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3 勘が鈍った
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「あたたたた。3年ぶりで勘が鈍った」
あかりが肩を抑えながら、ごちる。
あいかわらずアブない国だな、ここは。
お金が回り始めたからと言って、たった2~3年で、女性差別全開の思想が鳴りを潜めると思っていたわけではないが、空港なんて言うオフィシャルの場でこうもあからさまな攻撃が飛び交うとも思っていなかった。
事情は簡単で、ビジネス交渉の場では普通にしゃべっているオジサンが、平気でまだ少女と言えるような年の女性を棍棒で殴ろうとしていて。
驚いて、駆け寄ったところ、引き際を誤った。
私が少女の前に立ちはだかる格好になり、耳をかすめた棍棒が肩に食い込んだ。
目立つ立ち回りをする気はなかったから、素直に悲鳴を上げてうずくまり、ヒジャブが派手にずれた。
べつに激しく染めてたわけではないのだが、先刻まで日本の女子大生だった私の髪は、明かるめに脱色されてストレートのつやつやだ・・・ま、人工だけどな!
外国人なのはすぐわかっただろうし、わざわざここまでくる外国人は、必ず外貨に直結している。
経済脳をよびさましたオジサンは大人しく退いて行ったが、私はズキズキする肩を押さえて数分は呻いていた気がする。
こんなに簡単に怪我をするなんて、3年前の自分ならありえないようなミス。まったく情けないったら。
あかりを待っているはずのクリスタの優秀なメンバーが思い浮かべると、余計になぐさまらない。
だってこの状況、扇動の天才なサシャが見ても、動体視力が人間の限界をぶっちぎってるメイが見ても、反射神経が動物的なさとるが見ても、初速が超人的なますみが見ても、絶対笑われる!
・・・よし、だまっとこ。
4年近く前、あかりは、神崎優の遺志を辿って、優の息子たちと共にこの国に乗り込み、シューバやメイやサシャといったこの国きってのすぐれ者とともに、ホゴラシュが抱えるにはいささか大きすぎる産業を立ち上げた。
あかりは日本での仕込みのために一旦帰国したが、さとる達はホゴラシュに残り、クリスタという優の作った会社を継いでその産業の舵をとっている。
優の遺志は、巨大な雪玉のようにごろんごろんと転がって、いろんなものをはね飛ばし、呑み込みながら、現在もホゴラシュを席巻中だ。
ホゴラシュでの日々は、決して平穏でも平和でもなかったし、とくにあかりがホゴラシュのデファクトキングともいうべきシューバと付き合ってからは、ほぼ爆心地だった。
今だって、そこまでぼひゃっとしていたつもりはないのだが。
よし、気を引き締めて・・・もダメか。
キャブを降りたところで、今度は、トラックコンテナに引っ張り込まれ、あかりは壁に肩からおしつけられてうめく。
トラックはすぐに走り始めた。
加速で足元がよろけると、壁に張り付いたあかりの左右両側に置かれていた手が狭まって、目の前に静止画像で見慣れた顔が降りてきた。
おっと。マイ推し、ハンサム、シューバ君!
恋愛脳の導くままに、もっとも再会したかった顔なのに、あまりに険しい顔で目の前にぶら下がってきたので、あかりもついつられてぶすくれる。
おまけに。
痛いっつーんじゃ、まったく。
さっき肩を痛めたばかりでなかったら、あ、壁ドンってやつですね、位で流せたのだが、いかんせん当たり所が悪い。
かなり非友好的な目で自分を押さえつけたシューバ君をにらんでしまう。
そんな子に育てた覚えはありませんよ、な、気分だ。
シューバ君はますます険しい顔になり、今にもかみつきそうな唸り声を出した。
「ずいぶんな遠回りだな。わざわざ私を避けて帰ってきたわけか?」
不機嫌を差し引いても、声が低い。
絶対こんな声じゃなかったとおもうんだけどなぁ。だって、この声じゃ、可愛い、ってテロップにならないよ。
体も画像の記憶よりデカいけど、顔はあんまり変わってなくて、うん、文句なく綺麗。
私の面食いめ。
「シューバ君・・・曲がりなりにも仲良しだった私にずいぶんな出迎え方じゃない?」
「わざわざ顔を隠して、私とゼルダに情報遮断をかけて、まともな出迎えがあると思ったのか?」
なるほど、出迎えないという選択肢はない訳か。
18になってるのに、行動パターンが15の頃と変わらないって、どうなのよ。
まぁ、可愛いからいいけどさ、私の最オシだから許しちゃうけどさ。
「いや、コソコソ帰ってきたんだから、そこは大人の事情があるんだな、くらいの配慮はして見逃そうか?」
「会いたく、なかったということか」
「いまだけね!ちょっと事情が・・・つっ」
説明しようとしたんだけどな。
こんなに、せっかちだったか?
