解放

かひけつ

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第3章 ~よう

心がか⑨

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☆sideシン
ドアを開ける。そこは、生活感が感じられるわけのない、殺風景で非常識な部屋だった。

 「…棺桶」

真っ白な部屋で、黒い棺がポツンと置いてあるだけ。あまり動じることがないリンでさえ、こうだ。

カタン…

蓋は開いていて、むくりと起き上がった人物と目が合う。死人のように白い肌、頭髪はなく頭皮が剥き出しになっている。

 「……」

 〔……〕

こちらに気付いても驚いた様子はなく、落ち着きすぎた雰囲気は『霊体』で会った時より希薄な存在感が人外的ムードを保っていた。

 「さっきぶり…だね?」

変わらず、中性的で感情がないような声色だった。リンは違うかもしれないが、考えが一番読めない。特殊な出生とはいえ、量産アピスから生まれたというのが…にわかに信じ難い。

 「邪魔された」

リンの返答は、少し場違いなはずなのに天才故の嚙み合わなさみたいなものを感じる。

 「すまない」

 「『パーフェクトボディー』は?」

 「『最強ザ・ワン』に受け渡したさ」

 「……」

『真霊』は異能を使ってか胡坐あぐらのまま浮かび上がる。好戦的には見えない。

 〔…何してんだ…?〕

純粋な疑問が口から出る。

 「…いつも部屋では浮いているんだ」

 〔……〕

 <こいつはこいつでよく分からん…>

 「敵対するの?」

歓迎する気がないなら、どういうスタンスで居たいのかを聞いているのだろう。

 「オレは…フェアでいるつもりだ」

 <だったら……!>

 「散々、アピスに迷惑かけられてる。それは?」

 「…別のアピスヤツだろ?生まれてない、と思うしさ」

まるで、往年戦争をしている中で生まれた、ある意味無垢な子供にも思えた。無関心で、無責任にも思えるが、コレはコレで責めにくい。

 「わたしたちは被害者。話し合いをしに来た」

 「あぁ、お好きに」

会話が終わったと思ったのか、目を閉じ瞑想を始める。

 「…フェアじゃなくない?」

 「そうか…?何もしなくても勝率は五分ごぶだろう?」

ルピカがいれば「何を根拠に五分って言ってるか言えよ!オイ!」と切り込めたことだろう…こいつは困った。

 「…根拠は?」

 「異能の大本おおもと、世界一の頭脳、大量の霊、才能No.1の神子。十分じゃないか…?」

 「一理ある」

 〔リン??!〕

 「…フッ、ちょっと似てるよな、2人」

口数が減った『エンターテイナー』が思わず零す程度には、言いたいことが分かる。方向性立場こそ違えど、波長が合う感じだ。

 「何してきたの?」

 「『霊体不可侵フィールド』を作った」

 「まぁ、元から『霊体』を攻略に参加させるつもりなかったんだろ…」

 「だね」

 「あと『パーフェクトボディー』の霊体を『最強ザ・ワン』に受け渡し」

 「死んでないから…いいかな…」

何というか…考えの根底が常人と違うせいで、『真霊』への言いがかりポイントがなくなっていく。

 <リンがいいなら、いいんだが…>

 「他にはないんでしょ?」

 「あぁ」

 「頼まれごとも」

 「あぁ」

 「…まだイーブンじゃない」

 「視たらいい…」

 「そうする」

リンも浮かび上がり、『真霊』の元まで行く。ふと、『エンターテイナー』にも同様に視た時の出血を思い出す。情報量が多かったからのはずだ。演技ウソの可能性もあるが、心配ではある。

 「…大体理解わかった」

 〔リン…大丈夫か?〕

 「平気。比較的波長が合うのとエンちゃんの時と違って、悪意なし」

 〔悪意あったんだな…〕

 「いやぁ、その悪かったって…。半分好奇心、半分使命感だって」

当然と言えば、当然なんだ。寧ろ『真霊』の方が少々おかしい。

 「過ぎたことだから、いい」

 「そう言ってくれると…まぁ助かる」

リンは『真霊』に向き直り、質問する。

 「もし、脅されても、フェアでって言い続ける…?」

 〔……〕

少々、荒々しくリンらしくはないが、脅して協力させることは誰だって想定の範囲内だろう。

 「…勝ち目がないだろ?」

なんてことないといった風に返す。その言葉通り受け取るなら…

 「死んでもいいの?」

抵抗する気がないと。

 「生きてることがおかしい存在だからね」

 「ちょっと…分かるかな」

 〔……〕

2人とも、本気で言っているのが分かる。『真霊』の人物像が少し明らかになった気がするし、リンに似てるのも少し分かる。リンも自身の境遇と少し重ねているのかもしれない。

 <ただ…リンは病気で死にかけて、それに抗って医療や技術で延命するのに対して引け目を感じる必要なんてない>

ここに触れるのは、オレじゃないと思った。ケイトもルコにカプセルの廃止や技術の後退を望んだ。メハだってどう思ってたか分からない。

 <これ以上は…止めよう>

考えたら、リンに読まれかねない。読まれなくても、心配させかねない。

 「…聞きたいことは聞けた、かな…」

残念ながらこれ以上の情報も、現状の改善もないと思われる。

 「…もし、『最強ザ・ワン』に力を貸す時は、イーブンになるように考慮する」

 「ありがと」

その会話を最後に部屋を後にする。
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