解放

かひけつ

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終章

繋げ

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☆sideシン
リンがアピスの兄弟話を人形劇にして再現し伝えてくれる。

 「…………」

 〔………〕

皆が感情を言葉にできず、唖然とする。常軌を逸した情動と出来事で理解が追いつかない。

 まとめるとこうだ

アピスとヤイグという兄弟がいて、ヤイグは盲人のフリをした狂人だった。異能と出会う前から歪んだ性格で、洗脳や自己暗示を用いて周囲を操り、異能を知ると『アピス』という悪役を作り出して暴れまわった。自分ヤイグは赤子に退行してヘイトを減らしつつ、宇宙船で銀河系を超えた彼方まで離れるという徹底ぶり。

 たとえ、リンに勝っても負けても、生き残ったアピスが赤ん坊となったヤイグを回収すれば、完全勝利という筋書き

 <…上手く行き過ぎだろ、とかは置いておいたとしても…>

 「…ここまでとは思わなかった…な……」

 〔……〕

オレはルコと全くの同意見だった。

 「……最後に情に訴えても…許すわけないだろ……ケイト…」

 「そうね。でも、リンが決めていいと思うわ。処罰をね」

 「……分かった…」

リンは半神化を解いていて、人間の声、姿をしている。

 少し時間が経ったため、皆が集まっていた

ケイト、グルバン、ルコ、龍児、龍成、アイナ、ルピカ、海月、大神、グルバンのクローン、『ネームド』のアピスも、そうじゃないアピス達も、皆静かにリンを注目する。

 「あーーあーー…!」

当事者であるヤイグは無邪気にリンの腕の中で暴れる。

 「死刑を」

 「ま、待ってくれないか……!!」

 「お、オイ!」

リンの声を遮る。声の主は『オリジナル始祖』だ。『アウトロールピカ』の制止を振り切って、よろめきながらもリンの前まで進み、倒れ込むように土下座する。

 「死刑だけは…許してくれないか……!!」

 <………!!!>

 「ヤイグが…やっちゃいけないことをやったのは分かってる。被害者が死んでることだって…始まりと終わりしかほぼ知らない俺でも分かる。……でも、死刑以外の方法で償うことってできないですか…!!」

 <…アピス、いや、ヤイグの最後の罠はアピスの良心だったのか……?>

少々疑り深くなってしまうが、おそらくヤイグは想定していない。兄弟のこれまでをリンからではあるが、知っているせいで思うところがある。ただ、ここは…

 「わたしは、死んで償ってもらうつもりはないよ」

 「…本当ですか……?」

 「うん。償ってもらうために、みんなに協力してもらう」

 「……??」

困惑するオリジナルアピスを尻目に、リンと眼が合う。リンが使う…最後の異能になることをどこか予感しながら、断る理由もなく力を貸す。



side『神出鬼没エンターテイナー
『アピス』とリンの戦いを終えあれから、5日経った。

 後処理が大変だった

国のトップがあんな大胆にも人々を騙したのだ。そりゃあ、やらなきゃいけないことが沢山ある。リンが会見を開いたり、大神家が貴族や取引先に働きかけてくれたり、多方面への説明と理解を得られなけばならなかった。

 一番厄介だったのは、『沼男スワンプマン世界ワールド計画プロジェクト』の後始末だ

あれは、気付かれないサイレント暗殺だ。被害者に会いに行って誠意を示す業務をリン達はしていた。アピス細胞が脳を食い破り、別人となっていたのだが、『魂』を結びつけ、アピス細胞にいた意識アピスにはご退場いただいている。

