15 / 67
15 ミンチになりまして
しおりを挟む
屋敷にもどると、あまりにほっとして、あかりの手足から、力がぬけていった。
力が抜けると、気も抜けて。
気が抜けたあかりの意識は、減圧されたソーダ水のようで、その中で痛みやら焦りやら怒りやらを含めた情動が、いっぺんに形をとった。
情動が、ものすごいスピードで、記憶に色付けやら肉付けやらを施していく。
日常意識に上っている記憶の数など限られているんだな、と気づいた頃には、なれない暴力的な情動の洪水が、あかりの意識を狩り取っていた。
「おい!」
さとるの慌てた声が頭の中で何度も響く。
心配いらない。記憶と感情がシンクロするためのちょっとした揺り戻しだからと、説明しようとしてあきらめる。もう、口や瞼を動かすのも億劫になっていて。
まぁ、推して知ってください。多分バイタルサインは安定しているとおもうから。
☆
気が付いた時、とはっきり言えるかは微妙だ。
自分の目が開いているのか閉じているのかもよくわからない。
声が聞こえる。
「私では、駄目だな」
と。
シューバの声だ。
いや、何の話か分からないけれど、なにも駄目じゃないよ。ちょっと気絶して体が動かないだけで。
伝えようとジタバタしたら、金縛りの体から意識がずるりと出た気がした。
うわ、臨死体験かよ、横たわっている自分が見えるとか気持ち悪いんですけど。
そして案の定、目のまえでシューバが泣いている。
あー、起きなきゃマズイな。
間違ってこのまま寝続けると、号泣する奴山盛りでは?
無茶苦茶甘やかしたい恋人と、ほぼ家族な神崎家面々と、相性ゴールデンな研究仲間と、うちの子状態の社員と、優さん繋がりの優れもの達と・・・って、我ながら結構幸せ者だな。
うへへへへ。
しばらく悦に入っていたら、視点がどんどん横たわった自分の中にしまわれて、今度こそ、意識が戻る。
と。
げ、あったまいたーいっ、寝たままなのに目が回る、吐く!!
じっとしていられない気分の悪さに体がくの字に曲がった。
ついてくれていたのはさとるだったようだ。
引っ張ってぶっこ抜きそうになった点滴の管を器用に押さえ、クリスタ直営の病院だから安心しろと声をかけてくる。
「・・・あ、れ?シューバが泣いてた気がしたんだけど、あんた?」
「なんでおれが、ぐへぐへ笑いのお前見ながら泣くんだよ。泣いてほしけりゃ、もうちょっと神妙な顔で倒れてやがれ」
「気絶するときの顔選べるようになるほど場慣れしたくない!うー、吐きそ。ま、シューバの前よりあんたの前が吐きやすいな。助かる」
「はいはい。完璧に片づけてやるから、好きなだけ吐け」
さとるの受け答えが軽やかだったので。それから、さとると交代でやってきて世話を焼いてくれたマッドさんの顔も明るかったので。
あかりは、周囲はそう心配してはいなかったのだろうと気を抜いた。
食べたり、吐いたり、眠ったり、笑ったり。
2日ほど、完璧な静養なるものをしたところ、あかりは手足を伸ばしてゆうゆうとお風呂に入れるまでに回復した。
ロビーにシューバが来ていると言うので、てこてこ歩いて階段を降りていく。
あー、そういえば、今度の拉致の実行犯、シューバの側近だったな。
流石に顔を合わせるのは嫌だから、適当にごまかして配置換えしてもらうか。
なんてのんきに考えながら。
そうしたら。
「ちょ、え、あ?」
ロビーには、血の匂いをさせながら固まるシューバと、ぐったりを絵にかいたようなメイとサシャがいた。
ひょっとして、のんびり静養している場合じゃなかった?
さとるとマッドさんにたばかられたと言って過言でない程、外は修羅場だった模様。
「な、にが、あった、かな?襲撃の犯人捜し、してくれた、とか?」
考えつく中ではまだ平和な選択肢をかざしてみる。
背後関係はないに等しい事件だったし、ここまで憔悴するほどのめり込んでくれなくてよいのだが。
メイとサシャは、遠い目をして、そろって不穏な説明を吐いた。
「犯『人』、は、ですね、あー、人だった頃が懐かしいと申しますか・・・」
「えーと、あかりさんを害しようとした二人は、すでに、ミンチになりまして・・」
「私たちは、シューバ様の攻撃範囲が拡大しないように頑張ったと言うか・・」
「直接の加害者の損壊で時間を潰していただけるように、頑張ったと言うか・・・」
こらこらこら、シューバ君?
なにやったの?!
力が抜けると、気も抜けて。
気が抜けたあかりの意識は、減圧されたソーダ水のようで、その中で痛みやら焦りやら怒りやらを含めた情動が、いっぺんに形をとった。
情動が、ものすごいスピードで、記憶に色付けやら肉付けやらを施していく。
日常意識に上っている記憶の数など限られているんだな、と気づいた頃には、なれない暴力的な情動の洪水が、あかりの意識を狩り取っていた。
「おい!」
さとるの慌てた声が頭の中で何度も響く。
心配いらない。記憶と感情がシンクロするためのちょっとした揺り戻しだからと、説明しようとしてあきらめる。もう、口や瞼を動かすのも億劫になっていて。
まぁ、推して知ってください。多分バイタルサインは安定しているとおもうから。
☆
気が付いた時、とはっきり言えるかは微妙だ。
自分の目が開いているのか閉じているのかもよくわからない。
声が聞こえる。
「私では、駄目だな」
と。
シューバの声だ。
いや、何の話か分からないけれど、なにも駄目じゃないよ。ちょっと気絶して体が動かないだけで。
伝えようとジタバタしたら、金縛りの体から意識がずるりと出た気がした。
うわ、臨死体験かよ、横たわっている自分が見えるとか気持ち悪いんですけど。
そして案の定、目のまえでシューバが泣いている。
あー、起きなきゃマズイな。
間違ってこのまま寝続けると、号泣する奴山盛りでは?
