ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

文字の大きさ
10 / 141

10. 歪むフェルニアの魔力信仰 (ここからしばらく、ミケとシェドことパチドの子どもの頃と、ミケが公妾になるまでのお話になります)

しおりを挟む
フェルニアは、つくづく歪な国だと、シェドは思う。

王族、といえば聞こえはいいが、実情は人権無しの燃料と戦車としか言いようがない。

喜怒哀楽が極上の魔素を産む王妃の家系と、その魔素を喰らって人外の力を得る王の家系。
その力と系譜に縋った信仰が人々をつなぐ。それがこの国のありようだった。

フェルニアは、軍事に優れた魔術師の国と言われるが、特別に高度な魔術が使える人間が出たわけではない。
ただ、出力側の魔力に特化した男と、入力用の魔素に特化した女の能力が別れたものが多く生まれるようになり、それを奇貨として、強引な教育と魔道具の開発により総合的な軍事力を進化させていったのだ。
魔素と魔力があわさって魔術になるのに。
奇形が定着するまでに淘汰圧がかけられ、魔素だけを生まされる王妃家系と、魔力だけを求められる王の家系がえりすぐられて行く。

だから、で片づけてよいものかは謎だが、王族の子どもたちに対する『教育』は、良く言っても虐待、もう少し言うならば、時に虐殺含む、といった様相を呈している。

確かに、王族系の貴族でさえあれば、衣食住は保証される。一応敬われてもいるらしいし、まぁ、教師も優秀なのがつく。勉学やら体術やら、戦術やら外交やらは。
だが、王族として働かせるために、修練という名のもとに魔力と心のありようを強制し、矯正し。そのためにはどんな手段も厭わない。

その象徴ともいうべき『教育』キャンプ。
20年に1度位行われる次代の王と王妃を選ぶイベントだ。
このイベントが当代の大無能王ティムマインを生んだと言うのに、反省の欠片もない。

王族として禄をもらっている家の年頃の子弟は、勝てそうな場合には、事実上強制参加の憂き目にあう。
それが今日からだ。

『教育』キャンプでは、体になじまない魔素もガンガン入れられるし、心身ともに酷使される。
その上、ああ考えろ、こう考えろ。こういう時は、この順番でどう感情を処理しろのと、歴代の王の力が強大化した時のノウハウがあるらしく、それを子弟に強要するためには、鞭だろうが地下牢だろうが、麻薬だろうが洗脳だろうが、何でもありだ。

次代を担える年代の王族の子どもは、男女合わせて十数人。
で、俺、シェド・ルーガは、運悪く、王の家系だ。庶子なので母親の方の家名であったルーガを使っている。

このバカバカしいキャンプになぞかかわらず逃げたかったが、国民やら地域社会やらの狂信的な目に囲まれたイベントとくれば、子どもの力じゃどうにもならない。

『教育』キャンプの参加者をざっと見まわした限り、もう少しで14になる俺はかなり年少な方だとおもう。
参加資格自体は11~17歳の男女、と広めにとってあるが、最終的にはルール無用の潰し合いになり年少の方が不利なので、実際には16、17の参加者がほとんどだ。

やる気のあるやつもいたし、もとの魔力や魔術力が多いやつもいた。
真剣に王や王妃を狙っている奴もいれば、子どもがキャンプに参加することで家族に支払われる金銭狙いの奴もいた。
真っ青なやつもいれば、向いていなさそうなやつもいて、当然俺は、自他とも認める、向いていなさそうなやつだ。

年齢的なハンデだと思いたいが、現状、我ながら体が小さく、筋力的にも弱っちい。
もとの魔力量だけは母親が心配する程多いものの、魔力のめぐりが悪いので裏目にでて、ちょっとしたことで、熱が出るわ倒れるわ。
加えて体質的に魔素のえり好みが激しいらしく、薬レベルでも相性の悪い魔素をぶち込まれると、簡単に死に損なう。

こんな使い勝手の悪い体で、教育虐待イベントに放り込まれるとか、誰得だよ。
母親はまた二人で逃げてしまおうと誘ってきたが、王の愛人と庶子として禄が支給されている以上それもどうかと思ったのだ。

あー、やだやだ。べつに王になりたいと思ったことはないし、なるべく罰を受けずに手をぬいてでやりすごせ・・・ないだろうなぁ。

この『教育』キャンプが終わった時には次の王と王妃がきまっていているが、これまでの結果から言うと、『教育』キャンプに放り込まれた子どもの半数は「壊れる」。

生き延びたやつも、中身が「壊れて」ないかは怪しい所だ。そんなキャンプで選んだ男女を機械的につがわせたところで夫婦仲は期待できないわけで。

王も王妃も代々、そこそこ力の強い血筋の貴族相手に好き勝手に愛人を作って子種ぶちまけ大会をかましているが、産まれる子供の数は減少の一途。魔力量や魔術量の多い子どもの数にいたってはさらに悲惨だ。
流石にこれ以上減ると、近しい親族に当たるんじゃないかと心配になる程。