痛めた肩の方の手を引っ張られたので、悲鳴のみ込む方に頭が行って声が出ない。
いつの間にか止まっていたトラックから、私を外に出すと、シューバ君はそのまま私を引きずって、倉庫みたいな小部屋に投げ入れた。
ベッドとトイレがあるところを見ると、用途としては、他人を投げ込むところ、であっているようだ。
閉められたドアの外から声がする。
「飢えて動けなくなるまで入っているがいい。泣いて縋ったら出してやる」
あぜん。
やれやれ、いかんな。
勘もここまで落ちると、運まで落とすってか。
ペットボトルが置いてあるので、ふたを開けてのんでみる。
うえ、ぬるい。日本でも常温が流行ったが、結局あれは快適な温度の範囲内だったのだなとわかってしまう味。
どうしたもんかな。
正直、シューバ君については、記憶がなくても大体読める。
オーバーな表現をするが、監禁してみたところで、水も置いてあるし、本気じゃない。
熱烈歓迎おかえり攻撃が不発でちょっと拗ねただけだと思う。
ほっといても半日と待たずに声をかけてくる。
私の方とて、ゆっくり話せるなら、彼と話したいことは山盛りだ。だって、この私が恋愛ドランカー化してたんでしょ、気になるじゃない!
ただちょっと今は時期が悪い。本当なら私があと数週間待ってからくるべきだったのだ。
わかっちゃいたけど彼らに早くあいたくてはしゃいだ。
「キオクソウシツ」で勘が落ちているんだから慎重になればいいものを。
待つか。肩痛いし。
ずるずると、壁に背を付けて床にへたり込む。
30分くらいそうしていたろうか。背中にすごい衝撃が伝わってきた。
部屋の扉が内向きにガンッと開いて、壁にたたきつけられたドアが大げさな音を立てる。
うわ、こいつも変わってないな。
このスピードでドアが吹っ飛び開くなんて、さとるのキックでほぼ確定。ドアが壁にぶつかる暴力的な音に安心する自分が笑える。
神崎さとる。優の長男にして、クリスタの顔。脳内テロップや静止画像に頼る必要がない幼馴染だ。
「畑里!なにやってんだ、いつまでたっても屋敷に到着しないとか、心配するだろーが!」
さとるのがさつな物言いが、ほっこり聞こえる。
ほぼ3年ぶりだと言うのに、つい昨日まで一緒にいたようなしゃべり方だ。
うれしくなって、にやけてしまう。
「あは、ごめん。ただいま」
「はい、おかえり。ってか、まだだな。かえるぞ」
「りょーかい」
ほんとうに変わってないなぁ。雰囲気もやることも言うことも。
こっちは、知り合いにとはいえ監禁されているわけだし、無事か?とか、何があった?とか聞かないか?
心配するだろーが、って、普通、何も起こってない時に言うよね。
ふふ、相変わらず元気そうで何より。
「直接シューバに会いに行ったのか?」
「んにゃ、新しく空港できたってきいたから、そっち経由できたら、見覚えのあるオジサンが、荷物の持ち方が気に入らないとか言って、いきなり女の子殴ろうとしててさ。びっくりして割って入ってゴタゴタに巻き込まれた」
そういえば、自分の荷物はウェストポーチの貴重品以外の空港に置きざりだ。
シューバ君、回収してくれたろうか。
「おっま、せめて、ホゴラシュのヒジャブとってから飛び込めよ?あぶねーわ」
あ、やっぱり?
