解放

かひけつ

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第3章 ~よう

心がか⑪

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☆sideシン
リンは『スマート』に【深侵砕打】をお見舞いする。

 「出る準備してて」

 「OK。やっとく~~」

リンは本格的に、『エンターテイナー』の肉体の再調整を行う。『スマート』はあっと言う間に準備を済ませ、オレに近寄る。そして、小さく会釈してリンの方を向く。

 〔…見えるのか??〕

 「…あ、はい。見えますよ」

 〔なんで見えるんだ?〕

 「元々は『真霊』しか『霊』は視えなかったんですよ」

嫌な説明の始まり方だった。

 「でも、脳の一部を移植するだけで、視える人が増えるっていう頭のおかしいバグ技ですよ」

 〔……〕

 <…は??>

確かに、『真霊』には髪がないのも合点がいく部分が出てくる。オレが黙っていると、『スマート』は続ける。

 「やばいですよね。アピス細胞持つ奴は基本人間の枠を超えてますよ。正直、生きる権利がないと言われてもその通りとしか思いませんから。リンちゃんが勝ったとしても、残ったアピスが共存するだなんて不可能なんですよね。存在が罪ってね…はは…」

 〔…じゃあ、アピスに協力したがいいんじゃないか?〕

 「私にはね、コンセプトがありまして…。生き残り戦術ってやつですよ」

 〔生き残り戦術…〕

 「命乞いしてる人を善人は殺せないですよね?」

 <まさか…>

 「私は、『人間的合理性スマート』なんかより、『生きたがり』や『傍観者』の方が合ってると思うんですよね…」

 <そうか!!こいつは…死にたくないだけだ……!!!>

悪意があるわけじゃない。『最強ザ・ワン』とリンの対決に立ち会うまで同伴できるのは情を移りやすくなるし、裏切りもしやすい!

 コイツにとってのデメリットは、嫌われるリスクが増える以外にほぼない

本当にいやらしくて、人間性を疑う手でしかない。その事実に震える。

 「安心してくださいって、邪魔しませんからw」

半笑いで言う『スマート』に透けて見えるような悪意はない。たとえ、今本当であっても、『エンターテイナー』みたく後から命令が追加されたら、嘘にだってできる。

 <不利すぎる……>

かといって、リンが捕縛や交渉などで手打ちとは思えない…。そう思っていると、リンの声がする。

 「終わったよ」

 「…手術を受けた感覚とVRとかの世界に入ったような感覚の中間だ…」

 「お疲れ~~。『不死死にたがり』のとこでも行くのか?」

リン達に任せようと思ったが、さっきまでの会話のせいか引っ掛かりを覚える。

 〔…なんで『不死アンバランス』の部屋に行ってないのを知っている?〕

 「深い意味はないって、近いからってだーけ。基地内ここでのデータは集めてないって、私は」

少し含みのある言い方だ。誤魔化そうとしているのだろうか、わざと隙を見せたのか、分からないのが痛い。

 〔…『最強ザ・ワン』か?〕

 「プラスで『エンジニアスペシャリスト』だろうな。だって私はリンに好かれたいんだよ?監視そんなことしないって~~いつ来るかも分からなかったから、助けようも何もなかったんだってば~」

少し饒舌すぎる。

 <行動に正当性アリバイを作ってやがったか…>

 「…『スマート』は理不尽な死に方したく無いから付いてくるだけ、それだけだよ」

リンは、これ以上疑うのは止めて、と線引きする。確かに、無暗むやみに探っても…おそららく、どう探っても、何の収穫もないだろう。だから、ここらで引くのは正しい…。

 〔ここらにしとくよ…〕

 「ん」

 「挑発したように感じさせたのなら、申し訳ない。すみませんでした」

『スマート』は頭を下げる。余計顔が引きつる。

 <この対応は…最善だ…>

 〔…こちらこそ、すまないな〕

 「…アピスに散々嫌な思いしてきたこと心中お察しします」

 〔この話は終わりだ。な〕

 「うん、行こっか」

特に会話もなく、『不死アンバランス』の部屋にたどり着く。

 「…」

ガチャ…

リンは扉を押して開く。中からは暗くジメジメしたような空気が漏れだす。外層から今得られる情報全てが牢屋のように思わせる。

 「"#:……」

中から声が聞こえる。リンは【光源】を作り出し、明らかになる。

 「……」

テレビやベッド、スピーカー、冷蔵庫、机、錠剤、水、お風呂、トイレ。それらが最低限の区切りのみで散在するせいか、まとまりがない。何と言っても、お風呂のシャワーヘッドに手錠で繋げられ、猿ぐつわまでされている中年はやつれていて、介護虐待やホームレスリンチ、拷問など負の連想をかき立てる。

 「……」

パキッ…ドド…!!

 「おぉ…ありがとうございます…」

無言で【流弾】を用いてその場から動かずに手錠と猿ぐつわを壊す。

 「もしや、リンさんですか?」

 「はい」

リンに近寄る中年は、長髪でボロボロだが、近づいて来て分かる。アピスだ。

 つまり、『不死アンバランス』だ

 「殺してください…悔いはありません」

 <待て待て待て…>

 「……」

急に殺してくれなんて言うと思うかよ…。リンでさえ、沈黙が長い。

 「そういう割には、死にたくないみたいだけど…?」

 「……ンなこと言ってもよぉ!生き地獄じゃねぇっすかぁ!!」

想像以上に大きな声で返答する。目に見えて必死だった。

 「リンサイド正義が勝っても、悪者の俺らは殺される!アピスが勝ってもロクでもない世界にしかならないし、何より、敵がいなくなったら俺らはお役御免だ…。どう足搔いて、殺されるんだよぉ」

 「……」

 「じゃあ…自分で死ぬタイミング決めるくらいさせてくれよぉ…。頼むからさぁ……」

 「でも、死にたいわけじゃないでしょ?」

リンが『アンバランス』の主張を聞いた上で切り返す。

 「あなたには選択肢が少なく、見えてる。わたしが提示してみる。選ぶのはあなた」

 「…何があるって言うんだよ…」

 「まずアピスの作った異物を壊す。こっちができる選択肢の開示、情報交換を同時にする」

 「それしたら、介錯してくれる可能性は…?」

 「……考える」

リンの後ろから『エンターテイナー』が顔を出す。

 「…なぁリン。僕も参加したい。選択肢が増えるかもしれないんだろ?」

 「いいよ」

 「…助かる」

リンは手早く『アンバランス』の体内の異物を排除する。その後、『アンバランス』、『エンターテイナー』をベッドに座らせる。二人はリンに従って目を瞑り、リンは異能を行使する。今もなお、三人間での情報共有が行われている。それをしながら、リンは問いかける。

 「あなたはどうする?」

 「オレは死に洗脳されたくないから、それはしない」

『スマート』はそう言って本を取り出す。

 「本読むくらいいいだろう?」

 <こ…こいつ……>

 「いい」

 「ありがと」

『スマート』は部屋の隅に座って、本を読む。

 <絶妙に咎めにくい>

暇な時間を有効活用するのは、ビジネスマン然り、暇を嫌う学生やニート、ほぼ人類共通。

 この状況下では違う

非常時に日常的なことをするのは、異常だ。だが、そういうことをする人がいないわけでもない。やりきれない感情を押さえながら、リンと『スマート』を見守った。
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