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脱出
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着地点にいる仲間との合流は簡単だった。
ポリンがリュートや馬を連れて待っていた。縄は切ったが当然追っ手が掛かっていて、直線で帰るわけにはいかない。
レグラムへはセグアイを通って迂回する予定だった。
でも。うげ、だめ、傷に響く。馬は無理。
乗ってみるまでこんなにしんどいと思わなかった。
国境を越えるや馬車に変える。
ルウイの容体が、ポリンの手に負えないことは明らかだった。
ポリンは、ルウイはミセルへの最短コースをとるべきだ、アルトと二手に分かれて連れていくと主張した。
「う、ん、正しいのだけど、ね」
ルウイはポリンの正しさを認めながらも、アルトから目が離せない。
絶対、様子がおかしいって。
別人かと思うほどメンタルがガタガタじゃない。これ、ほっておくと駄目なやつだとおもう。
「アルトと一緒に行きたいわ」
泣き顔になるポリンの前で、ルウイがペンダントから髪留めの玉からアンクレットまで割りまくる。
出てきたのは、麻酔薬に仮死薬に禁薬に幻覚剤の山だった。
痛みは抑えられるが、後始末がえらく大変になる。特に禁薬は最悪。腹に効果が切れるときにひどい禁断症状が出るし、他の薬をほとんど併用できなくなる。
でもまぁ、ミセルなら何とかしてくれると思う。
こういう非常時に、全面的に娘に頼られるというのも、父親冥利に尽きる気がしない?
よし、そうと決まればさっさとこの痛みと息苦しさを何とかすべし。
さて、どの順番で使おう?
☆
アルトは怖かった。
ルウイを、自分を正気につないでくれる糸にして、信じられなくみっともない縋りっぷりをさらした自覚がある。
だが、いざ正気に居座ってみると、ルウイの容態が悪化していくのがわかる。自分のしたことが、過ちが、ルウイを害していく。
闇に、追手に、ルウイの容体に、後悔に、すべてのものに恐怖が堆積する。
何度も何度も、ケセル王の夢を見て、自分のものとは思えない悲鳴を上げた。
鞘から数センチだけ出された刃が白い残像を残して、剣が何度もルウイにたたきつけられる。剣のきらめきは、ケセルに痛めつけられるルウイのフラッシュバックを誘った。
不調は隠しているつもりだが、すでに剣が抜けない。
雑魚の盗賊に行き会った時など、石を投げて応戦する体たらくで、剣のきらめきを見たあとは、水を飲んですら吐いた。
アルトとて自分の状態が正常でないことは理解していた。
それでもどうにもならない。
この上ルウイに負担をかけるなどあってはならないのに。
繰り返し。繰り返し。悪夢は波のようだった。
取り繕えているだろうか。
ルウイの目が、いつもアルトに注がれている。
ルウイには、馬車の中で、いろいろな話をした。
本物のリュートが消えた時の話も。
セリナとトールが吹き飛んだ時の話も。セリナとトールはさ、混ざったんだよ。心の中が。だから、ものすごく重力の穴が大きくなって、ものすごい容量の飛来物を呼んだらしい。
リュートと俺だって負けてなかったと思うのに、なんでだろうな。まざれなかったんだ。だから俺は置いていかれて、リュートだけが死んだ。
リュートが死んだあと、誰が側近についても、アルトはなんども『リュート』と呼んでは謝った。取り巻きは、アルトに謝罪させないためだったら、全員『リュート』に改名させることなど厭わなかった。
アルトが従者のリュートがいると気づくまでに、勝手について歩こうとした従者のリュートが何人も命を落とした。
今のリュートには一応アルトが気を使い、本人の才能もあって、初めて長持ちしている、それでも1年ほどだが。
「あんたの取り巻き、デリカシーが息絶えているわね」
ルウイはそういってくれた。
ルウイも、『ぬめぬめ』を止めるすべとか、いろいろな話をしてくれた。
ルウイの相槌や言葉は、ささくれ腐って骨が突出しているような心にトロトロと浸透した。
☆
ミセルは、ピンクの煙が赤い煙に変わったのを見て、段取りが崩れたことを知った。
滑空する人間が二人なのを見て思い切り舌打ちをする。早く合流しなければ。
考えつく限りの医療品を馬車に積んで、ルウイを目指した。予定通り進んでいるとしたら、セグアイだ。
あのルウイが、逃避行の中で、自分の容体を優先させるとは思えない。
それじゃなくても、目的重視すぎて、普段から道理を蹴散らかした無理をする。
誰だ、あんな風に育てたのは。私か?!
