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23 そいつは魔王だ!
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あかりのシューバ奪還計画の内容をさとるが知ったのは、その後すぐ。
『きゅーぶ』がぶち上げる花火のプレスリリース記事を手に、さとるの頭は真っ白になった。
「ゼルダとか『きゅーぶ』とか、企業の看板で行くんじゃなかったのかよぉ」
さとるは、もう嫌だと言わんばかりの涙目であかりを見る。
いまやすっかりブランド化したホゴラシュ女性の、合同見合い的な国際行脚企画。
恐ろしいことに、公式な要請だけで8カ国もの国から招かれて、日本のように国家プロジュクト化しているところまである。
「そんな2時間物のWEB放送企画レベルにこの私が2年半もかかるわきゃないでしょーが」
「いや、3年って、ふつうに心の傷の治療期間だと・・・え、ってことは、お前、あの状況でこのシナリオ描いていた訳か?ほんとに魔王なの?!」
あの状況。心身ともにずたぼろで、流石の畑里あかりでも立ち上がるのに何年もかかるだろうと、さとるにすらそう覚悟させた。首に4つもできた大きなやけどの跡と、脚に伝う血の跡と。
もちろん、傷ついてないとは思わないが、こんな報復シナリオを描ける奴が潰れるとか、太陽が西から登ってもない気がしてくる。
そして彼女が潰れないなら、さとるにとってあとは些事だ。
「実質の後見はもちろんゼルダにやらせるわよ。でも、名目上はホゴラシュ外交使節団ね。結婚の条件とか、子どもの国籍の認め方とかの二国間条約を締結しまくってやるわ」
でた。
いつもいつもいつも。危ない地雷原を三段飛ばしの棒高跳び。
相手を国際法主体として認めていなければ二国間条約なんて締結しない。
名目上でも、外交使節団ってなっている集団を、相手国が公式に接受したあげく、WEBでガンガン公開して、条約締結されたりしたら、そりゃぁ、黙示的国家承認って、国際社会は思うよな。
それじゃなくても、ゼルダが稼ぎ、大量にホゴラシュ国内に吐き出すはずの金を、どう再吸収しようかと各国に考えさせる程度には、新規なナノ磁石周辺の金額の動きはでかいわけで。
「なんて露骨な国家承認ねらい!ホゴラシュ政府どこ?!」
「立役者が今更なにゆってるかな。昔交戦当事者だった奴らがどうしてるかなんて、今のホゴラシュ経済には関係ないでしょ。通貨なんてゼルダの暗号通貨ベースで困らないし」
「・・たった、3年で、政府ごとなかったことに?」
「どれが政府かなんて、私だって知らないわ。でも、他国の要人たちには、継続して国レベルの話を通せるとこが必要で、そんなの、ゼルダの取締役会+ロジュ周りの混成チームで充分でしょ」
「首長は?!まさか色仕掛けでシューバにOKさせたのか?」
「なんつー言いぐさ?!首長なんて持ち回りよ!くじ引きの1年交代でOKさせたわ。最初はあれよ、ほら、あのゼルダの取締役だけど暇なおじいちゃん!」
「うわ、シューバにお菓子買ってきて出すのが趣味のあのじいちゃん?最初っから隠す気もない傀儡政権?!法制度とか租税制度とかは?!」
「法制度と警察組織なんてセジスタン地区とおんなじで十分よ。租税制度に至ってはあんたとますみ君が設計したんでしょうが。ゼルダの暗号通貨使ったら勝手に徴税される」
「徴税じゃねぇ、手数料だ!」
「これまでの、武力で支配したやつが順番に分捕り、とかよりよっぽど予測が立つのに、徴税とどう違うのよ!」
「う、えっと、何にかけるかとか、使い道とか、緻密な設計を決めてない、とか?」
「緻密な設計されたら、反映できないの?」
「・・・できる。すごく、簡単に」
「んじゃ、すごくいい徴税システムじゃない。ばか?」
「そうじゃなくて!旧来勢力だってだまってないだろ、暫定とはいえ国もどきだったんだぞ」
「あれだけ殺し合って、どれだけ人材残るのよ?しかも残ってる主要メンバーの平均年齢、いくつだと思う?」
「たしかに俺らの平均年齢の3倍はありそうだがっ。奴らにも譲れないもんがあったからこうなった訳だろーが」
あかりがバカにしたように肩をすくめる。
「買えなくても、これだけ目の前を食料が通ればね。しばらくは、『うちの子に飯を食わせろー!』っていうモティベーションに勝てる流れは無いわよ。理想の国の形がどうこう言っても、グロスでモティベーション負けする。ざまぁみろだわ」
「お前の『ざまぁ』ってこういうの?!」
「おうよ、こちとら被害者よ?充分にボコす理由がある!」
こいつこわい!