「まったくよねぇ。勘が鈍った」
さとるの視線があかりの肩でとまったのを見て軽く手を振る。大丈夫の合図。
しゃべれて、動けて、脂汗が流れるわけでもないので大した怪我ではない。
「・・最近どうやっても言語スキルが異常に高い女の子が重宝されるからさ、先手必勝で踏んどこうみたいな背水オジサンがうじゃうじゃ出るんだ。ある種オフィシャルの場の方がど修羅場だったりするから気をつけろ」
説明すると長くなるんだけど、ホゴラシュの女児は、遺伝的に、異常なまでに外国語の習得能力が高い。優さんが新規な希土類と並べてホゴラシュの資源扱いしたほどに。汚物扱いしていた宝石の扱いに混乱したオジサンが、ど修羅場が量産する程に。
「アイアイ。あと数週間まってから来るべきだったんだけど、早く会いたくてさ。まぁ、ばれなきゃいいだろ、位のノリで卒業単位確保してすぐ出て来ちゃったのよね」
「で、即行でシューバにバレた、と。あほか」
シューバ君がどうしているかは、相当気になっていたので、さっきみたいな出会いがしらの一瞬でもじつは会えてうれしかったりする。
ただ、ちょっと今、クリスタとは別に私が日本で立ち上げた会社がバタバタで。
私の日本の会社、『きゅーぶ』という。萌え業系っていうのかな、ホゴラシュのホの字も知らないうちから私がつくっていた同人誌ルーツの趣味の会社。
その『きゅーぶ』が、ゼルダにすごく近いところで、大きな花火打ち上げようとしているのだ。で、株の売買収とかも佳境。
『きゅーぶ』もゼルダもVCから大金が突っ込まれて成長が著しいから、株の売買も入り組んでいて。
それだけでもめんどくさいのに、私自身があっちこっち代表だったり取締役だったりするからもう最悪。
現在、私やシューバ君やその周りの会社狙うんだったら、絶対インサイダー取引がどうこうって偽装で陥れるよな、っていう悲惨な状態な訳だ。
花火が打ち上っちゃえばその後はまだいいのだけども、そっちは急いでもまだしばらくかかる。
その間は逃げの一手。
そういう訳で、私はしばらく、ゼルダの総帥やってるシューバ君とは、あんまり二人っきりになったり、仕事の話したりしないほうがいいんだよね。
でも、仕事以外の話題って何があるよ、って考えてみると、ちょっと不穏で。
まず、2人の話題と言えば、シューバ君の犬たちなんだけど、先日母犬が亡くなったのだ。シューバ君の里子になるまで、結構無理した生き方してたから、内臓ボロボロだったみたいで膵臓の疾患であっけなく他界した。あの可愛がり方を知っていた私としてはかなり触れにくい。
最近どう?っていうのも、ちょっと。
あんだけ恋愛だ、推しだと騒いどいてなんだけど、現実の私たちは、3年近く前に別れている・・・らしい。
テキスト情報で仕入れた知識に過ぎないけど。
積極的に別かれたっていうより、ちょっと強引な自然消滅、って書かれていて、わがことながら詳細不明。
シューバ君は当時15才、ずっと一緒はむつかしかっただろう。思春期兼成長期の心身の変化は激しいし、その他にも問題は目白押しだった。
なにしろ、シューバ君には、会社や国や親族関係上、結婚関係の外圧がたくさんあった。
キュニ人の女の子との結婚話も持ち上がっていて、私が傍にいるだけで内戦ぼっ発しそうな勢いだったのだ。
私にも相当な圧力が来たらしい。
で、大丈夫、大丈夫ってなだめすかしながら、私が少しづつ引いて行ったと思われる。
それにしても、ほんっとに可愛かったなぁ、実物のシューバ君。