無茶苦茶甘やかしたい恋人と、ほぼ家族な神崎家面々と、相性ゴールデンな研究仲間と、うちの子状態の社員と、優さん繋がりの優れもの達と・・・って、我ながら結構幸せ者だな。
うへへへへ。
しばらく悦に入っていたら、視点がどんどん横たわった自分の中にしまわれて、今度こそ、意識が戻る。
と。
げ、あったまいたーいっ、寝たままなのに目が回る、吐く!!
じっとしていられない気分の悪さに体がくの字に曲がった。
ついてくれていたのはさとるだったようだ。
引っ張ってぶっこ抜きそうになった点滴の管を器用に押さえ、クリスタ直営の病院だから安心しろと声をかけてくる。
「・・・あ、れ?シューバが泣いてた気がしたんだけど、あんた?」
「なんでおれが、ぐへぐへ笑いのお前見ながら泣くんだよ。泣いてほしけりゃ、もうちょっと神妙な顔で倒れてやがれ」
「気絶するときの顔選べるようになるほど場慣れしたくない!うー、吐きそ。ま、シューバの前よりあんたの前が吐きやすいな。助かる」
「はいはい。完璧に片づけてやるから、好きなだけ吐け」
さとるの受け答えが軽やかだったので。それから、さとると交代でやってきて世話を焼いてくれたマッドさんの顔も明るかったので。
あかりは、周囲はそう心配してはいなかったのだろうと気を抜いた。
食べたり、吐いたり、眠ったり、笑ったり。
2日ほど、完璧な静養なるものをしたところ、あかりは手足を伸ばしてゆうゆうとお風呂に入れるまでに回復した。
ロビーにシューバが来ていると言うので、てこてこ歩いて階段を降りていく。
あー、そういえば、今度の拉致の実行犯、シューバの側近だったな。
流石に顔を合わせるのは嫌だから、適当にごまかして配置換えしてもらうか。
なんてのんきに考えながら。
そうしたら。
「ちょ、え、あ?」
ロビーには、血の匂いをさせながら固まるシューバと、ぐったりを絵にかいたようなメイとサシャがいた。
ひょっとして、のんびり静養している場合じゃなかった?
さとるとマッドさんにたばかられたと言って過言でない程、外は修羅場だった模様。
「な、にが、あった、かな?襲撃の犯人捜し、してくれた、とか?」
考えつく中ではまだ平和な選択肢をかざしてみる。
背後関係はないに等しい事件だったし、ここまで憔悴するほどのめり込んでくれなくてよいのだが。
メイとサシャは、遠い目をして、そろって不穏な説明を吐いた。
「犯『人』、は、ですね、あー、人だった頃が懐かしいと申しますか・・・」
「えーと、あかりさんを害しようとした二人は、すでに、ミンチになりまして・・」
「私たちは、シューバ様の攻撃範囲が拡大しないように頑張ったと言うか・・」
「直接の加害者の損壊で時間を潰していただけるように、頑張ったと言うか・・・」
こらこらこら、シューバ君?
なにやったの?!
0
あなたにおすすめの小説
皇帝陛下!私はただの専属給仕です!
mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。
戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。
ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。
胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺
NOV
恋愛
俺の名前は『五十鈴 隆』 四十九歳の独身だ。
俺は最近、リストラにあい、それが理由で新たな職も探すことなく引きこもり生活が続いていた。
そんなある日、家に客が来る。
その客は喪服を着ている女性で俺の小・中学校時代の大先輩の鎌田志保さんだった。
志保さんは若い頃、幼稚園の先生をしていたんだが……
その志保さんは今から『幼稚園の先生時代』の先輩だった人の『告別式』に行くということだった。
しかし告別式に行く前にその亡くなった先輩がもしかすると俺の知っている先生かもしれないと思い俺に確認しに来たそうだ。
でも亡くなった先生の名前は『山本香織』……俺は名前を聞いても覚えていなかった。
しかし志保さんが帰り際に先輩の旧姓を言った途端、俺の身体に衝撃が走る。
旧姓「常谷香織」……
常谷……つ、つ、つねちゃん!! あの『つねちゃん』が……
亡くなった先輩、その人こそ俺が大好きだった人、一番お世話になった人、『常谷香織』先生だったのだ。
その時から俺の頭のでは『つねちゃん』との思い出が次から次へと甦ってくる。
そして俺は気付いたんだ。『つねちゃん』は俺の初恋の人なんだと……
それに気付くと同時に俺は卒園してから一度も『つねちゃん』に会っていなかったことを後悔する。
何で俺はあれだけ好きだった『つねちゃん』に会わなかったんだ!?
もし会っていたら……ずっと付き合いが続いていたら……俺がもっと大事にしていれば……俺が『つねちゃん』と結婚していたら……俺が『つねちゃん』を幸せにしてあげたかった……
あくる日、最近、頻繁に起こる頭痛に悩まされていた俺に今までで一番の激痛が起こった!!
あまりの激痛に布団に潜り込み目を閉じていたが少しずつ痛みが和らいできたので俺はゆっくり目を開けたのだが……
目を開けた瞬間、どこか懐かしい光景が目の前に現れる。
何で部屋にいるはずの俺が駅のプラットホームにいるんだ!?
母さんが俺よりも身長が高いうえに若く見えるぞ。
俺の手ってこんなにも小さかったか?
そ、それに……な、なぜ俺の目の前に……あ、あの、つねちゃんがいるんだ!?
これは夢なのか? それとも……
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる