ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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52. 愚策の報い

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ちょっとだけ、自嘲気味になってしまった私を、ルカは、意外そうに見た。

「・・・。俺、水晶と蛍石が一緒に固まってるのを見たことあるけど、キレイだったよ」

「?共生結晶?そりゃ、キレイでしょうよ。そんな事より、あんたが王を狩ったら、ムーガルは、新生フェルニアが簒奪やったって吹聴するわよ、業腹な。私がやるわよ」

「はぁ?あのな、隠しているみたいだけど足が悪いだろ、おねー様。王は腹が立つほど努力家だから剣の腕はそこそこいいぞ。ムーガルの護衛もついているだろうし。俺が行くのが一番勝ち目が高い」

まぁ、正論ではある。が、内通者でもいない限り、その勝ち目は五分五分だ。

「はん、仲間も呼ばず、魔素回廊通ってひとりで行くって?むこうみずな弟だなー」

「だって、アイツまたすぐ隠れるぞ。時間たつほどウチが不利に・・」

私は、自分の口の前に人差し指を立てて、バッグを探る。確かここら辺に・・・あった。

小指の先ほどの隷属用の魔道具と、小さなとげとげの鉄の玉。
ルカがなんだ?とばかりに覗き込んでくるのをいなしながら、右の手のひらに握り込んで、魔素を流す。
さぁ、起きて。お前の主に声を届けなさい。

それから、自分の右こぶしに唇をつけ、切なげに言ってやる。
「王様。お願いです、ライヒ様のもとに、いかせてください。王様ではだめなのです、ライヒ様、ライヒ様」

いきなり一人寸劇を始めた私をいぶかしげに見ながらルカがきいてくる。

「???ライヒって、ひょっとして、あれか?ムーガル軍の猛将の、血だるま製造機?」

「たぶんそれだわ。王より強いでしょ?」

「そりゃ、格違いだろうけど。身内のムーガル軍からさえ狂犬扱いされている位だから扱いが・・」

「簡単、だったわね、扱い」

手のひらの中で鉄の玉が震えはじめたのを確認して、ミケの口の端が上がる。

もう一度右の拳に唇を当て、喘ぎ声交じりにダメ押し。

「ああ、きもちいい。子宮が痺れています。お願いです、此処へきてください。私を奪って、思う存分責め嬲ってぇ」

びくぅ、とルカの肩が上がった。

「な、な、なんつー声だすんだよ!」

いきなり喘ぎ始めた私にドン引きしたルカが、自分の額と私の額に手のひらをあてる。
熱を測っている場合か。

「さぁ、急ぎましょう。魔素回廊通って王城の玉座まで『応援』に行くだけだから、1時間もかからないわね」

私は、ルカの手を引いて走り始めたのだが、足を気遣われて、おんぶにされてしまった。
確かにその方が早いので、やむなく私はルカの背にくっついたまま、事情をかいつまむ。

「要はライヒがミケに溺れて王を害するってか?要職にある大佐が?ムーガルの面目を丸つぶしにしてでも?」

一種の恋愛なのか?と首をひねるピュア系ルカへの説明は割とむつかしい。

「えーと、度を越した変態が、衝動制御障害の発作で暴れていると思った方が近いかも」

「度を越した変態・・・。初雪の雪合戦のように吐しゃ物やら排泄物やらを投げ合って、きゃっきゃ、うふふと喜ぶとか、そーゆーやつか?」

「何というか、文学的な表現の割に想像したくないけど、まぁ、それでもいいか。ライヒは、比類ないその雪合戦相手を奪われて半狂乱だったから、ちょっとの魔素でも操りやすいの。もう少しライヒの脳内に踏み込むわ」

「どうやって・・・」

と問うルカの質問に、説明ではなく実践で答える。

「はやくぅ。もう、待つのは辛すぎます。王様はやさしいだけで嫌なの、ライヒ様が虐めてぇ。ああ、ああん、もっとぉ」

「た、頼むから、耳元でそういう声をだすなーーー」

おぶわれたままであるので、ルカの背に密着して、彼の耳元で喘ぐことになるわけで、申し訳ないとは思うが、いかんせんライヒの動きが速くて猶予がない。

1度自分の魔素が通ってしまえば、大した力でなくともその魔道具に魔力を送ってくる人間を辿ることは容易で、いまやライヒの動きは手に取るようにわかる。

ライヒは、小鼻を広げてはぁはぁ言いながら、金で集めたごろつきを20人近く引き連れ、剣を3本もさして王城に乗り込んだところだ。

もちろん王城には多くの兵が配されている。だが、彼らにしてみれば、上司がいきなり20人ほどの怪しげな男たちを引き連れて乱入してきたのだ。
どう見ても通常の登城ではなく、かといって、クーデターを疑うには人数が少なく、連れている男たちもごろつきだ。
止めるべきか通すべきかすら判断がつかず、グダグダのまま押し切られる。

ティムマインの王座からの演説は、さっき終わったばかりだ。
おそらくまだ玉座に座っていることだろう。

逃げようとしても、魔素迷宮は、この私が通さない。
正面からはライヒがおしかけている。
裏から逃げようとすればルカとかち合う。

迷宮を抜けて、王の間に向けて、階段を駆け上がるルカの背で、いまや完全に私の魔素にとらわれたライヒの脳に、何度も繰り返す。

「王を殺して、王を殺して、王を殺して」

私とルカが王の間についた時には。
ごろつきと衛兵が派手にぶつかる中、大ぶりの剣を両手に掲げたライヒが、肩から血を流したティムマインを踏みつけ、ミケを出せと喚いていた。

ティムマインについていた監視兼護衛は数人で、部屋の中の殲滅はライヒだけでおつりが来たようだ。

ムーガル首脳部への襲撃ならともかく、長らく消息どころか生死不明だったティムマインへの襲撃など、備えるに値しなかったのだと思う。

ティムマインを殺したいだろう新フェルニアの為政者は魔素の谷を隔ててはるかに遠いというこの状況で。極秘に手中にしていた敗戦国のお飾りを、完全に制圧した王城で会見させる。そんなイベントにつけられる人員など、私が考えたって、せいぜい5人か10人か。

それに比べれば、ライヒの雇った私兵の数は多かったのだ。
ライヒの私兵と、城の衛兵が状況も把握できないままもみ合いになっており、だれも、私たちを気にできる状態ではない。

私は、ゆっくりと部屋の壁を伝ってライヒの前側に回り込んだ。
そして、ただ、指揮者のように、腕を振ったのだ。上から下に。

ライヒは何の抵抗を見せることもなく、踏みつけたティムマインに向かって二本の剣を振り下ろした。

ザシュッ
ガリッ

何のひねりも溜めもなく、ティムマインの首がちぎれた。

だれもが、ライヒすら、ルカすら、呆然とする中、私は魔道具とライヒから自分の魔素を抜き取った。
大した魔術師がいるとは思えないが、念のためだ。

あとは、鉄の玉と隷属の魔道具を王の間の床に転がしたら証拠隠滅完了、のはずだったのだけれど、右手を緩めると鉄の玉の棘が掌を抉ってしまったようで、二つとも血がついている。

こそこそ、ひそひそ
「ルカ、念写できるよね。ちょっとグロだけどティムマインの写真いるんじゃない?あと、悪いけど、この血、魔力でどけられる?物証残したくないのだけれど」
「血ぃ?うわ、手、真っ赤だぞ、いつの間にケガしたよ。あ、写真は既に、タイムラプスでたっぷりあるぞ」
そう言いながら、魔道具ふたつをコンと弾いて綺麗にしてくれる。
やっぱこの子器用よねー。なんで治癒だけあんなに下手なんだろう。

なんて、なごんでいる間に、数秒経っちゃって。
「っ、ミケ・・・っ」

やば。ライヒと目があった!
魔素抜くのが早すぎたな。

半分は正気にもどったライヒの視線が、自分の剣の先でこと切れているティムマインと、ルカに腰を抱かれている私のあいだを、何度も行き来する。

「ミケッ、き、さまぁーっ!」

あは、思ったより馬鹿じゃないのかしら。
自分が今、まずい立場にいることと、私がライヒを求めていない事位はわかったようだった。

「抉り殺してやる!!」

ライヒの咆哮と共に、鉄の玉は私の手を離れ、隷属の魔道具を跳ね飛ばし、「魔ポップコーン1粒で100回はじけます」的な看板を出してやりたくなるような勢いで弾け回った。

私兵も衛兵も大慌てだったけれど、衛兵に組み付かれて暴れるライヒは、右手にぶら下がっていたひとりを投げ飛ばし、背中に一本残った剣を抜いて、私に向かって投げた。

身をかわして避けようとした私の動きを、まるでダンスのステップでも踏むように加速させて、ルカは私を自分の背にポンと乗せた。
あはは、ナイスコンビネーション。
私、今一瞬飛ばなかったかしら。

あとはもうこの頼れる弟にしがみついていただけ。

逃げる、逃げる、逃げる。

「足、縮めていろよ!」
そう叫ぶと、私をおんぶしたまま、使用人用の裏階段の手すりにまたがり、滑空するように滑り降りた。

そして、地下に行きつくと、魔素回廊にどぶんと飛び込んだのだ。

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