手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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14 石の上に3年?

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頭を押さえてうずくまったあかりを、さとるは背後に抱くようにして体で隠す。
記憶が戻ったショックがどう出るかわからないのだ。間違ってもこの状態で目立つわけにはいかない。
左右に目を配りながら、背中側に回した手であかりの手を握りしめる。
頼むから、叫ぶなよ。
人の気配が去って、ほっと肩の力を抜くと、後ろから懐かしい声が聞こえた。

あかり名物、ひそひそ声で怒鳴りつける、だ。
昔から授業中でもこいつは平気で目立たずに人を怒鳴りつけることができた。毎度聞くたびにどうやってるんだと不思議に思ったものだ。
「あっつ。あんたねぇ、状況が変わってんだから、臨機応変にさっさと戻しなさいよ!」

ほ。
その第一声を聞いただけで、さとるの不安は霧散した。
記憶は無事に戻り、その記憶はあかりを壊してはいない。
「石の上にも3年って、おまえがいったんだろ」

首をぐるっと回して、あかりの顔を見ると、顔色が良くはないが、せいぜい二日酔いで不機嫌レベルにみえるイキのいい畑里あかり。
「慣用句の意味から調べなおせ?石の上にも3年って、長い時間、ってところに意味があるだけで誰も3年きっかりにご利益がある話とかしてないでしょーが?!このドぐされ理系が!あんた、カモ葱、ってネギの種類だと思ってるタイプでしょ!」

命がけで助けに来た割には、ひどい言われようだが、めちゃくちゃ安心する。
「懐かしい話しっぷりが聞けて感動だ。勘も戻るといいんだがな」
「もどす、もどす!私だって死にたかないわよ。あーもー、記憶いじるの充分危ないじゃんか、あのマッド医者ども!おまけによくこんなもん野放しにするわね国家権力!」

危なくて当たり前だろーが。
自分で開発から仕掛けからやっといて文句言うんじゃねーわ、図々しい。

それから数分、あかりが伸びをしたり、深呼吸をしたりして、顔色を戻すのを、さとるは黙って見ていた。

何と言ったらいいのだろう、薄い色のあかりに何かが沈殿して色が濃くなっていくイメージ。何も変わらないのに、そばにいる安心感が増していく。

そして。
その後の脱出は、さとるが驚くほど楽だった。
なにしろ手持ちの武器がほとんど減らない。
人質の世話をしている女性をごめんの一言で昏倒させ、服を交換してヒジャブを付けた。

あかりのすすむ方向に武器を持った人間は出ないし、声をかけられてもイントネーションが完全にキュニ人。怪しまれずにサクサク進む。
記憶と勘があるだけで、ほんと別人だな、こいつは。

流石に、あかりが、最も見張りの多いど真ん中の門から出ようとするのを見て、さとるが袖を引く。
「おい」
「多分話し合いでいける気がする。けど、どうしてもだめなら、全弾打ち尽くすつもりで強行突破ね」
「お前、撃てるのか?」
「3年前よりはね」
それを聞いてさとるはあかりの袖を離す。
がちゃ

銃口が4つともこちらを向く中で、あかりは軽く手をあげて完璧なキュニのイントネーションでしゃべる。
「ロジュさまのお使いです。ケモル様の遺品の件、と伝えて外出の確認を。合言葉は『鼻』です」
銃口の一つが下がり、ごつい端末を通じたやり取りが漏れる。
なにやらもめているのか、しゃべっている男にいら立ちが見え始めたころ、あかりは口を出す。
「ひょっとして、ロジュさま忙しすぎで、忘れてますかね。変わりましょうか?」
男がじろっとあかりをにらんで、無言で端末を渡す。
「ご無沙汰してます、ロジュさま?私です。お忘れですか?」
『・・・やはりお前か。イヤ、覚えてるがな。どういう状況だ?出たいのか?入りたいのか?』
「出ます。今そっちに行っている『きゅーぶ』のクズ企画、潰しましょうか?そちらが私のお願いをきいてくれたら別のお使いもしますよ?」

『元気そうだな、おい。わかった、そのお使いを頼もう。見張りに変われ』
「はい、私への連絡は堂々とクリスタの受付にどうぞ。ああ、キュニの老人たちに相談しても構いませんけども、足手まといが入ったらサシではあえなくなりますので悪しからず」

あかりが端末を銃口を下げた男に返すと、ほんの二言三言やり取りをしただけで、門があいた。
銃口をしゃくられて、あかりとさとるは外に出た。

ふーっ。
はぁー。

あかりとさとるの大きなため息というか、深呼吸というかが重なって、お互いに苦笑い。

「来てくれてありがとう。なんか、いろいろ迷惑かけたわね」
「まぁ、胃には悪かったな。それより、大丈夫か?」

心配そうなというよりは、急に訪ねた彼女の部屋でも覗くかのごとき遠慮がちなさとるの目が、あかりのみえはり根性を覚醒させる。

「私のメンタル?見ての通り絶好調よ」
「そう、みえるな。自然消滅路線に引き込まれたシューバの方がよっぽど平静を欠いてる感じだ」
「自然消滅~?あー、そうか、そういうぼやかし方をしたっけ。そんな路線ひいてないから安心して」
「ひいてない?」
「おうよ。自然消滅路線なんてひいてないし、シューバからもひいてない」
「・・・聞いてないぞ」

「そりゃ鮮明な感情がどうなるかは知らないけどさ、消滅、は、するわけないじゃん。ミギとペギだって私のこと覚えてんのよ?」
犬と比較したか。
確かに負けたら人として凹む。

「・・・3年って、ひょっとしてあいつがお前を覚えてられる時間か?」
「ふふ。たしかに、あんたと付き合って、すぐ別れたって余裕で思い出せた時間だわね。実証済み?」
ちょっとばつの悪そうな顔をするさとるに向かってあかりが『なによ?』とばかりに顎をしゃくってみせる。
「いや、俺と付き合ったことあるの、覚えていたんだな、と」

別れたはじめからまるっとそのへんの話題ごと無視されてたから、きっとこいつは思い出すことすらないのだろうと、思っていた。
それでも、こいつは髪を振り乱して、ホゴラシュくんだりまで命がけで駆けつけてくれたし、自分もあかりに呼ばれれば何度でも助太刀に飛んで行く。
なるほど、忘れる、は確かにないかな。
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