 これが大企業や国のトップの100人いかないくらいで済んでいるというべきか…なんというか…だ

兎にも角にも、今日。

 歴史が動く日だ

とは言っても、人類が通常遭遇し得ない地獄のような『あの日』とは打って変わって、一つの脅威が姿を消す日。

 そう、『アピス』の処刑日である

各国の処刑見届け人に見守られながら、リンが淡々と説明した。

 『アピス』の四肢を削ぎ、死を確認した後、火葬する、と

粛々と、そして、あっさりと火葬まで進む。

 もちろん、ヤイグは死んでいない

リアルな人形を切って、火葬しただけ。何を隠そう、僕の奇術が世界に通じると証明した瞬間だった。

 「気分いいみたいだね」

 「…あ、あー」

助手席に乗っている『スマート』友人から急に話を振られる。に少し脳がバグる。

 「…あんな大役もらえて、上手く行ったら…そりゃあね」

応えながらもあの高揚を思い出し、少し震える。自分の実力で成し得る喜びは良いものだ。

 「リンに『整体』してもらって正解だったな」

 「あぁ…うん…前とは違って可能性が見れる感じがあるんだ」

人外スペックの『アピス』の身体だと面白味がない。折角の夢が、クソゲーにされたくはない。

 <リンに器用さをしたのも大きい。どれくらい世界に通じるか運次第みたいで、努力の余地がある>

 「楽しそうで何よりだよ」

 「……思ってない相槌は…無理にしなくていいんだよ?」

地図を見ながらテキトーな返事だったから、つい、そう感じる。

 「ふっ…、ほんとに思ってるさ。こうリラックスして話せるのはキミだけなんだ。気を悪くしたなら…そうだな、姿勢でもよくしようか?」

 「しなくていいよ…。スー君はたまに屁理屈染みた子供みたいなこと言うよね……」

こうやって夢に向かって挑戦できるのもリンが色々してくれたからだが、友人とリンの関係は正直、気になるところがある。

 「スー君はさ…【深侵砕打】で盗聴器とかの取り外しは協力的だったのに、他は乗り気じゃなかったよね…」

 「そりゃー、生き残るってコンセプト伝えてたし、合理的な選択するやつって印象付けなきゃだったからね」

 「う…うん」

こういう人だった。そう言えば…。

 「まぁ…情報提供はされたよ」

 「え?いつの間に?」

 「キミと『アンバランス死にたがり』がアレされてるうちに、ね」



《side『人間的合理性スマート
はっきりと私は言った。

 「オレは死に洗脳されたくないから、それはしない」

当然だ。洗脳や情報渡す可能性が増えるなら、デメリットが大きすぎる。とは言っても、リンは甘そうだから私が死ぬ線は薄い。

 「…洗脳を怖がってるわけじゃないでしょ?」

 「……」

 「殺されないってことは分かってるし、情報抜き取りも対策してるんでしょ?」

 <ま、それくらい想定済みか>

 「別の価値観が入ってどうなるか分からないから、したくない‥でしょ?」

 「分かってても…どうにも出来ないだろ」

 「これからの予定未来も見せる。それか、わたしが要約したのから、気になるのだけ見たらいい。それを知った状態と今の状態でお話しできるようにしてもいい」

 「うわー、自分のAIと話すみたいなことできるんだね」

 「…一番納得がいく形を取りたいから」

 「結局さ、取れそうな情報あったら、見られちゃうじゃないの?」

 「見ないで欲しい情報は、見ないって約束してする」

これで私の情報は盗まれない。次はマインドコントロールを警戒しないとな。

 「…もし、知って死にたくなったら?」

 「…知らない状態を望むならそうするし、一切の悪影響デメリットを生じさせない」

デメリットなしも本当みたいだ。

 「負担はないの?そっちのメリットは?」

 「負担は気にしないで、余裕はある。メリットは、負け筋減らせるかも?勝率と未来が増える」

 「ふわっとしてるな…」

 「嘘だと思う?」

 「いいや……充分、分かったよ」

未来を知り、最終的に記憶を封印することになった》



――side『エンターテイナー』
大人しく『スマート』の話を聞いていた。

