観音通りにて・遣り手

美里

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仕込み

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「ここに置いて下さい。」
 目を覚ますなり、悟は言った。少しでも時間を置けば決意が揺らぎそうだった。
 悟の隣に夏掛けを出してくるまっていた蝉は、お、おう、と寝ぼけまなこで返事をした。
 「ちゃんと聞いてますか?」
 「おー、聞いてるよ。」
 さむさむ、と自分の肩を抱きながら身を起こした蝉は、部屋の真ん中に置いた火鉢にマッチで手早く火を点けた。
 その薄い背中を見つめながら、悟はぐっと腹の奥に力を込めて口を切った。
 「お願いがあるんですけど。」
 「なに。」
 「仕込み、蝉さんがしてください。」
 さむさむさむ、と火鉢にかざした手をこすっていた蝉は、驚いたように悟を振り向いた。
 「俺が?」
 「……はい。」
 どうしても、この人がよかった。この人以外に触れられたいとは思えなくて。胸に刺された棒が疼くのだ。この人がいい、この人に触れられたい、と。
 蝉はしばらく黙ったまま悟を見ていたが、ふいと唇を笑みの形にまげた。
 「構わねぇけど、下手よ、俺は。女の仕込みならまだしも、男の仕込みはそう慣れてないから。」
 「……いいです。」
 下手でもいい。慣れていなくて構わない。ただ、この人に触れてほしいだけだ。
 そっか、と蝉は軽く頷いた。悟の感情などどうでもよさそうな態度ではあった。
 「じゃあ、今日からもう始めるか。どうする。」
 「……はじめて下さい。」
 ちょっと待ってろよ、と、蝉は押し入れを開けると中から立派な桐の箱に入ったなにかを取り出した。
 「昔はここにも男娼がたくさんいたらしくてな、先先代の頃にはよく使ってたらしいんだよな。」
 ほら、と蝉の長い指が桐の箱をぱかりと開ける。
 中に入っていたのは、その手の知識がない悟でも一瞬で用途を理解したくらいの、分かりやすく男根の形をした張り型だった。
 小さいものは女の小指ほど、大きいものは子どもの腕ほどの張り型が、赤い内張りの上に、大きさ順にずらりと並べられている。
 「たしか潤滑油がどっかに……。」
 ほらあった、と、蝉が手のひらサイズの小瓶も押入れから引っ張り出した。
 「この一番小さいやつから試していくから、心配しなくていい。糞が出られる穴だぜ、こんな細いのが入らないわけがないだろ。」
 蝉は一番細い張り型を掴むと、悟の前に突きだした。張り型は黒色の鉄かなにかで出来ているようで、黒光りして悟の額に染みた。
 はい、と頷く以外に、悟になにができただろうか。





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