お育ち柄、感情表現が下手なのは知っていたし、今日のも、そっかぁ、覚えててくれたかぁ、って。ミギとペギ・・・あ、シューバ君の仔犬たちの名前ね・・に飛びつかれた程度の話で、気にしてはいない。
『きゅーぶ』の花火が上がりおえたら、ゆっくり話したいものだ。
ここにいられなかった3年近くを埋めるべく、せっせせっせと通ってやる。
地頭も要領もいいさとるやますみは、大学を海外の有名通信制大学に切り替えて、さくさく単位とりながら、ホゴラシュに腰を据えても問題ない環境を簡単に整えた。
でも、残念ながら私は自分がそこまでじゃない自覚があるからね、日本に帰った。
一応クリスタの状況も把握しながら、『きゅーぶ』も大きくして政治力アップさせて、株式上場までさせて、何の仇かという勢いで単位取りまくって、1年休学状態だったのに、4年の前期までの2年半で卒業条件満たして、仕事もしてたわけだから、忙しかったに決まっている。論文なんて研究室に入る前に2本も出した。
親にはやっつけ仕事?!って、叫ばれた。
それでも、早く帰ってきたかったのだ。
ホゴラシュにというより、優さんの遺志を継ぐこのチームに、さ。
1年位はほとんどホゴラシュの日々を思い出さなかったくせに、1年を過ぎるあたりから自分でも何をそこまで急ぐかなって思う程。焦りが毎日重なるようで、じっとしていられない位、帰りたかった。
やっと戻ってきたのだ。
かくなるうえは、さっさと勘取り戻さないとね。
屋敷につくと、サシャも、メイも、さとるの弟なますみ君も(!)、壮絶にきれいになっていた。
この子達、私と同い年のさとる以外10代の癖に、既婚者だ。
3年前のゴタゴタで、サシャはますみ君と、メイは さとるとくっついた。
サシャは、尖った感じがなくなって、ものすごく優しそうに笑うようになっていた。
メイは、なんだろうこれ、かじったらほっぺおちそう?こんなに柔らかな空気を醸せる子だったろうか。私が男だったら絶対悩殺されてる。
彼女らを見て、正直これまでの人生で思ったことのないことを思った。
ちぇ、いいなぁ。結婚!
あかりが肩を抑えながら、ごちる。
あいかわらずアブない国だな、ここは。
お金が回り始めたからと言って、たった2~3年で、女性差別全開の思想が鳴りを潜めると思っていたわけではないが、空港なんて言うオフィシャルの場でこうもあからさまな攻撃が飛び交うとも思っていなかった。
事情は簡単で、ビジネス交渉の場では普通にしゃべっているオジサンが、平気でまだ少女と言えるような年の女性を棍棒で殴ろうとしていて。
驚いて、駆け寄ったところ、引き際を誤った。
私が少女の前に立ちはだかる格好になり、耳をかすめた棍棒が肩に食い込んだ。
目立つ立ち回りをする気はなかったから、素直に悲鳴を上げてうずくまり、ヒジャブが派手にずれた。
べつに激しく染めてたわけではないのだが、先刻まで日本の女子大生だった私の髪は、明かるめに脱色されてストレートのつやつやだ・・・ま、人工だけどな!
外国人なのはすぐわかっただろうし、わざわざここまでくる外国人は、必ず外貨に直結している。
経済脳をよびさましたオジサンは大人しく退いて行ったが、私はズキズキする肩を押さえて数分は呻いていた気がする。
こんなに簡単に怪我をするなんて、3年前の自分ならありえないようなミス。まったく情けないったら。
あかりを待っているはずのクリスタの優秀なメンバーが思い浮かべると、余計になぐさまらない。
だってこの状況、扇動の天才なサシャが見ても、動体視力が人間の限界をぶっちぎってるメイが見ても、反射神経が動物的なさとるが見ても、初速が超人的なますみが見ても、絶対笑われる!