 「リンの覚醒と共に記憶を取り戻して、万事解決、万々歳ってね」

 「シンとかに聞いたぞ…『真霊』の体に入ってリンにトドメ刺す役だったって」

 「悪役のってのは楽しいもんだね~~。『最強ザ・ワン』を欺かなきゃいけないんだ、私以上の適任はいなかったろうね…」

クソゲーや高難易度のゲームをクリアした時と同じ顔だ。容姿が変わっても、こういうとこは相変わらずで、良かった。

 <ん?>

 「言うほど…悪役か…?」

少し引っかかるのは、

 知らなかったんだよな……?リンが蘇る可能性とかその他諸々

 「死ぬリスクがないからって、世界の命運を握っていたとも言えるんだよ?少しくらい選択肢はあったけど、あーするのが順当だったし、変に動くと歯車を壊しかねなかったからね」

会話が少し成立していない気がするが、気になるのはどこまで話したりしたのか、だ。

 「何を教えてもらってたんだ…?」

 「リン側の戦力と今みたいな未来を教えてもらったくらいだよ」

 「そっか…」

自分が何を気にしていたのか、どこか分からないまま質問攻めしたが、これはあれだ。

 自分の唯一の友人が取られないか不安になっているんだ

リンの方がずっと親友だったら、他にもっと仲良い友達がいたら、親友だと思うのが一方通行だと寂しいからだ。

パラパラ……

 「……」

一人、考え事をしているとスー君はガイドブックの2週目に入っていた。

 <スー?>

 「そ、そう言えばさ、名前って変えた?」

お互い戸籍作ることになり、自分のことしか知らない。

 「そっちは『エンツ』…だっけ?」

 「!!…なんで知ってんだ??」

 「手癖が悪いから」

微笑を携えて手をグッパとニギニギしているが、中途半端に開くその形や視線と手の位置関係含め、狙っているのかと思う。

 そう、僕の友人は、『整体』で女子になってしまったのだ

 「私はなんだと思う?」

 「えっ…」

分かるわけなくないか?と思うが、それはそれとして、変に意識してしまう。

 「い、インテとか…?」

 「ゲームで使ってた名前をそんまま名前にするのは、エンツくらいだって!!ハハハハハハ!」

 「…ク……そんな笑うよ…」

 「第一、女子の名前でインテはナンセンスだって」

 「……」

助手席から肩を組んでくる。今、運転してるわけではないが、集中力が削がれるのでやめていただきたい。刺激が良くない。

 「ってか、ほんと思春期男子みたいな反応するもんだね」

 「!!そりゃ、こんな距離で迫られたり、話す仲に女子がいなかったからかなぁ!」

極短い時間だけ近寄られることや『アピス』として寄られることはあれど、そこに僕がいなかったのが大きいだろう。

 「ごめんよー、結婚とかはできないんだ」

 「そういう目では見てないって!!」

 「ククク…冗談はさておき、便利なんだよ、なにかとさ。権利ってのがブイブイいう時代だし、生理もなければ、ホルモンバランスもいい、力も強い。そして、中性チックな顔はどっちのフリもできる……。これが現代人スペックでのtier0だよ」

 「楽しそうで何よりだよ……」

 「ま、お互い新しい門出なんだし、楽しくいこうや」

 「あ、名前!」

 「あーー」

 「あーーじゃないよ!?教えてもらわないと、コミュニケーションに困る」

 「当ててごらんよ、がんばればいけるいける」

 「む、むりくね??」

 「ヒント……初めは『ス』」

 「す?……す…スタート?」

 「いい線いってるよ」

 「え、スターとか?」

 「もちろん、違うよ」

なんとか聞き出した名前はstartsをもじって『スータ』だ、そうだ。インテよりはいいかもしれないが、言うほど女子っぽくない。

 startsをもじってるのはいいと素直に思った

『アピス』のしがらみから解放され、友人と世界を回りながら世界一の奇術師になる。すごくいい。充実している。

 友人が女体化したのはびっくりしたし、想定外だが、中身は一緒。問題ない

ここからが再スタート。これからが、楽しみで仕方ない――
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