解放

かひけつ

文字の大きさ
95 / 136
第3章 ~よう

器⑥

しおりを挟む
☆sideシン
悪魔はニュースを口にする。

 「先日のカーセ家放火事件及び前国王グルバンの自死、そして、電波塔の倒壊。とんだテロリストもいたものだと。さぞみなさんの不安を煽ってしまったことでしょう。その点につきましては私たちの対応が遅く、後手に後手にと回ってしまい容疑者の特定に至れずにいました。この場をお借りして謝罪申し上げます」

何も事情を知らなければ、真っ当なことを言っているようで背筋が凍る。次に来る台詞を予期してしまっている。

 「これらのすべてに関わっていてその真実を知るとされる人物がいます。ですが!!証拠不十分で、大々的に指名手配をかけることはできずにいました。結論から言いましょう。重要参考人はリン・カーセ。私の義妹です」

 <…やりやがった……>

 「リンが犯人だなんて思っていません。これまでも、非力で、病弱な彼女にできることなどたかが知れています。彼女の執事達は皆行方をくらませているんですね。…はい。リンなら、何か知っているかもしれない。私が事件直後に会った時に、何か言いたかったのかもしれません」

顔を覆って、苦しそうに、ハキハキとありもしない話を紡ぐ。指名手配をしなかったことに、こうも辻褄が合うように話されると…妙な錯覚すら感じるほどよくできている。

 「私は、後悔しています!前王グルバンは養親です。血の繋がりのない父上ではありましたが、愛情は注いでいただきました。そして、国王に推薦していただけるほどに、私を、認めてくれました!」

紙切れを掲げる。

 「父から私に向けての遺書は、真実の懺悔と苦悩、自死の決断と独白されたものでした。最後に書き添えられたのは、リンを頼む、です。そうです、託されたのです。これに報いずになんていられますか!!?」

 <本当によくできている…>

紙を伏せて話を続ける。

 「唯一の家族を白日の下に晒すのは、その後の人生にも関わってしまうかもしれないと……ずっとずっと…渋っていました。ですが、私の愚かな日々の行いが、彼女に逃亡生活をさせてしまったんです。仕事に熱心になりすぎたあまりに……。話し相手や相談相手といった…『家族』とは認められなくなったんだって……今さら…遅いですよね」

濡れ衣を着せられたのだ。話し相手を引き裂いたのは、お前じゃないかと言いたくなるが、言っても仕方がない。リンとケイトの顔はある程度、予想していたようだが、警官ルピカは青ざめていた。正直、オレもそうしたいこっち側だ。耳障りな放送は最高潮に達する。

 「…私はァ!彼女と話がしたいだけなんです!!そのために、お金だって惜しみません。警察や探偵、知り合いへの協力はもちろん要請しています。ですが、一秒でも早く、リンを引き留めたいんです!危ない道へ行かせないためにも…!どうか…!!力を貸していただけませんか?警察や役所など、どこに連絡しても構いません!目撃情報だけでも、報酬は出します!もし…身柄を押さえることができたなら……」

報酬の話が出る前までは、街の雰囲気は同情するような空気感を帯びていた。が、静まり返っていた。嵐の前の静けさ。デザートを待つような、聞こえないはずの舌なめずりが耳元で聞こえる幻聴。静寂が故に、爆発的ポテンシャルを秘めていることをひしひしと感じるせいだ。

 「20億……出します」

ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!

皆が声に出しているわけじゃない……。目撃情報だけでも報酬がある上に、もし、保護できたのなら、一生分のお金が手に入るかもしれない……。しかも、どう見ても悪いことをしてないために罪悪感もない。歯止めなんか効くはずがない…!

 まだ、オレの許容範囲内だった。現状アピスの取れる最善手であるため…割り切れた。

ふと、誰も見ていないパネルのアピスと目が合う。そんな気がした。

 ば ー か

悪意たっぷりに煽ってきた。それも一瞬。即座に泣きの演技に戻る。

 「ぜってぇえ許さねぇええええ!!!ぶち殺してやる!!!!!!!!」

 〔……〕

 「まぁまぁまぁ」

オレは自分以上に憤慨している者を見て冷静さを取り戻し、リンがルピカを宥め、ケイトが全体を見守る珍しい構図となっていた。リンから頭を撫でられ、恥ずかしそうにルピカがごにょごにょとこぼす。

 「……あの、申し上げにくいのですが、頭ナデナデなどは…やめて頂きけませんか……」

 「ん」

「しねるよ…(グルバンや社会によって)」と顔に書いてあるルピカからリンはそっと離れる。一旦、空気が和み、ケイトが切り出す。

 「戦況は?」

ケイトはもはや、戦況をどう捉える?という旨さえ端的に聞く。軍人じゃないかと疑うレベルだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...