海月のこな

白い靴下の猫

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アルトと再会

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翌朝、ふらつきながらもルウイは自力で立ち上がった。
麻酔が抜けかけているせいもあるのだが、それをみたケセルはつぶやく。
俺はそなたが人外でも、女神でも驚かんな。
「アルト王子にお水を持って行っても?」
「水でも食物でも持っていけ。死なれたら大損だ」
ガチャガチャと大きな音を立てる鍵束で扉を開けてもらったが、アルトは振り向かなかった。
「どれくらいの時間、二人にしていただけますか?」
お前のケガに障らない範囲だ、とケセルは思ったが、自分の言うことではない、と思い直す。
「ゆっくりするがいい」
ルウイは小さく笑って、ケセルの鼻先で扉をしめると、髪から抜いた金属の棒を少し曲げてから、そっと鍵穴に差し込んだ。
外の見張りが扉を開けようとしてからも、少しは時間が稼げるだろう。
歩いているつもりだが、アルトの視界に入るまでがとてつもなく遠い。
ばかもの、こっちをむけと毒つくが効果なし。
近づいてから、小さめに声をかける。
「アルト。ね。水」
だめだ、目の焦点があっていない。
口移しで強引に水を含ませる。
う・・・
「私だってば。水、のんで」
「ルウイ?」
「そう」
はじかれたように、腕が上がり、こめかみの傷のそばで止まる。
「だいじょーぶ。痛くないから」
繰り返しなだめながら、苦労して立ち上がる。
小さな窓から腕を伸ばし、腕輪から粉を落とす。
数回粉をこするとピンク色の煙が流れていった。
しばらくすると、ガキッという外壁に鉄の食い込む音が返ってくる。
位置としては、小窓から右に五m、下に五mといったところか。
OK。
外の音だ。扉の外の見張りは気にしていないだろう。
「足だして。」
ルウイは綺麗に曲げられた金属を数本衣服の襟から取り出した。
その金属で律動的な音を数回立てると、足の鎖はあっさりと外れた。
「とりあえず水。栄養剤と気つけ薬入れたから」
脱水症状寸前の顔をしてまったくもう。
「夢か?」
「馬鹿なの?脱出させにきたに決まっているでしょ。動けるの?」
アルトが頷く。
「死んだと、きいた」
「だれに?」
「ローだ」
ルウイが、鼻で笑う。
「よく信じたわね」
「ミセルと、流砂に・・」
「ああ、城への最短ルートなの」
こともなげに、ルウイがのたまう。
そうか、追い落とされたわけでもなく、急いだだけか。
「お前、体は」
「最悪!」
「・・・すまない」
はい、はい。ルウイは軽く受け流すと、自分の右の腕輪を全て外し、アルトの服に結ぶ。
「じゃ、作戦①外から石弓でこの壁ぶっ壊してもらう。②ロープが来ているからこの輪を引っ掛けて、滑り降りる。③着地点に剣と着替えのせた馬つれて仲間が待っているから逃げる。超単純。了解?」
「・・・ルウイは?」
「ここで、仮死薬、ええと寝たきりになる薬飲む。で、ケセルが油断した頃に、ミセルに回収してもらう」
アルトは強く首を横に振った。
「俺を殺せ。そうすれば出ていける」
「はぁ?何しに来たと思ってんの⁈手ぶらでかえれって?」
「おまえこそ、俺に、一人で逃げろって?」
「仲間が待っているってば」
「そうじゃなく!おまえをケセルの元においてっ、一人でっ」
いや、あんたと私じゃ、ポジションが違うでしょうが。無名設定だもの。死体交換するような当てもないはず。んー、いわゆる貞操関係とかは無視しているけど、ここの兵士そんなに荒んでいる感じしないから大丈夫じゃないかなぁ。まぁ、そこら辺の説明はやめよう、ここで痴話げんかに発展するとか恥ずか死ぬ。
「滑空する距離が半端なく長いのよ。そのあとだって、馬で逃げるのよ!この状態であたしに滑空と乗馬しろって言うの?いい加減死ぬわよ」
アルトは首を振り続ける。
なにこれ、可愛い、じゃなかった。錯乱状態じゃない、仕方のない。
「分かった。一緒に行く。それなら動けるの?」
首振りが止まる。
ミセルごめん。怒るだろうなぁ。体もつかなぁ。
「ゆっとくけど、あたしのこと抱えてもらうわよ。重いから輪がもたないかもしれないし、支えが抜けるかもしれない。」
アルトが頷く。
「了解。とりあえず、水飲んどいて」
今度は赤の煙をながしてから、アルトのもとへ戻る。
「開始。壁から離れて伏せる」
ガン!ガラガラガラ!
激しい音が 響いて、壁に大きな穴があく。
さっすがミセルの石弓。窓を中心に半径五m弱。惚れ惚れするほど正確だ
さすがに壁を壊す音はごまかしようがない。扉の外が騒がしくなるが、扉の鍵はガチャガチャいうだけで、開く気配がない。半端に頑丈だからな。
爆破で外れていないか、ロープの支えを確認する。
大丈夫そうだが念のためにベルトを外して補強。ずいぶん服が軽くなった。
「抱き上げて」
「ああ」
アルトの目がしゃんとしてくるのが分かる。そうそう、その調子。
ロープに通して輪を閉じる。
「行って!」
アルトは思い切りよく跳んだ。
風を切って、どこまでも滑り落ちていく。
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