・・・よし、だまっとこ。
4年近く前、あかりは、神崎優の遺志を辿って、優の息子たちと共にこの国に乗り込み、シューバやメイやサシャといったこの国きってのすぐれ者とともに、ホゴラシュが抱えるにはいささか大きすぎる産業を立ち上げた。
あかりは日本での仕込みのために一旦帰国したが、さとる達はホゴラシュに残り、クリスタという優の作った会社を継いでその産業の舵をとっている。
優の遺志は、巨大な雪玉のようにごろんごろんと転がって、いろんなものをはね飛ばし、呑み込みながら、現在もホゴラシュを席巻中だ。
ホゴラシュでの日々は、決して平穏でも平和でもなかったし、とくにあかりがホゴラシュのデファクトキングともいうべきシューバと付き合ってからは、ほぼ爆心地だった。
今だって、そこまでぼひゃっとしていたつもりはないのだが。
よし、気を引き締めて・・・もダメか。
キャブを降りたところで、今度は、トラックコンテナに引っ張り込まれ、あかりは壁に肩からおしつけられてうめく。
トラックはすぐに走り始めた。
加速で足元がよろけると、壁に張り付いたあかりの左右両側に置かれていた手が狭まって、目の前に静止画像で見慣れた顔が降りてきた。
おっと。マイ推し、ハンサム、シューバ君!
恋愛脳の導くままに、もっとも再会したかった顔なのに、あまりに険しい顔で目の前にぶら下がってきたので、あかりもついつられてぶすくれる。
おまけに。
痛いっつーんじゃ、まったく。
さっき肩を痛めたばかりでなかったら、あ、壁ドンってやつですね、位で流せたのだが、いかんせん当たり所が悪い。
かなり非友好的な目で自分を押さえつけたシューバ君をにらんでしまう。
そんな子に育てた覚えはありませんよ、な、気分だ。
シューバ君はますます険しい顔になり、今にもかみつきそうな唸り声を出した。
「ずいぶんな遠回りだな。わざわざ私を避けて帰ってきたわけか?」
不機嫌を差し引いても、声が低い。
絶対こんな声じゃなかったとおもうんだけどなぁ。だって、この声じゃ、可愛い、ってテロップにならないよ。
体も画像の記憶よりデカいけど、顔はあんまり変わってなくて、うん、文句なく綺麗。
私の面食いめ。
「シューバ君・・・曲がりなりにも仲良しだった私にずいぶんな出迎え方じゃない?」
「わざわざ顔を隠して、私とゼルダに情報遮断をかけて、まともな出迎えがあると思ったのか?」
なるほど、出迎えないという選択肢はない訳か。
18になってるのに、行動パターンが15の頃と変わらないって、どうなのよ。
まぁ、可愛いからいいけどさ、私の最オシだから許しちゃうけどさ。
「いや、コソコソ帰ってきたんだから、そこは大人の事情があるんだな、くらいの配慮はして見逃そうか?」
「会いたく、なかったということか」
「いまだけね!ちょっと事情が・・・つっ」
説明しようとしたんだけどな。
こんなに、せっかちだったか?
痛めた肩の方の手を引っ張られたので、悲鳴のみ込む方に頭が行って声が出ない。
いつの間にか止まっていたトラックから、私を外に出すと、シューバ君はそのまま私を引きずって、倉庫みたいな小部屋に投げ入れた。
ベッドとトイレがあるところを見ると、用途としては、他人を投げ込むところ、であっているようだ。
閉められたドアの外から声がする。
「飢えて動けなくなるまで入っているがいい。泣いて縋ったら出してやる」
あぜん。
やれやれ、いかんな。
勘もここまで落ちると、運まで落とすってか。
ペットボトルが置いてあるので、ふたを開けてのんでみる。
うえ、ぬるい。日本でも常温が流行ったが、結局あれは快適な温度の範囲内だったのだなとわかってしまう味。
どうしたもんかな。
正直、シューバ君については、記憶がなくても大体読める。
オーバーな表現をするが、監禁してみたところで、水も置いてあるし、本気じゃない。
熱烈歓迎おかえり攻撃が不発でちょっと拗ねただけだと思う。
ほっといても半日と待たずに声をかけてくる。
私の方とて、ゆっくり話せるなら、彼と話したいことは山盛りだ。だって、この私が恋愛ドランカー化してたんでしょ、気になるじゃない!
