手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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46 拾い物

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精密検査に送られたあかりの体はくまなく検査されたが、少なくとも、レノが3年前に打った薬の主成分、人工核酸は一切検出されなかった。

ただ、髄膜が腫れている。頭痛、発熱、嘔吐に波があり、症状から見て何らかの生物の感染だと思われるのに、どのプローブで検査しても引っかからない。

とりあえず、人にうつる有名なやつは全部陰性だったんでしょうがと、もともと治療拒否ではなくて大したことがなかったのだとあかりが言い張り、髄膜炎は大病だあほたれと大喧嘩になったが、結局マッドとノーキンが折れた。
簡単にいうと、あかりを、ベッドに縛り付けておくのに失敗し、薬を分捕られた上、強制退院されたわけだ。

まぁ、あかりの気がせく理由はマッドたちだってわかっている。

なんせ、あかり視点では、ゼルダの夜会のはじめの方に意識をかりとられ、気が付いた時には、レノを含め敵勢力の幹部クラスが軒並み死んでいた。
あきらかにシューバ主導だろうが海外の報道では、国民の自浄闘争扱い。

いやいや、自浄闘争できるほどのアイデンティティも覚悟も受け皿も醸成されてなかったからね?!

シューバってば、派手に力使って、もぉ。死者が六人?ご飯食べられてるの?

本気でこのまま、自分たちが選んだ国の方向ですから、って流れに持っていくつもり?
瓦解しない?ってか、ロジュとかも、過労死しない?
・・・と続いて行き、
あまりに派手な主要動があれば、余波と揺り返しを心配するのは人の性です、とばかりに、
あかりはずるずると重いからだを引きずって外出していくのだった。



「あー、あかり殿、お腹立ちはごもっともなのですが、もう少しマイルドに接していただくわけにはいきませんか」
ロジュは気疲れでぐったりしながらそう言った。

キュニの崩壊を防ぐには、レノが率いていたこの企業も、結局ロジュが引き継ぐしかなかった。
ゼルダが資本投下した直後から、よちよち歩きながら自力で外部対応をしてきたロジュ直下の企業ならまだしも、ココを含むキュニ系企業は人材自体が育っていない。

あかりは、とくにクリスタの益が大きい訳でもないのに、こんなところにまで良い条件の事業提案を持ってきてくれた。
いまのホゴラシュの不安定さや国民のメンタルの具合をわかって、ロジュをサポートに来てくれたのだ。
ありがたいことこの上ない。が、はずかしながらその善意を受け入れるキャパのある人間が、ココには多くはないのだ。
社員のほとんどは、あかりの誘導にすらついて行けない、

知らない情報が多すぎ、理解できないことが多すぎ、事業経験が少なすぎる。
もう、しゃべるスピードからして違う。
今日も彼女の返しは速かった。

「まったく、女は子宮でしか考えないから」と言った男を「臓物にバレる程の無能を晒さないでくれますか」と瞬殺し、「男を立てるのが女だろうが」と逆切れした男に「立ててもらわなきゃ勃たない男など用無しです」とのたまった。

わかっている、彼女は悪くない。が、組織にダメな人間もいて、全部切るわけにもいかないのだ。

「えー?有利な条件を引き出さなきゃいけない取引相手になんの戦略も計画も連携もなくケンカ売る程の脳無しよ?ひっこめてあなたの手駒に変えりゃ、半額のライセンス料ですんだじゃない。そんなに資金が潤沢なの?」

「そうもいかない理由がありまして。これ以上俺の子飼いばかりに経験を積ませると彼らの家に投資させられなくなります」

「あは。投資額の方が、損失額より大きいのか。お疲れ・・・って、あ、そうだ。あなたの奥さんに、ご機嫌伺いに来てもらえれば値引くわ」

「妻、ですか?」

一瞬警戒したロジュをみて、あかりは満足する。
何も考えずに『売ります』という男よりよっぽど好感が持てる。

「ええ、タキュの方でしょ。メイの友達ですって」
「は?」

「奥様のご実家のそばに、キュニの祠があるでしょう?お母様とメイがあそこで生き埋めにされたんだそうよ。近所のキュニ人は祠を荒らされて怒ったけど、生きて出て来たメイを殺すのは縁起悪いと思ったらしくて、近くのタキュの村に投げ込んでくれたんだって。で、その時の友達みたい」

メイがキトちゃんと呼ぶ友達。
雁さんとメイが好きな、トカゲの好きな草を出荷する村の長の1人娘だ。
ロジュとは、タキュとキュニのほんの数か月の停戦のための政略結婚だったらしいが、キトちゃんはなかなかの傑物らしく、「不幸な女性うっぱらい企画」に飽きたうちの『きゅーぶ』が次のネタにと目をつけている。