それなのに、昔ながらのやり方で子どもを壊しまくるのだから非効率としかいいようがない。誰か止めろよと思うが、よってたかって、栄光は試練を乗り越えた者に!とか根拠のない根性論で押してくる。
これが有名な生存者バイアスってやつだろうか。

マジにつき合いたくないが、俺の場合、ぶちまけられた子種かつ生物学的な父親が王なわけで、どうにもならない。そのくせ諸事情あって病弱設定だったせいで、周りの子どもをほとんど知らない。

前に立って何やら解説をしているじいさんは、二十数年ぶりのイベントに感極まって涙をたなびかせながら演説中。苦しくとも耐えぬいてこそうんぬんかんぬん。飲まず食わずで魔物の檻に入って三日三晩?お前がやれよ。

俺からすれば「けっ」としか反応しようがない修練の話に、斜め前に立っていた15~6の男が冷や汗たらしながら、しゃがみ込んだ。
と、そいつの影になってみえなかった俺よりもさらに小さい女と目があう。
視界が開けたのを幸いと、きょろつき始め、俺を見つけると、全開でニコーっとわらった。

あー、コイツも放り込まれたのか。
多分、おれより『教育』に向いてない人間がいるとすればコイツだ。
ミケ・レンネル。王妃家系だ。俺より3つも年下だからどうみても最年少。

こいつとは、隠れ場所の趣味が似ているようで、何度か鉢合わせた。
俺は単純に嫌いな授業から逃げて、気に入った大人から借りた本で独学していただけなのだが、ミケはたいていギャン泣きを隠しに飛び込んできた。
そりゃそうだろう。
王妃家系の女の喜怒哀楽は極上の燃料なのだ。他国に一滴でも与えたくないと大人たちが考えてしまうような、えらく濃い魔素がとれてしまう。

そんなわけで、涙一滴でも敵に渡すことは許されない、とばかりに徹底的に自分の感受をコントロールするように躾られる。
・・・はずなのだが、喜怒哀楽が激しいくせに、要領の良いコイツは赤ん坊の頃から数分なら完璧なポーカーフェイスができるので。

周囲の大人を誤魔化したおし、躾と称して押し付けられる数々の無駄なルールをすり抜けて、なかなか感情豊かに生息している。

そのくだらない特技のポーカーフェイスを生かして、シェドのいる隠れ場所まで飛び込むと、泣くわ笑うわ飛び跳ねるわ。
死んだように凪いだ顔しか見せない貴族の中で、生きていくのにすら向いていない生き物といって過言ではない。

シェド個人としてはずいぶん楽しませてもらった。
が、こんな公衆の面前で笑うな馬鹿者。ここは隠れ場所じゃないぞ。
俺は手を下げたまま右手の親指を握り込む。落ち着け、顔戻せ、のサイン。
ミケは表情を消して前を向いた。

大丈夫、なんだろうか。
ミケは年のわりには要領が良いし、魔素の量も格段に多いが、ストレートな性格はいかんともしがたい。

教育キャンプには、感情をうつす魔道具やらも使われるし、洗脳もどきの感情同調とかも強要されるに決まっている。
ミケがミケのままふるまえば当然、そうでなくても年齢と血筋だけで、真っ先に標的になってしまう。
教育キャンプはデスゲーム系の乱闘イベントで、体が小さいとか、幼いだけで不利なのだ。
制限年齢ぎりぎりに下ぶれなんて、普通の親ならまず出さない。

まぁ、ミケの親は普通とは到底言えないのだが。

はぁ。はじまってしまったものは仕方がない。こいつをフォローできるなら、此処にいるのも無駄ではないと思おう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Calling

樫野 珠代
恋愛
住み込みのメイドとして働く朱里、25歳 次に雇われて行った先は、なんと初恋の相手の実家だった。 あくまでメイドとして振る舞う朱里に、相手が取った行動は・・・。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する

獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」 〜 闇オク花嫁 〜 毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、 借金を得た母の言葉を聞き、 闇オークションへ売られる事になった。 どんな形にしろ借金は返済出来るし、 母の今後の生活面も確保出来る。 そう、彼女自身が生きていなくとも…。  生きる希望を無くし、 闇オークションに出品された彼女は 100億で落札された。 人食を好む大富豪か、 それとも肉体を求めてか…。 どちらにしろ、借金返済に、 安堵した彼女だが…。 いざ、落札した大富豪に引き渡されると、 その容姿端麗の美しい男は、 タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、 毎日30万のお小遣いですら渡し、 一流シェフによる三食デザート付きの食事、 なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。 何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……? 表紙 ニジジャーニーから作成 エブリスタ同時公開

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

聖女を解雇された私のハーレム奮闘記

小村辰馬
恋愛
聖女として召喚されて3年が経過したある日、国の邪気は根絶されたので、城から出ていくように告げられた。 ついでに新たな命として、隣国の王子の妃候補として、住み込みで入城するよう言い渡される。 元の世界へ帰ることもできず、かと言って働きたくもない。というか、王宮で散々自堕落を繰り返していたので今更働くのとか無理! だったら入ってやろうじゃないのハーレムへ! 働くことが嫌いな怠惰な主人公が、お付きの騎士と一緒に他国の女の園で頑張ったり頑張らなかったりするお話。

処理中です...