ただちょっと今は時期が悪い。本当なら私があと数週間待ってからくるべきだったのだ。
わかっちゃいたけど彼らに早くあいたくてはしゃいだ。
「キオクソウシツ」で勘が落ちているんだから慎重になればいいものを。
待つか。肩痛いし。
ずるずると、壁に背を付けて床にへたり込む。
30分くらいそうしていたろうか。背中にすごい衝撃が伝わってきた。
部屋の扉が内向きにガンッと開いて、壁にたたきつけられたドアが大げさな音を立てる。
うわ、こいつも変わってないな。
このスピードでドアが吹っ飛び開くなんて、さとるのキックでほぼ確定。ドアが壁にぶつかる暴力的な音に安心する自分が笑える。
神崎さとる。優の長男にして、クリスタの顔。脳内テロップや静止画像に頼る必要がない幼馴染だ。
「畑里!なにやってんだ、いつまでたっても屋敷に到着しないとか、心配するだろーが!」
さとるのがさつな物言いが、ほっこり聞こえる。
ほぼ3年ぶりだと言うのに、つい昨日まで一緒にいたようなしゃべり方だ。
うれしくなって、にやけてしまう。
「あは、ごめん。ただいま」
「はい、おかえり。ってか、まだだな。かえるぞ」
「りょーかい」
ほんとうに変わってないなぁ。雰囲気もやることも言うことも。
こっちは、知り合いにとはいえ監禁されているわけだし、無事か?とか、何があった?とか聞かないか?
心配するだろーが、って、普通、何も起こってない時に言うよね。
ふふ、相変わらず元気そうで何より。
「直接シューバに会いに行ったのか?」
「んにゃ、新しく空港できたってきいたから、そっち経由できたら、見覚えのあるオジサンが、荷物の持ち方が気に入らないとか言って、いきなり女の子殴ろうとしててさ。びっくりして割って入ってゴタゴタに巻き込まれた」
そういえば、自分の荷物はウェストポーチの貴重品以外の空港に置きざりだ。
シューバ君、回収してくれたろうか。
「おっま、せめて、ホゴラシュのヒジャブとってから飛び込めよ?あぶねーわ」
あ、やっぱり?
「まったくよねぇ。勘が鈍った」
さとるの視線があかりの肩でとまったのを見て軽く手を振る。大丈夫の合図。
しゃべれて、動けて、脂汗が流れるわけでもないので大した怪我ではない。
「・・最近どうやっても言語スキルが異常に高い女の子が重宝されるからさ、先手必勝で踏んどこうみたいな背水オジサンがうじゃうじゃ出るんだ。ある種オフィシャルの場の方がど修羅場だったりするから気をつけろ」
説明すると長くなるんだけど、ホゴラシュの女児は、遺伝的に、異常なまでに外国語の習得能力が高い。優さんが新規な希土類と並べてホゴラシュの資源扱いしたほどに。汚物扱いしていた宝石の扱いに混乱したオジサンが、ど修羅場が量産する程に。
「アイアイ。あと数週間まってから来るべきだったんだけど、早く会いたくてさ。まぁ、ばれなきゃいいだろ、位のノリで卒業単位確保してすぐ出て来ちゃったのよね」
「で、即行でシューバにバレた、と。あほか」
シューバ君がどうしているかは、相当気になっていたので、さっきみたいな出会いがしらの一瞬でもじつは会えてうれしかったりする。
ただ、ちょっと今、クリスタとは別に私が日本で立ち上げた会社がバタバタで。
私の日本の会社、『きゅーぶ』という。萌え業系っていうのかな、ホゴラシュのホの字も知らないうちから私がつくっていた同人誌ルーツの趣味の会社。
その『きゅーぶ』が、ゼルダにすごく近いところで、大きな花火打ち上げようとしているのだ。で、株の売買収とかも佳境。
『きゅーぶ』もゼルダもVCから大金が突っ込まれて成長が著しいから、株の売買も入り組んでいて。
それだけでもめんどくさいのに、私自身があっちこっち代表だったり取締役だったりするからもう最悪。
