姉弟

美里

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 丸一日寝ていたとすると、美沙子が帰ってくるまでは後四日間ある。シュンはぼんやりと、四日間あったらなにができるだろうか、と考えていた。
 四日間あったら、死ねるし生きられるし眠れるし抱けるし泣けるし笑える。
 「……四日間で、何回セックスできるかな。」
 半ば無意識に口に出した言葉を聞いて、葉子はくすりと笑った。
 「プレイと体力によるでしょ。私、あんたと寝たことないから知らないわ。」
 あんたと寝たことないから知らない。
 そう、葉子はシュンが、一緒に暮らして唯一抱かなかった女だ。彼女は抱かなくても側にいてくれる気がしたし、いっそ抱いたほうが遠くに行ってしまうような気さえした。
 恥しかないようなこの10年で、葉子を抱かなかったこと、それだけは誇っていいだろう、と、シュンは思った。
 「葉子さんと寝なくてよかった。」
 深い確信を持ってシュンが言うと、葉子はさもおかしそうに眉を寄せて笑った。
 「なあに、それ。抱いたって、後悔させるような女じゃないつもりよ。」
 「それは分かってますけど、それでも。」
 そう、と、笑ったままの唇で葉子が言葉を接いだ。
 「健くんとは、寝たいのね。愛とか恋とか、分からないくせに。」
 その言葉にシュンが頷くまで、少し時間がかかった。認めるのが怖かったのだ。愛と恋とか分からないから、これはただの、肉欲ではないかと。
 でも、健少年がいいと思うのだ。他の誰かではなくて、あの子供の身体に触れたいと思うのだ。それが、許されないことだとしても。
 頷いたシュンの頭を、葉子はぽんぽんと撫でてくれた。
 優しい手触り。性欲をはらまないそんな仕草を受けるのは、シュンにとっては初めてのことだった。
 「帰りなさい。四日間でセックス何回できるかは知らないけれど、美沙子ちゃんが帰ってくる前に、あんたはあんたのやり方で、健くんとコミュニケーションを取った方がいい。……セックスだけがコミュニケーションだと思ってるんでしょう、あんた。」
 シュンは今度は、躊躇わずにはっきりと頷いた。セックスだけがコミュニケーション。ずっとそうやって生きてきたのは確かだ。
 でも、シュンには葉子がいる。一度もセックスしないでも、こうやって宥め、抱きしめ、説得してくれる人がいる。
 「帰ります、俺。」
 少しぎこちなくなる声でそう言って、シュンが立ち上がると、葉子も一緒に立ち上がり、玄関まで見送ってくれた。
 「じゃあね。きっと何もかもうまくいくわ。」
 女神の顔で微笑む葉子をぎゅっと抱きしめ、シュンは夕暮れの中、美沙子のアパートへと歩きだした。
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