姉弟

美里

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 葉子が美味しいというものは、本当に美味しい。それは、安アパートでなんとか糊口をしのいでいた頃から同じだ。
 だからシュンは、葉子が白い冷蔵から出してくれたチョコレートムースを、銀色のスプーンで掬って口に入れた。普段は甘いものは口にしない質なのに。
 「……うまい。」
 「でしょう?」
 口の中でとろけるムースは甘すぎず、いくらでも食べられそうな感じがした。
 シュンの向かいで同じようにムースを食べながら、葉子が艶やかに微笑む。
 「冷蔵庫に常備しているの。あんたみたいのなのが、いつ来てもいいように。」
 思わず苦笑しながら、シュンは、やはり葉子にとって自分は特別な存在ではないのだな、と再認識する。
 うつくしくて優しい葉子。彼女を頼って転がり込んでくるのは、シュンだけではないのだろう。
 ちりり、と、頭の端っこが焦げるような感覚がした。
 それが嫉妬だと気がつくのに、数秒かかった。
 そしてシュンは、馬鹿だな、と、自分で自分を嘲笑う。
 自分は、誰かの特別になれるような人間ではない。それくらい、分かっているはずだろうに。
 葉子が淹れてくれた上等のコーヒーを啜りながら、シュンは上目遣いで葉子の表情を観察する。少しでも彼女に迷惑そうな素振りがあったら、ここを出ていこうと思ったのだ。
 しかし彼女は、ふわりと軽い姿勢でソファに座り、満足そうにチョコレートムースを頬張っているだけだ。その表情は、いつもと同じ。シュンが転がり込んでくるたびに見せる、呆れをわずかに含んではいるものの、案外愉快そうな顔をしている。
 「食べ終わったの? それならシャワーを浴びなさい。落ち着くから。着替えは出しておくわね。」
 シュンの視線に気がついたのか、葉子はまるで母親みたいな台詞を口にする。
 母親みたい、といっても、シュンはまともな母親像をテレビドラマでしか知らないから、その中の印象に近い、というだけだけれど。
 うん、と素直に頷いたシュンは、勝手知ったる他人の家で、長い廊下を抜けてバスルームに入った。真っ白いタイル張りのその空間は、いつもシュンに、病院か保健室を思わせる。どこもかしこも清潔すぎるのだ。
 熱いお湯い打たれていると、どろりと記憶の膜が溶けて、中の思い出たちが滴り落ちてきてしまいそうだった。
 
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