解放

かひけつ

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第3章 ~よう

ナイ④

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☆sideシン
地震は震度6を超える大きな地震。しかもこれは…世界規模!!

 歴史上の同時多発テロのすべてを上回る異常事態。

 「リン」

 「…全部は無理」

 「なら…?」

 「被害までの僅かな時間を引き延ばす」

 「……」

ケイトが間を置く。2人の間で通じ合っているのかもしれないが、分からない。引き延ばして、その間にアピスを仕留めたとしても、災害コレは止まらない。ソレくらいは分かっているハズだ。

 「わてがグルバンのクローンたちと各地を回ろう」

喋りながら霊体を分け、【ゲート】を作り出す。各地に行く準備だろう。

 <それ程の事態だし……それでも、全員が助かるか、危うい…>

ケイトもリンも、異能の射程が桁違いに伸ばす裏技をしているようなものだ。龍児やルコと同じ異能を用いているのか疑うレベルで、異能と親和性は異常に高い。100%を超えて扱えている。そんな2人を信じよう。いや、みんなを信じよう。

 「お母さん…こうのは……どう?」

 「ほぅ…」 

ケイトが目を見開く。驚きであると同時に、成長を感じたのか瞳の奥が嬉しそうだった。

 「採用じゃ」

ザザザザザッ!!

潮が引いている。干潮。

 「津波がくるぞぉ!!あと10分くらいだ!」

グルバンは、高所まで浮いていた。

 「【時間】の壁は?」

 「無駄じゃな。親和力でじわじわ削り取られる。規模もでかすぎる」

 「『津波』を起こしt」

ドゴォン!!

突如現れたアピスを高速撃退。つい最近まで暴力とは無縁だったとは思えない威力の拳を振る。異能を纏っているため触れることも反動などで痛むこともない。実に合理的である。

 「シン!【遡行】やるよ」

 〔あぁ!〕

これは巻き戻さないとどうにもならないレベルの詰み盤面。まさに負けイベ。

 そう現状、ひっくり返す手札がない。

二つ返事で、オレとリンが【遡行】対象となり、転送される。最小限の歪みで済むように未来の記憶が捻じ込み、最適化される。時間は、グルバンが【ゲート】で迎えにやってきたタイミング。

 「行くよ」

リンはルピカを引っ張りながら、【ゲート】の行き先を変更する。行き先はもちろん……。



――sideアピス『?????????』
俺は施設にいた。リンが攻めてくる場所として、考えられるのは3つで、俺の拠点、施設、テレビとかメディア。拠点はどうせバレるし、迎え撃つ気で殺意マックスで配置し、施設にも『異能の卵』であり、勝利に繋がりかねない援軍となり得るからもちろんマーク。

 だが、メディアはほぼフリーだ。

リン達がいくら頑張ってネットに正当性をアピールしたって、俺の功績は揺るがない、つまり、信用勝負で先手を打っている。ひっくり返すには、それこそ世界中からの支持がいる。異能で勝ち得ようものなら、そのエネルギーの準備に死が付きまとう。

 どれだけ、死なないようにやりくりしても、異能使用者共の限界は、そう遠くない。

リンは俺との戦いに制さなければ、好きに動くこともできない。グルバンもルコも死にかけ。過去の異能保持者も大した適性はない。

 始まりの神子と最後の神子と言えるソウと龍児の2人を除いて……

来るなら、その辺りだろう。といっても、龍児もリンほど異能を扱えて柔軟強いというわけでも、ルコほど知識や頭がキレるわけでもないし、ソウは行方不明。残滓はあるようだから、霊体が召された可能性も低いが、力があるならもっと手がかりがあるものだ。その辺の死者を使えても、簡単に摩耗して回復が難しい魂を削りまくるから、あっという間にに干からびる。強いカードとは言い難い。

 あっちは人員不足なのに、こっちはアホ程代えも才能も増やせるのが現状。

 「………」

口角僅かに上がるが、即座にこみ上げる感情を霧散させる。感情的になるメリットなどないのだから。

 <ア゙ー…、元々、攻め込まれる可能性の話だったな…>

ま、世界中に懸賞金かけられ味方なし、闇を暴こうにも金でズブズブ&弱み握りまくりで、もみ消せもするわけで……。世界同時災害だって計画してるから準備も万全。

 <そう…準備は万全だ…。でも、不確定要素はまだまだある。だとしても依然有利なのは変わらない>

噂をすれば、何か空間に裂け目のようなものができる。まるで、『ワープホール』。誰が出るかは…お楽しみ…

 「?!」

ピカン!

