解放

かひけつ

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第2章 ■なきゃ

ブレイム

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☆side流行
目を覚まし、現実に戻る。グルバンも落ち着いた様子で目を覚ます。私はグルバンの方向に手を翳していた。

 もうひと踏ん張り…だから…

その手を、ゆっくりと下ろす。グルバンは起きて早々、機械を操作していた。その手を休めずにグルバンは晴れ晴れとした表情で私に話しかける。

 「さて、やるべきことは多いが、まず辞任しようかな…?」

 「…えぇ。……そうね」

 「異能によって外交や業務の経験を忘れてしまったけど、頑張るさ」

 「……ごめんなさい」

グルバンの言い方に嫌味や悪意を感じない。友好的に接してくれているのだろう。私はに応えられず、少し申し訳ないと思いつつも、倦怠感と頭痛に堪えるので精一杯だった。グルバンはパソコンを打つ手を休め、引き出しからカードを取り出そうとする。

 「ケイt…キミには、『カプセル』の!大丈夫かい!?」

大袈裟に反応するグルバンをなだめるよう口走る。

 「……でしょ?…もとより…これくらい覚悟の上だから」

 <こちらは回数は限られているが『異能』を持っている。あちらは、フィジカル面ではこちらに叶わないが権力発言力がある。さらに、グルバンは私に恩義がある。もっと言えば、人質ケイトがいる>

グルバンは察して、何も言わない。少しうなだれて呟く。

 「……すまない…」

それは暴力の謝罪か、『異能』を使わせるまでにも凶悪化してしまったことへの謝罪か、わからない。変にしんみりするのを避けるために明るめの声を出そうとすると、ケイトから交代の意思を感じ取る。

 「…わてのカードでしょ?善は急げ、よ」

 「……分かった。行ってくる…無理しないでくれよ」

 「はいはい」

グルバンは慌ただしく部屋を飛び出す。それとほぼ同時に床にへたり込んでしまう。まるで他人事のように自分の恥ずかしそうな声が室内に響く。

 「…ごめんなさい。彼の前で弱さを見せたくないの……」

共感できるから責める気なんて起きやしない。

 「気にしなくていいよ。さっさと行こ…」

ゆらゆらと立ち上がり、AIの乗り物などを駆使して何とか移動する。グルバンから貰ったカードによって権限が上がった。いや、ある意味戻ったとも言える。

 「ルコさんですね?ここに何の用ですか?」

目的地に到着し、従業員に話しかけられる。無言でカードを見せつける。

 「…?確認させてもらいます」

カードが本物かどうか、機械で確認しているようだ。数秒して、従業員は改まって対応する。

 「…ケイト様でしたか。失礼しました。この度はどういったご用件でしょうか?」

 「…『カプセル』の製造を中止する。設計図はどこに保存しているの?」

 「へ?」

従業員はあまりに唐突のことのようで今度こそ白目をむく。



粗方、製造に関係する機械を破壊した。カッカッと音を立てて健康な人間のように歩くのでケイトが不安に思ったようだ。

 「ルコ大丈夫?無理しないでよ?栄養剤に頼りすぎないでね?」

 「心配しすぎだって、それにそういう系の薬で問題視されるのってだよ。借りパクできる条件が整っているんだから問題ないでしょ?」

 「そうねって全肯定するわけにはいかないでしょ?もっと体に気遣うべきよ」

 「はーーぃ」

傍から見たら落語家のように表情豊かに一人二役を体現する。慌ただしい私に話しかけてきたのは、工場長のような人物でどうにか『カプセル』を守ろうと口車に乗せようとしてくる。

 「ケイト様。あなたがお作りした『カプセル』は大変優秀でございます。これで救われる人間は沢山いるのです。どうか考え直してください」

 「…そうは言いながら、どうも劣化した商品を提供しているようじゃありませんの?」

 「……なんのことでしょう?」

 「あえて定期的に点検や買い替えがいるように不良品になり下げたのはあなたの指針でしょう?」

 「それはですね…安全面を考慮して点検を増やすのは当然のことで…ま、待ってくださいよ…!!」

工場長の部屋に入ると、使い込まれたパソコンが目に映る。工場長は慌ててパソコンに駆け寄りそれを床に叩きつける。

 「…あれれ?落としちゃった。これじゃあ設計図のデータを処理できませんね。別日に来て下さい」

明らかな茶番に呆れつつも、帰るわけにもいかずルコは少し困った。ケイトの意思がパソコンに手を翳し、『異能』を発揮させる。

 ッボッン!