焦り続けて、三日。ようやく一行を見つけたが、悪い予感はあたっていた。
ルウイに駆け寄る途中で、すでにミセルの顔色が変わる。
ルウイの顔色が良すぎるのだ。
「なんて、ことを。禁薬を飲みましたね・・・」
一目でバレて、さすがのルウイもばつの悪そうな顔をする。
禁薬は。覚醒作用や痛覚を中心とした不快感の鈍麻があるが、絶つときにと、禁断症状がある。
しかも、服用中は麻酔などのほかの薬が効かず、そのままでは手術もままならない。
「ごめん、なさい。その、色々あって。ミセルが来てくれると思って甘えました!」
ミセルは唇をかみしめて、目をぎゅっとつぶる。
ひっぱたいて変わる行動なら、たたき甲斐もあるだろうが、絶対に変わらないとわかっているのでやったことはない。
ラウル、セリナ、トール。ルウイの教育は私だけの責任じゃないぞ。ついでに言うなら、もうちょっと楽な子でもよかったぞ。
ミセルは数秒で立ち直り、次々と指示を飛ばし始めた。
すぐに、城に手術場の準備を。神の叡智が使えるパセルの医師は全員城に呼び戻しなさい!禁薬の効果が抜け次第、全身麻酔をかけてでも移送します。薬のリストは今晩私が出します。
しかし、ルウイがミセルの袖をつかんだ。
「ミセル。アルトが危ないの」
「立って歩いていました。あなた以上に危ないことなどありません!」
「違う。一刻を争う。お願い。協力して。リュートといっしょに」
リュートが下を向く。
ルウイの話を聞きながら、ミセルは、馬鹿なことを、馬鹿なことを、と何度も繰り返した。
ポリンがリュートや馬を連れて待っていた。縄は切ったが当然追っ手が掛かっていて、直線で帰るわけにはいかない。
レグラムへはセグアイを通って迂回する予定だった。
でも。うげ、だめ、傷に響く。馬は無理。
乗ってみるまでこんなにしんどいと思わなかった。
国境を越えるや馬車に変える。
ルウイの容体が、ポリンの手に負えないことは明らかだった。
ポリンは、ルウイはミセルへの最短コースをとるべきだ、アルトと二手に分かれて連れていくと主張した。
「う、ん、正しいのだけど、ね」
ルウイはポリンの正しさを認めながらも、アルトから目が離せない。
絶対、様子がおかしいって。
別人かと思うほどメンタルがガタガタじゃない。これ、ほっておくと駄目なやつだとおもう。
「アルトと一緒に行きたいわ」
泣き顔になるポリンの前で、ルウイがペンダントから髪留めの玉からアンクレットまで割りまくる。
出てきたのは、麻酔薬に仮死薬に禁薬に幻覚剤の山だった。
痛みは抑えられるが、後始末がえらく大変になる。特に禁薬は最悪。腹に効果が切れるときにひどい禁断症状が出るし、他の薬をほとんど併用できなくなる。
でもまぁ、ミセルなら何とかしてくれると思う。
こういう非常時に、全面的に娘に頼られるというのも、父親冥利に尽きる気がしない?
よし、そうと決まればさっさとこの痛みと息苦しさを何とかすべし。
さて、どの順番で使おう?