視界を潰される。感覚を強化しても、選択性のノイズキャンセルができるわけではないため、弱点にもなるのが通常の感覚強化だ。

ズガザザザザザザ………

鼓膜を壊すための爆音。視界を捨て、耳を澄ましたくなる直後にコレだ。

 リンじゃない、龍児だ。

だが、甘い。異能を用いて世界を観測すれば、フラッシュだろうが、爆音だろうが、ただの情報。それを頼りにしているバカはそれで硬直を狙えるが、そうはいかない。

 <ほーら、かわいいお足が出てきたなぁ!>

これも罠かもしれないとは、どこか思ったが、そうであっても、対処できる。

ジュウウウウウウ!!

 その過信が文字通り足を奪われる。

背後すら警戒していたというのに、足とドロドロに溶けた金属が一体化している。痛みはない。が、このまま、動きまで殺されるわけにはいかない。肉体の変形で金属を剝がすことは難しく、離断するしかない。

 <隙は見せない…>

不意打ちの対策をしながら、足を離断。肉片のストックはあるから、大した痛手ではないが、床と近いのはマズいと【風】で浮かび上がる。足の再形成、空中足場の確保、異能による感覚を尖らせる。既に『ワープホール』から見えた足もないなければ、痕跡もない。

 <…いや、ないわけじゃないな。『時間』と『霊』…あとなんかあるのかもな>

他の『ネームド』と連絡が取れなくなったのも、『時間』のせいと思われる。

 「………」

 静寂…っ!

嫌らしい性格だ。だが、この手のタイプにはある欠点がある。場面ごとにおける、静寂からの攻撃アクションはパターン化できる。人間なんて心理学で分かっていることは大いにある。表に出ない実験だって、こっちは知っている。当たりをつけて感覚を鋭敏にさせれば節約もでき…

 「分かってると思うが、その手の実験なら網羅してるからな?ケイトさんによって…なぁ!!」

龍児の声だ…。それはいい。後手をとらされている。最悪だ。実験を知っていることにより読み合いが発生するし、ケイトの存在をカミングアウトすることによる思考の大部分を持ってかれた。しかも、直後に大声で、フェイント…。一つ一つは、大したこと…ない。

 <やりやがった…>

自分が作った足場の上で膠着。これは良くない。即決する。

 <奥の手だ>

俺の奥の手。それは高い親和力を伴い、爆発的速度で増殖し、物量で圧倒する、そんな俺のバイオ兵器(細胞)だ。空間に飽和させる親和力は、それだけで、脅威であり、盤面をひっくり返す……はずだった。

 <簡単にはいかんか…>

時間の『殻』とでも呼べばいいのだろうか。それはバイオ兵器を包み込むことで外界と断絶させ、その『殻』の中を時間の異能で満たしていく。想定されていたと見える。だが、相手にとっても簡単な話ではないはずだ。

 <なら、量は?>

手始めに5個のバイオ兵器を繰り出す。1個が通じなくても、複数ぶつけて一つでも起動したら勝ちだ。そもそも、これほどまでに殺意と練度が高い業を出し惜しみしたのも理由があるはずだ。ルール探しには試行回数が必要だ。

 <まだまだか…>

いともたやすく全てを『殻』で封じられる。が、俺の次の手を予測してか、『殻』の兆候が周囲に現れる。だが、俺は【加速世界アクセル】に身を投じる。原理は簡単。【加速】を全身と周囲に纏い、『殻』を破るだけ……。

 確信していたこと。

肉体に作用しにくい異能であっても、親和力が強ければ肉体による親和力の阻害も突破できるが…。あくまで、。こちらも異能を用いれば対抗できる。そして…。

ザッ……!!