さとるは頭を抱える。
「で、シューバに選ばせるわけか。キュニ人の女と結婚するか、国際承認のニンジンぶら下げた女と結婚するか?」
にやりと笑ったあかりの顔は、恋愛中の女というよりは策士のそれで。
「んー、対等?」
「脅迫だよ!」
ひでぇ、マジにひでぇ。
もとからこいつしか見えてないシューバをあんだけ煽ってNじゃ測れない執着度にふっとばしときながら、外堀埋めた挙句、動く歩道に乗っけてるじゃねーか。
おまけにそれなら、昔の記憶でメンタルをガリガリ削りながらもロジュと一緒にいる理由もわかる。
「だからおまえ、ロジュと蜜月のふりして出没しまくった訳か。政治領域が欲しけりゃ畑里あかりを獲ってみろって?」
そりゃぁすげぇプレッシャーだ。
あかりが選んだ暫定政府の首長は、どこから見ても無色透明なただのじいさん。結局顔が見えるのは、シューバとロジュとあかりの3人になる。
国際承認をとれるのはあかりで、あかりを手中にした奴が建国者だ。
もし、あかりがロジュと婚姻なんてことになったら、オセロゲームのようにパタパタとキュニ人が国の中枢に変わりかねない。
タキュもゼルダも、掌がえしでシューバに何とか畑里を引き留めろと言うだろうし、少なくともクルラとの結婚なんてだれも望まなくなる。
その一方で、クルラと結婚させようと強引な手を使ってきた奴らに急激な方向転換は無理だ。
民族の敵レベルに炎上したあかりを露骨に立てるロジュに、敵対宣言して攻撃を仕掛けてしまった勢力すらある。一枚岩どころか数十個の小石状態。
シューバは恋愛感情以前のパワーバランスの問題からでも畑里以外を選べない。
・・・タキュもキュニも詰みだろ。
畑里の勝ちだ。
たった、二年半で。
「二年半、どーせ、可愛いクルラちゃんに鼻の下伸ばしてたんでしょ、あの子は。虐めてやるわ!」
待て、ちがう。
あいつはとっくにお前を選んでるだろ、ってだめだ、聞いちゃいないな。
にげろ、シューバ。そいつは魔王だ。やられるぞ!
『きゅーぶ』がぶち上げる花火のプレスリリース記事を手に、さとるの頭は真っ白になった。
「ゼルダとか『きゅーぶ』とか、企業の看板で行くんじゃなかったのかよぉ」
さとるは、もう嫌だと言わんばかりの涙目であかりを見る。
いまやすっかりブランド化したホゴラシュ女性の、合同見合い的な国際行脚企画。
恐ろしいことに、公式な要請だけで8カ国もの国から招かれて、日本のように国家プロジュクト化しているところまである。
「そんな2時間物のWEB放送企画レベルにこの私が2年半もかかるわきゃないでしょーが」
「いや、3年って、ふつうに心の傷の治療期間だと・・・え、ってことは、お前、あの状況でこのシナリオ描いていた訳か?ほんとに魔王なの?!」
あの状況。心身ともにずたぼろで、流石の畑里あかりでも立ち上がるのに何年もかかるだろうと、さとるにすらそう覚悟させた。首に4つもできた大きなやけどの跡と、脚に伝う血の跡と。
もちろん、傷ついてないとは思わないが、こんな報復シナリオを描ける奴が潰れるとか、太陽が西から登ってもない気がしてくる。
そして彼女が潰れないなら、さとるにとってあとは些事だ。
「実質の後見はもちろんゼルダにやらせるわよ。でも、名目上はホゴラシュ外交使節団ね。結婚の条件とか、子どもの国籍の認め方とかの二国間条約を締結しまくってやるわ」
でた。
いつもいつもいつも。危ない地雷原を三段飛ばしの棒高跳び。
相手を国際法主体として認めていなければ二国間条約なんて締結しない。
名目上でも、外交使節団ってなっている集団を、相手国が公式に接受したあげく、WEBでガンガン公開して、条約締結されたりしたら、そりゃぁ、黙示的国家承認って、国際社会は思うよな。
それじゃなくても、ゼルダが稼ぎ、大量にホゴラシュ国内に吐き出すはずの金を、どう再吸収しようかと各国に考えさせる程度には、新規なナノ磁石周辺の金額の動きはでかいわけで。
「なんて露骨な国家承認ねらい!ホゴラシュ政府どこ?!」
「立役者が今更なにゆってるかな。昔交戦当事者だった奴らがどうしてるかなんて、今のホゴラシュ経済には関係ないでしょ。通貨なんてゼルダの暗号通貨ベースで困らないし」