現在、私やシューバ君やその周りの会社狙うんだったら、絶対インサイダー取引がどうこうって偽装で陥れるよな、っていう悲惨な状態な訳だ。
花火が打ち上っちゃえばその後はまだいいのだけども、そっちは急いでもまだしばらくかかる。
その間は逃げの一手。
そういう訳で、私はしばらく、ゼルダの総帥やってるシューバ君とは、あんまり二人っきりになったり、仕事の話したりしないほうがいいんだよね。
でも、仕事以外の話題って何があるよ、って考えてみると、ちょっと不穏で。
まず、2人の話題と言えば、シューバ君の犬たちなんだけど、先日母犬が亡くなったのだ。シューバ君の里子になるまで、結構無理した生き方してたから、内臓ボロボロだったみたいで膵臓の疾患であっけなく他界した。あの可愛がり方を知っていた私としてはかなり触れにくい。
最近どう?っていうのも、ちょっと。
あんだけ恋愛だ、推しだと騒いどいてなんだけど、現実の私たちは、3年近く前に別れている・・・らしい。
テキスト情報で仕入れた知識に過ぎないけど。
積極的に別かれたっていうより、ちょっと強引な自然消滅、って書かれていて、わがことながら詳細不明。
シューバ君は当時15才、ずっと一緒はむつかしかっただろう。思春期兼成長期の心身の変化は激しいし、その他にも問題は目白押しだった。
なにしろ、シューバ君には、会社や国や親族関係上、結婚関係の外圧がたくさんあった。
キュニ人の女の子との結婚話も持ち上がっていて、私が傍にいるだけで内戦ぼっ発しそうな勢いだったのだ。
私にも相当な圧力が来たらしい。
で、大丈夫、大丈夫ってなだめすかしながら、私が少しづつ引いて行ったと思われる。
それにしても、ほんっとに可愛かったなぁ、実物のシューバ君。
お育ち柄、感情表現が下手なのは知っていたし、今日のも、そっかぁ、覚えててくれたかぁ、って。ミギとペギ・・・あ、シューバ君の仔犬たちの名前ね・・に飛びつかれた程度の話で、気にしてはいない。
『きゅーぶ』の花火が上がりおえたら、ゆっくり話したいものだ。
ここにいられなかった3年近くを埋めるべく、せっせせっせと通ってやる。
地頭も要領もいいさとるやますみは、大学を海外の有名通信制大学に切り替えて、さくさく単位とりながら、ホゴラシュに腰を据えても問題ない環境を簡単に整えた。
でも、残念ながら私は自分がそこまでじゃない自覚があるからね、日本に帰った。
一応クリスタの状況も把握しながら、『きゅーぶ』も大きくして政治力アップさせて、株式上場までさせて、何の仇かという勢いで単位取りまくって、1年休学状態だったのに、4年の前期までの2年半で卒業条件満たして、仕事もしてたわけだから、忙しかったに決まっている。論文なんて研究室に入る前に2本も出した。
親にはやっつけ仕事?!って、叫ばれた。
それでも、早く帰ってきたかったのだ。
ホゴラシュにというより、優さんの遺志を継ぐこのチームに、さ。
1年位はほとんどホゴラシュの日々を思い出さなかったくせに、1年を過ぎるあたりから自分でも何をそこまで急ぐかなって思う程。焦りが毎日重なるようで、じっとしていられない位、帰りたかった。
やっと戻ってきたのだ。
かくなるうえは、さっさと勘取り戻さないとね。
屋敷につくと、サシャも、メイも、さとるの弟なますみ君も(!)、壮絶にきれいになっていた。
この子達、私と同い年のさとる以外10代の癖に、既婚者だ。
3年前のゴタゴタで、サシャはますみ君と、メイは さとるとくっついた。
サシャは、尖った感じがなくなって、ものすごく優しそうに笑うようになっていた。
メイは、なんだろうこれ、かじったらほっぺおちそう?こんなに柔らかな空気を醸せる子だったろうか。私が男だったら絶対悩殺されてる。
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