 <…そうだよなぁ。お前なら来ると思ったよ>

龍児の精神を宿しているなら、ここで来ると想定していた。

 驚いたことは2つ。

シンと同様に現実世界に体を持つものを媒体にして異能を行使できる器を持ってきたこと。涙を流しながら、突進してくる少女。

 さて、リン達に協力しそうな子供なんていただろうか?

 <…海月…?>

答えを即座に導き出す。海月を若返らせた。やはり子供の方が異能の親和性や負担を受けにくいようだ。ほぼ確実なことは、海月を潰せばほぼ反撃の目がなくなるということだ。

 <だから…>

これでおしまいだよ。バイオ兵器にできることは体内で再現可能。具体的には、腕を滝のように体積を膨張させようものなら圧死させられることも、茨のようなトゲでも使えば行動不能に至らせる起因にもなる。

 <そして…>

手は出し尽くしたのだろう。極めた【流眼】が異能の始まりを感知しない。海月は『水』や『土』を纏っているが、ここからソレに急加速をいれ異能を使っても、大した攻撃力は得られない。あくまで護身用。武術でヤケクソ特攻といった顔だが……。罠…か?

 <いやいやいや…>

【流眼】が異能の始まりを感知しない。つまり、武器がない。始まり流れがなければ異能が発動できないことは、絶対だ…。

 <絶対か…?>

動物本能的な危機察知能力が言っている。罠という疑念は全方位へ棘を伸ばさせ、ただでは被弾しない様子見の一手。

ザワッ!!

 <これは…>

【流眼】が『龍児』を捉える。

 「おせぇーーよ!!」

『意識』が飛ぶ。即座に持ち直すが、眼前まで来た海月の拳をいなすことは難しい。

 <反撃…>

海月の体を怪我させるだけで事態は好転する。が、海月はおよそ人間とは思えない挙動でバックステップを始める。

 「…【逆再生】…か…」

味方内であれば親和力が高くて本来干渉しずらい肉体にすら、比較的軽いコストで異能に巻き込める…。

 「………」

サラサラ…ピチョン。

『水』と『土』が付着してしまった。マーカーにもなるし、妨害にもなり得ると…。いや、そっちはいい。『霊体』も流れがあるから、異能の対象になるのに、だ。

 <…なぜ…【流眼】が直前まで反応しなかった…突如現れたようにしか見えなかった>

一枚。龍児が上手だ。…だが、龍児が海月に追撃を許可しなかったのは警戒しているのだろう。お互いが認め合う妙な静寂を壊す新しい霊第三者が登場する。

ザザザンッ

 「お待たせ!龍児」

視認せずとも、分かる。龍成『土』のNo.1が来た。全部作戦の内だと、勝算があると、そんな声色だ。

 「俺を誰だか…知ってるか…?」

施設ここは俺の庭だ。邪魔こそは入ったが、洗練された空間を再度構築していく。龍成の目論見もくろみなど見え透いている。親和力を浸透させた『土の城』で自由が欲しいからだ。だが、

 「……」

 「『ことわりを司る五行の申し子』だぞ」

 「……あのアピスとは…別か……」

 「あいつは死んだぞ。だが、俺たちアピスは種族。アピスは死なない」

 「……」

龍児はダンマリ。龍成でさえも、口を閉ざしてしまう。

 「ともかく…死人に口なしだろ?敗者如きが…を弁えろ」

 「いちいち、鼻につく言い方すんな!!!お前らの思い通りにいくかよ!!ンバーーーカッ…」

 「…傍にいるからな…龍児」

 「……分かってる」

 「もう無理なんだけどーーーーーーーー!!!」

気概も戦力も頭脳も、一人を除いて、申し分なし。返り討ちにしてやる――
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