「・・たった、3年で、政府ごとなかったことに?」
「どれが政府かなんて、私だって知らないわ。でも、他国の要人たちには、継続して国レベルの話を通せるとこが必要で、そんなの、ゼルダの取締役会+ロジュ周りの混成チームで充分でしょ」
「首長は?!まさか色仕掛けでシューバにOKさせたのか?」
「なんつー言いぐさ?!首長なんて持ち回りよ!くじ引きの1年交代でOKさせたわ。最初はあれよ、ほら、あのゼルダの取締役だけど暇なおじいちゃん!」
「うわ、シューバにお菓子買ってきて出すのが趣味のあのじいちゃん?最初っから隠す気もない傀儡政権?!法制度とか租税制度とかは?!」
「法制度と警察組織なんてセジスタン地区とおんなじで十分よ。租税制度に至ってはあんたとますみ君が設計したんでしょうが。ゼルダの暗号通貨使ったら勝手に徴税される」
「徴税じゃねぇ、手数料だ!」
「これまでの、武力で支配したやつが順番に分捕り、とかよりよっぽど予測が立つのに、徴税とどう違うのよ!」
「う、えっと、何にかけるかとか、使い道とか、緻密な設計を決めてない、とか?」
「緻密な設計されたら、反映できないの?」
「・・・できる。すごく、簡単に」
「んじゃ、すごくいい徴税システムじゃない。ばか?」
「そうじゃなくて!旧来勢力だってだまってないだろ、暫定とはいえ国もどきだったんだぞ」
「あれだけ殺し合って、どれだけ人材残るのよ?しかも残ってる主要メンバーの平均年齢、いくつだと思う?」
「たしかに俺らの平均年齢の3倍はありそうだがっ。奴らにも譲れないもんがあったからこうなった訳だろーが」
あかりがバカにしたように肩をすくめる。
「買えなくても、これだけ目の前を食料が通ればね。しばらくは、『うちの子に飯を食わせろー!』っていうモティベーションに勝てる流れは無いわよ。理想の国の形がどうこう言っても、グロスでモティベーション負けする。ざまぁみろだわ」
「お前の『ざまぁ』ってこういうの?!」
「おうよ、こちとら被害者よ?充分にボコす理由がある!」
こいつこわい!
さとるは頭を抱える。
「で、シューバに選ばせるわけか。キュニ人の女と結婚するか、国際承認のニンジンぶら下げた女と結婚するか?」
にやりと笑ったあかりの顔は、恋愛中の女というよりは策士のそれで。
「んー、対等?」
「脅迫だよ!」
ひでぇ、マジにひでぇ。
もとからこいつしか見えてないシューバをあんだけ煽ってNじゃ測れない執着度にふっとばしときながら、外堀埋めた挙句、動く歩道に乗っけてるじゃねーか。
おまけにそれなら、昔の記憶でメンタルをガリガリ削りながらもロジュと一緒にいる理由もわかる。
「だからおまえ、ロジュと蜜月のふりして出没しまくった訳か。政治領域が欲しけりゃ畑里あかりを獲ってみろって?」
そりゃぁすげぇプレッシャーだ。
あかりが選んだ暫定政府の首長は、どこから見ても無色透明なただのじいさん。結局顔が見えるのは、シューバとロジュとあかりの3人になる。
国際承認をとれるのはあかりで、あかりを手中にした奴が建国者だ。
もし、あかりがロジュと婚姻なんてことになったら、オセロゲームのようにパタパタとキュニ人が国の中枢に変わりかねない。
タキュもゼルダも、掌がえしでシューバに何とか畑里を引き留めろと言うだろうし、少なくともクルラとの結婚なんてだれも望まなくなる。
その一方で、クルラと結婚させようと強引な手を使ってきた奴らに急激な方向転換は無理だ。
民族の敵レベルに炎上したあかりを露骨に立てるロジュに、敵対宣言して攻撃を仕掛けてしまった勢力すらある。一枚岩どころか数十個の小石状態。
シューバは恋愛感情以前のパワーバランスの問題からでも畑里以外を選べない。
・・・タキュもキュニも詰みだろ。
畑里の勝ちだ。
たった、二年半で。
「二年半、どーせ、可愛いクルラちゃんに鼻の下伸ばしてたんでしょ、あの子は。虐めてやるわ!」
待て、ちがう。
あいつはとっくにお前を選んでるだろ、ってだめだ、聞いちゃいないな。
にげろ、シューバ。そいつは魔王だ。やられるぞ!
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