手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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2 彼女は世界の半分だった

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送られてくる写真の中のあかりは、いつも沢山の仲間たちの中で笑っている。
そして、あかりが少しでも不安そうな顔をすると、彼女の肩に手を回すのはいつも同じ男だ。
シューバの奥歯がぎりっと嫌な音を立てた。

ホゴラシュに入ったはずの彼女からは、何の連絡もない。
むしろシューバを避けるように移動している。
3年もすれば大学の単位取り終わるから、そうしたらまた会いに来るわよ。
こちらを見もせずに言われた一言に縋って、3年近くを待った。

彼女とは、15になったばかりのころから1年弱、お付き合い、というものをした。
彼女は私の目を開け、立ち上がらせ、歩かせ、笑わせ、他人と触れあわせて。
その後、本当にあっさりと私の手を離した。
「ごめんね、そろそろ日本に帰らないと」
家族がいるから、大学があるから、会社の仲間が待っているから。
そして、シューバがもう、『大丈夫』だから。

自分がいささか特殊な育ちをした自覚はある。
狂人、異常者、サディスト。
そうと以外表現しようのない父親の作った世界の中で、そう呼ばれることを喜ぶように強要されて、14までを生きた。

父は、ホゴラシュに外貨を呼べる唯一の企業を立ち上げたせいで英雄扱いされていたから、年老いて狂った後も、だれも止めようとはしなかった。
他人の悲鳴が止んだことのないような環境で14年を過ごし、その他人の中には自分の母親すら混ざっていた。
母親が死んだのは自分が6才~7才だったと思うがよく覚えていない。
14のおわりに父親を殺して、光の下に這い出した。

光の下で私が初めて見た人間が、あかりなのだと思う。
彼女は優しく、豪胆で、私のそばにいながら、悲鳴が想像できない顔で笑った。
私にとって、光のある世界は彼女で、彼女は世界の半分だった。

その一方で、あかりにとってのシューバが、とるにたらない物なのも知っていた。
たがだか恋愛、あかりがそう思っているだろうと言うことは容易に想像がついた。
しかも、たかだか15才の恋愛、と、15才、が強調されていた気すらする。

シューバの心を気にかけた唯一の大人だったクリスタの創業者、神崎優の遺言を果たすような、発達に問題がある子どもをあやすような、心の傷を癒すためのくすりのような。
あかりの『好き』や『お付き合い』は、そういうものだったのではないかと思う。

クリスタの顔であり、神崎優を母に持つ神崎さとるも、昔あかりと『お付き合い』をしたことがあるそうだ。
「3か月くらいであっという間に振られたわよ、苦手分野なの」。あかりはそう言って笑った。

あかりは、私の前からも、いつでも消えることができる。それも笑って。

あかりをシューバにつなぎ留めておく鎖がもろすぎて、彼女に縋りつき、まとわりつき、不安をあらわにした。
そうすると、あかりはちょっと困ったような顔をして、大好きだと、恋人だと、言ってくれる。

父親が作った暗闇と悲鳴だらけの檻は。凍えて、縮こまって、永遠に閉じ込められるのだと思っていた密室は。
あかりを得て、出口付きのただのぼろ小屋になった。

血の味のしない呼吸、化け物の映らない鏡、温かい人の手。
彼女に見えているように世界を見たかった。

自分の精神がかなり不安定だった自覚は、ある。
ひと晩に何度もあかりの夢を見た。
彼女がそばにいてくれるなら、なんだって、するのに。
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