姉弟

美里

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多分、恋

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 美沙子の家までの30分間、シュンはただ健少年のことを考えていた。
 あの真っ直ぐな眼差しと、健康さ。詩を書いているというノートと、高い体温。
 これは恋なのだろうか。
 分からなかった。手本や正解を見たことがないから。
 それでもシュンは、前に進んだ。一度立止まったら、もう二度と歩き出せなくなりそうで。
 健少年のもとに帰ると考えると、腹の中が、鉛でも抱いているみたいにずんと重かった。
 怖かったのだ。あの子供の真っ直ぐな眼差しと向かい合うのが。
 それでも足を進めていれば、自動的にアパートへはたどり着くわけで。
 シュンは美沙子の部屋の前で深く息をついた。
 鍵は持って出ていない。もしかして、と思ってドアノブに手をかけると、簡単に回った。鍵はかけられていない。
 俺を待っていたのだろうか。
 そう思うと、腹に抱いた鉛はさらに重さを増した。
 ふう、と息を付き、覚悟を決め、シュンは扉を開けた。すると、すぐ目の前に健少年がいた。
 彼は、玄関の床に座り込んで、じっとシュンを見上げていたのだ。
 「え?……ずっと、ここにいたの?」
 驚いたシュンが問うと、健少年は、当たり前のことを聞かれたみたいにこくりと頷いた。
 「だって……寒いでしょう。」
 玄関は狭く、ドアの隙間からは冷たい風が入ってくる。床はむき出しのモルタルで、どう考えても極寒だった。
 健少年は、困ったようにちょっと笑って、平気です、と答えた。
 シュンは、頭の中がめちゃくちゃになって、なにをどうしていいのか分からなくて、とにかくその場に膝をつくと、健少年の薄い背中に腕を回し、抱きしめた。
 「……ごめん。」
 なにがごめんなのか、自分でもよく分からなかった。彼を強姦したことか、逃げ出したことか、丸一日帰ってこなかったことか、それとも他のなにかか。例えば、そう、きみに恋愛感情はないといったくせに、こうやって帰ってきて、彼を抱きしめていることか。
 混乱した頭のままで、シュンは健少年をきつく抱きしめ続けた。
 はじめはただじっと抱かれていた健少年が、おずおずとシュンの背中に腕を回した。
 そっと、シュンがその手を払い除けることをおそれでもしているみたいに。
 ごめん、と、また口にしそうになって、シュンは唇を噛んだ。それ以外の言葉が見つからない自分が情けなかった。
 「シュンさんだって、そんな格好で外出て寒かったでしょう。……お風呂、沸かしましょうか。それとも、なに温かいもの食べますか?」
 健少年の声は、静かで優しかった。腹に抱いていた鉛は、その声の温度で溶けていった。
 シュンはその優しさに甘えるように、少年の肩に顎を乗せ、強く強く抱きしめていた。
 
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