷たくて。

部屋を、暖めないと。彼女を、暖めないと。でも、適当に入ったあばら家はがらんどう。
壊れた棚を粉砕して暖炉にぶち込んだけれど、火は小さかった。

「温かいたべものとか薪とか買ってくる。すぐもどるけど、何かあったら呼べる?」

「うん。呼ぶよ。」

自分が着ていた上着を巻き付けてソファに横たえると、彼女はユオそのものの顔で笑う。

いつもいつも、ユオに大切にされているだけの気がしていた。何も与えるものがない空虚は、ユオが強いからだと思っていた。

でも、弱々しく横たわるだけの彼女にも、結局何も渡せない。
奪うだけ。人形だと言い訳をして、自分勝手に奪うだけだ。
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