海月のこな

白い靴下の猫

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ど迷惑な船

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ガツンと襲ってきた胸やけもどきに顔をしかめ、ルウイは自分の鎖骨下に爪を立てる。顔を縁取る緑色の髪が、不自然にざわめいていた。
また来やがったのか、あのゴタゴタの神め。
取り澄ました見かけとかけ離れた舌打ちに、ミセルが振り向く。こちらは黒く波打つ髪と、いかにも理知的な瞳。
「どうしました?ルウイ?」
ルウイの倍くらいの年だが肌はすべすべ。もう長いこと、パセルに並ぶものもない英才といわれつづけ、特に医術に関しては粋を極める。
「きた」
毒を吐き捨てるようにひとこと答えると、ルウイは近づいてきたミセルの手を引き寄せて、自分の頭をなでさせる。
父親代わりをして15年。世間的には娘と男親との距離が開いていく時期だと聞く。
ミセルとしては気を使って、最近は少々接触を控えているのだが、ルウイはまったく気にしない。
流砂をまとった荘厳な城に、キュイーンという不似合いな軽い電子音が満ちる。
ああ、なるほど。
ミセルは、ルウイの不機嫌の原因を察知してため息をついた。
電子音に惹かれるように周囲の建物から、ばらばらと人が外に出始めた。
神の船と呼ばれる物体が降りてくる前触れの音だ。
広場にひざまずいて太陽を拝む人々が見える。
人々の拝む先で、太陽の光が弱くなり、二つに割れ、その一つがゆっくりと地上におりてくる。
最近減ったとはいえ、珍しくもない光景だった。
神の国パセル。彼らは自分たちの国をそう呼ぶ。
別世界からの宇宙船もどきや宇宙ゴミが頻繁に落ちてくるというだけの、面倒ごととしか言いようのない地域的なイベントで、なぜ自分たちを選ばれた民と思えるのか。
正直ルウイには全くわからない。
このイベント、本当に迷惑なのだ。割れた太陽から謎のがらくたが降り注いだこともあれば、神の船ごと巨大なデプリと化して地形を変えたことすらある。
さらにいえば、神の船に「神」がのっていたことなどない。
中に入っていたのは、不気味な化学物質や、劇薬や、最悪な時は妊婦の死体。
非常食や動力源などを再利用することはあるし、つかわれている技術はこの世界にない高度なものなのだろうが、特に最近はぼろぼろで、ジャンク感が半端ない。結果的には、どう処理してよいかわからない廃棄物だの、ルウイの顔を見ていきなり襲って来たロボットだの、残留思念付きで人の心を壊すデプリの前駆体だのの、危険物宝庫だ。
残留思念を浄化し、危険物を処理し、神の国の英知を活用することで、民にあがめられていたのがパセルの王族であったわけだが、数年前にその王族はのきなみ死に絶えた。
そして今、ほとんどの処理をルウイとミセルが引き受けていた。
王族でもないのに。並外れた力があるという理由で。 
これを迷惑といわずして何と言おう。  
だが、そう思っている人間はごく少数だ。
大多数はいまだに神の船をありがたがり、ルウイにすがる。
ミセルは、広場にひざまずく老人たちと、目の前でもっとなでろと頭を摺り寄せてくる、輝くばかりの生命力にあふれた娘を見比べる。
皮肉なことに、パセルの民が神の国や神の船への信仰を捨てきれないのは、ルウイの存在が大きかった。ルウイこそが、神の船に乗っていた瀕死の妊婦が産み落とし、神の子と呼ばれる存在なのだ。迷惑をかけられ通しだとルウイが理を説いたところで、ルウイ自身が憧憬を集めている以上まったく説得力がない。
「後回しにしても、労が増えるだけですし、私が中を改めてきますよ。ルウイは待っておいでなさい」
「・・・いい。一緒に行く。こないだひとりで待ってたら、長老たちに取り囲まれて変なダンス踊られたし、やめてって言ったら泣かれたし!」
ルウイは、思い出したくもないというように頭を振ると、ミセルの先に立って歩きだす。
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