☆
アルトは怖かった。
ルウイを、自分を正気につないでくれる糸にして、信じられなくみっともない縋りっぷりをさらした自覚がある。
だが、いざ正気に居座ってみると、ルウイの容態が悪化していくのがわかる。自分のしたことが、過ちが、ルウイを害していく。
闇に、追手に、ルウイの容体に、後悔に、すべてのものに恐怖が堆積する。
何度も何度も、ケセル王の夢を見て、自分のものとは思えない悲鳴を上げた。
鞘から数センチだけ出された刃が白い残像を残して、剣が何度もルウイにたたきつけられる。剣のきらめきは、ケセルに痛めつけられるルウイのフラッシュバックを誘った。
不調は隠しているつもりだが、すでに剣が抜けない。
雑魚の盗賊に行き会った時など、石を投げて応戦する体たらくで、剣のきらめきを見たあとは、水を飲んですら吐いた。
アルトとて自分の状態が正常でないことは理解していた。
それでもどうにもならない。
この上ルウイに負担をかけるなどあってはならないのに。
繰り返し。繰り返し。悪夢は波のようだった。
取り繕えているだろうか。
ルウイの目が、いつもアルトに注がれている。
ルウイには、馬車の中で、いろいろな話をした。
本物のリュートが消えた時の話も。
セリナとトールが吹き飛んだ時の話も。セリナとトールはさ、混ざったんだよ。心の中が。だから、ものすごく重力の穴が大きくなって、ものすごい容量の飛来物を呼んだらしい。
リュートと俺だって負けてなかったと思うのに、なんでだろうな。まざれなかったんだ。だから俺は置いていかれて、リュートだけが死んだ。
リュートが死んだあと、誰が側近についても、アルトはなんども『リュート』と呼んでは謝った。取り巻きは、アルトに謝罪させないためだったら、全員『リュート』に改名させることなど厭わなかった。
アルトが従者のリュートがいると気づくまでに、勝手について歩こうとした従者のリュートが何人も命を落とした。
今のリュートには一応アルトが気を使い、本人の才能もあって、初めて長持ちしている、それでも1年ほどだが。
「あんたの取り巻き、デリカシーが息絶えているわね」
ルウイはそういってくれた。
ルウイも、『ぬめぬめ』を止めるすべとか、いろいろな話をしてくれた。
ルウイの相槌や言葉は、ささくれ腐って骨が突出しているような心にトロトロと浸透した。
☆
ミセルは、ピンクの煙が赤い煙に変わったのを見て、段取りが崩れたことを知った。
滑空する人間が二人なのを見て思い切り舌打ちをする。早く合流しなければ。
考えつく限りの医療品を馬車に積んで、ルウイを目指した。予定通り進んでいるとしたら、セグアイだ。
あのルウイが、逃避行の中で、自分の容体を優先させるとは思えない。
それじゃなくても、目的重視すぎて、普段から道理を蹴散らかした無理をする。
誰だ、あんな風に育てたのは。私か?!
焦り続けて、三日。ようやく一行を見つけたが、悪い予感はあたっていた。
ルウイに駆け寄る途中で、すでにミセルの顔色が変わる。
ルウイの顔色が良すぎるのだ。
「なんて、ことを。禁薬を飲みましたね・・・」
一目でバレて、さすがのルウイもばつの悪そうな顔をする。
禁薬は。覚醒作用や痛覚を中心とした不快感の鈍麻があるが、絶つときにと、禁断症状がある。
しかも、服用中は麻酔などのほかの薬が効かず、そのままでは手術もままならない。
「ごめん、なさい。その、色々あって。ミセルが来てくれると思って甘えました!」
ミセルは唇をかみしめて、目をぎゅっとつぶる。
ひっぱたいて変わる行動なら、たたき甲斐もあるだろうが、絶対に変わらないとわかっているのでやったことはない。
ラウル、セリナ、トール。ルウイの教育は私だけの責任じゃないぞ。ついでに言うなら、もうちょっと楽な子でもよかったぞ。
ミセルは数秒で立ち直り、次々と指示を飛ばし始めた。
すぐに、城に手術場の準備を。神の叡智が使えるパセルの医師は全員城に呼び戻しなさい!禁薬の効果が抜け次第、全身麻酔をかけてでも移送します。薬のリストは今晩私が出します。
しかし、ルウイがミセルの袖をつかんだ。
「ミセル。アルトが危ないの」
「立って歩いていました。あなた以上に危ないことなどありません!」
「違う。一刻を争う。お願い。協力して。リュートといっしょに」
リュートが下を向く。
ルウイの話を聞きながら、ミセルは、馬鹿なことを、馬鹿なことを、と何度も繰り返した。
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