解放

かひけつ

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第3章 ~よう

■⑧

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☆sideシン
オレは黙って、アピスを睨んでいた。そして、反論を言わないオレに飽きてか、アピスはオレに背を向ける。

 「は~~~~~~。だんまりかよ」

 [お前だけは許さない]

ソレは明らかにオレの声だった。だが、脳の中だけで終わる。はずだった…。

 「お!やっと本音を打ち明けてくれたな??」

ゾクっと寒気がする。

 <心を読まれたのか……?>

少し間が空いて、アピスは顔をしかめる。

 「……なんだよ。一言だけかよ」

ゾワッ!!

 [調子に乗るなよ??お前の思い通りに行くのはここまでだからな…!]

また、だ。だが、視界に自分の手を振りかざしているのに気が付く。

 <え?>

 [人間はなぁ……強いんだよ〕

そこでもう一つの気づき…。喋っているのはオレだった。言葉がつらつらと並ぶ。

 〔人間の弱さに見切りをつけて人外になったやつに、弱さに向き合い成長する人間の強さをお前には分からない!!〕

熱が帯びる。出ないようにと抑えていた怒りは洪水のように溢れ出る。

 〔お前に、奪われていい命なんて一つも、ほんの一つもねぇえんだよぉお!!!〕

 「素晴らしい!でも、さよーなら」

アピスは満面の笑みで、いかにもスイッチらしきものを押す。オレは不敵の笑みで返した。



《sideメハ
私は座り込んでいた。孔が空いたリンを抱きかかえるながら……。狭まった私のビジョンにも、揺らめく影が影が……アピスなのは分かっていた。分かっていても、直視できなかった。アピスの笑顔は顔を見ずとも分かった。

 「これはな、俺の優しさだ。今ここで、俺に下ることを選択してくれたら、この地獄から解放してやろう」

直感する。ここで拒絶すれば、もっと酷い精神攻撃に走るだろう。

 ここだ

私はリンを片手に支えたまま、足を踏み込んで拳を振り抜く。アピスの体は簡単に壊れる。

 「もう、惑わされない」

強く言い切る。心にいるリンさえ強く保てば、なんてことない。

 <迷いなんて、ない>

 「へーーこれでも?」

アピスの体はあっという間に修復する。そんなのされて当然と言えた。精神体のダメージなんて期待してない。これは私の意思表示だ。

 「好きにしたら…」

 「これでも?」

手の中のリンが真っ赤に染まって、リアルな苦悶と共に液体になっていく。

 「好きにしたら……」

生暖かく血生臭いソレに振り向くつもりはなかった。

 「…これでも?」

ビチャァアア……!!!

血だまりのような液体からリンの形になりながら、こちらに寄りかかる。

 <ヤメテ…>

反射的に思った。

 「メハって、自己満足のために、わたしに近寄ったよね?」

背後から声がする。でも、幻聴だ。それかアピスの嫌がらせだ。

 「メハじゃなくても、わたしを喜ばせることできたよ」

 「……」

剣を突き刺しながら滲み寄られていた。言葉が出ない私を無視して、声は増え続ける。

 「本当の家族じゃないのに、よく家族面できるね」「わたしのことを想ってるとかいうわりに、何もできてないよね」「はっきり言って面白くないよ電脳世界」「人間の真似事しかできない…面白く無いオモチャ」

明らかに、真実じゃないものがあった。

 正常な精神が、正常な判断能力が、余裕が十二分じゅうにぶんにあれば…一蹴できた

でも、事実だから抉られるものもあった。

 <リンがいるから……大丈夫>

強く、強く、本物のリンを思い浮かべることで正気保つ。

 「これでも?」

 「っ!!!」

リンとの思い出が散っていく。

 「や、めて!!!」

シュレッダーにかけられた紙くずのように不可逆的で、摩耗する一方だった。

 「こうでもしないと折れないだろ?」

必死に守った心の支えが、最後の砦が、無くなってしまう。何が無くなったのかも分からなくなっていく。

 「ぁああああああああああ…………………………」

叫び続けた。自分に何もないから奪われたことは分かった。

 誰か…

マインドの中心、大事だったナニカがない。

 <心と頭があまりにも、ズレておかしくなりそうで……それを少しでも、和らげて、忘れさせてくれるのは、吐き切ること…って思ったのかな……>

冷静に分析して終わらせようとする自分がいるのも嫌だった。

 でも、芯を失くしたら、道を忘れる。永くは続かなかった。

希望も何もないのに、頑張ることなんて…私には………》
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