「はぁ、妻も友達だと認識しているなら問題ないかと」

「あなたの話も込みよ。夫婦仲いいのよね?」

「俺と、ですか?」

「うん。ずかずか不幸漁りに踏み込んだ連中に、現状で幸せなホゴラシュ女性もいる、うちの夫は素敵だ、文句あるかってタンカ切ってその筋では有名になってるよ」

「ぶっ。き、きいておりません。特に仲が良いと言うほどでもないかと」

たぶん、認識としてはそうなのだろう。
奥さんのキトちゃんとてラブラブだと言ったわけではない。

「殴ったことはないと」

「俺が殴ったら大抵の人間は不可逆的に壊れますが?!・・・いえ、日々戦地でうんざりするほど人体の潰し合いをしていたら、因果関係の判断は正確になって当然かと」

「わかって欲しいことは言葉で伝えるし、彼女の話も聞く?」

「意思疎通は作戦行動の基本・・・って、我々は作戦行動もできない認定ですか?」

さっきの取引交渉見る限りは、実際できてないっての。

ただ、まぁ、それでも。
あの6人・・それぞれ自分こそがホゴラシュの王にふさわしいと思っていただろう組織のボス・・がゼルダの夜会で一気に鬼籍に飛んでも、大丈夫、なんだ。

正直、ホゴラシュが淡々と日常を続けられるとは思っていなかった。だって、集まって演説やっちゃぁどーどー泣いて、リンチやっちゃぁトランス状態に入って、自分たちだけが特別なはすだバイアスでかっぴかぴの集団に見えたのだ。

それが一気に崩壊しても自暴自棄の暴動とか、集団自殺とか、略奪合戦とか、ないもんなんだね。いや、なくていいんだけどさ。びっくりしただけ。

「いない間の生活費もちゃんと渡すし、帰宅時に彼女が外出していても怒らない?」
「そりゃ、金は俺の配置がどこだろうが必要な時は必要ですし、いないことが多すぎるのに常に備えていたら非効率的でしょう」

「彼女を頼りにしている?」

「ああ、それは彼女の知識が特別だからです。パン芋・・よく軍団の非常食にされる自生植物があるんですが、高度によって種の色が違うと教えてくれたのも彼女でして。おかげで、敵の斥候のクソから敵の隠れ場所が割れたことも・・・ああ、すみません、例えが汚かったですね」

「いや、全然。すごくいい話よ。じゃ、奥さんに子どもがいつごろ欲しいか聞いて合わせようとしたり、子どもが出来なくても責めないというのも本当な訳だ」

「確率的に俺がいない時に生まれるのに、無視してどうすんです。ついでに確率問題で詰め腹を切らせる指揮官とかどーしよーも ・・・って、効率性で片が付く事象並べても、夫婦仲が良いことにはならんでしょうが」

なるほど。質問には1対1対応の的確返答、反応速度良好。
キュニの不敗の名将の実態は、認知バイアスが極端に低い男、か。
そりゃ勝つか。
うん、この男は拾い物だったな。

「自覚ないんだ。いや相当仲いいよ、それ。先進国入れても世界レベルで上位1割レベルじゃないの?OK、わかった。今日のあのダメ男たちの失敗、彼女貸してくれたらチャラにする。帰ったら聞いてみて?」

「了解、いたしました。挽回の機会をいただけること感謝します」
資金流出を止められるならそれに越したことはないわけで。ロジュは、腑に落ちない、という顔をしながらも、快諾した。

「それにしてもロジュ、あなた、ものすごい平常運転ね」
正直、彼が揺らげばキュニ人の過半の心は根元からぼっきり折れると思う。その一方で、揺らがなさをアピールすれば、武装勢力側で唯一残った求心力として担ぎ上げられるはずで・・・よく、もっている。

「嫌みですか。・・・べつに、自分がやったことをうやむやにしようとしている訳じゃありません。時期が来れば、あなたが裁けばいい」

「ああ、そーゆーんじゃなく。ってか、私だって、順番がケモルよりあんたが先だったらあの時全力であなたを殺しに入ったわよ。敵だったんだからお互い様でしょ」

まぁ、今となっては、そうじゃなくてよかったと思う程度には、認めている。

「違いますね。俺は敗戦組織の戦犯で、あなたは勝者だ。まぁ、ある意味あの時も、あなたが勝者でしたけど」

ふうん。私がケモルとロジュを指名して仲間割れさせようとしたことも、最初から気づいてたわけか。

「読みがいい割に、損な役回りね」
「動ける生き物ばかりじゃない。落ちた場所で芽吹くのはやむを得んでしょう。俺も、生きている間は最善を尽くしますが、時期が来ればさっさと枯れますよ。普通です」

「わかった。自浄闘争がうまくいった結果の平常運転。あんたの路線に乗る」
あかりはそういって親指を立てた。
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