 「ッヒィ!」

工場長は冷や汗をかきながら、弁明する。

 「お、俺を殺したら家にある設計図のデータが誰の手に渡るか分らんぞ!」

要するに「俺を生かせ」宣言である。汚い内面の露見に嫌悪感を覚えながら『異能』で『恐怖』を植え付けるしかなくなる。ケイトが現実で『異能』を行使している中、私はシンと対話をしていた。

 〔なぁ、ケイトはなんで『カプセル』を破壊しているんだ?〕

 <言わば、尻拭いよ。過去に自分が作り出したもののせいで誰かが苦しむのが耐えられないのよ。ケイトは悪くないし、気にしなくても良かった。でも、自身の技術が悪用されて黙ってられないんだよ。ケイトにとっての責務ってところかな……>

 〔…なるほどな……〕

工場をハチャメチャにした後、グルバンの家に戻るのだった。そう各々の覚悟を胸に……。



――sideグルバン
わしは自室を出て、ケイトに見られていないことで緊張の紐が切れる。自虐的な笑み共に呟く。

 「…やっぱり、わしには後ろすら守れなかったなぁ……」

『カーセ家』はわしが無茶苦茶にしてしまったし、ケイトの代理なんて不可能だった。誰にも……。当たり前のことに気付けなかったのだ。

 わしは諸行無常の真理を知ってはいたが、モノへの執着をし続けてしまった

わしはただの悪人だ。自分の愛する者を追いかけていたのに、愛する者目標を見失って、自分を見失って、周りを巻き込んで何も得ていないんだ。害でしかない。因果応報。

 そんな悪人の贖罪は、責務は沢山あるのだ。やるきことをやるんだ

わしは例の部屋の前にいた。記憶の選別や『回復液』の応用で体を若返らせることはできはするのだが、限界がある。ケイトにとってルコのように、わしにも『代えの体』がある。ケイトよりスペックの低いわしは比較的簡単に記憶の移植ができるのだ(つまり、同レベルのスペックが生まれる可能性が高めだということ)。

 「…さて」

 <わしがやるべきこと……>

眼の前には、わしと同一の遺伝子を持った何人目か分らないクローンが機械の中で眠っていた。まぁ、眠るといっても眼は開いているため、クローンはまるで人形のような眼差しを向けてくる。そして、心なしか何かを訴えているように感じた。

 もう…用済みか?

わしにはそう聞こえた。きっと間違いなんかじゃない。

 「………」

 罪悪感が全身に広がる……

これまで、何度も何度も、見てきた何気ない風景、否、異常を日常に溶け込ませて感覚麻痺を作っていた。無意識に考えないようにしてきたのだ。辛くないようにするために……。思わずため息を吐く。

 「……わしはずっと自分を騙そうとしていたのか……」

ゆっくりと、『代えの体』の機械に触れる。クローンはどこか達観したような表情で重力に身を任せる。姿勢が姿勢だったので、倒れ込む形でわしにもたれかかる。

 〈いき過ぎたな……、なにもかも……〉

 だから、この世から去るべきだ

 <わしがやるべきことはそれだけではない……解放せねばならん>

この機械の中は限りなく時間の経過が遅いと考えて差し支えない。もしもの時の『代え』だったのだから、肉体の年齢は全盛期で保たれる。元々は、わしの記憶を捻じ込み脳、精神まで完全に同調させるためのだったが、そんなことするはずもなく、『辞書』をインプットさせる。これまでの体の保管や扱いについての謝罪と自由に生きて欲しいことへの意思表示、軍事資金として人一人一生遊んで暮らせるお金を用意した。ありがたいことに、クローンは話を理解して「問題ない」とだけ言って、お金もそんな持たずに社会に羽ばたいた。



隣の部屋に来て、目的を果たしに来たのだが、背後のドアが開く。心地良い花の匂いと同時に嫌な予感が一気に広がる。

 それこそ『死相』を想起させる

振り返って世の中の残酷さを改めて知る。こんなにも……感情的になるのは、ケイト関連以外では間違いなく初めてだった。

 「…っ!!お前……ふざけるなよっ!!!」

来訪者は何も言わずに大きく口角を吊り上げる――
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