解放

かひけつ

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第3章 ~よう

クモを掴む②

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☆sideシン
意を決して部屋に入る。程なくして明かりがつき、何度も見た親子がその場には居た。現状がわからず、警戒している母親が目を一切開けない少年を大事に抱えている。

 〔リン、できれば友好的に〕

リンは小さく頷き、息を吸う。静寂なこの空間に小さな呼吸音ではあるが、どうしても際立つ。

 「わt」

パ ァ ン !

発砲音のような乾いた音に場が凍る。刹那、少年が泣き叫ぶ。

 「ぁあああああああ!!」

 「キョウ!キョウ!!」

あまりの唐突さにリンは硬直する。母親は必死に少年の手を抑えている。抑える手からだらだらと漏れ流れる血液は、非現実的に思えるかもしれない。

 「た、助けて下さい!この子を助けて」

自分の力に及ばないことを悟った母親はこちらに顔を向ける。リンはそこでようやく頭が再起動される。冷静に判断を下すために、再度深く呼吸する。

パン!

 「…っあ゛ぁ……!!」

母親が抑えていなかった方の手からも出血し始める。少年は徐々にその痛みに耐えきれず痙攣する。

 「きょう!!きょう…!」

 「……!」

頭が真っ白になって。過呼吸になりそうなリンをすんでのところで『風』の手で抑止する。

ダン!

母親の左手の指が吹き飛ぶ。

 「ぃったいいい……」

少年を抱えながら出血部を右手で抑える。

 「…ま、ま?」

明らかに意識朦朧もうろうな少年が目を開けずに母親の心配をする。隣に居ても聞こえるレベルで速く鳴っている拍動は、酸素を欲していた。

 オレは、異能で酸素を体内でうまく循環させられるように異能を使った。

ダン!!

母親の右手の指がなくなる。それでも、彼女はその右手で、血が付かないようにぎこちなく少年を撫でる。

 「…大丈夫……。大丈夫だから」

ズキズキと心が蝕まれていくのを客観的に理解する。覚悟を決めた雰囲気を感じ取り、リンは息を飲む。その間にオレはタブレットの画面をまとめ、リンに伝える。

[二人の内どっちかは助けてやる。呼吸で子どもを、異能で親を]

 <死 な な い 程 度 に 遊  ん で や る>

書いてないが、言わなくても分かる。

 「……。【水】」

バリィィィィン!!!

ガラスは想像以上に脆い。あえて視界が悪くなるようにガルスを割り、『風』を使いながら救出し一度外に出る作戦だった。

 抱えている母親には太股ふとももから下がなく、少年は口から大量に吐血していた。

助かる見込みがないに等しかった。それに気付いていないかのようにリンは壁に『水』を構えて脱出を試みる…が、

 リンの加速度を逆転させる。

リンをこのまま直進させるわけにはいかなかった。リンの鼻先まで迫る針に、本人は特にリアクションを示さなかった。剣山や針地獄を想像させる大量の針は、殺意をむき出しにしていた。針はそれ以上飛び出ることはなく、リンと親子は床にへたり込むことになる。

 「…ごめん」

既に冷たくなり始めている親子をそっと離す。

ボトボチャァ…ジュゥウウー!!

天井から落ちてきたのは、高温の液体と固体…溶岩だ。この部屋を文字通り火の海に変える気なのだ。リンは、置いていきたくない一心で、『風』に彼女らを乗せる。が、

ボンボボン!!…………ゴトォン!

親子の骨格が崩れ、肉はただれ落ち、腹部から臓物の残骸が零れる。その全てが最悪だった。

 〔…アピス、お前は…どこまで冒涜するつもりだぁ!!!!〕

 「うっ…」

リンは口元を抑え、膝立ちになる。遺体は揺らぐ。異能のコントロールが甘くなったのだろう。

 〔無理するな!オレらだけでいこう。誰も悪くない。悪いのはアピスだけなんだ〕

リンは意地で持ち直し、階段に繋がる出口に走る。落ち着ける場所まで進み、その遺体を簡易的に弔った。

 外に出るのはアピスに阻まれるのは目に見えている。もう一度ここに戻ることも難しくなる。

だから、脱出は現実的でない。

 進むしかない。

それが結論。どうしようもない結果結論だった。
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